温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
群馬のブログポータルサイト「グンブロ」顧問
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使
老神温泉大使
伊香保温泉大使
四万温泉大使
ぐんまの地酒大使
群馬県立歴史博物館「友の会」運営委員



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』『金銀名湯 伊香保温泉』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ぐんま謎学の旅~民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2024年04月07日

昭和おやじ VS 令和おやじ


 スマホを持たない僕ですが、スマホに囲まれた風景には、もう慣れました。
 最初は、違和感や嫌悪感もありましたが、これも時代の流れです。
 郷に従わないまでも、黙認しています。

 たとえば、駅の待合室や電車の中。
 十中八九の人が、老若男女問わずスマホをいじっています。
 「みんな、何を見てるのだろう?」
 と気にはなりますが、僕は、それを横目に新聞を広げています。

 たとえば、喫茶店やレストラン。
 若いカップルが向かい合いながら、食事をしています。
 が、会話はなく、2人ともスマホに夢中です。
 「せっかくのデートなのに、それでいいの?」
 なんて、お節介な心配をしますが、この光景にも慣れました。
 僕は、文庫本を開きます。


 スマホを見ようが、新聞を読もうが、それは個人の自由です。
 他人に迷惑をかけなければ、誰も文句は言いません。

 でもね、もし、それが、自分に害を被ってきたら、どうしますか?


 いつもの店の、いつもの席で、いつものように至福の酒を楽しんでいる時でした。
 カウンターには、気の置けない常連客が数人。
 僕は、隣の客と、たわいのない世間話をしていました。

 隣の客は同世代。
 “昭和あるある話” が大好きな、昭和 (を引きずった) おやじです。
 いつものように、昭和ネタで盛り上がっていました。

 「そうそう、○○○○の奥さんだよね!?」
 「ええと……、✕✕✕✕✕✕だ」
 「そうそう」
 なんていう他愛のない芸能人の話題です。

 「♪ チャーラララ、……次、何だっけ?」
 ✕✕✕✕✕✕のヒット曲です。
 「♪ チャーラララ? えーと、なんたらかんたら」
 どーでもいいんです。
 思い出せなくても、いいんです。
 所詮、昭和おやじの酒のつまみですから。

 「曲名、何だっけ?」
 「えっ、……」
 「あ~、思い出せない」

 すると、話を聞いていたママが言いました。
 「この、思い出しそうで思い出せないのが、いいんだよね。この間も芸能人の名前が出て来なくてさ、お客さんと大笑いしたのよ」

 それで、いいんです!
 我々、中高年は、この加齢による度忘れをゲームにして楽しんでいるのですから。


 すると、話を聞いていたカウンターの隅にいた客 (同年配) が、なにやらスマホをいじり出しました。
 イヤな予感がします。
 以前にも、お節介な客が、度忘れゲームを楽しんでいた時に、頼みもしないのに勝手にスマホで検索をして、正解を告げられたことがありました。
 これは、御法度!
 絶対に、やってはいけないルール違反です。

 推理小説を読んでいる人に、犯人を教えてしまうようなものです。


 察知した隣の客が、スマホを手にした客に向かって、言いました。
 「調べるのはいいけどさ。こっちに教えないでよ」
 聞こえているのか、いないのか、隅の客は無心にスマホをいじっています。

 「♪ チャーラララ……、何だっけ?」
 昭和おやじたちは、まだ、あきらめていません。

 と、その時です。
 スマホをいじっていた客が、ポツリとつぶやきました。
 「『△△△△△△△』 です」


 シーーーーーーーーーン
 一瞬、イャ~な空気が店内に流れました。

 あ~あ、言っちゃった!
 頼んでもないのに、言っちゃった!


 我々の完全なる敗北です。
 時代を読めない昭和おやじが、令和 (に馴染んだ) おやじに負けた瞬間であります。

 あなたの周りにも、いませんか?
 なんでもかんでも検索してしまう人?

 生きにくい世の中になりました。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:14Comments(0)酔眼日記

2024年03月14日

「イワナイコト」 とは?


 「あなたは幸せですか? 不幸ですか?」
 と問われれば、僕は、
 「不幸ではありません」
 と答えます。

 “不幸ではない” = 必ずしも “幸せ” じゃないような気がするからです。

 ただ、日々の中に、幸せを感じる瞬間ならあります。
 それらは、すべて、人と触れ合っている時です。
 家族や友人、知人、読者、聴講者……

 残念ながら、モノやお金で幸せを感じたことはありません。


 幸せを感じる瞬間の1つに、「弟子の会」 というがあります。
 かれこれ8年前に発足した、吞兵衛の集まりです。
 メンバーは、僕のことを勝手に 「先生」 とか 「師匠」 と呼ぶ温泉好きの面々です。

 発足といっても正式な会員規約などはありません。
 2カ月に1回、呑み屋に三々五々集まって、バカ話をして帰るだけです。


 最初の頃は、温泉の話もしていたんですけどね。
 最近は、ただのバカ話を延々としているだけです。
 それが、不思議と心地いいんです。

 テーマがツボにはまると、笑いが止まりません。
 死んじゃうんじゃないかと思うほど、笑って、笑って、笑い転げて、しまいには涙まで流れます。
 みんな笑い過ぎて、「腹が痛い」 「後頭部が痛い」 と、翌日になって後遺症が出る始末です。


 先日、今年2回目の 「弟子の会」 がありました。
 まぁ~、弟子たちですからね、みんな僕のブログは読んでくれているわけです。

 「じっさんずラブ、笑いました」
 「“ひかがみ” 知りませんでした」
 「カメの恩返し、面白かった」
 「今度、塩付きの樽酒、買います」
 なんてね。
 必ず毎回、ブログネタで盛り上がります。


 「先生、あれは本当に怖かった!」
 「イワナイコト?」
 「きゃー、夜中、トイレに行けなかったんだから」
 「でも本当の話だから」
 「先生が呪われて、死んじゃうんじゃないかと心配しました」
 「大丈夫だよ、ほら、こうして生きている」
 「はい、翌日のブログが更新されていて安心しました」
 (2024年2月16日 「トイレの怪」 参照)

 それからは、みんなで 「イワナイコト」 探しが始まりました。

 「いったい、何のことですかね?」
 「じっさんずラブじゃないんですか?」
 「先生、ちゃんと胸に手を当てて考えてみてください。やましいことは、ありませんか?」

 と言われても、まったくもって心当たりがありません。


 もしかして、イワナイコトとは、この 「弟子の会」 のことですかね?
 こんなにも楽しい仲間と時間を、一人占めしていることへの神様のやっかみですか?

 「イワナイコト」 とは?


 この謎解きは、まだまだ続きそうですね。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:03Comments(0)酔眼日記

2024年03月11日

山は富士、酒は……


 ≪酒の名のあまたはあれど今はこはこの白雪にます酒はなし≫ 若山牧水


 「おーい、ジュン! ちょっと、来い!」
 子どもの頃、晩酌をしているオヤジに、ときどき呼ばれました。
 居間に行くと、奇妙な恰好をしているオヤジがいました。

 片手の親指と人差し指で、自分の鼻をつまんでいるのです。

 「何してるの?」
 と問えば、
 「つまみが無いから、鼻をつまんでいるんだ!」
 と、立腹の様子。

 察するに、酒を呑み出したがオフクロの料理が、なかなか出て来ないことにイライラしているようです。
 そして僕に、こう言うのでした。

 「塩、持って来い!」


 台所に行って、オフクロに告げると、
 「まったく、しょうがないね。これを持って行って」
 と言って、塩が盛られた小皿を渡されました。

 オヤジは、この小皿の塩をつまむと、上手に手の甲に乗せ、ペロッと舐めました。
 そして、酒をキュー。
 たま、塩をペロッ。
 酒をキュー。

 子ども心に、大人とは不思議な生き物だと思っていました。
 が、大人になると、やっぱり僕も、その不思議な生き物になっていたのです。


 先日、スーパーマーケットに立ち寄った時のこと。
 日本酒の棚に、驚きの商品を見つけました。

 「白雪 樽酒」

 ほほう、牧水が愛した酒じゃないか~!
 と手に取ると、あまり見かけないコピーが書かれていました。

 <塩付きキャンペーン 実施中>

 なに?
 塩付きだ?

 と、コップ酒を模した容器のフタを、のぞき込むと……

 おっ、おおおおおおーーーー!!!
 本当だ、確かに塩の小袋が入っています。
 しかも、ブランド品の 「伯方の塩」。
 さらに、焼塩です。


 キャンペーンの但し書きには、丁寧にもイラスト入りで、こんなことが書かれていました。

 【ちょっとイキな飲み方】
 手に塩をのせて、少しずつなめながらお楽しみください。
 

 ということで即行、買って帰り、遠い日のオヤジを真似て、塩をつまみに呑み始めました。
 ペロッ、キュー、ペロッ、キュー……

 うまい!
 うま過ぎる!
 こりゃ、やっぱ、クセになるわ!

 もしかしてオヤジは、オフクロの手料理で呑む酒よりも、この “塩呑み” が好きだったのではないでしょうか!?
 きっと牧水さんだって、そう。
 世の吞兵衛たちは、一番おいしく酒を呑む術を知っていたんだと思います。


 まだの人は、ぜひ、お試しください。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:13Comments(0)酔眼日記

2024年01月21日

おーい!中村くん


 コロナ禍で翻弄された数年間。
 思えば、もう何年も新年会らしい新年会には、出席していませんでした。

 たぶん、4年ぶりだと思います。
 昨日、某社の新年会に出席してきました。


 会場は、古民家をリノベーションした、今はやりのダイニングバー。
 居酒屋慣れしている僕らシニア層には、勝手がわからず、戸惑うばかりです。

 貸切られた個室には、大きなテーブルが2つ。
 三々五々に集まった出席者が着座しますが、暗黙の裡に世代が分かれました。
 右は、40歳以上のシニアテーブル。
 左は、30歳以下のヤングテーブル。

 総勢15名の内訳は、老若男女とりあわせ、最年長は75歳、最年少は20歳です。


 さて、トラブルは、乾杯を前に発生しました。
 原因は、テーブルで分けられた世代格差にありました。

 メニューがなくて、乾杯のドリンクの注文の仕方が分からないのです!
 そうです、今はやりのQRコードをスマホで読み取って、オーダーするスタイルだったのです。
 ヤングテーブルは、すでに手際よくオーダーを済ませています。

 一方、シニアテーブルは悪戦苦闘。
 「店員を呼びましょうよ」
 「まったく、便利なんだか、不便なんだかわかりゃしませんよ」
 「これだから年寄りは、置いて行かれるんですよ」
 とかなんとか口だけは動きますが、一向に注文はできません。

 すると……

 「注文しましょうか?」
 と名乗り出た一人の青年。
 最年少20歳の中村君です。

 そう言うと、シニアの注文を聞き取り、手際よくスマホからオーダーしてくれました。


 「カンパ~イ!」
 「今年もよろしくお願いしまーす」
 無事に宴が始まりました。

 ところが……

 「おーい、中村くん」
 「おーい、中村くん」
 と、ひっきりなしにシニアテーブルから声がかかります。
 そうです、追加注文のたびにシニアたちは、重宝で使い勝手のいい中村君を呼ぶのです。

 そのたびに、笑い声が上がります。


 「何が、おかしいんですか?」
 と、キョトンとする中村君。
 「そういう歌があるの」
 と僕が教えてあげました。

 昭和33(1958)に大ヒットした若原一郎の 『おーい中村君』 です。

 当然、ヤングテーブルからは 「知らな~い」 の声が。
 まあ、昭和も昭和、かなり昔のヒット曲ですからね。
 知っていたのは60代以上だったですけどね。


 「今度、歌を覚えて、カラオケで歌ってごらん。ウケるよ」
 と僕。
 「はい、覚えます」
 と中村くん。

 「両親だって知らないかもよ? って、親御さん、いくつ?」
 「52歳と51歳です」

 聞いた途端、シニアテーブルからは 「ワ~!」 と驚きの声が上がりました。


 「おーい、中村くん! ビールね」
 「おーい、中村くん! こっちは冷酒」
 「おーい、中村くん! 箸と取り皿、注文して」

 歳の差55歳のなんとも不思議で愉快な新年会でした。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:25Comments(0)酔眼日記

2023年12月11日

せっかちなサンタクロース


 えー、世の中には、おかしな名前の人たちがいるものでして。
 キャンドルジャンだとか、タブレット純だとか、同じ “じゅん” として見過ごすわけにはいきません。
 なんで彼らは、そんな芸名(?) を付けたんでしょうな?

 なーんて、陰であざ笑っていたら、火の粉が飛んできて、もらい火をしてしまいました。
 どこの、どなたか知りませんけどね、僕のことを 「ボクスイジュン」 なんて呼ぶ輩が現われたんですよ。


 「なんで?」
 「そりゃ小暮さんが、令和の牧水だからですよ」
 「牧水って、若山牧水のこと?」
 「ごもっともで」
 「いやいや僕は、あそこまで酒に意地汚くはありませんよ」

 というのが先日、呑み屋で交わされた会話です。


 まあ、歌人の若山牧水については、先月から高崎市のフリーペーパーで 『牧水が愛した群馬の地酒と温泉』 なんていうエッセイの連載がスタートしたばかりですから、嫌いじゃありませんけどね。
 しかも、酒と温泉が好きなところは、確かに似ています。

 けどね、あそこまでは呑めませんって!
 朝2合、昼2合、夜に6合=計一升を365日毎日たしなんでいたんですぞ!

 でもね、せっかく偉大な歌人の名前を冠にいただいたのですから、大切に名乗らさせていただきます。
 「ボクスイジュンと申します。 以後よろしゅうお願いいたします」 


 ていうか、気が付いたら僕の酒好きは、知れ渡っているようであります。
 今年一年間を振り返っても、日本酒、焼酎、ウィスキー、ビールが、ひっきりなしに届きました。
 ま~、すべて消耗品ですから、いくらあっても邪魔にはなりませんので、ありがたくいただくことにしています。

 と思ったら、つい先日も、ビールが届きました。
 それも銘柄は、このブログのプロフィール写真に写り込んでる “某社の某搾り” であります。
 見ている人は、見ているんですね。
 これまた、ありがたくいただきました。


 それにしても、せっかちなサンタクロースがいたもんですな。
 クリスマスには、まだ2週間もありますぜ!
 ひと足も、ふた足も早くクリスマスプレゼントが届いたことになります。

 え、なに?
 クリスマスプレゼントじゃない!?

 これ、「お歳暮」 っていうの!

 お後がよろしいようで……(ジャンジャン)
  


Posted by 小暮 淳 at 11:53Comments(0)酔眼日記

2023年11月08日

ぼんじりの秋


 『しらたまの歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり』 牧水


 めっきり秋らしくなってきました。

 秋といえば、酒です。
 (一年中ですが)
 酒といえば、やっぱ日本酒ですね。
 (毎日のことですけど)

 当ては、まずは、焼き鳥から始めるのが定番です。
 (やっと今日の本題に入りました)
 となれば、僕は決まって 「ぼんじり」 を注文します。


 「ぼんじり」 とは?
 一般には馴染みのない部位かもしれませんが、酒呑みにはファンが多い部位だと思います。
 鶏のお尻の骨まわりの希少な肉です。
 “鶏肉の大トロ” とも呼ばれ、脂がのっていて、噛むとブリッとした弾力があり、それでいて歯切れがよい。

 「ぼんじり」 という言葉の由来は、雪洞(ぼんぼり)のように “かわいい尻の肉” だからのようです。

 ちなみに僕は、カリカリに焼いて、塩をサッと振って、熱々のうちに食べるのが好きです。


 最近は街中のスーパーでも売っているので、未体験の人は一度、“味体験” してみてください。

 なんて話していたら、も~う、ヨダレが出てきました。
 夜まで待てそうにありません。

 牧水先生も日に一升、朝から呑んでいたといいますから僕もいいかな?


 『人の世にたのしみ多し然(しか)れども 酒なしにしてなにのたのしみ』 牧水
   


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2023年10月21日

酒乞食


 死んだオヤジは生前、自分のことを自ら 「麺乞食(めんこじき)」 と呼んでいました。
 それほどまでに無類の麺好きでした。

 こんなエピソードがあります。
 オヤジとオフクロが、まだ結婚する前のこと。
 オヤジがオフクロの家を訪ねると、オフクロの母親 (僕の祖母) が、うどんを打ってくれたといいます。
 オヤジいわく、
 「こんなうまいうどんが、いつでも食べられるんなら」
 と、プロポーズしたとのことです。

 真偽のほどは定かではありませんが、確かに、朝昼晩と麺を食べていたほどの麺好きではありました。


 そのDNAは、僕にも受け継がれています。
 でも僕には、麺類よりも好きなものがあります。
 はい、酒類です!

 “酒” とは言わずに “酒類” と言ったのは、酒ならば洋の東西を問わずに、なんでも好きだからです。
 1年365日、成人したその日から1日たりとも欠かしたことはありません。
 どんなに疲れていても、風邪をひいても、毎晩必ず酒を口にします。

 オヤジに言わせれば、「お前は酒乞食っていうやつだな!」 と笑われそうです。


 酒好きには、悪いクセがあります。
 それは、どこでもかまず、酒好きを自称してしまうことです。

 たとえば、このブログです。
 プロフィール写真を見てください。
 僕は、うれしそうにビールのロング缶を持っています。

 しかも、銘柄までハッキリと分かります。
 「一番搾り」

 だもの読者は、「小暮さんは、キリンの一番搾りが好きなんだ!」 と勘違いするわけです。
 もとい!
 勘違いではありません。
 事実ですが、ビールなら何でも呑みます。
 でも、この1枚の写真が読者の脳裏に刷り込まれるわけです。

 すると……
 お中元、お歳暮に限らず、宴の席でも僕のところには 「一番搾り」 が届くようになりました。


 ブログの力は偉大です。
 数年前から芋焼酎の 「赤兎馬(せきとば)」 が届くようになりました。
 これも、僕が好きな酒として、ブログに書いたからです。

 う~ん、まるでブログはアラジンの魔法のランプのようです。
 記すと、願い事が叶ってしまいます。


 以前、取材先で、生まれて初めてウイスキーの 「山崎」 を呑んだことを書きました。
 そして、忘れられない美味しさだったことも……
 でも、僕のような低所得者が、ふだん気軽に呑める酒ではありません。
 一本、何万円もする高級酒であります。

 ところが!
 読者の中には、奇特な人がいるものです。

 「小暮さん、ミニボトルですが山崎が手に入りましたので、お持ちします」
 との連絡がありました。
 「えっ、本当? 冗談でしょ? 酒乞食だと思って、からかってんじゃないの?」
 と半信半疑でいると……

 なななんと、本当に届きました!

 しかもラベルには、“1923” の文字が!
 1923とは、山崎蒸溜所が稼働を始めた年であります。
 大変貴重なビンテージ物じゃありませんか!


 意を決して昨晩、開封しました。

 うわわ~、この香り、たまら~ん!
 「し・あ・わ・せ」
 の4文字が、フワーっと口の中一杯に広がり、やがてスーッと喉の奥へと流れて行きました。


 ああ、酒乞食で良かった!

 読者のみなさま、今後とも、この吞兵衛を末永くよろしくお願いいたします。
   


Posted by 小暮 淳 at 10:00Comments(0)酔眼日記

2023年10月08日

秋の12時間飲酒マラソン


 4年ぶりに開催された “マラソン大会” に参加してきました。

 えっ、いつからランニングを始めたのかって?
 違いますって!
 マラソンはマラソンでも、頭に 「飲酒」 の文字が付く、僕が最も得意としている競技ですよ!


 コロナ前までは毎年、秋に開催されていた某社の 「秋のバス旅行」 です。
 今年、4年ぶりに再開しました。
 参加のお誘いをいただいたときから、僕はもう、イソイソ、ソワソワしちゃって、日々のトレーニングを重ね万全の体調にて当日を迎えました。

 このバス旅行、別名 「飲酒マラソン」 と呼ばれています。
 目的地なんて、どこでもいいんです。
 バスのシートに座った途端に、スタートの号砲が車内に響き渡ります。


 午前7時。
 バスは一路、新潟県を目指して、高崎駅を出発。
 「カンパ~イ!」
 Y社長の発声とともに、出場選手は一斉に缶ビールを呑み始めました。
 いよいよ、恒例の “12時間飲酒マラソン” がスタートしました。

 最後部座席は、プレミアムシートです。
 そう、優勝候補の招待選手の面々が座っています。

 「おお、小暮さん、お速いですね。もう2本目ですか?」
 僕は毎回、ペース配分ができません。
 とにかく、先手必勝とばかり、バスが高速道路に乗る頃には、2本目のプルタブを引いていました。


 さー、隣の席のTさんも負けじとばかりに、2本目に手を出しました。
 負けてはいられません。

 「そろそろ日本酒に行きますか?」
 と、Y社長。
 「まだ9時前ですよ?」
 「いいじゃないですか! 4年ぶりの開催なんですから」
 の言葉に、
 「では、では」
 と紙コップをを差し出す僕。

 なんと、注がれたのは群馬の名酒 『群馬泉』 であります。

 「これはウマい! ウマすぎる!」
 バスの揺れに合わせて、五臓六腑に染みわたります。

 「そんなに美味しいですか?」
 ふだんは、あまり日本酒を呑まない2つ隣の席のK君が訊いてきました。
 「やってみれば?」
 「では、いただきます」
 と雰囲気にのまれたのか、日本酒に手を出しました。


 最初の目的地、弥彦神社に着いた頃には、すでに全員、出来上がっていました。
 「昼は、どうしますか?」
 とTさん。
 「ビールで、胃の中を少し薄めますか?」
 「そうしましょう」
 と、寺泊の昼食会場では、各人にジョキの生ビールが配られました。

 いよいよ、午後は各自、ラストスパートをかけて、さらにピッチを上げてきます。


 「それでは、ここで恒例の ”小暮淳さんのワンマンショー” をお願いしたいと思います。今回は、ビッグニュースの発表があります」
 と、バスの前方から幹事の声がして、僕はマイクを取りました。
 毎年、僕は帰りのバスの中で、コーナーをいただいています。
 本を出版した時は、クイズやゲームをして、正解した人にはサイン入りの著書をプレゼントしてました。

 今回は、「ビッグニュースの発表」 というテーマで、某テレビ番組に出演した時のエピソードトークと、カラオケに合わせて、お約束のオリジナル曲 『GO!GO!温泉パラダイス』 の歌唱を披露しました。


 午後7時。
 バスは無事、高崎駅に帰ってきました。

 いったい、どれくらいの量の酒を呑んだのでしょうか?
 あまりにも呑み続けた時間が長すぎて、逆にヘベレケに酔っぱらっている人は一人もいません。
 たぶん、午前に呑んだ酒なんて、とっくに覚めているんでしょね。

 バスから降りると、ほてった肌に秋の夜風が心地よいのであります。


 「小暮さん、この後は?」
 Y社長が声をかけてきました。

 「いや、別に何も」
 「では、もう少し行きますか?」
 「はい、お供いたします」

 ということで、“追い酒” をしに夜の街へと歩き出しました。


 2023年12時間飲酒マラソン、完走!
    


Posted by 小暮 淳 at 10:31Comments(4)酔眼日記

2023年09月17日

ボーダー


 「小暮君ってさ、ときどき、“あちら側” っていう言葉を使うよね? あれって、何?」
 「……」
 「あちら側もこちら側も、ないんじゃないの? みんな同じ人間なんだから」

 20代の頃、女友達に問い詰められた記憶がよみがえりました。


 いつもの居酒屋でのこと。
 いつもの席で、ひとり手酌で呑(や)っているときでした。

 「ジュンちゃん、隣いい?」
 ママに促されて、一人の客が隣の席に座りました。
 初めてお会いする方です。

 「こちら○○さん、よろしくね」
 「小暮です」
 袖すり合うも他生の縁、であります。
 まずは、出会いに乾杯しました。

 「小暮さんは、この店、長いんですか?」
 「15年くらいかな」
 「常連さんだ。私は、つい最近通い出したんですよ」
 その人は、僕より年上に見えました。

 「私、こういう者です」
 居酒屋では珍しく、その人は律儀に名刺を出しました。
 すでに定年退職している身分のようで、名刺に書かれている肩書きは、自治会の役員名でした。
 仕方なく、僕も名刺を渡しました。
 僕の名刺の肩書は、“writer” です。

 「……」
 読めなかったようで、顔をしかめています。
 「ライターです」
 「ライター?」
 「しがない売文業ですよ」

 すると、会話を聞いていたママが、助っ人に入ってくれました。
 「ジュンちゃんはね、こういう本を書いている人なの」
 と、カウンター内の棚に置かれている数冊の僕の著書を指さしました。


 ここまでは、今までもたびたびあったシチュエーションです。
 「へー」 とか 「あら、すごい方なんですね」 とか、話の流れでお世辞を言ってくれたりして、その場は難なく過ぎ去るのが常でした。

 ところが、その人は違いました。 

 「えっ、その仕事で、食べていけるんですか?」
 と、言ってきたんです。
 しかも、たった今、会ったばかりの初対面の僕に対して。

 ビックリするやら、あきれ返るやら、一瞬、僕は言葉を失い、なかなか二の句を継げずにいました。
 やっと出た言葉が、
 「食べられない時期もありましたよ」

 すると、今度は、
 「じゃあ、どうしてたんですか?」
 と無礼にも、さらに突っ込んでくるものだから、言ってやりました。
 「食べませんでした」

 きっと、その人にとっては答えになっていなかったんでしょうね。
 「えっ? えっ?」
 と、見るからにパニック状態です。
 思考回路の中に無い言葉が出てきたため、完全に脳がショートしてしまったようです。


 あちら側の人間……

 忘れかけていたフレーズをが、記憶の奥から湧き上がってきました。


 「あちら側」 とは、僕が若い頃に夢中になって読んでいた漫画の主人公のセリフです。
 『迷走王 ボーダー』
 (狩撫麻礼/原作、たなか亜希夫/作画)

 見えない常識に支配された一般的な世界のことを 「あちら側」 と呼んでいました。


 「あちら側もこちら側も、ないんじゃないの? みんな同じ人間なんだから」
 追って、遠い昔に聞いた女友達の言葉もよみがえってきました。

 だよね。
 分かってるって。

 でもね、やっぱり、この歳になっても “あちら側” の人って、苦手だな(笑)。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:51Comments(3)酔眼日記

2023年07月12日

団扇の効用


 「団扇」 と書いて、「うちわ」 と読みます。

 その存在は知っていても令和の現在、家にはない人が多いのではないでしょうか?
 エアコンに扇風機の暮らしに慣れてしまい、今では無用の長物になってしまいましたが、かつて昭和の時代は “夏の必需品” でした。

 我が家には、あります。
 それも何本も!
 が、すべてプラスチック製です。
 過去に祭りやイベントでもらった広告入りの販促品ばかりです。
 その時は屋外で使ったのでしょうが、家に持ち帰った途端、やはり “無用の長物” になりました。


 でも、僕は家以外の場所で、頻繁に使っています。
 そこは、ご存知、我らのたまり場、酒処 「H」。

 そう、昭和をこよなく愛するオジサマやオバサマが足しげく通うレトロな “居酒屋テーマパーク” であります。
 店内は細長く、カウンターだけの8席のみ。
 毎日が満員御礼で早い者勝ちですから、常連客らは連日の猛暑の中でも日中から通います。

 僕も、その一人です。


 で、この時期、カウンター席に腰かけると、まず最初に出てくるのが、冷たいおしぼりと団扇なのです。
 それも、ちゃんと職人の手で造られた竹製の団扇です。

 「わ~、気持ちいい~!」
 と、まずは、おしぼりで顔と手を拭きます。
 「とりあえず、ビールね!」
 と告げると、客らは一斉に、パタパタと団扇をあおぎだします。


 「今どき、団扇?」 って思いますか? 
 「エアコンは、ないの?」 って?

 そこが、この店のいいところなんです。
 そこそこ冷房は効いています。
 が、涼しくはありません。
 ギリギリ、汗が出ない程度の冷房です。

 しかも、入口のドアは開いています。
 全開です。
 えっ、「もったいない」 って?

 そこが、昭和をこよなく愛する人たちへのママの気の使いようなんですね。
 時おり流れ込む天然の “風” を感じてほしいという、心憎いサービスなのです。

 で、団扇が大活躍をするというわけです。


 こっちでパタパタ、あっちでパタパタ、となりでパタパタ……
 キーンと冷えたビールを呑みながら客たちは、もう片方の手で団扇をあおぎます。

 そんな時、カウンターの中でママは何をしているのかといえば?

 ゆ~っくり、ゆ~っくり、こちらに団扇を向けてあおいでいます。
 “おくり風” であります。


 昭和の時代、寝ている子どもや来客者に対して、母親やそのうちの奥様は団扇で、このやさしい風を送っていました。
 “もてなしの心” なんですね。
 愛情を感じます。

 僕らはママから愛されているんだ!
 そう思うと、ちょっぴり目頭が熱くなってきました。


 「ジュンちゃん、どうしたの?」
 「いや、いいなぁ~と思ってさ」
 「何が?」
 「ママのあおぐ団扇の風だよ」
 「あら、そう?」
 「うん、とっても懐かしいよ」
 「うちは、昭和だからね」

 そう言いながらママは、手を休めることなく、僕らに風を送り続けてくれました。

 昭和って、いいな~!
   


Posted by 小暮 淳 at 12:12Comments(2)酔眼日記

2023年07月08日

昭和のにぎわい


 <中央通りは、今、久し振りに人の波が押し寄せて来ています>

 いつもの店のいつものカウンターで、数名の常連客らと酒を呑み交わして時でした。
 一本のメールが届きました。
 送信主は、前橋市の中心商店街で店を商う友人でした。


 「今日は、七夕まつりなんですね」
 と僕が言えば、
 「そうなのよ、珍しく人通りが絶えないのよ」
 とママが応え、
 「今さ、通り抜けてきたんだけど、まっさか(かなり)、すごい人だいね」
 と常連が言葉を継ぎました。

 夏の風物詩 「前橋七夕まつり」 は、昭和26(1951)年から開催されている北関東最大級を誇る祭りです。
 でもね、娯楽の少なかった昭和の時代を知っている我々以上の世代からすると、平成以降の祭りは、年々、規模も小さくなり、人出も少ないように映っていたのであります。
 それが皆が皆、口をそろえて 「すごい人」 と言うのだから、この目で確かめるしかありません。


 「あれ、ジュンちゃん、もう帰るの?」
 「ああ、ちょっくら、その “にぎわい” とやらを検証してこようと思ってね」
 ママとの会話に、常連が口をはさみます。
 「小暮さん、痴漢はするなよ」
 「ちかん? なんだい、それ?」
 「それくらい若い女の子が、いっぱいいるっていうこと。とにかく、すごい人だから」
 そんなヤジに見送られて、僕は早々に店を出ました。


 大通りを渡ると、すでにバリケードで規制線が張られ、警官が何人も立っていました。
 「本当だ、なんだか物々しい警備だな」
 と思って、一歩、中心商店街に足を踏み入れた途端、人、人、人、人……

 「うそ!? なんだ、この光景は!?」

 目の前は、まるで昭和40年代にタイムスリップしたかのような世界が広がっていました。
 色とりどりの吹き流しや短冊が風になびいています。
 射的や金魚すくい、たこ焼きに人形焼き……
 屋台が軒を並べ、露店商らの声が響きわたっています。

 「昭和だよ、昭和だ」
 オヤジとオフクロとアニキと出かけた、遠い遠い夏の思い出がよみがえってきました。


 あっという間に人波にのみ込まれ、思う方向にも歩けず、ただ流れに任すだけ。
 家族連れもいますが、夜ということもあり、圧倒的に若者の姿が目立ちます。
 浴衣姿の男女が仲睦まじく、かき氷を頬張ったり、紙コップの生ビールを呑んだり……

 ああ、なつかしい。
 まだ日本には、こんなにもノスタルジーな世界が残っていたんですね。

 でも、令和ならではの光景もあります。
 それは、外国人の多さ。
 留学生なのでしょうか?
 慣れない浴衣を着て、日本の夏を笑顔いっぱいに楽しんでいます。

 ん~、いい。
 実にいい。
 これぞ正しい、日本の夏の姿よ!


 それにしても、この人たちは、ふだんはどこに、いるんでしょうかね?
 というより、前橋という街に、こんなにも人がいたことが驚きです。

 コロナの影響もあり、4年ぶりの完全開催ということも、この人出を招いたんでしょうね。
 祭りの喧騒をあとに、ほろ酔い気分で夜風に当たりながら家路をたどりました。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:22Comments(0)酔眼日記

2023年06月14日

会いに来た読者


 昨日、「会いに行けるライター」 というタイトルでブログを書いたところ、呑み会の席で、このキーワードが飛び交っていました。
 呑み会の名は、「弟子の会」。

 僕のことを勝手に、“先生” とか “師匠” と呼ぶ温泉好きの集まりで、2016年11月に発足しました。
 2カ月に1回、年6回、顔を合わせて酒を酌み交わしています。


 「まさに先生は、“会いに行けるライター” ですよね」
 から始まり、
 「でも、会いに行くまでには、勇気と覚悟がいりました」
 と続き、
 「会ってしまえば、ただの吞兵衛のおっさんなんですけどね」
 と、笑い話に収まります。

 それでも各々には、僕と出会うまでの葛藤の日々があったようです。


 Tさん(男性) とKさん(女性) は、僕が講師を務めるカルチャースクールの温泉講座の生徒でした。
 Tさんは、受講以前から僕の講演などに参加していたといいます。
 偶然にも火曜日が仕事の定休日だったこともあり、平日に開講される講座に参加することができました。

 Kさんは、僕の著書に出会ってから、
 「どうしたら小暮淳に会って、話ができるのか?」
 と考えていたようです。
 講演にも来てくれていたようですが、“会う” ことはできても、“話す” ことはできなかったといいます

 一念発起し、彼女は講座が開講される毎月火曜日に有休をとって、仕事を休み、受講することにしました。


 Sさん(男性) は、さらに古い読者です。
 13年前の、このブログの開設当時からの読者で、たびたびコメントを寄せてくれていました。
 しかし僕は、Sさんのペンネームは知っていても、本名は知らず、当然、姿を見たことがありませんでした。

 例えば、こんなことがありました。
 僕が講演会場へ行くと、受付に菓子折りが届いていました。
 「これは?」
 主催者にたずねると、
 「ええ、男性の方が来て、先生に渡してくださいと」

 まったくもって、謎の人物でした。


 そんなSさんとKさんが7年前に、ある会合で偶然に出会い、これまた偶然にも温泉話になり、やがて僕の話になり、「だったら小暮淳に直談判しよう!」 ということになり、弟子の会が誕生しました。


 Nさん(女性) の場合は、かなり特殊な出会いでした。
 以前からブログにはコメントを寄せてくれていましたが、男か女か、どこに住んでいる人なのかは不明でした。
 ところがある日、出版社に1通の手紙が届いたのです。
 その内容に、僕は心を打たれました。

 プライベートな内容なので、ここでは割愛しますが、「とにかく直接会って、話がしたい」 とのこと。
 在住する東京からわざわざ前橋まで、会いに来てくれました。
 以来、弟子の会のメンバーとして参加するようになりました。


 「わたしたちはさ~、小暮淳に会うためにね~、努力をしてきたわけ~」
 酔いも加わり、Kさんの詰め寄りに、僕はたじたじであります。
 「分かります~!?」
 「は、はい。分かりますよ」
 「なら、よろしい!」

 まったくもって、どっちが師匠で、どっちが弟子だかわかりませんが、心が真っすぐな連中であることは確かです。
 この師匠あって、この弟子あり。
 いや、この弟子あってこその師匠かもしれませんね。


 「“会いに行けるライター” だからって、簡単に会えると思うなよ~!」
 Kさんのテンションは、マックスであります。

 うれしいやら、はずかしいやら、複雑な思いで杯を重ねました。
 でも、美酒であることには間違いありません。


 みんな、ありがとね!
 愛してるよ~!!
  


Posted by 小暮 淳 at 12:11Comments(0)酔眼日記

2023年04月12日

1960の壁


 最初は、何気なく口ずさんだ 『鳥の唄』 という童謡でした。

 ♪ ハトとトンビとヤマドリとキジと カリガネとウグイスが一緒に鳴けば
   ククピン ククピン ピンカラショーケン ソーリャーケンケン……

 すると、カウンターの中のママも一緒に、口ずさみ出しました。

 「なに、それ?」
 「聴いたことない!」
 「昭和の歌っぽ~い」
 他の客らが、口々に反応しました。


 久々に、酒処 「H」 に愉快な仲間が集まりました。
 カウンター席は、この日も満員です。

 「だったら、これは知ってる?」
 と僕が歌い出したのが、『サラスポンダ』 というオランダ民謡でした。


 ♪ サラスポンダ サラスポンダ サラスポンダ レッセッセ
   サラスポンダ サラスポンダ サラスポンダ レッセッセ
   オドラオ オドラポンダオ オドラポンダ レッセッセ
   オセポセオ ♪

 すると、隣の男性も口ずさみ、なんとカウンターの中のママは腰に手を当てて、コサックダンスよろしく踊り出しました。

 「なに、それ?」
 「知らな~い!」
 「フォークダンス?」

 その他の客は、笑い転げています。


 でも、この日の客は、みんな同世代のはず。 
 いや、微妙に違う……
 50代半ば~60代後半?

 なのに、2つの曲を 「知っている人」 と 「知らない人」 に分かれました。


 「おい、境界線はどこだ?」
 ということになり、たどってみると、「知っている人」 と 「知らない人」 の境目は、昭和35(1960)年より前に生まれた人と、後に生まれた人に分かれました。

 1960年以降に、何が起きたのか?
 「サラスポンダ」 という不思議な響きを持つ言葉の意味とは?


 愉快な仲間たちは、笑い転げながらも昭和35年以前に生まれた諸先輩たちから手ほどきを受け、歌詞を覚え、しまいには、みんな一緒に歌い、踊ったとさ。
 めでたし、めでたし。

 ※(歌については、当ブログの2015年10月11日 「サラスポンダ」 を参照)
   


Posted by 小暮 淳 at 13:00Comments(4)酔眼日記

2023年03月10日

湯道から酒道へ


 昨日の続きです。

 映画 『湯道』 を観た僕は、脚本家の小山薫堂氏が提唱する “入浴” の精神と様式を突き詰めることで完成する 「湯道」 の所作を入浴施設にて、さっそく実践することにしました。


 一、合掌
  すべては感謝の気持ちから始まります。

 二、潤し水
  入浴前の水分補給は大切です。

 三、衣隠し
  脱いだ衣服には、生きる姿勢が現れます。丁寧にたたみました。

 四、湯合わせ
  いわゆる 「かけ湯」 ですが、見かけだけのかけ湯は厳禁です。しっかりと体を洗い流し、「湯を汚さない」 ことを心得ます。

 五、入浴
  ゆっくりと右足から浴槽に入ります。もちろん、手ぬぐいは頭の上に置きます。

 六、縁留 (ふちどめ)
  湯に体を沈め、おしりをつき、ゆっくりと体を後ろに倒し、縁の頂点でピタリと止めます。

 七、湯三昧 (ゆざんまい)
  湯に投入すれば、自ずと心の垢(あか)が剥がれ、汚れのない穏やかな気持ちになります。その到達地点を 「洗心無垢」 と呼びます。

 八、垢離 (こり)
  汗がじんわりと出てきたら、一度湯から上がり、水をかぶります。これを繰り返すことで、自律神経が整い、全身の血行が促進されます。「垢離」 とは神仏に祈願する際、水を浴びて心身を清め、一切の雑念を払って精神の集中をはかる 「水ごり」 のこと。

 九、近慮 (きんりょ)
  入浴を終えたら、椅子を正位置に戻し、使用した湯桶をきれいに洗い、逆さまにして残った水を切ります。「近慮」 とは、次に入浴する人が不快にならないよう慮(おもんばか)る行為のこと。

 十、風酔い
  湯の余韻に身を任せ、かすかな風の揺らぎにも幸せを感じます。「風酔い」 とは、湯上りに覚醒すること。

 十一、合掌
  感謝に始まり、感謝に終わります。


 無事、整いました!

 時計を見れば、まだ午後の3時半です。
 「湯道」 が整えば、次は、我が吞兵衛家が提唱する 「酒道」 の所作が待っています。
 心地よく春風を肩で切りながら、家元のいる酒処 「H」 の暖簾をくぐりました。


 一、合掌
  すべては感謝の心から始まります。

 二、潤し酒
  「とりあえずビール」 と言って呑む湯上りのビールは、至福の一杯となります。

 三、酒合わせ
  「湯道」 のかけ湯と同じ。いきなり日本酒に行くのではなく、ビールや焼酎を2、3杯呑んで体を慣らします。

 四、呑酒 (どんしゅ)
  いよいよメインの酒に口を付けます。僕の場合は、冷の地酒を切子細工のグラスでいただきます。

 五、酒三昧 (さけざんまい)
  作法はありません。好きな酒を好きなだけ呑み続けます。

 六、ほど酔い
  いくら酒が好きでも、酒に吞まれてはいけません。程よい酔い方 「ほど酔い」 にて、店を切り上げます。

 七、合掌
  「湯道」 と同じく、感謝に始まり、感謝に終わります。ママの美味しい手料理と、気の置けない常連客にも手を合わせて感謝!


 以上、一日にして、2つの道が整いました。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:15Comments(4)酔眼日記

2023年02月15日

「おまかせ」 という美味


 毎度おなじみの酒処 「H」。
 僕は、かれこれ15年も通っています。

 良いことがあった日、嫌なことがあった日、ただ暇な日、無性に酒が呑みたい日、疲れた日、頑張った自分にご褒美をあげたい日……
 理由なんて、なんでもいいんです。

 気が付くと、僕は 「H」 の暖簾をくぐっています。


 ふと、なんで僕は 「H」 へ行くのだろう?
 と考えてしまいました。
 自分なりに解析してみると、3つの魅力が浮かびます。

 1つは、なんといっても自称38歳(?)のママの人柄です。
 気さくで、聞き上手で、知的で、とってもキュートな女性です。
 話題も豊富で、何時間でも二人っきりで話し込んでしまいます。

 2つ目は、そんなママのファンたちでしょうね。
 いわゆる常連客です。
 老若男女、職業を問わず、気の置けない連中が集まってきます。
 過去には、“出入禁止” になった客もいたと聞きますが、僕が知る限り、みなさん、きれいな酒の呑み方をされる紳士淑女ばかりです。


 そして3つ目が、ママの手料理!
 和洋中、なんでも御座れ!
 時には、リクエストにも応えてくれます。

 「レバニラ炒めが食べたい」
 と言えば、ちゃんと次に行った時に、、
 「はい、ジュンちゃんの青春の思い出の味ね」
 と言って、陳健一顔負けの絶品料理が出てきます。

 常連客たちは、完全に胃袋をつかまれています。


 ただし、この店、メニューがありません。
 店内には、どこを探しても 「お品書き」 は見当たりません。
 ここが、イチゲン客には一番、暖簾をくぐりづらい理由かもしれませんね。

 いわゆる “おまかせ方式” なのであります。
 料金は一律、時間制限なし、ドリンク自由、カラオケ無料……
 今どき、こんな店ってあるの?
 というくらい昭和チックな店なのです。


 過日、台湾国籍で韓国在住という男性と同席しました。
 しきりに彼は、
 「オマカセ」 「オマカセ」
 と、うれしそうに連呼していました。

 「“おまかせ” って、何のこと言ってるの?」
 「ココノ料理デス」
 「珍しいの?」
 「ハイ、韓国ニハ、アリマセン」

 「素晴らしいシステムだ」 とも言っていました。


 おりしも昨晩は、僕がリポーターを務めるテレビ番組の放送日でした。
 カウンターのみの8席は、満員御礼!

 「おおー、小暮さんだ~!」
 「出演者と一緒に呑めるなんて、光栄だな~!」

 テレビ画面を見ながら、全員で盛り上がりました。


 良き店で、良き仲間と、良き酒を呑む。
 なんて幸せなんでしょうね。

 のん兵衛たちに、感謝!
  


Posted by 小暮 淳 at 13:05Comments(0)酔眼日記

2022年12月29日

納H ~あなたは誰ですか?~


 ♪ どこの誰かは 知らないけれど
    誰もがみんな 知っている
    Hに集まる常連は みんなの味方よ よい人よ
    開店早々現れて 閉店過ぎても帰らない
    Hの常連は 誰でしょう?
    本当の名前は 何でしょう? ♪
    (『月光仮面は誰でしょう』 の替え歌)


 かずちゃん、ゆうくん、いのっち、よっちゃん、いぐっちゃん、せっちゃん、あっちゃん、みみ、ひろぼう、むく、りっちゃん、ちこ、たかし、ゆうこちゃん、いけちゃん、かずおちゃん、れいこひめ、すみれちゃん……

 パッと顔が思い浮かぶ人たちを書き出してみました。
 みんな、酒処 「H」 に集まるゆかいな仲間たちです。
 でも、みんなで、そう呼び合っていても、ほとんどの人が互いに、それ以上の名前を知りません。

 ママが、そう呼んでいるから客同士も顔を合わせると、そう呼んでいるだけなのです。
 呑み屋とは、そういうものかもしれませんね。

 ちなみに僕は、「じゅんちゃん」 と呼ばれています (そのままです)。


 中には、名前ですら呼ばれない人たちもいます。
 おひげ、テポドン、座頭市、芳賀団地なんて、完全にあだ名です。

 「おひげ」 さんは、ヒゲが生えているからだと思います。
 「テポドン」 さんは、カラオケを歌わせると、客が耳をふさぐほどの超音痴なので、ミサイルの名が付きました。
 「座頭市」 さんの由来は、よく知らないのですが、どうも勝新太郎のモノマネが上手なようです。

 笑っちゃうのが、「芳賀団地」 さんです。
 ただ単に、住んでいる団地名ですからね。

 これ、みーんな、ママが付けた名前なんです。


 で、誰一人、その人の本名を知りません。
 名前だけではなく、職業すら知らない人もいます。

 思えば、最大のミステリーは、「H」 のママの本名です。
 みんな、「Hちゃん」 とか 「Hねえさん」 とか呼んでいますが、誰一人、ママの本名を知る人はいません。

 なんだかんだ、そんなこったで 「H」 は、この地で20年も商いを続けています。


 定員は、カウンターのみの8席。
 だもの、太陽が沈む前に行かなくっちゃ、すぐ満席です。
 時には席に座れず、客の後ろで立ち呑みをする強者だっています。

 それでも和気あいあいで、いつだって大家族のようなにぎわいです。


 そんな 「H」 の年内最後の営業が終わりました。
 ママから、こんなメールが届きました。

 <今年もあと僅かになりましたね。お正月の気配が年々感じられなくなりました。でも来年も懲りずに笑顔でお仕事しますね。本年も大変お世話になりました。>


 こちらこそ、楽しい時間を、たくさんたくさん、ありがとうございました。
 ママの手料理とゆかいな仲間たちがいれば、どんな世の中だって乗り切れます。

 Hねえちゃん、そして名前を知らない常連客のみなさん、今年も大変お世話になりました。
 来年も、大いに吞みましょう!

 では、酔いお年を!
  


Posted by 小暮 淳 at 11:40Comments(0)酔眼日記

2022年12月25日

ブラボー! ~文人かくありき~


 腹から語り、腹から笑い、心底酔いしれた夜でした。
 つくづく、酒は吞む相手によって、味が変わることを思い知らされた夜でした。


 先日、早朝より東京方面より先輩作家が来県。
 ともに県内某所を視察、取材して、最寄りの駅まで送り届けた時のことでした。

 いつもなら、ここで、あいさつをして、改札口で見送るのですが、この日に限って先輩は違いました。
 「中途半端な時間ですね」
 時計を見れば、午後3時を少し回ったところです。
 先輩の言葉に、のん兵衛の勘は、すぐに反応しました。

 「軽く一杯、いかがですか?」
 先輩も、その言葉を待っていたようで、そのまま2人はきびすを返し、駅舎を出ました。


 でも、時間が早すぎます。
 駅前の居酒屋へ行っても、「4時からです」 と門前払い。
 「では僕の行きつけの店を訊いてみましょうか?」
 と電話を入れてみるも、こんな時に限ってママは出ません。

 「あそこの店、やってるんじゃない?」
 と先輩が指さす先には、真昼間からネオンがチラチラ光り輝いています。
 行ってみると案の定、オープンしていました。


 「お疲れ様です」
 「乾杯!」
 「こうやって2人だけで呑むのは、初めてですよね?」
 「だね」
 「ありがとうございます。とても光栄です」

 僕と先輩は、かれこれ7年の付き合いになります。
 テレビ番組の制作を縁に知り合いました。
 先輩は、いわゆる “放送作家” なのであります。
 昔で言えば “ペン一本” で生きてきた、正真正銘の文人であります。

 文章だけで生きていくことが、どんなに大変なことかは、僕が身に染みて知っています。
 そんな先輩の 「なぜ作家になったか?」 に興味津々の僕は、矢継ぎ早に質問攻めとなりました。
 失敗のエピソードや独立してからのこと。
 バブル期の今では考えられない待遇など。
 もう、腹を抱えて笑ったり、考えさせられたり。

 楽しすぎて、「このまま時が止まってくれたらいいのに」 と、恋心に似た思いを抱くほどでした。


 気が付けば、生ビールのジョッキが1杯、2杯……
 日本酒のコップが1杯、2杯……

 「こんなんじゃ、らちがあきませんね。ボトルを入れましょう!」
 と、のん兵衛とのん兵衛の先輩は、何十年来の同志のように、ヒートアップしていったのでした。


 「結局さ、人生は何をしたかではなく、どう生きたかなんだよね」

 先輩の言葉は、昔、オヤジが僕に教えてくれた人生訓と、まったく同じものでした。

 「何かをしたい、何かを残したいという作品主義の人は、プロにしろアマチュアにしろ大勢いるけど、“生きる” っていうことは別で、全然違うよね」

 ズズズシーン! と心の底に響きました。
 やっぱ、“ペン一本” で生きてきた人の言葉は、重いですね。


 4時間にわたる永い永い熱弁合戦を終え、すがすがしい気分で駅へと向かいました。
 北風に落ち葉が舞う歩道で、僕は立ち止まり、改めてお礼をいいました。

 「今日は、本当に貴重な話をありがとうございました。先輩!」
 すると、先輩は言いました。
 「先輩はやめてくれ、“さん” でいいよ。いや、呼び捨てでいい! よっぽど小暮さんのほうが作品を世に残しているんだから」
 「何をしたかではなく、どう生きたかですよね?」
 「だったな!」

 そういうと先輩は、ひと言 「ブラボー!」 と叫び、人ごみの中で僕を強く抱きしめてくれました。


 「文筆を生業にする者は、こうあれ」
 というメッセージに満ちあふれた、温かくて心にしみる 「ブラボー!」 でした。
   


Posted by 小暮 淳 at 13:04Comments(2)酔眼日記

2022年12月14日

納会 ~弟子という名の懲りない面々~


 エゴサーチっていうんですか?
 時々僕も、暇と好奇心にまかせて、検索してみることがあります。
 そしたら、こんなフレーズが出てきました。

 “小暮淳の孫弟子”


 孫弟子っていうことは、弟子の弟子ということですよね?
 僕の弟子を名乗る人は何人かいますが、“孫弟子” とは初耳です。
 やがて、ひ孫弟子も現れるのでしょうか?

 ま、SNS上のことですから深くは詮索しませんが、本人の知らないところで “弟子の輪” が広がっているということは悪い気はしないので、実害がない限り、お目こぼしといたしましょう。


 さて、僕は一介のライターですから徒弟制度なんて、持っていません。
 それでも長年、温泉関係の本を書いたり、講演やセミナーを続けていると、稀に “弟子” を名乗る人たちがいます。
 もちろん、制度がない以上、名乗るのも語るのも自由です。

 それでも人数が集まって来ると、なんらかの関わりを待たざるを得なくなってきます。
 それが、「弟子の会」 です。
 平成28(2016)年11月の結成ですから、丸6年になります。

 ひと言でいえば、ただの呑み会なのであります。
 勝手に僕のことを 「先生」 だとか 「師匠」 だとか呼んで、僕を神輿の上に担ぎ上げて振り回し、2ヵ月に1回集まって、美酒に酔おうという、実に不埒でありながら理にかなった仲良しグループなのです。

 メンバーは男性2名、女性2名と僕。
 全員に共通していることは、僕の読者であるということ。
 または、教室やセミナーの生徒さんであります。

 そんな懲りない面々が昨晩、今年最後の宴に集まりました。


 「最近、先生の弟子を名乗る人が増えていませんか?」
 「先生自身が、ブログにも書いてますよね?」
 「弟子と呼べるのは、この “弟子の会” だけですよね?」

 矢継ぎ早に攻めよられ、僕は、たじたじであります。


 まあ、楽しい酒の席ですから話の内容は、ジョークであります。
 呑んで、笑って、騒いでいれば、いつものようにお開きとなるのですが昨晩は、さにあらん。
 案件の決着を付ける羽目になりました。

 「まあ、制度がないので、誰でも名乗るのは自由なんだけどさ……。しいて決めるならば、この弟子の会は公認ということで、いかがでしょうか?」

 ということで、“オフィシャル弟子の会” の称号を与えることにあいなりました。


 これにて一件落着。
 めでたし、めでたし。

 自称、他称を問わず、数少ない弟子のみなさん、今年も一年間、大変お世話になりました。
 来年もよろしくお願いいたします。

 良いお年を!
  


Posted by 小暮 淳 at 11:41Comments(0)酔眼日記

2022年11月09日

牧水気分で浮かれ酒


 <其処へ一升壜を提げた、見知らぬ若者がまた二人入って来た。一人はK―君という人で、今日我らの通って来た塩原多助の生まれた村の人であった。一人は沼田の人で、阿米利加(アメリカ)に五年行っていたという画家であった。画家を訪ねて沼田へ行ったK―君は、其処の本屋で私が今日この法師へ登ったという事を聞き、画家を誘って、あとを追って来たのだそうだ。そして懐中から私の最近に著した歌集 『くろ土』 を取り出してその口絵の肖像と私とを見比べながら、「やはり本物に違いはありませんねエ。」 と言って驚くほど大きな声で笑った。>
 (若山牧水・著 『みなかみ紀行』 より)


 先日、四万温泉に泊まった晩のこと。
 県内外から温泉好きが集まり、酒を酌み交わし、宴たけなわとなった頃、宿に中年の男女が訪ねて来ました。
 2人は夫婦で、なんでも、僕がこの宿に泊まっていることを知り、やって来たのだといいます。

 手には、僕の著書が握られていました。
 見れば、新品であります。

 はて、なぜに新品なのだろうか?
 僕の読者ならば、読み込んで、手垢にまみれているはずです。

 「それ、どうされました?」
 「ええ、先生が四万温泉に来られると聞き、会いたくて……」
 「いえ、その本です。新しいですよね?」
 「ああ……、今、宿で買ってきました。サインをお願いします」


 たぶん、こういうことなのでしょうね。
 この日、僕と泊まっている温泉ファンの誰かが、SNSか何かで、つぶやいた。
 すると偶然、同じ四万温泉の別の宿に泊まっていた温泉ファンの夫婦が、僕がこの宿に泊まっていることを知った。
 会って、サインをもらおうと思ったが、あいにく本は持って来ていない。
 ところが運よく、夫婦が泊まっている宿に僕の本が売っていた。
 取り急ぎ購入して、僕が泊っている宿を訪ねて来たということのようです。

 もちろん、こころよくサインをいたしました。
 ついでに、「よろしかったら一緒に、一杯やりませんか?」 と宴の席に誘いました。


 「まるで牧水のようですね」
 誰かが言いました。
 「本当だ、悪い気はしないね。冥利に尽きる」
 と僕は、牧水気分で美酒に酔いしれたのであります。

 たかが温泉、されど温泉。
 旅と湯と酒を愛した牧水に、乾杯!
   


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2022年09月23日

堀江さんの職業


 「今日は、酔っ払っちゃったな」
 と言えば、
 「うちはね、酔わない酒なんて出してないんだよ」
 と返される。
 「ああ、そうでした」
 そして、常連客らの笑い声。

 いつものたまり場、酒処 「H」 は、今宵も和気あいあいの雰囲気に包まれています。


 では、なぜ、僕たちは酔うのでしょうか?
 演歌の世界ならば、“忘れてしまいたいこと” があるから?
 いい事があった日は、“喜び” を分かち合いたいから?
 はたまた、今日も一日頑張った自分へのご褒美でしょうか?

 僕が酒処 「H」 で酔う理由は、ここに “人生のヒント” が、たくさん転がっているからなんですね。


 たとえば、先日のこんなワンシーン。
 話題は、83歳 (当時) でヨットによる世界最高齢単独無寄港太平洋横断に成功した堀江謙一さんの偉業で盛り上がっていました。
 その時、常連客の一人が言ったひと言が、眠れない夜を連れてきました。

 「堀江さんて、冒険家なの? 探検家なの?」


 たぶん、スマホで検索すれば、一発で答えは出で来るのでしょうが、そこは昭和をこよなく愛するアナログ人間の集まりです。
 テストでカンニングをして、答えだけ写して提出するような姑息な手段は、誰もが望んでいません。
 まずは、お得意のディスカッションから始まります。

 「“冒険” と “探検” って、どこが違うの?」
 「そもそも漢字が違うよね」
 「えっ、違う漢字なの?」

 そんなところから、侃侃諤諤(かんかんがくがく)と意見交換が続きます。
 結果、酔っ払っていることもあり、その日は宿題として持ち帰ることになりました。


 そして昨晩、その答え合わせとなりました。
 もちろん、発表するのは僕の役割です。

 【冒険】
 危険を冒すこと。成功のたしかでないことをあえてすること。(広辞苑)

 「冒険」 の 「険」 は、「危険」 の 「険」 です。
 “けわしい” という意味があります。


 【探検】
 未知のものなどを実地にさぐりしらべること。(広辞苑) 

 ですから、検査や点検などの 「検」 の字が当てられているのですね。
 「検」 は、調べるの意味。
 それに、「探」 の字が付くわけですから、“探り調べる” ことになります。

 ただし、辞書には、こんな一文が添えられています。
 <また、危険を冒して実地を探ること。>
 この場合のみ、「探険」 と表記してもよいようです。


 では、堀江謙一さんの偉業は、「冒険」 なのでしょうか? 「探検」 それとも 「探険」?

 意味からすれば、「冒険」 ということになります。
 そして、堀江謙一さんのプロフィールにも、ちゃんと 職業欄に 「海洋冒険家」 とありました。


 「いゃ~、ジュンちゃん、ありがとう。これで、すっきりしたよ!」
 常連客らに感謝され、昨晩も美酒に酔いしれることができました。


 常連客のみなさんへ
 「H」 の酒は、同じ酒でも話題により酔いのスピードが増しますから、深酒にご注意ください。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:26Comments(0)酔眼日記