温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
群馬のブログポータルサイト「グンブロ」顧問
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使
老神温泉大使
伊香保温泉大使
四万温泉大使
ぐんまの地酒大使
群馬県立歴史博物館「友の会」運営委員



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』『金銀名湯 伊香保温泉』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ぐんま謎学の旅~民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2021年08月12日

赤兎馬は万里を越えて


 「弟子の会」 から 「赤兎馬」 が届きました。


 「赤兎馬(せきとば)」 とは、鹿児島県の芋焼酎です。
 一時は、なかなか九州から外へは出回らなかったため、“幻の芋焼酎” なんて呼ばれたこともあったそうです。
 ですから当時はまだ関東地方の酒屋や居酒屋では、大変珍しいお酒でした。

 僕が赤兎馬に初めて出合ったのは、今から7年前のこと。
 その時の感動をブログに、こう記しています。
 <水のような口当たりなのに、すぐに芳醇な旨みがググーっと口の中いっぱいに広がって、飲み干した後も、やわらかな甘みの余韻がズーっと口の中に残っているのであります。>
 (当ブログの2014年7月14日 「赤兎馬の酔夢」 参照)


 「弟子の会」 とは、なぜか僕のことを “先生” とか “師匠” とか呼ぶ殊勝な読者の集まりです。
 講演やセミナー、著書、ブログ等を通じて知り合った面々が、互いに連絡を取り合い、定期的に僕を囲んで酒を酌み交わしながら温泉談議を楽しんでいます。
 発足から今年で丸5年になります。


 赤兎馬は、そんな弟子たちからの誕生日プレゼントでした。
 「先生はケーキより酒でしょ!」
 とのことのようです。

 「先生、泣かないでよ、涙もろいんだから!」
 と言われて、その場では泣きませんでしたが、家で一人、赤兎馬のボトルを開け、グラスに注いだ時、ポロリと目から熱いしずくが流れ落ちました。


 ありがとう!
 持つべきものは、弟子であります。

 何にも伝授するものはありませんが、これからも一緒に温泉の楽しさを追求していきましょうね。


 「赤兎馬」 の由来は、三国志に登場する名馬の名前です。
 1日で千里走るといいます。

 中国には、こんなことわざもあります。
 <縁ある人は万里の長城を越えてでも会いに来る>

 まさに縁とは、異なもの不思議なものです。
 でも縁は偶然などではなく、万里の長城を越えた時点で、必然へと変わります。


 今宵も赤兎馬に乗って、酔夢の旅へ出かけたいと思います。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:48Comments(0)酔眼日記

2021年08月07日

鳴らない風鈴


 世知辛い時代になりました。
 令和の世の中からは、風流や風情というものが消えてしまうのでしょうか?


 以前、「吊り忍」 について書いたことを覚えていますか?
 江戸時代の植木職人が作り出した伝統工芸品で、夏の風物として庶民に愛されてきた観賞用の小さな盆栽です。
 竹やシュロの皮などを芯にして、これにコケを巻き付け、その上に 「しのぶ」 というシダ科の植物をはわせた 「しのぶ玉」 を軒下などに吊るします。
 ※(詳しくは当ブログの2021年7月28日 「なぜか、吊り忍」 を参照)

 風に揺れ、緑の葉が風にそよぐ姿が、なんとも涼しそうであります。


 吊り忍の下には、風鈴を吊るすのが定番です。
 それも江戸風情を醸すならば、ガラス細工に限ります。
 そして絵柄は、“金魚” がいいですね。

 <ジュンちゃん、金魚の風鈴が届いたよ~>

 行きつけの酒処 「H」 のママから、うれしいメールが届きました。
 ママとは夏の初めに、「吊り忍」 の話で大いに盛り上がったのであります。
 さっそく、吊り忍と金魚の風鈴をそろえてくれたようです。


 もう、「H」 に向かう道すがら、ワクワク、ドキドキが止まりません。

 「あった~!」

 店の数十メートル手前から、のれんの横でひらひらと揺れる赤い風鈴と青い短冊が見えました。
 そして、その上には、まだ小さいけど、一丁前に枝葉を伸ばした 「しのぶ玉」 が飾られています。


 「ママ~、すごいね! 素敵だね! これで商売繁盛だ!」
 そう叫びながら店内に入った僕でしたが、ママの反応は微妙に期待外れでした。
 「うん、吊るしたことには、吊るしたんだけどね……」
 と、なんだか寂しそうなんです。

 ちょっと、待てよ?
 なんか変だぞ!

 吊り忍と金魚の風鈴、確かに主役は揃っている。
 なのに、何かが足りない……

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーー!!!!! 音がない!」


 そうなんです。
 風に揺れている風鈴が、“無音” なのです。

 「ママ、どうしたの?」
 「どうしたも、こうしたもないよ。わたしゃ、もうグレちゃうよ」


 カクカク、シカジカ……ママが言うことにゃ、常連客から忠告をいただいたのだと言います。
 その常連客が住む町内では、最近、回覧板が回ったといいます。
 内容は、<風鈴を吊るさないでください> というもの。
 その町内では 「うるさい! 迷惑だ!」 という、ご近所トラブルが発生しているというのです。

 「でさ、鳴らないようにしたわけよ」


 ゲッ、ゲゲゲーー!
 そ、そ、そんな~!
 いつから日本人は、そんなに了見が狭くなっちまったんですか!?

 音の鳴らない風鈴だ?

 聞くところによれば、盆踊りや花火大会にも 「うるさい!」 とクレームを入れる人が増えているんですってね。
 ああ、江戸の庶民が聞いたら未来を嘆くぜ!


 「はい、お疲れさま」
 「カンパイ!」

 カウンター席から表通りを眺めると、白いのれんの横で、ゆらゆらと赤い風鈴が風に揺れています。

 聴こえます、聴こえますって。
 ジッと耳を凝らしていると、ほらね。

 チリン、チリン……チリン、チリチリン……


 世知辛い時代になりました。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:23Comments(0)酔眼日記

2021年07月28日

なぜか、吊り忍


 ♪ 貴女がくれた 吊り忍
   今も枯れずに あるものを
   カタカタ カタカタ はたを織る
   糸も心も つづれ織り ♪
   <谷村新司 『蜩』 より>


 「吊り忍」 って、知っていますか?

 「しのぶ」 は、シダ植物の一種、シノブ科の多年生のシダです。
 「吊り忍」 は、竹やシュロの皮などを芯としたものに山コケを巻き付け、その上に 「しのぶ」 の根茎をはわせた 「しのぶ玉」 を軒先などに吊るした観賞用の植木です。

 風鈴のように軒下に吊るすと、青々とした緑に涼を感じる江戸庶民の夏の風物詩でした。
 庭師が出入りの屋敷に、御中元として届けたのが始まりともいわれています。


 なんで急に、「吊り忍」 の話をしたのかって?
 だって、本当に久しぶりに (たぶん、子どもの頃以来に)、「吊り忍」 を見たからです。


 「あれ、ジュンちゃんのほうが、先に来ちゃったよ」
 なんて、店に入るなり、残念そうな顔でママに迎えられてしまいました。
 ご存じ、僕がコロナ前からコロナ中でも、足しげく通っている酒処 「H」 であります。

 「なに、誰か来るの?」
 「いや~、ジュンちゃんを驚かそうと思っていたのになぁ。まさか、今日、来るとは……」
 とママは、本当に残念そうです。
 「なになに? 隠さないで言ってよ!」
 と、しつこく問い詰める僕に、ママは根負けして、
 「すぐ分かっちゃうことだから、しょうがないね。話すよ、あのね、今日、これから 『吊り忍』 が届くのよ」

 「ええっ、えーーー! この間話していた、あの 『吊り忍』 が~!?」


 実は、ちょうど1週間前のこと。
 この店の常連客と、“昭和の夏の風物詩” をテーマに、大いに盛り上がったのであります。
 お大尽の家には木製の冷蔵庫があったとか、スイカは風呂桶やたらいに水を張って冷やしたとか、どこの家でもスズムシを飼っていたとか……

 そのとき、「吊り忍」 の話も出ました。
 ところが、知らない人が多かったのです。
 若い人が知らないのは分かるのですが、シニア世代でも東北や九州など出身地によっては知らないようです。

 そのとき、たまたま知っていたのが僕とママでした。
 2人とも群馬県出身です。
 「これって江戸発祥の関東圏の文化なのかね?」
 という結論に達しました。


 「だからさ、この店に吊るそうと思ってね」

 なんて話していたら、宅配便のお姉さんが箱を抱えて、店に入って来ました。
 「キターーーー!!」
 と雄叫びを上げると同時に僕は、
 「ねえねえ、お姉さん、『吊り忍』 って知ってる?」

 当然、若いお姉さんは知るよしもありません。
 「ママ、早くお金払って、箱を開けて、お姉さんにも見せてあげなよ」
 僕のお節介に、宅配便のお姉さんも興味津々です。

 「へ~、これが、その、つり……、つり……」
 「そう、『吊り忍』。なんとも風流でしょう! これをね、こうやって窓辺に飾るわけよ。どう、涼しそうでしょう!?」

 なーんてね、昭和自慢を始めてしまいました。


 「あとは、風鈴だね」
 とママが、しのぶ玉を宙にかざします。
 「吊り忍」 の下には、風鈴を吊るすのが定番です。
 「音は鉄の南部風鈴がいいけど、見た目の涼しさなら赤い金魚が描かれたガラスの風鈴がいいね」

 「みんな、きっと驚くね」
 「楽しみだね」

 午後4時前に一番乗りした僕とママだけの “真夏の秘め事” でした。


 ♪ 半ば開いた 連子窓
   いつもと同じ 石の道
   カナカナ カナカナ 蜩 (ひぐらし) と
   二度と戻らぬ 日を過ごす ♪
  


Posted by 小暮 淳 at 19:25Comments(2)酔眼日記

2021年07月21日

扇風機にリボン


 最近は、扇風機がない家庭が増えているんですってね。


 昨日は、久しぶりに愉快な仲間が集まりました。
 「弟子の会」 の面々です。

 「弟子の会」 とは、ひと言でいえば、温泉好きの集まりです。
 きっかけは、僕の講演やセミナー、教室の受講生、著書やブログの読者が横の連絡を取り合い、僕のことを “先生” とか “師匠” とか勝手に呼んで、僕を出しにして集い、酒を呑もうという会であります。


 会場は、いつものたまり場、酒処 「H」。
 平日ですから出席は、三々五々であります。
 一番早い人 (僕) は、午後4時前からカウンター席で、だらだらと呑み始めます。
 最後の人は、仕事を終えてですから午後8時近くからという自由参加です。

 昨日は、僕を含めて5人のメンバーが揃いました。


 メンバーは全員が昭和生まれです。 
 それも昭和30~40年代ということもあり、いつしか話題は、古き良き “昭和の風物詩” で盛り上がり出しました。

 「風鈴が、今は騒音だっていうんだからね」
 「そういえばスズムシの鳴き声を聴かないけど、まだ飼っている家ってあるのかな?」
 「金魚て、飼い続けると、すごーく大きくなっちゃうって知ってる?」
 「蚊帳って楽しかったよね。でも今思えば、窓全開にして寝ていたんだよね。防犯的に、どうだったんだろう?」
 「スイカって、風呂桶に水張って、そこで冷やしていたよね」

 などなど、昭和の思い出が尽きません。
 そんな中、最後は、扇風機の話題で盛り上がりました。


 「扇風機には、リボンが付いていたよね」
 の一言に、一同、爆笑。
 「なんでだろう? 別に涼しくなるわけじゃないのに」
 「いや、アレが付いているのと付いていないのでは、涼しさは違ったような気がするよ」

 平成生まれ、または昭和後期生まれの方のために、ご説明しましょう。
 当時、扇風機は “おしゃれ” をしていたのです。
 いわゆるファンの前に、風の風力や風向を視覚的にとらえるための 「吹き流し」 を取り付けるのが流行でした。

 たぶん、電気店で販売するときのディスプレーが始まりだと思われますが、なぜか、購入した後も、あの “ひらひら” のテープを付けっぱなしにしていたのです。
 色は白やブルー。
 涼しさを演出するためでしょうか、必ず寒色系でした。
 (首を振る “ひらひら” に、ネコがじゃれついて遊ぶ姿も昭和の風景でした)


 「決して、涼しさが増すわけじゃないのにね」
 「だったら風鈴だってそうでしょ」
 「スズムシや金魚だって、そうだよ」

 「昭和の人たちは、工夫をしながら夏を楽しんでいたんだね」
 「視覚と聴覚から涼しさを想像していたんだ」
 「あと、嗅覚もね」
 「蚊取り線香とか……」


 外を見ると、店の白い暖簾が風に揺れています。

 「ひと雨くれば、涼しくなるのにね」
 と、ママ。
 それを聞いた僕が言いました。
 「そうだ、この店に 『釣り忍』 を吊るそうよ」

 「つりしのぶ、いいわねぇ~」


 日本の夏、「H」 の夏が始まりました。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:18Comments(0)酔眼日記

2021年06月16日

サヨナラ、まん防!


 ♪ ぼくの名前は のん兵衛
    きみの名前は まん防
    ふたり合わせて “のまん (呑まん) ” だ
    きみとぼくとで “のまん” だ
    1ヶ月もの間 自粛をしたけど
    今日を限りに サヨナラ まん防~ ♪


 ということで、やっとやっとやっと!
 群馬県の 「まん延防止等重点措置」 の要請が解除されました。

 のん兵衛のみなさん、よくぞ、耐えました!
 これで、大手を振って、呑みに出られますぞ!

 と思ったら、まだ時短営業を強いられているんですってね。
 店舗の営業は午後8時までという制約付きです。

 そ、そ、そんな~!
 サラリーマンのみなさんは、会社が終わってから行ったのでは、いくらも呑めないじゃありませんか!

 でもね、フリーランスは大丈夫!
 コロナ禍の現在、“毎日が日曜日” みたいなものですからね。
 時間なら、いくらでもあるわけです。


 朝、目が覚めたときから、もう、ソワソワは始まっています。
 「えーと、店は何時から開いているんだっけな?」
 と問えば、
 「4時」
 とママからメール。

 ほほう、ということは、4時に行ったのでは、いつもの “指定席” は取れんかもしれんな。
 では、1時間前倒しで、作戦決行だ~!

 仕事を昼までに切り上げ、シャワーを浴びて、いざ、出陣!
 午後3時には、カウンター奥のいつもの席に陣取った次第です。
 もちろん、僕が一番乗り!


 「1ヶ月のご無沙汰でした」
 と僕が言えば、
 「長かったね~」
 と言いながら、ママがキンキンに冷えたグラスに生ビールを注いでくれました。

 「ちょっと、待って。今日は、あたしも呑むから」
 と、ママもグラスを取り出しました。
 「では、カンパ~イ!」
 「また、よろしくお願いいたします」
 「こちらこそ」


 「ああ、この景色、この景色。極楽ですよ」
 僕は、ウナギの寝床のように延びる細長いカウンターの一番奥の席に座り、入り口ののれん越しに外の往来を眺めながら呑むのが好きなのです。

 「今日は、ジュンちゃんの好きな、もつ煮を作ったからね」
 「本当!? ありがとう……(感涙)」

 至福の時間が流れます。
 1ヶ月もの間、よく我慢をしたものだ。
 今日は、自分への “ご褒美” だ。

 ほめてやろう!
 「おい、自分、よく頑張ったな」


 「お~、久しぶり!」
 「小暮さん、もう来てるの!」
 「元気にしてた?」
 開店時刻の4時が近づくと、三々五々、常連客が顔を出し始めます。

 午後5時には、すでにカウンターは満席となりました。

 「8時まで、呑むぞー!」
 「オー!!」


 サヨナラ、まん防! 
  


Posted by 小暮 淳 at 11:15Comments(0)酔眼日記

2021年06月05日

居酒屋依存症② ~悪魔のささやき~


 あと3週間、2週間……
 あと10日、8日……

 「まん防」 こと、まん延防止等重点措置の要請が依然続く、群馬県。
 飲食店は、時短営業に加え、酒類の提供までも自粛しています。

 “居酒屋依存症” にとって、こんなにツライことはありません。
 日々、禁断症状と闘いながらカレンダーに☓印を記入して、解禁までのカウントダウンをしています。


 そんな毎日に、次から次へと “悪魔のささやき” が届きます。
 <太田(市)では、何軒か飲めます。>
 <前橋(市)で、飲める定食屋を発見!>

 “呑み友” からの 「おせっかいメール」 です。


 そして、ついに夕方、電話が鳴りました。
 「小暮さん! いま僕は、アジフライを肴にキリンビールを呑んでますよ」
 完全に、勝ち誇ったようなテンションの高い声色です。

 なんでも彼が言うには、“灯台下暗し” で、以前から時々足を運んでいた近所の定食屋が、ふだん通りに酒類を提供していたというのです。

 「へー、それはラッキーだったね」
 「でしょ~! ○○さんも来るらしいですよ。ここの常連なんですって!」

 ○○さんとは、やはり我々の呑み仲間の一人です。
 呑兵衛の嗅覚っていうんでしょうか?
 戒厳令が敷かれた緊急時でも、しっかり闇酒が呑める店を探し出すんですね。


 「気を付けてよ。憲兵に、しょっ引かれないように」
 「憲兵?」
 「そう、“自粛警察” のことだよ」
 「ああ、それなら大丈夫! ここの女将さん、そんなの全然動じないから」
 「動じないの?」
 「そう、このへんで××食堂と言ったら老舗中の老舗だからね。誰も文句なんて言えないよ」
 「へぇ~、それは頼もしい」
 「ところで小暮さん、これから出て来ない? 一緒に呑もうよ!」
 と、悪魔がささやくのです。

 でも僕は、断りました。、
 だって、すでに呑んでいる最中だったのです。


 これが呑兵衛の性(さが)なのであります。
 先手必勝!

 K君、今後は、もっと陽の高いうちに誘いなさい!
 夕方までなんて、待てませんって!
   


Posted by 小暮 淳 at 12:00Comments(2)酔眼日記

2021年05月27日

居酒屋依存症


 「小暮さん、見つけました!」
 「何を?」
 「呑める店ですよ!」

 突然、呑み仲間から電話がありました。
 彼は、かなり興奮しています。
 なにを、そんなに興奮しているのか?
 察しの良い呑兵衛なら、お分かりですよね!?

 そうです!
 「まん防」 による “呑兵衛弾圧” の打開策に奔走する、けなげな “居酒屋依存症” の同胞からの報告なのであります。

 「まん防」 こと、まん延防止等重点措置が施行されて、早や10日以上が経ちました。
 群馬県内の10市町では、飲食店の時短営業に加え、酒類の提供の自粛まで要請されています。

 ということで、居酒屋依存症の民は、“アルコール難民” と化しているのです。


 ひと口に 「呑兵衛」 といっても、鉄道ファンに “撮り鉄” や “乗り鉄” があるように、そのスタイルは異なります。
 まず大きく、「家呑み派」 と 「外呑み派」 に分かれます。

 「家呑み派」 は基本、毎晩家での晩酌を楽しみます。
 たまに外で呑むことはあっても、それは飲み会や宴会であり、複数での飲酒となります。
 一方、「外呑み派」 は、毎日の晩酌も欠かしませんが、“雰囲気” を重んじるため、定期的に外へ呑みに出かけます。
 僕は、後者です。


 外呑みの好みは、様々です。
 スナックやパブなどのにぎやかな雰囲気が好きな人、レストランやラウンジで静かにやりたい人、当然ですがキャバクラなどのお姐ちゃんがいる店へ通う人もいます。

 でも日本酒好きとなれば、居酒屋が定番です!

 ふらりと暖簾をくぐり、いつものカウンター席に座ると、黙っていてもスーッと酒が出てきます。
 名前は知らないけれど、時々見かける常連客との他愛のない雑談……
 これが、「外呑み派呑兵衛」 の醍醐味であります。


 で、息も切れ切れに電話を寄こした “呑み友” も、そんな 「居酒屋依存症」 の一人です。

 「見つけたって、どこよ?」
 「○○町ですよ」
 「○○とは、バカに遠いねえ?」

 彼が告げた町名は前橋市のはずれ、赤城山の中腹であります。
 平成の大合併で、かろうじて前橋市を名乗っていますが、我々のような根っからの “前橋っ子” から見れば、ド田舎です。

 「ええ、仕事の途中で、昼飯を食べに寄った食堂なんですけどね。メニューを見ると、けっこうアルコールが充実しているんですよ。でね、主人に聞いたら、『うちは、ふつうに酒を出してるよ』 って言うんですよ! どうです? 小暮さん、呑みに行きませんか?」

 「呑みに行きませんか?」 と言われても、家から遠すぎます。
 帰りの代行代だって、バカになりません。


 「遠すぎるよ、無理だよ」
 と言えば、彼は大真面目に、こう答えました。
 「だから、誰か一人、酒の呑めないヤツに運転させてですね、呑みに行きましょうよ!」

 呑兵衛の、この執念!
 僕も他人に負けないだけの呑兵衛としての自覚はありますが、上には上がいるものです。


 その後、誘いの電話が来ないので、彼は、あきらめたのでしょうか?
 それとも、もう少し近場の店を探しているのでしょうか?

 今度、誘われたらホイホイと、ついて行ってしまいそうな自分が怖い、“まん防禍” の今日この頃です。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:55Comments(2)酔眼日記

2021年05月16日

いや~ん、もう、まん防


 ♪ ぼくの名前は ヤン坊
    ぼくの名前は マー坊
    ふたり合わせて ヤンマーだ
    君と僕とで ヤンマーだ
    小さなものから大きなものまで
    動かす力だ ヤンマーディーゼル

 「まん防」 と聞いて、ついつい懐かしいCM 「ヤン坊マー坊天気予報」 のテーマソングを歌ってしまったのは、僕だけでしょうか?
 でもでもでもーーーっ!
 「ああ、あの頃は良かった。コロナもなかった」
 などと悠長に思い出にひたっている場合ではありませんぞ!


 つ、つ、ついに、群馬県も今日から新型コロナウイルス対策の 「まん延防止等重点措置」 が適用となり、県内10市町の飲食店は6月13日まで営業時間短縮および酒類の提供が自粛されることになりました。
 ていうことは、これって実質、飲み屋は 「休業しろ!」 ということであります。

 さらに言葉をねじ曲げれば、“呑兵衛大虐殺” ですぞ!

 大変だーーー! 大変だーーー!!
 と右往左往しているところに、一本のメールが届きました。

 <会えるのは明後日まででやんす トホホ>

 なんとも悲痛な叫び声。
 発信は、我らのたまり場酒処 「H」 のママからであります。

 もう、居ても立ってもいられません。
 このままでは呑兵衛の聖地が失われてしまいます。


 ということで昨日は、真っ昼間から “聖地救助隊” の一員として、馳せ参じたのであります。
 午後3時半、一番乗りを果たし、カウンター奥のいつもの席に陣取りました。

 「ママ、今日が最後なんだって?」
 「縁起でもないね、なにが最後だい!?」
 「だって会えるのは、今日が最後だって?」
 「明日から “まん防” が始まるから、その前に会えるのは今日までという意味だよ」

 とかなんとか言いつつ、
 「今日はヤケ酒だね。とりあえずカンパイ!」
 と、いつもと変わり映えしない、平和なひと時が始まりました。


 ところが30分と経たないうちに、一人、また一人と、馴染みの顔が現れました。
 「今日までだって!」
 「だから……」
 その都度、ママと常連とのやり取りがおかしくて、それでいて心がほっこりするのであります。

 サッカー指導員Kちゃん、永遠のマドンナYちゃん、歌舞伎大好き婦人のRさん、いつも仲良しカップルC&T……
 ついには、パイプをくわえて巨匠、M画伯までが “お別れ” を言いに登場です。

 そのたびに 「カンパ~イ!」 が響き渡り、「コロナに負けるな!」 「酒の販売を認めろ!」 「オリンピックなんて、やってる場合じゃないだろ!」 「俺は明日から、どこで呑めばいいんだ!」 ……などなど、思い思いのグチがカウンターの上を転がり出します。


 あと30分、20分、10、9、8、7……
 カウントダウンが始まりました。

 “まん防” 以前に、すでに午後8時までの時短要請が発令されているのであります。

 「次に会えるの、いつよ?」
 「1ヶ月後だよ」
 「いっかげつーーーーーー!!!(涙)」


 いや~ん、もう、まん防!

 呑兵衛には試練の1ヶ月間が始まりました。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:52Comments(0)酔眼日記

2021年03月31日

聖火と忠治と春雷と


 もし、新型コロナウイルスの感染拡大がなかったら……


 午後4時30分
 早々にデスクワークを切り上げ、いつもの店のいつものカウンター席に。

 当然、まだ客は僕一人だけなのですが、すでにカウンターにはズラ~リと料理が並んでいます。
 「あれ、今日は予約で、いっぱいなの?」
 「そう、急にね」
 「ここの席は大丈夫?」
 「うん、ジュンちゃんは予定に入ってるから」
 「でも、なんで急に?」
 「今日、お店の前を聖火ランナーが走るのよ」

 思えば、聖火ランナーなんて、直に見たことがありません。
 前回の東京オリンピックは、僕はまだ幼少期。
 白黒テレビの中で見た、「東洋の魔女」 と呼ばれた女子バレーボールの記憶しかありません。


 午後5時20分
 待ち人、来たり。

 昨晩、僕は某新聞社の記者から取材を受けることになっていました。
 先日、群馬テレビで放送された番組が、事の発端です。
 その番組で、僕がナビゲーターを務め、国定忠治が処刑前に呑んだ 「末期の酒」 を紹介しました。

 そしたら、この話を聞きつけた記者から、「どうしても会って、詳しい話を聞きたい」 と、わざわざ電話をいただいたのであります。
 こんな時、僕は迷わず、酒処 「H」 を指定します。


 午後6時45分
 忠治話も一段落した頃、店の外が騒がしくなってきました。

 覗いてみると、沿道には、傘を差したマスク姿の人、人、人、人、人……

 やがて、ド派手なイルミネーションに飾られたパレードカーが、大音響を奏でながらやってきました。
 どれも大企業のネーミングを掲げています。
 そして、なぜか車の中から沿道に向かって手を振る人、人、人……

 「3密を避け、大声を出さずに、拍手のみでお迎えください。まもなく、聖火ランナーがまいります」

 アナウンスの後、白いユニホームを着て、トーチをかかげた男性がやって来ました。
 「あっ、テレビで見たトーチと同じだ!」
 というのが、正直な感想です。


 なんとなく中途半端で、間の抜けた聖火パレードでした。

 もし、新型コロナウイルスの感染拡大がなく、オリンピックが予定通りに昨年、開催されていたら……
 きっと、もっともっと晴れやかな気持ちで、手を振れたのでしょうね。
 そして、思いっ切り大きな声援を送ったことでしょう。


 ゴロゴロ、ゴロゴロ……

 遠くの空が光り、雷鳴が聞えます。
 小雨となり、傘をさす人も、まばらとなりました。

 「さて、呑み直しましょう!」

 僕は、記者をうながして店に入り、再び、いつものカウンター席に腰かけました。
   


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2021年01月16日

不要不急に物申す!


 全国で新型コロナウイルスの感染拡大が急増する中、群馬県でも現在、9市町に対して接客を伴う飲食店などに営業時間の短縮を要請しています。
 酒類の提供は午後7時まで、店の営業は午後8時までです。

 「7時なんて、仕事が終わってから立ち寄って、呑み始めたら、もうラストオーダーだよ!」
 ということですから世のサラリーマン諸君の悲鳴は、ごもっともです。

 でも、仕方ありませんね。
 今は、緊急事態なのですから。
 素直に従うことにしましょう。


 その上で、物申す!

 酒呑みの心は、酒呑みにしか分からないのです。
 世間では不要不急と思われているようですが、そんなことはありません。

 こんな世の中だからこそ、酒の力が必要な人もいるんです!(キッパリ)


 いったい、誰が決めたんですか?
 音楽、芸術、旅行、文学、演芸、祭事……
 それらを、ひとくくりに “不要不急” のカテゴリーに入れて、“自粛” という檻の中で飼い殺しにしていませんか?

 こと、酒に関しては、午後8時過ぎだとアウトで、その前ならセーフという線引きも納得がいきません。
 要は、時間ではなくて、「3密」 でしょ?
 昼間から大勢で小部屋に集まれば、そのほうが感染は大であります。

 僕に言わせてもらえば、不要不急は 「文化」 なのであります。
 一度絶えてしまった文化を、元に戻すのは大変なことですぞ。


 いったい何が言いたいのか、といえば、国や県の要請は、きっちりと守るから、不要不急とされるモノたちに、もう少し寛容になってほしいということです。
 温か~い目で、見守ってほしいのであります。

 ということで、昨日は陽のある時間から出かけて、正々堂々と “昼酒” を呑んできました。

 でも、いるんですよ。
 僕と同じ考えの呑兵衛が。
 カウンターは、夕方には満席です。
 中には会社を休んでまで、呑みに来たサラリーマンもいます。

 分からんでしょうね~、この気持ち。
 酒を呑まない人には……


 会社を休んでまで、昼から酒を呑むって、分かりますか?
 その人にとっては、酒を呑むことは決して不要不急ではないということです。

 “必要急務” なのです!


 「みんな~、あと20分だからね」
 午後7時40分、ママの声が店内に響きます。
 「はーい!」
 まるで幼稚園児のように、良いお返事です。

 そして、午後8時。
 暖簾が外されました。


 時短要請がなんだ! 自粛がなんだ!
 呑兵衛には、呑兵衛の生き方があるんだ!

 コロナなんかに、負けるもんか~!!!

   


Posted by 小暮 淳 at 12:20Comments(2)酔眼日記

2020年12月23日

レバニラは青春の味なのだ!


 ♪ 東京ララバイ 地下があるビルがある
   星に手が届くけど
   東京ララバイ ふれ合う愛がない
   だから朝まで ないものねだりの子守歌 ♪
               <by 中原理恵>


 「レバニラ炒め」 なのか 「ニラレバ炒め」 なのか?
 時々、交わされる論争です。

 中国語では 「韮菜炒牛肝(猪肝)」 と表記するので、 「ニラレバ炒め」 が正しいようです。
 あくまでも主役はレバーなので、ニラ入りのレバー炒めなのです。

 では、いつから 「レバニラ」 という言葉が使われるようになったのでしょうか?

 一説には、昭和46(1971)年に放送されたテレビアニメ 『天才バカボン』 の中で、バカボンのパパが 「ごちそうはレバニラなのだ!」 と言い間違えたのが最初だったとか……。
 以後、「レバニラ」 という言葉のほうが一般的になったといいます。


 なんで、いきなりレバニラの話をしたのかというと、先日、1本のメールが届きました。
 ご存じ、酒処 「H」 のママからです。

 <今度、来るときは11時までにメールをちょうだい>
 という内容でした。

 なんで11時までに?
 しかも僕は、いつも店に行くときに、前もって連絡なんて入れません。
 その日の気分で、夕方になって、のこのこと出かけて行くのです。

 でも、昨日に限り、別件のメールのやり取りがあり、行くことを告げてしまいました。


 さて、いつもの 「H」 と何が違うのか?

 それは、生ビールを2杯ほど飲み干した頃でした。
 「はい、お待たせ!」
 とカウンターに出された料理は、見まがうことなき、「レバニラ炒め」 であります。

 レバーとニラとモヤシの量のバランスも良く、シャキシャキした歯ごたえとレバーのしっとりとした食感。
 「これだよ! この味!」


 実は以前、ママと青春時代の思い出の味について話をしたことがありました。
 その時、僕がキョーレツに懐かしくて、もう何年も食べていない料理として 「レバニラ」 を挙げたのです。

 その昔、20歳の頃。
 東京・中野区に暮らしていましたが、近くに同郷の友人も下宿していました。
 暇な2人は、互いのアパートを行き来していたので、よく夕飯を一緒に食べました。
 そのとき、行きつけの食堂で食べていたのが、モヤシがたっぷり入ったレバニラ炒めでした。

 そして当時、大ヒットしていたのが中原理恵さんの 『東京ららばい』 でした。
 だから、この歌を聴くとレバニラを思い出し、レバニラを食べると思わず、この歌を口ずさんでしまいます。


 「どう、こんなもんで良かったかしら?」
 そのママの言葉に、涙腺がゆるまずにはいられませんでした。

 僕は返事の代わりに、歌い出しました。

 ♪ 東京ララバ~イ ♪


 <11時まで> とは、食材の買い出しの都合だったのですね。
 “ないものねだり” は、してみるものです。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:58Comments(0)酔眼日記

2020年12月01日

千里を走る馬に乗って


 ♪ 金もいらなきゃ 女もいらぬ
   あたしゃ も少し背がほしい

 ひと昔前、このギャグで一世を風靡したのは、確か 「玉川カルテット」 という浪曲漫才グループでした。
 このフレーズに、もし自分を当てはめてみるならば、こうなります。

 ♪ 金もいらなきゃ 女もいらぬ
   おいらは もっと酒がほしい


 根っからの酒好きであります。
 “芸は身を助ける” なんて言いますが、酒好きが高じて、昨年から 「ぐんまの地酒大使」 に任命されました。

 酒って、いいでよね~!
 だって、溺れても、決して裏切りませんもの。
 これが、もし金や女だったら、溺れたら最後、裏切られて、捨てられて、散々な目に遭っているはずです。


 そんな僕の心を知ってか、世の中には殊勝な方々がおられます。
 最近、立て続けに、2本の酒が届きました。

 1本は、ご存じ! 「赤兎馬(せきとば)」。
 一時は、なかなか手に入らないことで話題になったことのある鹿児島県 (濱田酒造) の芋焼酎であります。
 赤兎馬とは、三国志に登場する千里を走るという名馬の名。
 その名のごとく、のど越し清涼にして、天を舞うような酔い心地が味わえます。


 もう1本は、これまた入手困難な群馬の地酒 「浅間山(あさまやま)」(浅間酒造)。
 実は、この酒、今回、初めて呑みました。
 お恥ずかしい話、せっかく 「ぐんまの地酒大使」 に任命されているのだから、県内の全銘柄を制覇しておかなければ……と飲み歩いていたのですが、この酒だけが “未飲” でした。

 そんな話を、きっとどこかで、僕は酔った勢いで話したんでしょうね。
 そして、それを聞いていた人がいた。
 「だったら送ってやろうじゃないか」
 と、さっそく届けてくださったようであります。


 ああ、なんたる幸せ!
 呑むほどに、酔うほどに、僕の体は宙を舞います。

 今宵もひとり、千里を走る馬に乗り、浅間山のまわりをグルグルと駆け回っております。

 Oくん、I さん、ありがとうございました。
 感謝!
  


Posted by 小暮 淳 at 13:53Comments(0)酔眼日記

2020年11月12日

はあ、おっぺしたん?


 昔から僕は、「自分に甘い」 と言われます。
 でも、だからといって他人に厳しいわけではありません。
 自分に甘いだけです。

 その理由の一つに、“ごほうび癖” があります。
 頑張った自分に、すぐに、ごほうびを上げてしまう癖です。

 たとえば、仕事。
 「何日も缶詰めになって、頑張って長い原稿を書いたな。アンタはエライ! よし、ごほうびをやろう!」
 ということになるわけです。

 これだけ聞くと、それくらい、いいんじゃないの? と思われそうですが、僕の場合、その頻度が多いことが家族からは非難を浴びるようであります。
 「その程度のことなら、みんな日常でやっていることです」
 と、とがめられてしまいますが、僕にしてみれば、そのごほうび欲しさに頑張っているのです。
 だから誰にナント言われようと、ごほうびは必ず上げるのです。


 ということで、県外まで往復3時間もかけて、それも2回、合計4時間にわたる講演をしてきたのですから、当然このことは、“ごほうび” の対象となるわけであります。

 そして、そのごほうびとは、相も変わらず一つ覚えの、ご存じ酒処 「H」 であります。

 「お疲れさん。頑張ったよね」
 とママに言ってほしくて、しかもママを独り占めしたくて、開店と同時に飛び込むのが常です。
 でも、このコロナ禍であっても、Hファンは健在です。
 5時を過ぎると、一人、また一人と常連たちが顔を出しはじめます。
 ママとのラブラブデートも、はい、それま~で~よ ♪


 7時を過ぎた頃、それまでは、それぞれに呑んでいたのですが、誰かが言った一言に、カウンター席の全員が共鳴してしまいました。
 「えっ、それって上州弁なの~!?」

 それからは、あれも、これもと、子どもの頃に使っていた上州弁がオンパレード。
 「なから」(かなり)、「まっさか」(とっても) は、初級編です。
 「あいひょう」(すれ違い)、「あんけらこんけら」(のろま)、「おこんじょ」(いじわる) あたりになると、地域性や個人差があり、「使っていた」 「知らない」 に分かれました。

 たった一つ、全員一致で、「言った!」 「言った!」 と大爆笑になった方言がありました。
 それは、「おっぺす」。
 「おっぺす」 とは、SEXのこと。
 これに、(もう) という意味の 「はあ」 を付けると、思春期の子供たちが得意になって使っていた常套句ができあがります。

 「はあ、おっぺしたん?」


 もう、その言葉がおかしくて、おかしくて、全員で腹を抱えて笑いました。
 それも、みんな 「おっぺす」 とは無縁の60歳以上の男女ばかりです。

 「いつ、おっぺしたん?」
 「はあ、忘れたいのぉ」
 「最後に、おっぺしたのは、いつだったかいのぉ」


 呑んで、笑って、最高のごほうびをいただきました。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:50Comments(3)酔眼日記

2020年10月07日

しあわせの記帳音


 このコロナ禍で、以前より生活が豊かになった人なんて、ほんの一握りなんでしょうね。
 自営業者、サラリーマンを問わず、大多数の人が “コロナ不況” の中で、ジッと耐えていることと思います。

 ご多分にもれず、この僕も、もがいています。


 若い頃から貧乏には、めっぽう強い体力と精神力の持ち主なので、この程度の収入減など、屁とも思いませんが、やはり長引くと、生活のそこかしこに影響が出てきます。
 その筆頭が、酒です。

 完全に止めるわけにはいきませんから、毎日の晩酌の質と量をひかえるようにしています。
 発泡酒を第3のビールに、2合を1合にして、僕なりの自粛をしています。

 でも本音を言えば、もっと呑みたい!
 しかも、できれば、家ではなく外で!


 そんな時、唯一の救いは、フリーランスならではの、「忘れていた入金」 の存在です。
 僕の場合、ライターの仕事以外に、講演やらテレビ出演やら額は小さいのですが、時々イレギュラーの収入があります。
 これって、請求書を上げるわけではないので、忘れたころに振り込まれていたりするわけです。
 だから……

 ガチャガチャ、ガチャー、ガチャガチャ、ガチャー

 銀行のATMで記帳音を聞いた時の、喜びようったらありません。
 「うぉっ、忘れていた。今頃、入っているよ。こりゃ、天からのおぼしめしだ! よし、呑みに行こう!」
 ということになるわけです。

 ある意味、生活費としては予定していなかった臨時収入ですからね。
 パーッと、使っちまったほうがいいわけです。
 で、僕は、迷うことなく、直行するわけです。

 どこへって、もちろん、我らの秘密基地、酒処 「H」 であります。


 まだ陽のある午後5時前。
 一番乗りをしてカウンターのいつもの席に座れば、これまた、いつものママの笑顔が出迎えてくれます。

 「あれ、もしかして?」
 「そう、もしかして」
 「音がした?」
 「音がした」

 ガチャガチャ、ガチャー、ガチャガチャ、ガチャー

 心地よい機械音が、僕の頭の中をめぐります。


 「では、カンパイ!」

 庶民のささやかな贅沢、至福の時間の始まりなのです。
   


Posted by 小暮 淳 at 10:22Comments(0)酔眼日記

2020年06月17日

戒厳令の夜明け


 久しぶりに、呑んできました。
 ウソです!
 もとい、正確に表記します。

 外で呑んだことを、久しぶりにブログに書きます。


 緊急事態宣言が発令されてからというもの、不要不急の外出が厳しくなり、“のん兵衛” には肩身の狭い世の中になりました。
 発令解除後、世の中は徐々に元の状態に戻りつつありますが、やれ 「3密」 だの、やれ 「ソーシャルディスタンス」 だの、依然、“のん兵衛” には、不自由な世の中であります。

 のん兵衛のみなさんは、どんな自粛生活を送っていましたか?
 もっぱら僕は、「一人呑み」 でしたが、ちまたでは 「リモート呑み」 なんていう可笑しな飲み会を開いている人たちもいたようで、あの手この手で、酒を切らさない生活を維持していたようでですね。

 あっ、また、ちょっぴりウソをつきました。
 “もっぱら一人呑み” といいましたが、時々、「闇酒」 を呑みに、こっそりと夜の街へ出かけました。
 もう、時効だからいいですよね。
 正直に、お話しします。

 悪い仲間から “闇メール” が送られて来るのです。
 「待ってました!」 と、出動要請がかかります。
 抜き足、差し足、忍び足……
 憲兵に見つからぬよう、非国民と呼ばれぬよう、そーっと、そーっと、夜の街へ出かけます。

 「山」
 「川」
 「よし、入れ」

 そんな合言葉はありませんが、平日の真昼間に集まり、美酒に酔うのであります。
 闇の味は、蜜の味。
 同じ 「みつ」 でも、こちらの蜜は大歓迎です。


 そんな我慢(?) の戒厳令の期間を無事に乗り越えて、少しずつですが、僕らのん兵衛にも、以前のような日常が戻ってきました。
 もう、後ろ指はさされません。
 (もちろん、3密を避けて、ソーシャルディスタンスを保ちながらです)

 「あっ、ジュンさん!」
 「お久しぶりです」
 「また、よろしくお願いします」
 「こちらこそ」
 「では、カンパイ!」

 以前ほどのにぎわいは、まだないにしても、陽気な常連たちが、いつもの店に顔を出し始めました。

 「やっぱり酒はさ、こうやって相手の顔を直接見ながら呑まなくちゃね」
 「そーだよ、リモートだか、なんだか知らないけどよ、あんなのダメだよ。ノミニュケーションが、とれませんって」


 いいぞ、いいぞ、だんだんメートルが上がって来たぞ!(死語かも)
 良き酒、良き店、良き仲間が、帰ってきました。

 戒厳令の夜明けじゃーーーっ!!!
   


Posted by 小暮 淳 at 12:00Comments(0)酔眼日記

2020年05月12日

ひと足早い御中元


 「今日は、ご在宅でしょうか? お届け物がございます」
 突然、馴染みの酒屋から電話がありました。
 そして、まもなくするとチャイムが鳴り……

 「こちら、○○様からです」
 「○○君?」
 「はい」
 「こんな時期に、なんでだろう?」
 「はて……、小暮様にお届けするように、とのことでした」

 手渡された袋の中身は、日本酒が2本。
 それも、かなり希少な限定酒です。
 1本は、群馬の地酒で、淡く美しいレモンイエロー色した純米吟醸酒。
 もう1本は、全国でも15軒の酒販店でしか取り扱いしていないという埼玉県の純米酒でした。

 もちろん、僕は、どちらの酒も呑んだことがありません。


 送り主の○○君に、お礼の電話を入れようと、ケータイを手にした時でした。
 彼から先に、メールが届きました。
 <早めの御中元です>

 早めの御中元?

 理由を聞いて、納得しました。
 コロナ感染により、売上不振に苦しむ酒販店に対する救済の一環として、前倒しの “御中元セール” に貢献したとのことでした。

 ご存じの通り、今回のコロナ騒動では、飲食店や旅館業が最も打撃を受けています。
 その飲食店や旅館に、酒類を卸している酒販店も窮地に追い込まれているそうです。
 前出の酒販店の店員いわく
 「飲み屋からの注文が、まったくありませんから、個人のお宅への配達で、なんとかしのいでいます」

 自粛期間中は “家呑み” する人が増え、外出できないストレスからか、ふだん呑んでいる酒より、いい酒を注文して、ぜいたくを楽しんでいる人が多いといいます。
 また、庭でバーベーキューを楽しむ家庭が増えたため、ビールサーバーのレンタルも始めたとのことでした。


 素晴らしい!
 “人間は考える葦(あし)” なのですね。

 困った人が現れれば、それを救済する人が現れるのです。
 人が生活し続ける限り、それが、どんな条件下であっても、必ずや需要が生まれるということです。
 間接的ではありますが、僕も世の中に貢献したようであります。


 それにしても、コロナが憎い!
 一時も早い終息を願うばかりです。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:27Comments(2)酔眼日記

2020年04月30日

気をつけよう!散歩途中のコンビニエンス


 ♪ 僕は何をやってもだめな男です
   昨日歩いてて犬におしっこをかけられました
   ガムをかんでも舌をかんでしまうし
   トイレに入ってチャックがしまらず
   オロオロしたこともありました
   <『僕は何をやってもだめな男です』 by かぐや姫>


 以前、「風が吹けば桶屋が儲かる」 ということわざになぞり、「コロナ自粛が続くと離婚や虐待が増える」 という話をしたことがありました。
 3密(密集・密閉・密接) を避けて、外出を自粛すると、逆に家庭内で3密が発生し、家族間トラブルが増えるという “風桶現象” のことです。

 実は、コロナ自粛関連の “風桶現象” には、まだまだ弊害がたくさんあるようです。
 その一つが、「アル中」(アルコール中毒依存症) です。
 毎日家にいると、やることがなくて、ついつい昼間から酒を呑み出してしまい、気が付くとアルコールなしでは過ごせなくなってしまうとのことです。

 分かります!
 よーーーく、分かります!!!


 酒好きなのに、アル中にならない人の共通点に、“多忙” があります。
 本当は、いつもいつも酒が呑みたいのですが、仕事が忙しくて、結局、毎日、寝る前の晩酌程度で終わっていた人たちです。
 いわば、この人たちは 「アル中予備軍」 です。

 そして僕も、この予備軍の一人です。


 現在、コロナ自粛のため、連日自宅にて蟄居(ちっきょ)生活を続けています。
 目下の楽しみは、運動不足解消とストレス発散を兼ねてのウォーキングであります。
 毎日のことなので、飽きないように毎回コースを変えています。

 川沿いのコース、古墳めぐりコース、遠い郵便局まで行って手紙を出すコースなど、日々、知恵をしぼって東西南北、コースを変えて歩いています。
 が、たくさん歩くと、ノドが乾きます。
 よってコンビニに立ち寄ります。
 もちろん最初は、お茶かジュースを買うつもりで入ります。
 が、店を出ると、なぜか僕の手には缶ビールが握られています。

 「家に帰ったら呑もう!」
 そう心に誓い、歩き出します。
 が、こんな考えも同時に浮かんできます。
 「このまま缶を振り続けると、開けたとき、とんでもないことになるぞ。そうだ、冷たいうちに呑んでしまおう!」

 ということで僕は誘惑に負けて、公園や遊歩道のベンチを探し出します。
 そして……


 ダメ、ダメ、ダメーーーー!
 ああ、僕はなんて意志の弱い、ダメ男なんでしょうか!
 こんなことを毎日つづけていたら、正真正銘のアル中になってしまいます。

 イカン、イカン、イカーーーーン!
 ということで、なるべくコンビニを通らないコースを歩くことにしました。

 あくまでも “なるべく” でありますが……
  


Posted by 小暮 淳 at 12:02Comments(2)酔眼日記

2020年03月28日

9 の法則


 これからお話しすることは、すべて何の根拠もないウワサ話ですので、決してSNS等で拡散しないでください。

 それは 「9の法則」。
 ちまたで、まことしやかにささやかれている新型コロナウイルスの感染拡大による自粛ムードに関するウワサです。
 “10” はアウト、でも “9” はセーフという、なんとも不思議な法則です。


 今週、僕が温泉大使を務める観光協会の職員と電話で話しました。
 そのとき、こんなことを言われました。
 「小暮さんがブログに書かれているとおりです。完全に二極化が起きています」

 僕のブログとは、3月18日に書いた 「キャンセル0の宿」 のことです。
 自粛ムードが続く中、温泉地も大きな影響を受けています。
 特に団体客や宴会客が中心のホテルや大きな旅館へのキャンセルは、ハンパではありません。
 ところが一方で、まったく影響を受けていない宿があります。
 それは、個人客を中心とした小規模の宿です。

 「まったく、小暮さんのおっしゃるとおりです」
 と、職員は言いました。
 まさに、ここにも 「9の法則」 が働いています。

 では、「9の法則」 とは?
 “9” という数字は、あくまでもイメージであり、“10” という大台ではないという意味なのですが、これが言い当てていて妙なのです。
 10部屋以上、10席以上の宿や店はコロナの影響を受け、それ未満だと影響を受けないといいます。


 百聞は一見にしかず、と思い、昨晩、検証に行ってきました。
 調査対象に選んだのは、ご存じ! 我らのたまり場、酒処 「H」 であります。

 「H」 は、カウンター席のみの小さな店で、ママが一人で切り盛りをしています。
 そしてイスの数が、ぴったり9席!
 調査対象には、もってこいの店です。


 午後5時、入店。
 すでに常連客が2人、カウンターの中央で呑んでいました。

 午後5時半、早くも1人が帰り、入れ替わりに1人。
 午後6時、サラリーマン風の2人連れが奥の席へ。
 これで僕を入れて、客は5人です。

 ところが、このあと、怒涛のように常連客が顔を出し始め、あっという間に9席は満員御礼となりました。
 なのになのに! その後も常連が顔を出しては、ママが済まなそうに断っていました。
 「ママ、ここんちはコロナなんて、関係ないね」
 と誰かが言えば、
 「コロナもバブルも関係なく、年がら年中ヒマな連中が多いからだよ」
 と、他の誰かが笑いをとります。


 午後8時……
 引きも切らずに、次から次と常連客が顔を出します。
 「そろそろ、我々は席を譲りませんか?」
 早い時間から呑んでいた1人が、腰を上げました。
 「そうだ、今日は9時から 『魔女の宅急便』 があるんですよ。今から帰れば間に合います」
 と僕が言えば、
 「では、私も帰って 『魔女の宅急便』 を見ましょう!」
 と隣の客が、あとから来た客に席を譲りました。


 恐るべし、「9の法則」 です。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:31Comments(0)酔眼日記

2020年01月18日

銀座もいいけど H もね


 「忘年会は、もうねえんかい?」
 「新年会は、しんねえんかい?」
 なんていうオヤジギャグを飛ばしていた頃がなつかしい、今日この頃です。
 加齢とともに宴会のたぐいは年々、減りつつあります。

 それでも昨晩、今年になって3回目の新年会に顔を出してきました。
 とはいっても、ただの新年会ではありません。
 主催者は、僕です。
 そして参会者は、他に1人だけ。

 お相手は、日頃お世話になっている某社の社長さんです。
 いわゆる “接待” を企てたのであります。


 「いかがでしょう、年明け早々に、一献差し上げたいのですが?」
 「いいですねぇ、どこへでも出かけますよ」
 昨年の暮れ、某社の社長室(?) で密談が交わされました。
 「銀座とH、どちらがよろしいでしょうか?」

 “H” とは、ご存じ僕らのたまり場、酒処 「H」 であります。
 銀座での接待に比べたら、予算は10分の1以下で済みます。
 でも、もし、「銀座がいい」 なんて言われたら、どうしよう……
 なんて、ドキドキしながら返答を待ったのです。

 「いやぁ~、銀座は飽きたよ。もしかしてHとは、小暮さんのブログにたびたび登場する、あのHですか?」
 「はい、そうです。カウンター席がわずか8脚の小さな店ですが、料理はうまいし、酒は飲み放題です」
 「なら決まりでしょう、ぜひ、私もHに連れてってください!」


 ということで昨晩、僕は前橋駅で社長さんをお出迎えし、Hへお連れしたのであります。
 「うわっ、うわーーーっ、ここなんですねぇ、ついに来ました!」
 壁にズラリと並んだ僕の著書を眺めて、社長さんは感動しきりの様子。
 「ママ、こちらが話していた社長さんです」
 「はじめまして、いつもジュンちゃんが大変お世話になっています」
 だなんて、ママは本当のオフクロのように出迎えてくれました。

 「今日は、好きなだけ飲んでください」
 「いいんですか? かえって銀座より高くつきますよ!?」
 「いいーーーんです! いろいろご相談したい話もありますから」
 「忖度ですか?」
 「はい!」
 「小暮先生、お主も悪よのう」
 「ハハハハハハハ!!!」


 しゃちょうさん、ことしもよろしくおねがいいたします。

   


Posted by 小暮 淳 at 11:43Comments(0)酔眼日記

2020年01月12日

宵待ち列車に乗って


 うまい酒を呑む条件とは?

 ズバリ、“相手” と “場所” の選択にあります。
 気の置けない、いつものメンバーとやるのも良いですが、たまには世代や業種を超えた人たちから刺激をもらうのも良いものです。
 飲み屋も同じこと。
 住み慣れたいつもの街を飛び出して、知らない町の知らない店で酔いしれるのも良いものです。


 ということで、昨日は前橋駅から電車に乗りました。
 両毛線→上越線→吾妻線と乗り継いで、中之条町へ。

 そうです、僕が観光大使を務める 「花と湯の町 なかのじょう」 です。
 地元の人たちは、愛情を込めて “なかんじょ” と呼びます。

 今回、僕がこの町へ来たのは、大使としての公務ではありません。
 “大使だから” という理由も少しはあるようですが、もっとざっくばらんに “のん兵衛” だからのようです。
 この町に暮らす、若者たちが呼んでくれました。


 居酒屋で出迎えてくれたのは、30代のアーティストたち4人。
 画家や現代美術、脚本家など、みんな他県から移住して来た人たちです。
 ここ数年、中之条町には彼ら彼女らのように、この町に惚れ込んで住み着く若者が増えています。

 それは、なぜか?

 一番の理由は、この町で定期的に開催されているアートの祭典 『中之条ビエンナーレ』 の存在です。
 昨年も1ヶ月間にわたり開催され、国内外から約150組の作家が集まり、町内50会場で作品展示がされました。
 開催中は、作家が町内に滞在し、制作活動を行います。
 その間に町民との交流が生まれ、豊かな自然と人情味のある環境を気に入った作家たちが、そのまま住み着くのだといいます。


 「カンパーイ!」
 初対面同士、しかも歳の差は20~30歳。
 「私は愛知県から移住して来ました」 「僕は山口県です」 「私は横浜」
 出身はさまざまですが、みんなこの町で出会い、交流を深めている仲間たちです。

 芸術の話、観光の話、温泉の話……
 夢を語る彼ら彼女らの目は、キラキラと輝いています。

 A君は、去年まで公務員をしていたといいます。
 「きっかけを探していたんです。いつか役所を辞めようと」
 そのチャンスは、中之条町が企画した公募でした。
 受賞を機に、辞表を出して、移住を決意したといいます。


 ついつい歳を重ねると、「若いって、いいね」 という常套句を口にしてしまいがちですが、彼ら彼女らを見ていると、決して “若さの賜物” だけで移住して来たわけではないことが分かります。
 みんな、自分を大切にして生きているんですね。

 「みんな、カッケーよ!」
 つい僕も若者言葉で、返していました。
 でも、本当にみんな、カッコイイんです。


 宵待ち月が天空に上がる頃、僕は駅へ向かいました。

 列車の座席に腰を降ろすと、車窓の向こうで手を振る人たちがいます。
 わざわざ見送りに来てくれたんですね。

 改札口で手を振る彼ら彼女らの姿が見えなくなるまで、僕も手を振り続けました。
   


Posted by 小暮 淳 at 14:12Comments(0)酔眼日記