温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2017年01月14日

伊香保温泉 「金太夫」


 寒波襲来!

 またしても、雪舞う温泉地へ出陣でありました。
 前橋市街地から、車でわずか30分の距離。
 でも榛名山中腹の温泉街は、雪、雪、雪また雪の銀世界でした。


 「金太夫(きんだゆう)」 といえば、ご存知、伊香保を代表する老舗旅館であります。
 江戸時代の伊香保には石段街の左右に “大屋” と呼ばれる温泉の権利を持つ14軒の温泉宿がありました。
 延享3年(1746) 徳川九代家重の時代に、12軒の大屋に、それぞれ十二支が名づけられました。
 その時、「寅」 を授けられた旅館が金太夫です。

 300年近い歴史を持つ老舗旅館ですが、現在は経営が変わり、リーズナブルなホテルとして温泉好きの庶民に親しまれています。
 さすがに以前と比べると、老舗の風情と情緒は薄れてしまいましたが、“湯” は今も健在です。
 湯量豊富な伊香保独得の 「黄金(こがね) の湯」 が、内風呂や露天、貸切風呂で惜しみなくかけ流されていました。


 金太夫には、特別な思い入れがあるのです。
 もう、20年近くも昔のことだと思います。
 長女と長男が、小学生でしたからね。
 数少ない、家族で泊まった宿の1つです。

 「あっ、やっぱり、そうだ! ここだよ、ここ!」

 7階にある展望露天風呂に入った途端、記憶が鮮明によみがえってきました。
 昨年、結婚した長男と、遠い昔に男同士で入った記憶です。
 その時、何を話したのかは、思い出そうとしても思い出せません。
 それでも、息子のちっちゃな体と笑顔だけは、ありありと湯の中で浮かび上がってきます。

 いつかまた、息子とこの湯に入りに来よう!
 ヤツの子どもが、もし男の子だったら、孫と三代で入ろうじゃないか!
 その時は、じいちゃんが、温泉のウンチクを語ってやるぞ!

 「へー、じいちゃんって、温泉のこと詳しいんだね」

 あの頃の息子と、よく似た笑顔に、自慢してやりたいものです。


 なんて考えながら入っていたら、ついつい長湯になり、のぼせてしまったとさ……。
  


Posted by 小暮 淳 at 13:47Comments(0)温泉地・旅館

2017年01月12日

水上温泉 「松乃井」③


 水上温泉の 「松乃井」 に泊まってきました。
 前回は、『みなかみ18湯〔上〕』 を出版した2012年でしたから5年ぶりになります。
 あの時は、取材でした。

 その1年前にも泊まっていますが、この時は某旅行協会主催の講演会でした。
 講師として招かれました。

 そして今回は、みなかみ町観光協会の新年会に招待されました。
 温泉大使としてです。

 でも、なぜか 「松乃井」 を訪れる時は、いつも真冬なんですよね。
 当然ですが、ノーマルタイヤしか履いていない僕は、北へ行く時は公共交通機関を利用することになります。
 今回もガタゴトと電車に揺られ、旅気分を味わいながら向かいました。


 いや~、いいものですね。
 散々、通い慣れた道程ですが、車の車窓からと電車の車窓からでは、映る景色が違います。
 車の場合、前方の道路しか見ていませんものね。
 でも電車では、右へ左へと、景色が流れて行きます。

 沼田駅を過ぎて、上牧駅に着く頃は、田畑にうっすら雪が積っていました。
 「うん、電車で来て正解だな」
 なんて思いながら眺めていたら……
 あれよあれよのうちに、電車は白銀の世界へ!

 終点の水上駅に着いた時は、吹雪のように雪が舞い、あたりは真っ白しろすけ!
 完全なる雪国です。
 身震いをしながら、手袋にマフラー、毛糸の帽子をかぶり、ホームに降り立ちました。


 改札口では、協会職員と駅長が出迎えてくれました。
 かなりのビップ待遇ぶりであります。
 “たかが大使、されど大使” ということなのでしょうか!?


 宴会までは、1時間以上もあります。
 まずは、ひとっ風呂浴びることに。
 でも、4本の源泉を保有する 「松乃井」 には、貸切風呂も入れると7ヶ所も浴室があります。
 どこから攻めますか?
 やはり、“生温泉” と名づけられた “源泉湧湯かけ流し”の内風呂からでしょう!

 湧湯かけ流し、とは?

 源泉をできる限り外気に触れずに、温泉の鮮度を保ちながら浴槽へ流し入れるために、浴槽の底から直接湧き上がるように給湯口を設けている方式のことです。
 総湯量約500リットルという豊富な自家源泉を持つ宿だから成し得る、独得の湯浴みスタイルなのであります。


 生温泉を存分に堪能した後は、お楽しみの宴会ですが、まだ時間があります。
 部屋にもどって、冷蔵庫の瓶ビールを取り出し、一人雪見酒を始めたのでした。

 「大使、そろそろ会場の方へ」
 「はーい!」

 元気に大きな返事をしながら、グビッとビールを飲み干したのであります。
   


Posted by 小暮 淳 at 18:37Comments(2)温泉地・旅館

2017年01月08日

月夜野温泉 「みねの湯 つきよの館」⑭


 「やっぱ、ここからの景色、好きだわ~」
 部屋に着くなり窓を開け、思わず、ひとりごちたのであります。


 <左手に子持山から続く小さな峰々を望み、正面に上越新幹線の上毛高原駅を抱く味城山と、それに連なる雄大な大峰山……。眼下には青々とした棚田が広がり、こんもりと生い繁る鎮守の杜が、なんとも懐かしい気持ちにしてくれる。僕は勝手に、ここからの景色を 「トトロの森」 と名付けている。今にも、ネコバスが駆け抜けて行きそうではないか……。>

 これは2007年に、某情報誌に連載していたエッセイに記した一文です。
 でも、今は冬。
 棚田は雪に覆われて、一面の銀世界。
 鎮守の杜も、綿帽子をかぶり、森閑とたたずんでいます。


 旅装を解いて、ビールを1本飲んで、ひと休み。
 その後、仲間と連れ立って、“天空の湯舟” へ。


 <極めつけは、夕景の妙である。稜線をシルエットにして、鮮やかな緋色に燃え上がる夕焼け美は、一度眺めたら忘れられない。やがて帳(とばり) がおりると、天空の主役は月に替わった。まるで全天周映画の投影を観ているよう。>
     (『ぐんまの源泉一軒宿』 より)

 「おおお~!」
 湯の中から、喚声が上がります。
 遠くの峰々が夕陽に照らされて、赤く燃え上がるように稜線を際立てています。

 「♪ 山が燃える~ ♪」
 思わず歌ってしまった 『天城越え』 に、一同、「おお、まさに!」 と感嘆の声をもらします。
 しばし、僕らは天空の湯舟に乗って、月夜野盆地の上空を遊覧していたのであります。


 昨晩は、月夜野温泉の一軒宿 「つきよの館」(群馬県利根郡みなかみ町) に泊まってきました。
 といっても取材ではありません。
 新年会であります。
 僕が所属しているクリエーター集団 「プロジェクトK」の面々が集まりました。

 気の置けない仲間たちとの宴は、それはそれは楽しいものであります。
 昨年の反省なんてなんのその、今年の抱負と夢が、てんこ盛りの爆笑トークが、延々と夜が更けるまで続きました。


 “フロいーな(2017)” の年が、始動しました。
 メンバーのみなさん、今年も裸の付き合いを、よろしくお願いいたします。
  


Posted by 小暮 淳 at 14:10Comments(2)温泉地・旅館

2017年01月05日

大胡温泉 「三山の湯 旅館 三山センター」⑪


 “初湯” を浴んで来ました。

 2日から仕事をしていたため、なかなか自由になる時間が取れなかったのであります。
 今日は朝から、予定が入ってない!
 よし、では、ひとっ風呂浴びて来るか~!!
 と、車を走らせました。

 向かったのは、我が家から一番近い温泉(日帰り温泉施設を除く)。
 ご存知、市街地の中の秘湯 「大胡温泉」 であります。

 そうです!
 昨年暮れに群馬テレビ 『ぐんまトリビア図鑑』 の特番 「温泉ライター小暮淳の素顔」 のロケ地となった一軒宿の旅館です。
 「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
 の後に続いた女将さんの第一声は、
 「小暮さん、スゴイ反響よ! いまだに、テレビ観たよって言うお客さんが来るわよ」

 なんでも放送後、焼きまんじゅうの売り上げが飛躍的に伸びたとか。
 番組を観た人は、必ず食して帰るそうです。


 まだ午前中なのに、浴室には先客が。
 「家の近くにも日帰り温泉はあるけど、やっぱり湯がいいから、ここに来るんさね」
 と、桐生から来たという年配の男性。

 一時、神経痛やリウマチを治す “奇跡の井戸水” と騒がれ、埼玉や東京方面からも浴客が詰めかけたこともある温泉です。
 僕もたびたび、新聞や雑誌、著書で、その摩訶不思議な効能について書いてきました。
 今日も、そのジーンと骨の髄まで染み渡るガツン系の浴感を存分に堪能してきました。


 湯上がりは、もちろん 「焼きまんじゅう」 でしょう!
 八丁味噌と西京味噌をブレンドした味噌だれは、香ばしくって一度食べたら忘れられません。
 おまけに、1串に5個も付いて、なんと200円!
 だもの、人気があります。

 さ、初湯も済ませたことだし、今夜は “初宴” に出かけるとしますか!
    


Posted by 小暮 淳 at 14:46Comments(0)温泉地・旅館

2016年12月21日

相間川温泉 「ふれあい館」④


 相間川温泉 「ふれあい館」 と聞いて、「あっ、表紙の温泉!」 と気づいた人は、かなりの温泉通ですね。
 いや、コアな僕の読者かもしれません。

 そうなんです。
 今年5月に出版した拙著 『西上州の薬湯』(上毛新聞社) の表紙を飾った温泉であります。
 なんとも幻想的な黄褐色の湯をたたえる露天風呂。
 神秘的でもあり、いかにも体に効きそうな “薬湯” の名にふさわしい写真であります。


 昨日は、今年最後の温泉講座日でした。
 僕は8年前からNHK文化センター前橋教室で、県内外の名湯・秘湯をめぐる温泉講座の講師をしています。
 今年最後の講座地は、旧倉渕村(現高崎市) の相間川温泉でした。

 前橋駅と高崎駅で受講生が乗車したバスは、榛名山へと向かいました。
 あれ、方角が違うって?
 いいんです。
 まずは、同系列の鉄分を多く含んだにごり湯に体を慣らすため、榛名湖温泉(高崎市) に立ち寄ったのであります。

 榛名湖畔に建つ 「レークサイドゆうすげ」 は、僕のお気に入りの湯の1つです。
 この日も茶褐色をした濃厚な湯が、惜しみなくザバザバと、かけ流されています。
 なんてったって、ここの魅力は、湯舟の中から榛名湖が湖面すれすれに一望できること。
 あたかも湖の中にいるような野趣にあふれた絶景風呂なのです。

 「朝風呂は、気持ちいいですな~」
 と受講生らも、ご満悦の様子。
 湯上がりは、早くも缶ビールで喉を潤してしまいました。


 午前中から、ほろ酔いムードで、目的地へ。
 「ふれあい館」 の名物といえば、ズバリ! 釜飯でしょう。
 待ってましたとばかり、一斉に釜に点火。
 熱々で、ホッカホッカの山菜釜飯に、ほお張り付いたのであります。

 食後の休憩をはさんで、いざ、浴室へ!

 おお、おおおおーーーーッ!
 今日も今日とて、温泉ファンを裏切らない濃厚なにごり具合です。
 ここの湯は、鉄分が多いのですが、塩分も海水並みに濃いのであります。
 だから湯舟の中で、ちょいと手を突いただけで、お尻がフワリと浮いてしまうのです。

 「いゃ~、これまたスゴイ湯ですな」
 「群馬の温泉は、実に奥が深い」
 と、受講生からは、賛辞をいただきました。

 ただし、塩分と鉄分の多い温泉は、実際の温度よりも体感温度が低く感じられるので、長湯は禁物です。
 湯あたりには、ご注意を!


 湯上がりは、もちろん、再度、ビールで乾杯!
 帰りのバスの中では、年末恒例の講師による歌の披露がされました。

 ♪ GOGO温泉パラダイス YUYU湯の国ぐんま県 ♪
 ってね。

 来年も元気に、名湯・秘湯の旅に出かけましょうね!
  


Posted by 小暮 淳 at 12:32Comments(0)温泉地・旅館

2016年12月07日

伊香保温泉 割烹旅館 「春日楼」


 伊香保中心街を通る県道(通称:一文字通り) から 「かみなり坂」 を下った、一番下。
 「ここも伊香保なの?」 と一瞬、戸惑うほどの静寂に包まれています。
 春日楼は、伊香保温泉で、石段街から一番離れた旅館です。
 まるで一軒宿のように、ポツンとたたずんでいます。

 でも、そのたたずまいは、旅館というよりは料亭。
 形の良い松やヒイラギなどの樹木に囲まれた庭園を歩きます。
 それもそのはず、ここは伊香保で唯一の割烹料理の宿なのです。
 “現代の名工” を受賞した料理長が腕をふるいます。


 玄関では下足番の 「熊二郎」 と、調理見習と描かれたエプロンをした 「熊五郎」 がお出迎え。
 どちらも本物のクマの剥製です。
 「熊五郎は、私より古いんですよ。でも、いまだに見習い中です。フフフッ」
 と笑う古参従業員の一場ふみえさん。
 昭和52年の創業時から客人を出迎えているクマだといいます。

 フロントのカウンターを見れば、ちょうど上毛新聞の1面が出ています。
 群馬テレビの番組広告を指さして、今晩の出演のことを伝えると、
 「あらら、みんなに伝えなくっちゃね。他のお客さんにも」
 と明るく気さくな人柄がのぞきます。

 ネットの書き込みなどを見ると、「従業員がアットホームで居心地が良い宿」 などとありますが、本当に家庭的で、ともすると取材に来ていることを忘れてしまいそうな宿です。


 夕刻までに取材を終え、ひと風呂浴びて、匠の料理をいただき、あとは部屋にもどってテレビを観るだけ……
 畳の上で、ゴロンと横になっていると、
 「小暮さん、大変です。3チャンネルが出ませんよ!」
 と大声を上げるカメラマン氏。
 「どれどれ……、本当だ!」
 と、あわてる僕。
 他のチャンネルは、すべて映るのに3チャンネル(群馬テレビ) だけが映りません。
 放送まで、あと1時間です。

 でも、ご安心ください。
 事情を話すと、すぐに番頭さんが、すっ飛んできてくれました。
 結局、僕らの部屋のテレビは映らなかったため、わざわざ隣の部屋を用意してくださいました。
 ありがとうございました。

 事なきを得て、無事に9時のオンエアを見ることができました。
 放送終了後からメールと電話が、続々入ってきました。
 みなさん、観てくださったのですね。
 感謝!

 今日、家に帰ってパソコンを開いてみると、やはりメールが届いていました。
 「髪の毛は、黒いほうが若く見えて良い」 などの意見もありましたが、みなさん、楽しんでくださったようであります。
 「もっと素顔を知りたい」 なんていうメールもありましたよ。

 テレビを観てくださった友人・知人・読者のみなさん、本当にありがとうございました。
 お礼申し上げます。

 温泉ライター 小暮淳は、ますます裸になって、温泉を駆け回りますよ!
 応援、よろしくお願いします。
   


Posted by 小暮 淳 at 19:51Comments(4)温泉地・旅館

2016年11月25日

伊香保温泉 「横手館」


 ♪ 雪でした あなたのあとを
   なんとなく ついて行きたかった ♪
   (by 吉田拓郎)


 まだ11月だというのに、関東平野に雪が降りました。
 午後、家を出る頃には、前橋の雪は止んでいましたが、登る伊香保の町は雪、雪、雪が降り続いています。
 しんしんと積もる雪の中に、凛とそびえる楼閣……。

 まるで、映画 『千と千尋の神隠し』 の舞台のよう。
 もしかしたら宮崎監督は、ここもロケハンに来たんじゃないの?と思ってしまうほど、威風堂々とした建物であります。


 以前から何度も、横手館の前を通るたび、足を止めて見上げていました。
 「いつか、泊まってみたい」 と……。
 昨日の横手館は雪景色の中で、さらに神々しく、光り輝いて見えました。

 玄関をはさんで、シンメトリーに建つ本館の東棟と西棟。
 向かって左の東棟が木造三階建て、右の西棟は木造四階建てです。
 どちらも総桧造り。
 昨年、国の重要文化財に指定された大正9年(1920) の建物です。


 「雪の中、ようこそお越しくださいました」
 番頭さんに出迎えられ、
 「さあさあ、こちらへどうぞ」
 と仲居さんに通された部屋は、西棟3階の 「あららぎ」 の間。

 昔ながらの襖で仕切られた、2間つづきの和室です。
 書院造りっていうんでしたっけ?
 部屋ごとに意匠を凝らした趣きがあります。

 部屋と窓の間には広縁があり、そのままグルリと部屋を囲むように廊下が配されています。
 雪見障子を開ければ、まさに雪景色が目に入ります。
 窓のガラスも、懐かしいゆがんだ“昔硝子” です。
 今となっては、この製法のガラスを再現できる職人は、ほとんどいないといわれている貴重なものです。


 まずは、広縁の長イスに腰かけ、雪見ビールとしゃれ込みましょう。
 バックから取り出したのは、若山牧水の文庫本。

 <ただ赤城へは此処から七里ほど歩かなくてはならぬ。榛名ならば伊香保まで電車でゆき、あと山上の湖まで二里の路だというので、赤城をばまたの時に思い残しまず榛名へ登ることにする。>(「山上湖へ」より)


 1本が、2本、3本……
 気が付くと、外の雪も止んでいます。

 「さて、ひと風呂浴びてくるか!」

 いい宿は、なんだか人を文豪気分にさせてくれるのですね。
   


Posted by 小暮 淳 at 21:43Comments(0)温泉地・旅館

2016年11月16日

伊香保温泉 「徳田屋旅館」


 爆睡13時間!!
 日頃の疲れがドッと出たようで、昨晩は、まさに死んだように、こんこんと眠り続けました。
 でも理由は、それだけではありません。
 久々に、ホッとやすらぐ宿にたどり着いたのです。


 いい旅館って、一瞬で分かるものなんですね。

 坂の途中に、形の良い松の木が一本……。
 奇をてらうでもなく、「旅館 徳田屋」 の看板がかかるだけ。
 玄関の戸を開ければ、昔ながらの宿屋風情が漂っています。
 そして、

 「あ~ら、もう着いたの。いらっしゃ~い!」
 と、たっぷりの笑顔と、甲高い声の割ぽう着姿の女性。
 噂で聞いていた名物女将の田中明子さんが、元気いっぱいに登場!

 それだけで、ホッと肩の荷が下りたように、体が軽くなりました。
 そして、「待ってました!」 とばかりに、しゃべくりまくる機関銃トーク!
 こういう女将さん、僕は嫌いじゃないんですね。
 どちらかというと、好きです。
 だって、一発で腹の中が見えますもの。

 「でも、ちょっと女将さん、待ってください。とりあえず、荷物を部屋に置いてきますから。その後、ゆっくり話を聞かせてください」
 と、この場はあいさつだけして、一度、旅装を解きに部屋へ。


 徳田屋旅館は、昭和51年(1976) の創業。
 伊香保生まれで、伊香保育ちの女将さんが、脱サラをしたご主人と始めた宿です。
 女将さんの父親の名前が 「徳志」、ご主人の苗字が 「田中」。
 「それで、両方から一字ずつ取って “徳田” なのよ。よく、田中なのに、なんで徳田なんだ?って言われるけどね。アッハハ!」
 と、豪快に笑い飛ばします。
 いいな、いいな。なんか、こっちまで楽しくなってきましたよ。

 「私、これでも緊張していたのよ。だって、ライターさんから取材を受けたことなんてないからね。でも良かった~! 小暮さんが、こんなにも気さくな人でさ。安心したよ」
 いえいえ、女将さんこそ、素朴で飾らず、聞かないことまで何でも話してくれて、本当に久しぶりに気持ちのいい取材ができましたよ。


 創業以来40年間、継ぎ足し継ぎ足し守ってきた秘伝のタレで、じっくり煮込んだ名物の 「角煮」 のうまかったこと!!
 湯上がりのビールが進みます。

 部屋にもどって、ゴロンと横になり、テレビのサッカー中継を観ているつもりが、うとうと…うとうと……
 あっと言う間に、白河夜船を漕ぎ出していました。

 翌朝、なかなか朝食に下りて来ないものだから、心配した女将さんに起こされてしまいました。
 それほどまでに、居心地の良い宿だったのです。

 いい宿は、眠くなるのであります。
  


Posted by 小暮 淳 at 18:28Comments(2)温泉地・旅館

2016年10月28日

伊香保温泉 「旅邸 諧暢楼」


 「1泊、じゅうまんえーん!!!!」

 2008年1月、伊香保温泉に諧暢楼(かいちょうろう) がオープンした時には、業界は騒然としたものでした。
 「1人10万円の部屋なんて、どんな人が泊まるのよ!?」

 時代は、すでにバブルが去った後です。
 ということは、バブル長者の成金客をターゲットとした宿ではなさそうです。

 当時の諧暢楼を紹介した雑誌の記事では、「真の富裕層になってくると、景気の変化に左右されない。長期的な視点に立てば、こうした客層を獲得することが経営を安定させる上で、どれだけ有利に働くかは論ずるまでもないだろう」 と分析しています。

 客室は8部屋、平均単価は10万円。
 そんな旅館は全国的に見ても、ほとんどありません。

 「どんな人が泊まるの? どんな部屋なの?」
 温泉ライターとしては興味津々ですが、自腹で泊まれるわけがありません。
 さりとて、一介のライターに取材の申し込みが来るわけがありません。

 と、思っていたら、願いは念じていれば叶うものなのですね。
 昨日、行ってきました!
 それはそれは、貴重な体験をしてきました。


 「10万円以上の部屋もあるんですか?」
 「ええ、15万円以上の部屋もあります」
 とマネージャーの須藤秀明さん。
 「客層は、どんな方なのですか?」
 「医者や会社社長、芸能人の方もいます」

 当然のことですが、乗り付ける車もベンツやポルシェ、アウディなどの高級車ばかりのようで、中古の軽自動車を乗り回している貧乏ライターには、肩身が狭くなるような話ばかりで……。

 「取材するからには、お風呂に入りたいのですが?」
 恐る恐る訪ねると、
 「少々お待ちください」
 と席を立ち、しばらくして、
 「清掃が終わった部屋がありますので、どうぞ」
 と促がされ、庶民は決して入ることのない宮殿の中へ。


 おお、おおおおおーーーっ!
 何から何まで別世界であります。
 部屋は広いし、調度品は高そうだし、インテリアもすべて有名デザイナーによるもののようで、ただただ、見惚れていました。
 極めつけは、“羽毛の宝石” と呼ばれるアイダーダウンの寝具(僕には普通の羽毛布団に見えるのですが)。
 なんと、1枚100万円以上するそうです。
 きっと僕なんて、ヨダレで汚すんじゃないかと心配で、一晩中眠れないんじゃないかな。

 そしてそして、庭園露天風呂へ。
 ギェッ、でかい庭!
 これが部屋に付いているんですか!?
 よそには庭園露天風呂と名が付いていても、もっと小さな旅館があまたとありますよ。

 撮影とはいえ、一瞬でも富豪になれたような錯覚に陥りました。
 紅葉迫る景色をひとりじめしながら、うたかたの夢を見てまいりました。


 PS
 当然ではありますが、宿泊は本館の 「福一」 にお世話になりました。
  


Posted by 小暮 淳 at 15:09Comments(0)温泉地・旅館

2016年10月25日

法師温泉 「長寿館」⑦


 今日は、法師温泉(群馬県みなかみ町) へ行って来ました。

 えっ、「おとといも行っていただろう」 って?
 ええ、おとといは “温泉大使” としてですが、今日は “温泉講師” として行って来たのです。
 僕は8年前からNHK文化センターの野外温泉講座の講師をしています。
 その2016年度後期講座が、今日からスタートしました。

 で、後期講座の1回目の温泉が、法師温泉だったというわけです。

 でもね、講座日のほうが半年以上先に決まっていたんですよ。
 みなかみ町から温泉大使に任命されたのは今年の5月。
 さらに 「みなかみ牧水まつり」 に招待されたのは、数ヶ月前のことです。
 本人も、まさか、こんなにもすぐに法師温泉へ行くことになるとは思いませんでした。
 ※( 「みなかみ牧水まつり」 については昨日のブログをお読みください)


 ところが、受講生らとバスから降りて、ビックリ!
 なななんと、「長寿館」 の玄関前に若山牧水が立っているではありませんかーーーッ!!!

 本当に一瞬、目を疑いましたよ。
 だって、和服の尻をからげて、脚絆(きゃはん) に草鞋(わらじ) を履いて、杖代わりのこうもり傘を持った姿は、僕らが良く知っている牧水の旅支度そのものだったのです。
 しかも、ヒゲをたくわえた顔までが、そっくり!

 あれれ、牧水のことが好き過ぎて、ついに幻覚が見えてしまったのか!?
 と思ったら、まわりにも同じような格好をした人がいて、カメラを担いだ人までいました。

 なーんだ、撮影だったのか!

 そうです。
 すでに新聞報道などで、ご存知の方もいるかもしれませんが、現在、若山牧水の著書 『みなかみ紀行』 を原作とした映画 『牧水~あくがれのみなかみ~』(監督:桜井顕) の撮影が、群馬県内で始まっていたのです。
 それにしても、牧水役の俳優・伊嵜充則さんは、牧水に良く似ています。
 映画は来春公開予定とのこと。
 今から、とても楽しみであります。


 今さら、法師温泉の湯について語ることはないと思いますが、受講生のほとんどが今回 “足元湧出泉” を初体験しました。
 また混浴自体が初挑戦の婦人方もいたりして、それはそれは大盛況となりました。

 もちろん湯上がりには、みんなで地酒をいただきましたよ。
 (今日は肌寒かったので、生ビールとはいきませんでした)
 1杯が2杯、2杯が3杯……

 またもや僕に、湯と酒を愛した牧水さんが乗り移ってしまったようです(笑)。
   


Posted by 小暮 淳 at 22:00Comments(0)温泉地・旅館

2016年10月15日

伊香保温泉 「森秋旅館」②


 今週、2度目の伊香保温泉です。
 昨晩は、「森秋旅館」 に泊まってきました。

 でも取材ではありません。
 ではプライベートなのかというと、そのへんは微妙です。
 プライベート8割、仕事が2割といった案配です。

 みなさんは、“中打ち” という言葉をご存知ですか?
 僕らの業界(出版・編集) では、よく使う言葉です。
 すべての仕事が完成して行うのが “打ち上げ” ですが、“中打ち” とは、その中間に行う儀式(慣例) です。

 宴会の “中〆” のようなもので、共に同じ仕事をしている者同士が、近況を報告し合い、新たに志を確認し合う場であります。
 まあ、言い方を変えれば、ただの飲み会なんですけどね。
 でも、とても重要な儀式なんです。


 ということで、昨日は伊香保温泉に、著者(僕) とディレクターと担当編集者が集まりました。

 編集者はサラリーマンですが、僕とディレクターはフリーです。
 当然、こんな日の午後に他の予定なんて入れているわけがありません。
 午後の4時前にはチェックイン!

 「カンパーイ!」
 と、宿の部屋に入るなり “呼び水” と称して、まずはビールで喉を潤します。
 缶ビールを1本、2本、3本目に手を出そうとしたところに、仕事を終えた編集者が到着。

 「さて、ひと風呂浴びに行きますか!」
 と僕。
 「ここは、黄金(こがね)の湯ですよね!?」
 と編集者。
 「オフコース! 伊香保屈指の老舗旅館ですからね。“雨情の湯” ですよ」
 ※(雨情の湯については、当ブログの2016年6月8日「伊香保温泉 森秋旅館」を参照)


 どっぷりと黄金色の湯に浸かり、日頃の疲れを癒やし、飲んで語って、英気を養い、改めて書籍の完成を誓い合ったのでした。
 あと半年です。
 ガンバリましょう!

 僕の温泉旅は、まだまだ続くのです。
   


Posted by 小暮 淳 at 15:03Comments(2)温泉地・旅館

2016年10月12日

伊香保温泉 「ホテル天坊」


 「天坊」 といえば、ディナーショーでしょう!

 その昔、と言っても20数年前のことです。
 若かりし頃、と言っても30代前半のことです。
 家族を連れて、ホテル天坊へ行ったものです。

 というのも、当時は雑誌の編集長をしていまして、まあ、なんていうか、色々とお付き合いもありまして、天坊様のチケットを買わせていただていたわけであります。
 歌手やモノマネ芸人のショーに、たびたび足を運んでいました。

 いわば僕にとっては、“家族との思い出の場” なのであります。


 昨晩は、1年9ヶ月ぶりに 「ホテル天坊」 に泊まってきました。
 前回は、真冬の1月でした。
 某教育関係団体から依頼を受けて、研修会の講師として伺いました。
 ※(当ブログの2014年1月10日 「研修会 in 伊香保②」 参照)

 今回は、初の取材であります。
 過去には、ディナーショー以外にも忘年会などで、たびたび伺っていますが、取材となれば勝手が違います。
 まずはチェックインを済ませ、「黄金(こがね)の湯」 と 「白銀(しろがね)の湯」 の温泉三昧を堪能しました。


 ところで、読者のみなさんは、なぜ 「天坊」 という名前だか知っていますか?
 その理由は、長い長い歴史にあったのです。

 創業は不明。
 しかし、明治25年(1889)年に写された石段街の写真には、すでに前身の 「ふじのや旅館」 が写っています。
 わずか15部屋の小さな木造旅館です。
 昭和34年(1959)、本館の奥に4階建ての別館 「山彦」 を開業します。

 しかし、時は高度成長期。
 石段街では、駐車場を確保することができません。
 昭和43年、意を決して当時は山林だった現在地へ移転しました。

 では、なぜ屋号を 「天坊」 と改名したのでしょうか?
 その答えは、来春出版予定の著書をご覧ください。

 なーんて、ちゃっかり予告なんてしたりして!


 僕の “伊香保旅” は、まだまだ続くのであります。
   


Posted by 小暮 淳 at 22:58Comments(0)温泉地・旅館

2016年10月01日

伊香保温泉 「和心の宿 オーモリ」③


 昨晩は、伊香保温泉の 「和心の宿 オーモリ」 に泊まってきました。
 といっても取材ではありません。
 だからといってプライベートでもありません。

 仕事(のうち) です!(キッパリ)


 僕は、「プロジェクトK」(代表/桑原一) というクリエイティブネットワークに所属しています。
 ひとことで言えば、群馬県内外で活動するフリーランスのクリエイター集団です。
 2006年の秋に結成、今年で11年目を迎えました。

 メンバーは現在、ライターやデザイナー、イラストレター、カメラマンなど、21人が登録しています。
 なかには、画家や彫刻家、絵本作家、書家、建築家などのアーティストも参加しています。
 で、昨晩は、この集団の11回目の総会が、伊香保温泉で開かれました。


 「いらっしゃいませ。小暮さんは、いっつも元気ですねぇ~」
 いつものように女将の大森典子さんの笑顔に出迎えられました。
 「また、お世話になります」
 「でも今日は取材じゃないんですよね。ごゆっくりしてください」

 午後4時半
 部屋に着くと、すでに3~4名の先客がビールを飲んでいます。
 「ずるい! とりあえず僕も “お着きビール” を1杯いただきたい」
 「だめですよ、その前に、会費を払ってください」
 と幹事。

 そうでした。
 「懇親会+宿泊セット」 で申し込んでいたのでした。


 総会は会議室を借りて、1時間程度で終了。
 2015年後期~2016年前期の活動報告と、今後のプランが話し合われ、現在進行中の企画として、僕の温泉本や他のメンバーのガイド本、イベント予定などが報告されました。

 総会とは名ばかりで、もちろんお目当ては “温泉” と “宴会” であります。
 終了後、一目散に大浴場へ。

 何度も訪れている僕にとっては勝手知ったる湯ではありますが、やはり、取材で1人ぼっちで入る湯と、気の置けない仲間たちとワイワイ入る湯は、違います。

 「小暮さんは、何度も入っているの?」
 「ええ、まあ…」
 「いいなぁ~!」
 「とりあえず、温泉ライターを名乗っているもので」
 「そうでした。失礼しました」
 ドッと笑いが沸いて、にぎやかな湯浴みとなりました。



 懇親会は、お決まりの酒池肉林の宴となりました。
 ビール、ワイン、日本酒が飛び交い、2次会場へ。
 気が付けば、あっという間に午前様です。

 それでも話し足りないのか、各自が部屋にもどって3次会を開くツワモノたちも……。


 誰もが、フリーランスで生きていく不安を抱えています。
 でも、こうやって年に数回、顔を合わせれば、未来の不安よりも夢の大きさのほうが勝っていることを確認し合えます。

 良き仲間に出会えたこと、本当に誇りに思います。
 次は、忘年会でお会いしましょう!
   


Posted by 小暮 淳 at 14:04Comments(2)温泉地・旅館

2016年09月28日

熊の湯温泉 「熊の湯ホテル」


 「熊の湯温泉は、熊の湯ホテルだけです」


 昨日は、月に1回の野外温泉講座日でした。
 僕は8年前からNHK文化センター前橋教室で、温泉の講師をしています。
 基本は群馬県内の名湯・秘湯をめぐっていますが、年に数回、隣県の温泉にも足を延ばします。

 平成28年度前期の最終講座は、長野県(下高井郡山ノ内町) の熊の湯温泉へ行ってきました。
 天気は、快晴! 晴れ男、復活!! であります。
 標高2,000メートルの山々に囲まれた志賀高原をバスは、快適に登っていきます。

 突然、「ようこそ、ほたる温泉」 の看板が……。
 ん? そういえば、誰かが「熊の湯は今、ほたる温泉になった」 とか言っていたなぁ……。
 そんなバカな! 熊の湯は、熊の湯でしょ!!
 でも、ガイドブックの中には、このへんがゴッチャになっていて、「熊の湯には数軒の宿がある」 と表記がされていることも……。

 ホテルに到着して、フロントに駆け寄った僕の開口一番は、この疑問をぶつけました。
 で、その答えが冒頭の言葉です。

 昔も今も熊の湯温泉は、大正10年(1921) 創業の 「熊の湯ホテル」 だけです。
 一軒で、源泉と温泉地名を守り続けている正真正銘の “源泉一軒宿”。
 なんでもスキー場ができて、まわりにホテルや旅館が建ち、かつては熊の湯温泉を名乗る宿があったそうで、その混同をさけるために、新たに 「ほたる温泉」 と命名したそうです。

 これでスッキリ!

 謎が解明されれば、1分1秒でも早く温泉に入りたい。
 さっさと荷物を置いて、タオルを持って出かけようとすると、
 「先生、ダメですよ。いつも私たちに言っているじゃありませんか。宿に着いたら、お菓子を食べて血糖値を上げ、お茶を飲んで水分補給をしなさいって!」
 受講生たちに引き止められました。

 こりゃ~、マイッタ! 一本取られましたな。

 それでもはやる気持ちは抑えられません。
 お茶をひと口飲んで、男性有志らと浴場へ。

 「先生、先に行って見てきますよ」
 「ああ、頼みます」
 僕の胸は、ドキドキと波打っています。
 はたして、今日の湯の色は?


 温泉ファンなら、お分かりですよね。
 熊の湯といえば、全国でも数少ない緑色の湯が湧くことで有名な温泉です。
 でも、その色は天候や気温によって、乳緑色や緑がかった透明になったりします。
 さて、今日の色は?

 「先生、きれいです。鮮やかなエメラルドグリーンです!」

 おお、おおおおおお!!
 素晴らしい!
 目が覚めるような黄緑色の湯が、惜しみなくザバザバーと流れています。

 「うちの風呂と同じ色ですよ」
 「えっ?」
 「バスクリーンを入れてますから」
 受講生のジョークに、爆笑が起こりました。

 それにしても不思議な色をしています。
 温泉って、なんて神秘なのでしょうか。

 見上げれば、青い空と白い雲。
 ほのかに漂う硫黄の香り。

 もっともっと、こうして緑色の湯につつまれていたい。
 もうしばらく、湯上がりのビールはおあずけにして、極上の湯浴みを存分に堪能することにしました。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:58Comments(2)温泉地・旅館

2016年09月16日

法師温泉 「長寿館」⑥


 <小暮さんが断ってくれなかったから、本当に大変なんです>

 2週間前、法師温泉 「長寿館」(群馬県みなかみ町) の6代目主人、岡村興太郎さんからメールが来ました。
 なんのことかといえば、現在、上毛新聞に毎日連載されている氏のエッセイ 『心の譜』 のことです。
 ※(いきさつについては、当ブログ2016年8月29日 「『心の譜』連載スタート!」 を参照)

 今日、17話が掲載されました。
 “大変” なのは、察するところです。
 そして、“大変” なことは百も承知で、「受けたほうがいいですよ」 と僕は説得したのでした。
 連載が始まった今となっては、岡村さんの苦労は棚に上げて、「やっぱり、説得して良かったと」 と思いながら、日々紙面に目を通しています。

 話は、1300年前の弘法大師の発見から始まり、明治8年(1875) の創業者・岡村貢氏の功績、そして岡村さん自身の生い立ちと続き、いよいよ 「秘湯を守る会」 や 「文化遺産を守る会」 の活動に触れる佳境に入ってきました。
 毎日、朝起きると真っ先に新聞を広げ、夢中になって読んでいます。

 ご本人が語っているだけあって、取材では拾えないような事細かなエピソードがちりばめられています。
 連載が完結したら、ぜひ本にしていただきたい素晴らしい内容です。


 さて、法師温泉といえば、群馬が全国に誇る人気の秘湯の宿であります。
 古くは旧国鉄の 「フルムーン」 ポスターになり、最近では映画 『テルマエ・ロマエ』 の舞台になりました。
 川端康成や与謝野晶子、直木三十五など、数多くの文人墨客も訪れています。

 で、忘れちゃならない人物がいます。
 旅と湯と酒をこよなく愛した歌人、若山牧水です!
 大正11年(1922) 年10月22日に来館しています。
 そして翌日は、笹の湯(旧・猿ヶ京温泉) を経て、湯宿温泉(みなかみ町) まで旅をします。

 と、いうことで!
 牧水が訪ねた時と、まったく同じ日に、同じ行程を歩こうというイベントが来月、法師温泉をメイン会場に開催されることになりました。
 もちろん、「みなかみ温泉大使」 として僕も参加いたします。

 詳細は、後日ブログにて公開いたします。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:36Comments(2)温泉地・旅館

2016年09月14日

伊香保温泉 「千明仁泉亭」


 文亀二年創業

 といわれてもピンときませんが、西暦で1502年と知ると、「おおお~!」 と感嘆の声を漏らしてしまいます。
 今から514年前といえば、室町時代です。
 もちろん、伊香保温泉で一番歴史の古い老舗旅館ということになります。

 昨日は6年ぶりに 「千明仁泉亭」 を取材で訪ね、22代目女将の千明佳寿子さんのご厚意により、泊まってきました。


 仁泉亭といえば、伊香保をこよなく愛した文豪、徳富蘆花(とくとみろか) が常宿にしていたことで有名です。
 <上州伊香保千明の三階の障子開きて、夕景色を眺むる婦人。>
 で始まる名作 『不如帰(ほととぎす)』 も、ここで書かれました。

「当館には11回、泊まられています。亡くなられたのも当館でした。いつも泊まられていたのは三階の角部屋、そう、今日泊まられる部屋と同じ場所ですよ」

 えっ、蘆花と同じ部屋に泊まれるの!?
 と一瞬、喜んでしまったが、同じなのは“場所” でした。
 蘆花が泊まったのは、明治31年から亡くなった昭和2年の間です。
 現在の建物は、旧館が大正10年、本館が昭和10年の建築ですから、当然、部屋は現存していません。
 ※(ただし臨終の部屋は、現在でも 「徳富蘆花記念文学館」 に保存されています)

 僕的には、大正11年に泊まった歌人の若山牧水が一番興味のあるところです。
 それに谷崎潤一郎や与謝野晶子なども泊まっています。
 女将さんからポンポンと飛び出す文人たちのエピソード話に、ワクワクしながらのインタビューとなりました。


 仁泉亭の自慢は、歴史と文学だけではありません!
 一番の魅力は、なんたって温泉でしょう。
 浴槽に注がれる湯は、もちろん茶褐色ににごる伊香保伝統の 「黄金(こがね)の湯」源泉です。

 そして、その湯量がスゴイ!
 源泉の総湯量(毎分約4,000リットル) の3分の1が、仁泉亭に流れています。
 部屋数は34室ですから、宿泊者1人当たりの源泉量は伊香保で1番多いといえます。

 ま、百聞は一見にしかず!
 凄いのなんのって、大浴場も露天風呂も貸切風呂も、正真正銘100%源泉かけ流しです。
 といっても、チョロチョロと湯がこぼれる子供だましのオーバーフローではありませんぞ!
 ザーザー、ジャバジャバ、ビショビショと完全たれ流し状態なのであります。

 極めつけは、なんといっても深さ1mの 「仁乃湯(めぐみのゆ)」。
 湯舟のサイズは5m×3m!
 これは、もう風呂ではなくプールなのです。
 その巨大な浴槽から、ザバーザバーと勢い良く湯が流れているわけですから、湯の中に立っていると水圧で流されそうになるのです。

 「おっとっと、おっとっと」
 と、よろけたふりをして、ついつい、泳いでしまうのでした。
 これが、“立ち湯” ならではの醍醐味なのであります。

 温泉大国の群馬広しといえども、“立ち湯”のある旅館は、いくつもありませんからね。
 これは、ぜひ一度、みなさんにも体験していただきたい!


 いや~、伊香保って、知れば知るほど奥の深い温泉ですね。
  


Posted by 小暮 淳 at 22:28Comments(2)温泉地・旅館

2016年09月07日

伊香保温泉 「遊山の里 とどろき」


 「とどろき」 って、「轟」 じゃなかったっけ!?

 そう、僕はホテルの前に立った途端、漢字の “轟” を連想したのです。
 だって、伊香保の 「ホテル轟」 といえば、高校時代に強烈な思い出があるからです。


 1970年代に大ヒットした青春ドラマ 『俺たちの旅』。
 中村雅俊演じる主人公のカースケたちは、立ち上げた 「なんでもする会社」 の仕事で榛名山へやって来ます。
 榛名湖畔で野宿をしながら、各々が仕事へ出かけます。
 そして、カースケが行った先が、「ホテル轟」 での清掃の仕事だったのです。

 ま、そこで偶然にも昔の親友やあこがれのマドンナ(竹下景子です) と再開し、ドタバタ劇が始まるんですけどね。

 当時、僕は毎週、夢中になって見ていましたから 「ホテル轟」 の名前は鮮明に覚えているのです。


 「ええ、前身はホテル轟です。3年前に経営が替わり、平仮名に屋号を変えました」
 と総支配人の荒川浩さん。

 なるほど、それで納得です。
 経営も替わり、建物も当時の物じゃないけれど、それでもカースケたちが訪れた宿に、こうして取材に来れたことを幸せに思いました。



 特筆すべきは、伊香保では珍しい本格石窯ピザが食べられるレストラン 『伊香保 精養軒』 が併設されていること。
 昨日も、平日の昼を過ぎた時間帯にもかかわらず、店内は観光客や若い女性たちでいっぱいでした。
 一番人気は、切干大根がトッピングされた 「伊香保ピザ」。
 ミスマッチのような、まさかの具材ですが、これがウマイ!
 新たな伊香保名物になる予感がします。

 もちろん、大浴場も露天風呂も、しっかり、いただいてきました。

 湯の中では、なにげに若き日の竹下景子の美貌を思い浮かべていました。
   


Posted by 小暮 淳 at 20:57Comments(2)温泉地・旅館

2016年08月23日

本白根温泉 「嬬恋プリンスホテル」③


 「先生、やっぱり髪を染めたほうがいいよ」
 このところ、講座で受講生から、そう言われることが多くなりました。
 そのココロは?

 “晴れ男” の妖力が落ちたからです。

 僕は2008年から丸8年間、NHK文化センターの野外温泉講座の講師をしています。
 毎月ですから、すでに100ヶ所近くの温泉地を講座で訪ねているわけです。
 でも、そのうち雨に降られた日は、ほとんどありませんでした。
 ところが……、今年度は、やたらと雨にたたられているのです。

 「先生が髪を染めるのを止めたからだよ」
 講座では、そんなウワサが、まことしやかに流れるようになっていました。


 さてさて、そんな逆風の中で迎えた本年度の第5回講座。
 今日、向かったのは本白根温泉(群馬県吾妻郡嬬恋村) の 「嬬恋プリンスホテル」 です。
 ここだけは、何がなんでも晴れてもらわないと困ります。
 だって、全国でも珍しい “露天風呂しかない宿” なんです。

 なんでか?
 それは絶景が売りだからです!
 標高1,126m(いいフロ) の高原からは、浅間山や四阿山~本白根山の山並みを望む大パノラマが広がります。
 だもの、もし、雨だったら……
 講師として、受講生たちに合わせる顔がありません。

 ところが天気予報では、台風9号が大接近!
 しかも火曜日に、ドンピシャ上陸かも!?!?
 なんていう状況で、講座開講以来初の “中止” もありえることに!

 ああ、神様、仏様、薬師如来さま~!
 我に、ふたたび “晴れ男” の妖力を授けたまえ~!
 と、この数日間は、祈り続けていたのであります。


 そして、迎えた当日。
 見事に晴れました!
 台風一過の青空です。

 「先生、面目躍如ですね」
 「もう大丈夫です。これで完全に “晴れ男” の妖力が戻りました」
 「では、髪の毛もそのままで」

 そう言って、湯舟の中で受講生たちと笑い合ったのであります。


 「カンパ~イ!」
 湯上がりは、恒例の生ビールで高原の夏を存分に満喫したのでした。

 めでたし、めでたし。
 晴れ男、復活!
    


Posted by 小暮 淳 at 21:25Comments(3)温泉地・旅館

2016年08月10日

伊香保温泉 「ホテル きむら」


 伊香保温泉は、ワンダーランド!
 訪ねれば訪ねるほど、巡れば巡るほど、知れば知るほど、ますます、もっと先を見たくなります。
 僕は現在、ライフワークのように毎週、伊香保温泉を歩いています。

 昨日は、ロープウェイに乗って、温泉街を一望する物聞山(ものききやま) の山頂へ。
 標高976mの見晴展望台からは、絶景の大パノラマを堪能!
 前橋市内は猛暑でも、ここは別天地です。
 高原の午後を満喫してきました。


 山から下りれば、もちろん待っているのは温泉です。
 昨晩は、3代目主人の木村幸久さんのご厚意により、「ホテル きむら」 に泊めていただきました。
 「ホテル きむら」 は、ロープウェイから降りて、右に行った最初の宿です。

 玄関の入口に、大きなセピア色した写真が貼られているのに気づきました。
 昭和初期の伊香保石段街の風景で、富岡製糸所の女工さんたちが大勢写っています。

 目を凝らして、よーく見ると、女工さんたちが立つ石段の脇に、看板が写っています。
 「湯宿 木村利平客室」 と読めます。

 説明書きには、<時の流れを物語る貴重なケヤキ彫り看板はフロントの壁面に現物が飾られている> とあります。
 もちろん、フロントに立った僕の第一声は、
 「その看板、見せてください!」

 昭和40(1965)年、先代が現在地に移転し、現在の「ホテル きむら」 が誕生したとのことです。


 4階の大浴場にある展望露天風呂は、畳敷きの樽風呂という珍しい造り。
 子持山や小野子山の稜線を西陽が照らす夕景を眺めつつ、サラリとした 「白銀(しろがね) の湯」をのんびりと浴みました。

 湯から上がれば、目指すは1つ!
 1分でも早く、食事処にたどり着き、生ビールを注文すること。
 「カンパイ! お疲れさまでした」
 と、カメラマン氏と祝杯を上げていると……

 「レディース&ジェントルメ~ン!!」
 とステージのどん帳が上がり、マジックショーの始まりです。
 子ども連れの多い夏休み期間中は、毎日、ショーがあるのだとか。
 それも大掛かりな、イリュージョンマジックです。

 美女の胴体がバラバラになったり、箱に入れられた女性と外の男性が一瞬に入れ替わったり、絵に描かれたハトが突然本物になって飛び出したり……。
 子どもでなくても、ハラハラドキドキしながら見ちゃいましたよ。
 だって、ふだんはテレビの中でしか見たことのないマジックが、実際に目の前で起きているのですからね。

 お子さんたちには、いい夏休みの思い出になったことでしょうな。


 小さな宿から大きなホテルまで、石段街から大自然まで、いろいろあって伊香保は楽しいのです。
   


Posted by 小暮 淳 at 21:42Comments(0)温泉地・旅館

2016年08月03日

伊香保温泉 「ホテル松本楼」 「洋風旅館 ぴのん」


 松本楼といえば、「10円カレー」 で知られる東京・日比谷公園にある老舗レストランの 「松本楼」 が有名です。
 でも、全国には同じ名前の旅館や食堂はあまたとありますから、別段、気にしてはいませんでした。

 それでも話は聞いてみるものですね。
 「ええ、私の曽祖父が大正時代に修業をしていた店なんです。伊香保に帰って店を出すときに、のれん分けをしてもらったと聞いています。偶然にも苗字が松本だったということもありまして」
 と、若女将の松本由起さんが歴史を紐解き出しました。

 西洋料理の店 「松本楼」 は、伊香保温泉街でも評判を呼び、大変に繁盛したといいます。
 戦後、高度成長の波に乗り、観光ブームがやって来ます。
 昭和39年(1964)、彼女の祖父母が屋号を継いで現在の場所に旅館をオープンしました。
 わずか16室の小さな宿でした。

 旅館の歴史っていうのは、面白いものですね。
 一朝一夕には成し得ない、その時代、時代での年輪を重ねて、新たな歴史を造り上げていくのです。

 3代目の由起さんが、本場のホテル業を学んだイギリス留学の経験を生かし、「伊香保にない施設」 「自分が泊まりたい旅館」 を作りたいと平成9年にオープンさせたのが洋風旅館の 「ぴのん」 でした。

 「“ぴのん” 聞きなれない言葉ですが、何語ですか?」
 「PINON は、スペイン語で 『松ぼっくり』 のことなんですよ。松本の松、松本楼の松。なによりも曽祖父が大正時代に築いた洋食店のイメージを再現したかったんです」


 昨日僕は、とても贅沢な取材をしてきました。
 若女将のご厚意により、本館と姉妹館の両方を自由に利用させていただきました。
 風呂と夕食は、松本楼。
 宿泊と朝食は、ぴのん。

 それ以外にも、坂を上ったり下りたり、行ったり来たりしながら、2日間たっぷりと和と洋のもてなしを満喫してきました。
 もちろん、温泉もすべての風呂に入ってきましたよ。
 どちらの宿にも 「黄金(こがね)の湯」 と 「白銀(しろがね)の湯」 の2つの源泉が引かれていますから、まさに温泉三昧の2日間でした。


 湯の数だけ歴史があり、宿の数だけ物語があります。
 2つとして同じ湯、同じ宿はありません。
 だから、取材って楽しいのです。
   


Posted by 小暮 淳 at 21:46Comments(2)温泉地・旅館