温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
群馬のブログポータルサイト「グンブロ」顧問
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使
老神温泉大使
伊香保温泉大使
四万温泉大使
ぐんまの地酒大使
群馬県立歴史博物館「友の会」運営委員



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』『金銀名湯 伊香保温泉』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ぐんま謎学の旅~民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2012年02月29日

雪の降る日に


 体調がすぐれない我が身に、この雪は好都合でした。
 予報を知ってから、今日は一切のスケジュールを入れてありません。
 今日は朝から、“雪明り読書” の日と、決め込んでいました。

 朝食を終えて、仕事部屋へ。
 さて、何を読もう?
 雪の降る日だもの、雪の文学とシャレてみるのもいい。
 久しぶりに 『雪国』 なんてどうだろう。
 駒子に会いたいような気もする。

 ということで、「書庫」 という名の納戸に入り込んで、 『雪国』 を探しました。
 まあ、「書庫」 と呼んでいるのは僕だけで、家族は 「物置」 と言っていますがね。
 わずか2畳ほどの小部屋に、本棚が並んでいるだけです。

 で、川端康成 『雪国』、川端康成 『雪国』・・・と呪文のように唱えながら探したのですが、なかなか見つかりません。
 代わりに僕の目に飛び込んできたのは、3つの “雪” の文字。
 『雪のなか』 『雪の朝』 『残りの雪』 です。
 これ、すべて立原正秋の作品です。

 立原正秋は1966年に 『白い罌粟(けし)』 で直木賞を受賞している小説家です。
 なぜか僕は10代の頃に傾倒してしまい、全作品の読破を試みた記憶があります。
 今でも 「書庫」 には、30冊以上の文庫本・単行本が所蔵されています。

 結局、『雪国』 が見つからず、取り出したのは 『雪のなか』 という短編でした。

 20代の前半まで読んでいた記憶がありますが、それでも30年ぶりに紐解く立原文学であります。
 懐かしいような、ちょっぴり照れるような不思議な気持ちで、ページをめくりました。


 主人公は鎌倉に住む鎌倉彫り師の男。
 妻子がいながら、愛人の経営する小料理屋に通っている。
 女の故郷、山形の農村に、今でも夜を徹して演じる能があることを知り、2人で出かけることにした。

 女の故郷には、「月山の蒼い馬」 の伝説がある。
 雪があがった晴れた月夜の日に、月山から蒼い馬がいななきながら空を駆けてくる。
 村に下りてくると、死後1年経った人間の魂を背中に乗せ、再び空を駆けて月山へ帰って行くという。

 「その蒼い馬が見えるといいね」
 「それ、どういうこと?」
 「たぶん俺にもその馬は見えないだろう」
 「あたし達のことを言っているの?」
 「そうだよ」

 男は妻子を捨てることも、愛人を捨てることも、できずにいた。

 「あなた、馬の蹄(ひづめ)の音がきこえないこと……」
 「蒼い馬の蹄の音だな」
 「こんな雪の夜に死者の魂を乗せにきたのかしら」
 「雪のおかげで馬の姿は見えないが」
 「あたし達に用があるのかしら」
 「そうかも知れない」


 能を見た帰り道、雪の降るなか、現世の無常を感じる男の内面を刻むようにして小説は終わっている。
 なんとも意味深く、雪の降る日にふさわしいと思いながら読んだのです。
 が、不倫だ、能だ、の世界ですよ。
 よくも淳少年は、こんな大人の世界を10代から読んでいたものだと、自分に感心してしまいました。

 ませていましたね。
 それとも、背伸びして、あこがれていたのでしょうか。

 立原文学の舞台は、実際に彼が住んでいた鎌倉が舞台の小説が多いのです。
 これで、謎が解けました。
 僕が10代の頃から、何度も何度も鎌倉へ出かけて行った理由が。
 小説の舞台を探しに行っていたのですね。
 そして、鎌倉へ行った数だけ、恋もしていたというわけです。


 雪の降る日に、若き日の自分に会ってきました。
    


Posted by 小暮 淳 at 19:47Comments(2)つれづれ

2012年02月28日

坂口温泉 「小三荘」②


 先週末、取材旅行から帰るなり体調をくずして、寝たり起きたり、ときどき原稿を書いたり本を読んだりと、インドアな生活をグダグダと過ごしていたのですが、今日は天気も良いし、アポも取ってあったこともあり、重い腰(痛い腰)を上げて取材に出かけてきました。
 訪ねたのは、西上州の名薬湯のほまれ高き坂口温泉であります。

 坂口温泉といえば、あのトロトロのゲル状の重い湯が特徴の「薬師の湯」源泉です。
 開湯、約300年。別名を 「たまご湯」 と呼ばれ昔から珍重されてきた温泉であります。
 (詳しくは、当ブログ2010年9月14日 「坂口温泉 小三荘」 参照)

 明治時代には 「塩ノ入鉱泉」 と呼ばれていた西上州では数少ない湯治場でした。
 名前の通り、泉質は重曹を含む弱アルカリ性の食塩泉です。
 重曹を含んでいることは昔から知られていたようで、近在の人たちは、この鉱泉で、まんじゅうを作っていたとのこと。
 ほんのり塩味のきいた美味しいまんじゅうができることでしょうね。

 で、今日も、このありがたいお湯をいただいてきました。
 戦前から、宿泊よりも 「立ち寄り湯」 として繁盛していた温泉だけあり、11時の開館と同時に続々と入浴客がやってきます。
 「ここの湯には、毎日入りに来る」 という男性と一緒になり、いかにここの湯が素晴らしいかの自慢話を聞かされました。
 でもね、僕だって負けてはいませんよ。
 過去には、本や雑誌、新聞の取材で、たびたび訪れていますからね。
 歴史なんかも交えながら、湯談義に花を咲かせました。

 ここは内風呂しかありませんが、そのぶん窓を一面に大きくとってあるので、裏庭の景色を望むことができます。

 竹林のなかに、小さな石仏が何十体と壇上に並んでいます。
 これが 「薬師の湯」 の名で親しまれてきたゆえんです。
 「医王仏」 ともいわれる祈願仏です。
 医学や医薬が発達していなかった時代のこと、村人たちは霊験あらたかな「お薬師様」に病が治るようにと、願をかけました。
 そして病を治してくれてお礼にと、奉納されたのが、この石仏群です。

 僕は、いつもここへ来ると、医王仏に願をかけます。
 もちろん、今日は 「腰痛が治りますように」 でした。

 おかげさまで、その後は、とても調子がいいんですよ。
 これは、ただ単に信心深いだけではなく、トロトロの 「たまご湯」 を腰のまわりにヌルヌルとこすりながら入ったからだと思います。
 僕が知る限りでは、あのトロトロ加減は、県内でも1、2を競う濃厚な湯であります。

 まだ未体験の人は、ぜひ一度入ってみてください。
 “西上州の名薬湯” と呼ばれる意味を体で知ることでしょう。
   


Posted by 小暮 淳 at 21:20Comments(2)温泉地・旅館

2012年02月27日

リスナーからの便り


 先週の火曜日で最終回を迎えたNHK-FMラジオ 『群馬は温泉パラダイス』。
 放送最後ということもあり、番組では最後にリスナーからの質問にお答えしました。
 時間に制限があるため、1問しか答えられませんでしたが、この場をお借りして、他の質問にも答えてみたいと思います。

 「小暮淳さん、初めまして! 温泉が好きで群馬に移り住んで来た者です」 という書き出しで、ハガキ2枚にわたる長いお便りをくださったのは、利根郡みなかみ町のWさんという男性でした。

 「温泉成分分析表についてです。昔から疑問に思っていたのですが、こんなにも更新せずともOKの公の表示は笑ってしまうほど珍しくありませんか?」

 ごもっともですね。
 僕も温泉の取材を始めた頃は、いつも気になっていました。いつまでも昭和40年代の分析表が掲示されていましたからね。
 でも、番組でもお話しましたが、現在では10年に1度の更新が義務づけられていますので、ほとんど新しいものに変わっていると思います。
 きっかけは平成16年の、あの白骨温泉の温泉偽装問題です。
 入浴剤の添加や水道水を沸かしたものを温泉であるかのように誤認させる事例の発生を受けて、平成17年に既存の表示項目に加え、新たな項目を追加して掲示することになりました。これを機に、再検査が徹底されたようです。

 ただし、最新の 「温泉分析書」 が掲示されていれば、昭和や大正時代の分析表を温泉資料として掲示することは構わないとのことです。


 「形ばかりのレジオネラ検査ではいかがなものでしょうか? そもそも温泉法がザル法ですか?」

 Wさんは、本当に温泉が好きなんですね。
 僕は温泉の研究者ではないので、あまり詳しいことは把握していませんが、感想を交えてお答えします。

 まずレジオネラ菌ですが、この菌を死者が出るまでに増殖させてしまったのは “温泉を便利にしてしまった”人間だということです。
 昔から自然界に生存する菌ですから、当然、温泉の中にも入り込みます。でも、死者なんて出なかったんですね。
 かけ流しが当たり前だったからです。入り込んだ菌も、流されてしまうわけです。
 ところが 「循環ろ過装置」 の発明により、浴槽内の温度を常に一定に保てるようになったため、自然界ではありえない大繁殖を起こしたわけです。
 以前、家庭用の循環式24時間風呂が流行ったのを覚えていますか?
 体力のないお年寄りが、大勢亡くなりましたよね。

 “流れる水は腐らない”
 常に、浴槽内を清潔にしていることが一番大切だということです。
 検査でレジオネラ菌が検出された時は、すでに遅いのです。


 温泉法がザル法ですか? とのことですが、そもそも施行されたのが戦後間もなくの昭和23年ですからね。
 いったい何年前ですか? その後に日本は高度成長期とバブル期を迎えています。
 温泉の利用形態から掘削技術まで、何から何まで変わってしまいました。
 温泉法を施行した当時、誰が地下2,000メートル以上もボーリングをして、平野部や都市部でも温泉が湧くなどと考え付いたでしょうか!

 ザル法というよりは、法律が古過ぎるのですね。
 1日も早い改正を! と望みたいところですが、実は改正したらしたで、温泉でなくなってしまう温泉も出てくるわけですよ。
 要は、古い法律の上にあぐらをかいて、日本は今日のような温泉だらけの国になってしまったのです。

 Wさん、あまり表示や法律に惑わされずに、自分の五感でいい温泉を見つけて、楽しんでください。
 せっかく、温泉が好きで群馬に移り住んで来たのですから。
  


Posted by 小暮 淳 at 19:01Comments(3)温泉雑話

2012年02月26日

水上温泉 「松乃井」②


 先週の木曜日、水上温泉の 「松乃井」 を訪ね、戸澤千秋社長に話をうかがってきました。

 思えば、戸澤社長とお会いするのは、2度目なのですね。
 ちょうど1年前の2月7日でした。
 雪が舞う水上駅に降り立ったのは・・・。

 その日は、観光でも取材でもなく、僕は某協会が主催する大会に呼ばれ、基調講演の講師として会場となっている 「松乃井」 を訪れたのでした。
 確か、その時、お話はできませんでしたが、社長とは名刺交換だけした記憶があります。

 「そうでしたか、あのときの!」
 と、社長も驚かれていましたが、しっかり講演のことは覚えていてくださいました。
 そして、ご丁寧にも個室を用意してくださり、じっくりと創業の歴史から再建への経緯に至るまでを話してくださいました。

 業界通の方なら 「松乃井」 のことは、ご存知かと思います。
 まあ、ひと言で言えば、いろいろあった旅館です。
 創業は昭和31年。
 県内の名士が手がけ、30年代、40年代、50年代、そして60年代に入っても増改築をして大きくなった水上温泉の隆盛の歴史を担った旅館の1つであります。

 しかし、バブルの崩壊とともに経営は悪化。
 ついには倒産へと追い込まれました。

 平成19年、戸澤社長が新会社を設立して、再建させたのが、現在の新生「松乃井」 であります。
 さすが、元経営コンサルタントだけあって、社長の話には含蓄があります。
 「温泉経営は、針の穴に糸を通すようなもの」
 「入口は勘で入って、出口は運で出る」
 う~ん、実に深過ぎるお言葉です。

 でもね、温泉の有り様では、僕と社長の意見は一致しましたよ。
 再建にあたり、唯一の望みが 「源泉」 だったと!
 実は、同館は昔から4本もの自家源泉を所有しているのです。
 それも、アルカリ性単純温泉とカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉(旧、含食塩石膏泉) の2種類。
 その総湯量は約500リットルもあります。

 社長は、この宝を生かさない手はないと考えたわけです。
 そして、誕生させたのが 「生」温泉です。

 いくつも浴室がある大きな旅館ですから、すべての浴槽を源泉かけ流しにすることは不可能です。
 そこで、男女とも内風呂だけは、完全放流式にしました。
 でも、それだけではありません。
 「生」 というくらいだから、その給湯方式にこだわりました。
 それは・・・

 温泉の鮮度を保つために、湯口(源泉の注ぎ口) を浴槽の底に取り付け、空気に触れる時間を極力減らすことに成功しました。
 入浴の感覚は、まさに “足元湧出温泉” であります。
 でも、法律や設備工事等の問題で、この方式を使用している温泉は、まだ県内にはいくつもありません。
 僕の知る限りでは、自然湧出泉か湯量豊富な源泉を所有する数軒の温泉宿のみです。


 社長の湯へのこだわり、そして再建への熱意が、ひしひしと伝わってきた楽しい語らいのひと時でした。

 群馬の温泉は、まだまだ奥深いぞ!
  


Posted by 小暮 淳 at 18:13Comments(3)温泉地・旅館

2012年02月25日

水上温泉 「寶ホテル」


 寄る年波には、勝てません。
 奥歯が抜け落ちたと思ったら、今度は腰痛です。
 なんとか、老体にムチ打ちながら、取材旅行から帰ってきました。


 現在、昨年の暮れから水上温泉に入り込んで、取材活動を続けています。
 観光協会さんの協力もあり、なかなかのハイペースで取材が進んでいます。
 全12軒ある温泉・旅館のうち、早くも9軒の取材を終えました。

 今年に入って2度目の水上温泉取材となった一昨日は、ご厚意により 「寶(たから)ホテル」 に泊めていただきました。

 3代目主人の鈴木俊夫さんは、昭和33年生まれですから、僕と同じ年であります。
 若い頃は東京で、フードコーディネーターをしていたといいます。
 その後、和食の修業を経て、実家にもどり、3代目を継ぎました。

 以前にも、ブログに書いたかもしれませんが、滅多に僕は旅館の料理をほめません。
 それは、温泉宿は、まず “温泉” ありきですから、湯が良ければ料理の評価は問わないからです。
 また、その逆もありで、どんなに美味しい料理を出されても、湯が悪ければ、宿の評価は下がります。

 ただし、お湯派の僕でも、たった1つだけ料理へのこだわりがあります。
 それは、「地産地消」 です。
 海へ行ったら “海のモノ” を、山へ行ったら “山のモノ” を、そして川は川のモノ、里は里のモノ・・・
 (その土地に無いモノ を出されると、旅の雰囲気が削がれてしまいます)

 で、ご主人の手から作り出された料理は、完璧でした!
 食前酒のりんごブランデーからして、みなかみ産のりんごを使用していたし、デザートの女将の手作り豆乳アイスにいたるまで、すべて地産地消の山の幸と川の幸に徹底したこだわりよう。
 海のモノは一切ありません。

 特筆すべきは、「上州桜鯉」 のあらいです。
 はっきり言って、僕は鯉が苦手なんですね。
 どこで食べても、「こんなものだよな」 と大概は無反応なのです。
 が! これは違いました。
 なんでもオキアミだけを食べて流水で育った特別飼育の鯉だとか。
 違います!
 まったく臭みもなく、コリコリとした歯ごたえがあり、思わず、「えっ、これって鯉なの?」 って声を上げたくらいですから。
 同行の食通カメラマン氏も、「初めて、こんなに美味しい鯉を食べました」 と、うなっていましたよ。

 おまけに、4つある浴槽は、すべて源泉かけ流しとくれば、申し分ありませんって。


 その晩は、部屋に戻るとケータイが鳴りました。
 観光協会の人たちが、近くの居酒屋で飲んでいるとのこと。
 お誘いであります。
 のん兵衛の僕とカメラマン氏は、即行、浴衣からまた服に着替えて、ごきげんで風花の舞う温泉街へと、くり出して行ったのでした。

 と、良かったのは、そこまでです。
 一夜明けると、激しい腰痛に見舞われ、なんとか取材を終えて家にたどり着いたときには、発熱もともなっていました。
 しばらくは、おとなしく家で休養をしていようと思います。

 どなたか、腰痛に効く温泉を知りませんか?(笑)
  


Posted by 小暮 淳 at 17:10Comments(3)温泉地・旅館

2012年02月22日

愛しい奥歯と消える温泉


 奥歯が、抜けた。
 ポロリと、取れた。
 痛くも、かゆくもなく、まるで寿命のように抜け落ちました。


 僕は子どもの頃から、よく歯が抜ける夢を見て、飛び起きるんですね。
 それくらい、歯には人一倍臆病で、神経質なんです。
 だから、ちょっとしみたくらいでも、すぐ翌日には歯医者へ駆け込んでしまいます。

 昨日、抜け落ちた奥歯は、そんな行きつけの歯医者さんも見放した歯だったのです。
 かぶせていた銀も取れ、根元からグラグラしていました。
 「これ、どうしますか? 抜いちゃいますか?」
 と、他の歯の治療で行くたびに医者に聞かれるのですが、なぜか、この奥歯に愛着があって、別れたくない。
 「いえ、放っといてください」
 と、後生大事に共に暮らしていたのであります。

 で、ポロリと抜け落ちた奥歯は、下の歯です。
 子どもの頃、下の歯は屋根の上へ、上の歯は縁の下へ投げ入れると、次に丈夫な歯が生えてくるなんて、親に言われたことを思い出しました。
 でも、それって、乳歯の場合ですよね?
 もう、2度と生えてこない歯なのですから、屋根の上に投げることもないなぁ・・・と、抜けた歯を持て余してしまったのです。
 さりとて、愛しい奥歯です。
 捨て去ることもできません。

 結局、今もティッシュにくるまれて、仕事場のデスクの上に置いてあります。


 で、愛しい奥歯を見ていて、ふっと思ったのです。
 「これって、カルシウムだよな」 なって。
 温泉の湯口に白く付着している石灰と同じ成分で、できているんだと・・・。

 温泉の成分が酸化して、不溶性の析出物となって堆積(たいせき) したものを 「スケール」 といいます。
 スケールには、代表的なカルシウムのほか、赤褐色に析出する鉄や黄白色に析出する硫黄(いおう) などがあります。
 硫黄の析出物で有名なのが、草津温泉の湯畑で採取されている “湯の花” です。
 これは、あまり硬くなりません。

 で、このスケール。
 我々は、温泉成分が濃い証拠だとありがたがって入浴しますが、湯を管理する側からすると厄介な代物なのです。
 「単純温泉の宿が、うらやましいよ」 と嘆いた温泉宿の主人もいたくらいです。
 単純温泉とは、温度だけが温泉法をクリアしている温泉ですから、成分は薄いんですね。
 ですから、他の泉質に比べるとスケールが付着しづらいんです。

 でも、カルシウムや鉄分の含有が多い温泉を保有する宿では、日々、このスケールの除去作業と戦っているわけです。
 給湯パイプをはずして、木づちでトンカン、トンカン叩きながら、パイプ内にこびりついたスケールを削ぎ落とします。
 この作業をおこたると、パイプ内が細り、給湯される湯量が少なくなります。
 そして、しまいには完全に目詰まりを起こして、給湯不能の事態にもなりかねません。

 でも、地上に出ているパイプならば、なんとか業者の手を借りてでも取り除くことができます。
 問題は、地中奥深くまで掘削して温泉をくみ上げている場合です。


 数日前、群馬県太田市の日帰り入浴施設が、温泉のくみ上げパイプ内の堆積物除去工事を行ったが、湯量は回復しなかったとの記事が新聞に出ていました。
 地下1070メートル付近に堆積物があり、1千万円以上の費用をかけて除去工事を行ったそうです。
 しかし、堆積物は取り除けたものの、湯量は戻らなかった。

 市では、「原因は源泉の枯渇ではない。さらに深いところにまだ堆積物があるため」 として、たとえ、それを除去しても湯量が戻る確証がないことから、工事の続行を断念したとのことでした。


 なんとも、愚行であります。
 何千メートルと地下を掘って源泉を掘り当てても、一度目詰まりが起きると人間の手では、どうすることもできないということでしょうか?
 温泉が自然湧出でしかありえなかった昔には、絶対に起こりえなかったことであります。


 愛しい奥歯を見ていたら、そんなことを考えてしまいました。
   


Posted by 小暮 淳 at 18:50Comments(4)温泉雑話

2012年02月21日

1年間ありがとうございました


 本日の放送をもちまして、NHK-FMラジオ 『群馬は温泉パラダイス』 が終了いたしました。
 リスナーのみなさん、1年間ありがとうございました。

 最終回の今日は、「ぐんまの湯力(ぢから)」 と題して、1年間を振り返って総集編でお送りしました。
 お相手の金井一世キャスターも、1年間の成果を見せてくれましたよ。

 群馬には、温泉がいくつあるのか?
 どんな温泉があるのか?
 いい温泉は、どこが違うのか?
 そして、その見分け方は?

 すべて1年間の放送で、お話してきたことです。
 でも、しっかり勉強していて、1年前に比べると、かなりの温泉通になっていました。

 一世ちゃんは、長野県の出身で、放送が始まった昨年の4月は、まだ群馬に来たばかり。
 知っている群馬の温泉だって、草津温泉と伊香保温泉の2つだけ!
 それが今では、頻繁に 「湯守(ゆもり)」 とか 「足元湧出温泉」 なんて言葉をポンポン使っていますからね。

 放送の最後に、一世ちゃんいわく
 「1年間で一番印象的だったのは、“いい温泉は引き算” という言葉でした」

 さすがです!
 そうなんです、あれもある、これもあるという足し算の温泉ではなく、あれもない、それもないけど、「うちには極上の湯が湧いているぜ!」 という頑固な湯守がいる宿が、いい温泉なんですね。
 このことを一世ちゃんは、ちゃーんと覚えていてくれたんです。

 正直、ビックリしました。
 でも、嬉しかったですよ。
 僕が、一番言いたかったこと、そして温泉で一番大切なことを、しっかり彼女自身がリスナーに向かって伝えてくれたのですから。
 一世ちゃん、本当に1年間ありがとうございました。
 ぜひ、また機会がありましたら、さらなる上級編の温泉話をしましょう。


 と、感謝の気持ちでスタジオを後にしました。

 す、す、すると ! ! ! !
 な、な、なんと、スタジオの外では、他のアナウンサーやキャスター、ミキサーさんなどスタッフの人たちが勢揃いしているではありませんか~~!
 そして、拍手で迎えられました。

 「えっ?・・・どういうことですか?」
 と戸惑っていると、曲紹介を終えた一世ちゃんがスタジオから飛び出してきて・・・

 そうです、拍手の中、一世ちゃんから花束が渡されたのであります。

 「1年間ありがとうございました」
 と一世ちゃんが言うと、他のスタッフの人たちからも、
 「ありがとうございました」 と言葉のシャワーが。

 おいおい、勘弁してよ、オジサンは最近、富に涙腺がゆるくなっているんだからさ。
 なんだか卒業式みたいで、胸に込み上げて来るものがありました。

 「こちらこそ1年間 、大変お世話になりました。来月から一世ちゃんに会えなくなると思うと、もう淋しくて淋しくて・・・」
 と、少々大袈裟に泣く真似なんかしながら、お別れのあいさつをしたのです。

 すると、一世ちゃんの上司にあたる男性アナウンサーのHさんが、
 「いや、また会えますよ。4月から、いよいよ群馬も県域テレビ放送が始まるんですよ。近いうち、ご連絡します。また、お力を貸してください」 ですって。

 えっ! じゃあ、一世ちゃんに会うのは最後じゃないのね!
 もしかして、今度はテレビ?
 と、いうことは、『一世の秘湯に入ろう!』 なんて番組も、ありってことですか?

 なんだか、楽しくなってきましたよ。
 でも、間違っても、Hさんとじゃないでしょうねぇ。
 『上州 おやじたちの湯めぐり』 なんて、誰も見ませんて!


 スタッフのみなさん、リスナーのみなさん、1年間ありがとうございました。
 また、お会いしましょう!
  


Posted by 小暮 淳 at 21:03Comments(3)温泉雑話

2012年02月20日

天然温泉利用証の評価


 今日は、以前お話した 「温泉分析書の見方」 「温泉利用状況を読む」 のつづきです。

 みなさんは 「天然温泉表示看板」 というのを見たことがありますか?
 旅館の玄関などに掲げてある “天然温泉” と書かれた看板です。
 日本温泉協会が発行・認定しているものですが、古くは1970年代からのものです。
 でも、今日、僕がお話するのは、この看板ではありません。
 2005年5月以降に発行された “新しい”「天然温泉表示看板」 についてです。

 この看板には、「天然温泉利用証」 が表示されています。
 以前、「温泉分析書」 が源泉のカルテ、「温泉利用状況」 が浴槽のカルテだと話しましたが、この 「天然温泉利用証」 は、ズバリ! ミシュラン的5段階評価が記された、源泉と浴槽の “成績表” なのであります。

 「温泉分析書」 と 「温泉利用状況」 では知りえなかったかった、実際に入る温泉の 「自然度」 や 「適正度」 が詳しく表記されている “虎の巻” ともいえます。

 ただし、まだ発行開始から年月が浅いため、なかなかお目にかかれないのが現状です。
 県内でも、掲示している温泉は、いくつもありません。
 僕が知る限りでは、法師温泉「長寿館」、鹿沢温泉「紅葉館」 で見たことがあります。
 (今、思い出せるのはこの2ヶ所ですが、まだあったかもしれません)

 では、どうして看板を掲げる旅館が少ないのか?
 それは、温泉を評価されるからであります。
 当然、上記の2軒のように上質な温泉を所有している温泉宿は、評価も高いですから堂々と掲示しています。


 「天然温泉利用証」 には、まず 「温泉に関する17の表示項目」 というのがあります。
 ①源泉名 ②湧出形態 ③泉温・湧出量 ④源泉所在地 ⑤泉質名 ⑥掲示用泉質名 ⑦引湯方法・距離 ⑧循環装置の有無 ⑨給排湯方式 ⑩加水の有無 ⑪加温の有無 ⑫新湯注入量 ⑬注入温度 ⑭浴槽温度 ⑮湯の入替頻度 ⑯入浴剤使用の有無 ⑰消毒の有無

 以上ですが、いかがですか?
 「温泉分析書」 や 「温泉利用状況」 には記載されていない項目が、グッと増えていると思いませんか?
 白骨温泉の温泉偽装問題以降、温泉ファンから情報の開示が求められたため、より具体的な温泉情報が公開されるようになりました。

 たとえば ⑦「引湯方法・距離」 。
 源泉から使用施設までの距離と、どのような方法で引湯されているかが明記されています。

 ⑫「新湯注入量」 では、1時間あたりどれくらい新鮮な温泉が注入されているかが分かります。
 ⑮「湯の入替頻度」 は、浴槽の温泉を何日に1回換水して清掃をしているかが記載されています。

 そして最終に、次の6つの項目に対して、5段階評価が下されています。
 「源泉」「泉質」「引湯」「給排湯方式」「加水」「新湯注入率」
 この項目に、サイコロの目を図案化した1~5のマークが記入されています。

 もちろん “オール5” が最高評価の満点となります。


 温泉好きには、たまらない評価表ですが、あくまでもこれは専門家が下した “目安” です。
 やはり、「ベスト・オブ 温泉」 は、自分で入って、自分で感じて決めるべきだと思います。

 ぜひ、自分だけの 「ベスト・オブ 温泉」 を探しに出かけてください。
   


Posted by 小暮 淳 at 21:09Comments(0)温泉雑話

2012年02月19日

群馬は温泉パラダイス<最終回>


 昨年の4月から毎月、NHK-FMラジオで放送している 「群馬は温泉パラダイス」。
 早いもので、明後日の放送で最終回を迎えます。

 番組を持つきっかけは、昨年のお正月番組にゲスト出演し、群馬の温泉話をしたことからでした。
 温泉番組の話をいただいたときは、正直、嬉しかったですね。
 「これで、群馬の温泉の魅力を本以外でも伝えられる!」 と思いました。
 1年間あれば、じっくり、詳しく、多方面から温泉の話ができるからです。

 お相手は、若くて可愛い金井一世キャスター。
 もう毎月、スタジオへ行くのが楽しくて楽しくて。
 一世ちゃんも、回を重ねるごとに、どんどん温泉に興味を持ってくれて、番組以外のプライベートでもメールなどで温泉の話をするようになりました。
 でも、1年なんて、早いものですね。もう最終回であります。

 ちなみに、この1年間にどんな温泉話をしてきたかというと・・・


 第1回 「群馬の温泉」
 群馬にはどんな温泉があるのか?その特徴は?温泉大国と呼ばれる理由など。

 第2回 「温泉とは?」
 温泉法による温泉の定義、温泉と鉱泉の違い、温泉の成り立ちなど。

 第3回 「湯守(ゆもり) の一軒宿」
 分湯と自家源泉の違い、湯を守る一軒宿のこだわり、湯守の仕事など。

 第4回 「ぬる湯の魅力」
 夏涼しく心と体に効く温泉、持続浴と微温浴、群馬のぬる湯温泉の紹介など。

 第5回 「温泉の楽しみ方」
 温泉へ行く目的、泉質・温度・色・湯量の楽しみ方など。

 第6回 「いい温泉の選び方」
 温泉に求めるもの、いい温泉とは? 自然湧出・自然流下・源泉かけ流しについてなど。

 第7回 「湯治場と観光温泉」
 温泉はすべて湯治場だった、観光温泉のきっかけとなった 「一夜湯治事件」 など。

 第8回 「温泉の入浴マナー」
 温泉の作用と効果、かけ湯・半身浴・かけ流し温泉の入り方など。

 第9回 「四大温泉と三大名湯」
 群馬を代表する温泉地、水上温泉はなぜ三大名湯に数えないか? 9大温泉地など。

 第10回 「仕上げ湯と合わせ湯」
 草津の仕上げ湯として栄えた温泉地、連泊(湯治) と転泊 (合わせ湯) の違いなど。


 以上、10回の放送でした。
 そして、明後日の最終回では 「ぐんまの湯力(ゆぢから)」 と題して、1年間のおさらいを兼ねて、改めて群馬の温泉の魅力についてお話しします。
 また、リスナーから寄せられた感想や意見、質問にもお答えします。
 ぜひ、お聴きください!


        群馬は温泉パラダイス
     第11回 「ぐんまの湯力(ゆぢから)」

 ●放送局  NHK-FM前橋 81.6MHz(群馬県南部)
         ※他のエリアは周波数が異なります。
 ●番組名  トワイライト群馬
         「群馬は温泉パラダイス」
 ●日  時  2月21日(火) 18:00~18:30
 ●出  演  金井 一世(キャスター)
         小暮 淳 (フリーライター) 
   


Posted by 小暮 淳 at 17:41Comments(2)温泉雑話

2012年02月18日

「みなかみ」 を考える企画展


 久しぶりに、今日は朝からバンドの練習を行なってきました。
 やっぱ、大きな声を出して歌うのは、精神的にも肉体的にも健康でいいですね。
 なんだか、今日は一日とっても体調がいいですよ。

 現在、僕は2つのアマチュアバンドをやっています。
 今日は、「KUWAバン」 というコピーバンドの練習日でした。
 曲目は、60年代のグループサウンズと70年代のフォークが中心です。
 ふだんは、そんなに身しめて練習なんてやらないお気楽バンドのなのですが、ライブが近づいたときだけは、真面目に練習をするのです。

 で、そのライブというのが、来月13日に上牧温泉で開催する 「還暦ライブ」 であります。
 えっ、僕ですか? 僕はまだ還暦(60歳) にはなりませんよ。
 僕ではなく、KUWAバンのリーダー、桑原一さんの還暦を祝って、関係者および一般客も呼んでパァ~!とにぎやかにやりましょうというイベントです。

 でもね、うちのリーダーは “遊んでも、ただじゃ遊びません” って。
 ここは、しっかり仕事に結び付けます。
 桑原氏は、バンドのリーダーでもありますが、僕が所属するクリエイティブ集団 「プロジェクトK」 の代表でもあります。
 プロジェクトKは現在、ディレクター、デザイナー、コピーライター、カメラマン、イラストレーター、建築家など、各ジャンルのクリエイターたちが21名参加しています。
 で、「どーせ、みなかみ町でライブをやるなら、メンバー全員で “外から見た みなかみ” というテーマで企画展を開いたら?」 という桑原氏の発案で、ライブと同時開催されることになりました。

 以前もブログに書きましたが、まだまだ 「水上」 と 「みなかみ」 の区別が付かない人が群馬県民でも大勢います。
 「みなかみ」 は、平成17年に水上町と月夜野町と新治村が合併して誕生した町の名前です。
 これにより月夜野町にあった上牧温泉も、新治村にあった猿ヶ京温泉も、現在は 「みなかみ町」 となりました。

 このあたりの不明瞭さ、合併による弊害、また水上温泉中心街の衰退問題等も含めて、プロジェクトKのクリエイターたちが各々のアイデアを出し合って、“未来のみなかみ町” を提案しようというイベントです。
 当日は、会場内に、キャラクターやシンボルマーク、キャッチフレーズ、ポスター、写真、グッズ、スィーツ、料理などなど、ジャンルの枠を超えたさまざまな企画がパネル展示されます。

 そして、夜は、お待ちかねの 「KUWAバン」 のライブで盛り上がりましょう!
 今回は、懐かしのグループサウンズ&フォーク13曲(メドレーを含む) に加え、お約束の 「GO!GO!温泉パラダイス」(踊り付き) と、新曲の “みなかみソング” も披露いたします。
 入場は無料ですから、お時間のある方は、ぜひ遊びに来てくださいね!

 ※当日、会場では、僕の著書 「群馬の温泉シリーズ」 の販売&サイン会も行ないます。



         KUWAバン還暦ライブ
              &
   プロジェクトK 「みなかみ」 を考える企画展

 ●会場 : 上牧温泉 「辰巳館」 1階ロビー
       群馬県利根郡みなかみ町上牧2052
       TEL.0278-72-3055
 ●日時 : 2012年 3月13日(火)
       ・企画展 13:00~終日
       ・ライブ  20:30~21:30
 ●料金 : 入場無料
 ●協力 : 上牧温泉 辰巳館、みなかみ町観光協会、上毛新聞社
   


Posted by 小暮 淳 at 17:45Comments(0)ライブ・イベント

2012年02月17日

自叙伝の代筆


 昔はよく、文章の代筆という仕事を頼まれました。
 いわゆるゴーストライターであります。

 短いものでは、冠婚葬祭やパーティでのスピーチ原稿。
 長いものでは、エッセーやその人の自叙伝です。

 一度だけですが、新聞の連載というのを代筆したことがありました。

 某施設の元支配人が、新聞社から月1回のエッセーの連載を頼まれて、書けもしないのに引き受けてしまったとのこと。
 困り果てたその人は、知人を介して、僕に泣きついて来たというわけです。
 話を聞けば、面白そうな半生をお持ちの人だったので、代筆を担当することにしました。

 毎月1回、その人とお会いして、話を聞いて、文章に仕上げます。
 その人が僕の原稿に目を通して、間違った表記や表現等があれば修正して、完成させます。
 その人は、何食わぬ顔で、その原稿を新聞社へ送るわけです。
 これを12回、1年間連載しました。

 と、思えば、某タレント本のゴーストライターをしたことがあります。
 こちらはページ数が多いので、“代筆” といったレベルではありません。
 テープを回したインタビューを何十回とこなし、仕事先へ一緒に同行して、その人が体験したことを、いかにも本人が書いたかのように僕が書きます。
 当然、製作日数は半年以上かかりました。

 で、僕はその時、思ったのですよ。
 「こりゃ~、自分の本を書くほうが数倍、楽だわぁ~」 とね。
 要は、自分を殺して、その人になりきって書くわけですから、とにかく疲れるんです。
 しかも、大変な思いをして書き上げても、「違う!」 とか 「気に入らない!」 と言われれば、書き直しになります。
 で、挙句の果て、本が出来上がっても、どこにも自分の名前はありません(ゴーストですから、当然ですが)。

 それに比べて、自分の名前で書く、自分の本は、とにかく楽しい!
 僕が追いかけたいテーマを、自分のやり方で取材をして、自分の好きなように書けるのですから。
 どうしたって、ゴーストなんかより、記名での出版のほうが、いいに決まっています。

 ま、そんな理由もあり、ここ10年くらいはゴーストの仕事はしていませんでした。
 が、最近、珍しく自叙伝の代筆相談がありました。
 依頼ではなく、相談なのです。
 というのも、いろいろと事情がありそうな話で……。

 先日、出版の担当者とお会いして、話を聞いてきました。

 自叙伝を自費出版したいと依頼してきたのは、某町の元町長をなさった人です。
 お歳は、88歳だといいます。
 しかも、自分では原稿を書けないから、すべてゴーストライターに書いて欲しいという。

 いやいや、話を聞いただけでも、大変な仕事であります。
 まず、聞き取りをするにも高齢過ぎます。
 また、自叙伝を出そうという人なのに、まったく自分では書く気がないというのも、困ったものです。

 担当者いわく、
 「以前、高齢な方の自叙伝を作ったことがあるのですが、製作途中で亡くなられてしまったのですよ。いゃあ~、困りました」

 当然、そんなこともあるわけです。
 なぜ、もっと早く、コツコツと自分で書きためておいて、出版にこぎ着けなかったのでしょうかね?


 自叙伝を晩年に出版する人って、だいたい決まっているんですよ。
 政治家や医者、社長、校長先生などです。
 ですから、市町村長なども、お仲間ですね。
 自分が生きてきた証しを、文字にして後世に残しておきたいのでしょうが、周りにしたら 「そんなものは、もらっても読みたくもない」 ありがた迷惑だったりするのです。

 まあ、自分の力で書き上げる分には、誰も文句を言わないでしょうが、金にものを言わせて、ある事ない事を他人に書かせるというのは、いかがなものかと思うのですがね。
 芸能人や有名人ならいざしらず、普通の人の人生なんて、誰も興味なんてないことに、きっと本人は気づいていないのでしょうな。
 金さえ出せば、誰でも本が出せるというのも、おかしな話ではありますけど。


 ま、そんなわけで、88歳のおじいちゃんの自叙伝の件は、もう少し様子をみることになりました。
 僕から担当者には、「まず最初に、ご家族の同意を確かめてください」 と伝えました。
 いくら本人のお金だといっても、出版となれば、何百万というお金のかかることですからね。
  


Posted by 小暮 淳 at 18:00Comments(2)執筆余談

2012年02月16日

背中に書かれた文字


 息子が高校へ進学したときのこと。
 約束どおり、携帯電話を買ってやったら、毎月膨大な額の請求が届くようになりました。
 いつもは、息子に対して、あまり何も言わない僕ですが、さすがにキレてしまい、
 「携帯電話を持つのをやめるか、自分で払え!」
 と一喝、雷を落としました。

 でも、今の子なんですねぇ。
 「分かったよ」 と言って、翌日から求人情報誌を眺めていたかと思うと、翌週からさっさとアルバイトに出かけて行きました。
 家内とは、「どうせ長続きしないさ。そのうち泣きついてくるよ」 なんて話していたのですが・・・

 すでに、あれから4年が経ちました。
 大学生になった今でも、同じバイト先で働いています。

 そんな息子が、昨晩、家族全員を外食に招待してくれました。
 それも、バイト先のファミリーレストランです。

 数日前、家内から 「私たちに食事をごちそうしてくれるらしいわよ」 と聞いたときは、「まさか、冗談だろ?」 と話していたのです。
 ところが昨日になって 「どうも本当らしいわよ」 と、また家内。
 なんでも家内の誕生日プレゼントなのだそうです。


 家族で外食することは、別段、珍しいことではないのですが、息子の運転する車に全員で乗って出かけるというのは初めてのことです。
 それよりも、息子の車に乗ること自体が僕は初めてでした。

 いくらバイトをしているからとはいえ、やはり親としては遠慮をしてしまいます。
 メニューを見ても、なぜか安い料理を選ぼうとしてしまうんですね。
 家内も同様のようで、安い料理のページばかり眺めています。

 「なんでも好きなものにしなよ。それなりに金は持ってきているからさ」 と息子。
 もー、それだけで、僕の涙腺はウルウルしはじめてしまいましたよ。

 なにを一丁前なことを言っている。スネカジリのくせに!
 まだ10年、早いんじゃねえの~?
 なーんてね。

 息子も、かなり無理をしているようで、全員が1品ずつ頼んだのに、サイドオーダーのメニューをいくつも頼んでくれました。
 さすが、4年も働いているバイト先です。
 「これは、こうやって食べるといいよ」 とか 「これは一番人気のメニューだから」 とか、説明までしてくれます。

 家内を見れば、終始、顔をほころばせて、ご満悦の様子。
 まず、僕の前では決して見せない笑顔であります。
 まさか、4年前に息子を携帯電話のことで、怒鳴り飛ばしたことが、こんな形で返って来るとは思いもよりませんでした。


 “子は親の背中を見て育つ” といいますが、息子に僕の背中は、どのように映っていたのでしょうか?
 「貧乏」「頑固」「自由」「偏屈」「変人」・・・・・
 間違っても、「尊敬」 の2文字だけはないような気がするのです。

 食事が終わって、テーブルを立とうとした時、息子がサッと伝票を取り上げました。
 そのしぐさに、なんとも言い知れぬ感慨を覚えたのであります。
 僕の知らない間に、着実に大人の階段を上っている、もう1人の息子の姿を見たような、嬉しいような、淋しいような……。

 レジへ向かう息子の背丈は、とっくに僕を10センチ近くも抜いています。
 でも、その後姿は、10センチなんてものじゃなくて、その何倍も大きな背中に見えました。

 そして、その背中に書かれていた文字は……

 最近、歳のせいか、涙もろいもので。
 実は、あまりハッキリと、読めなかったのですよ。
 でもね、4年前のことを恨んではいなかったことは確かです。


 今年の夏、彼の20歳の誕生日がきたら、今度は僕が居酒屋へ連れて行ってやろうと思います。
 その時のお勘定ですか?
 また、息子が払ってくれると助かるのですがね。
   


Posted by 小暮 淳 at 18:58Comments(3)つれづれ

2012年02月15日

印税生活は夢のまた夢


 自営業のみなさ~ん、いよいよ明日から確定申告の受付が始まりますよ!
 準備のほどは、進んでおりますか?

 そういう僕ですか?
 エッヘン! なななんと、早くも今日、すべてを済ませて、郵便にて送ってしまいました!
 自分でも驚いていますよ。
 こんなに早く済ませたことは、かつてありませんでしたからね。
 えっ? そんだけヒマなんだろうって?
 ピンポ~ン、正解です。
 でもね、ヒマなだけではないんですよ。
 僕の場合、簡単なんです。

 僕の職業名は、「著述業」 です。

 文章を書いて生業(なりわい)を立てているわけですから、まったく仕入れがありません。
 ゆえに、支払いもありません。
 単純に仕事をした分だけのギャラが振り込まれるだけですから、収入が明快なんですね。

 面倒くさいのは、必要経費の計算だけです。
 1年間ため込んだ領収書の類いを、暇な時間を見つけては整理して、電卓で計算しています。
 あとは、収入から経費を引いて、申告するだけですから、そんな手間ではありません。

 で、確定申告を終えて、1年間の収入の数字を見つめて、今年も 「ア~~~ッ」 と大きなため息です。
 「オレって、やっぱり金儲けの才能は生まれ持ってないんだよな」 ってね。
 こんなことを、もう20年近くも毎年くり返しているんですから、イヤになってしまいます。


 さっき、僕の収入は明快だといいましたが、それでも記載上の種類(種目) は、何とおりかあります。

 まず筆頭は、「原稿料」 です。
 雑誌や新聞、その他の媒体に書いた原稿の対価です。
 現在、これが収入の大半を占めています。

 あとは「講師料」 や 「出演料」 です。
 「講師料」 は、講座やセミナー、それから講演に呼ばれたときのギャラです。
 「出演料」 は、ラジオなどのメディアやイベントに出演したギャラとなります。

 で、もう1つ、微々たるものですが 「印税」 があります。

 実は、僕がこの職業を選んだのも、この “印税” という言葉に多大なるあこがれを持っていたからなんですね。
 「いつか確定申告の所得欄に、“印税” と書いてやるぞーーぉ!」
 と、目標にしていました。

 でもね、いざ記入してみると、その額の低さに……

 いえいえ、額は低くても、印税は印税です!
 胸を張って、黒のボールペンで、しっかりと楷書体で書きましたよ。


 「いやぁ~、小暮さんは印税生活だものなぁ。いいよなぁ~」
 と、今日も心無い人が、僕をからかってくれましたよ。
 こんなときは、すかさず僕も言い返します。

 「印税だけじゃ、生活できませんって!」

 みなさん、勘違いしていますよ。
 村上春樹や東野圭吾じゃないんだらさ。
 本の売上高が違うんだってばっ!

 こっちは、地方のしがない一介のライターですぞ。
 ベストセラー作家と比べないでくださいな。

 確かに、まだ夢は見ていますよ。
 目指せ、夢の印税生活!ってね。
 でもね、そんなの夢のまた夢なんですって。

 だから、ほっといて、ちょーだい。
 勝手にひとりで、夢を見ていますから・・・(トホホ)
   


Posted by 小暮 淳 at 17:26Comments(5)つれづれ

2012年02月14日

やぶ塚温泉 「開祖 今井館」②


 開湯は天智天皇の時代と伝わるから、1300年以上も前から湧き続けている源泉「巌理水」。
 その昔、八王子山の麓、藪塚の地に 「湯の入」 というところがあり、そこには “湯権現” という社があった。
 その社の中段に薬師如来が祀られ、岩の割れ目から温泉が湧き出していたという。

 この湯権現が、「開祖 今井館」 の裏にある現在の温泉神社(日本最古)であり、湧き出ていた温泉こそが代々守り継がれて来た 「巌理水」 である。


 と、いうことで、今日は雨の中、約2年ぶりに 「巌理水」 を堪能してきました。

 9代目主人の今井和夫さんも、女将の道予さんも、お変わりなく元気で、またまた茶をいただきながら、湯と宿の歴史話をじっくりと聞いてきましたよ。
 まあ、屋号に “開祖” と付くぐらいですから、歴史は古いんです。

 かの武将、新田義貞が鎌倉に攻め入ったとき、傷ついた兵士たちをこの湯で治しことから 「新田義貞の隠れ湯」 とも呼ばれているくらいです。
 また自然主義作家の文豪、田山花袋は 「間代と蒲団と湯銭で七八銭、仕出屋から持運ぶ三食が二三十銭、都合六十銭で一日いられる温泉場、こういう温泉場はあまり沢山ない。こういう温泉場を望む人は、東武線の藪塚か西長岡に行くに限る」 と、著書 『一日の行楽』 の中で記しています。
 (※西長岡温泉については、当ブログ 『消えた温泉 「西長岡温泉」』 参照)

 昔は、6~7軒の温泉宿があったといいますが、現在は3軒の温泉旅館と2軒の観光旅館が、ひっそりと営業を続けている群馬県最東端の温泉地であります。


 温泉神社にお参りをしてから、お待ちかねの 「巌理水」 を浴みました。
 源泉の温度は約15℃という冷鉱泉ですから、もちろん加温はしていますが、加水なしの “100%巌理水” であります。
 泉質は、弱アルカリ性でメタけい酸含有の炭酸泉。
 相変わらず、トロトロのゲル状の浴感は健在でしたよ。

 体をさするたびに、ヌル、ツル、ヌルヌル、ツルツルであります。
 同行のカメラマン氏も、「うぉぉぉぉ、ヌルヌルやぁ~!」 と感激のご様子。
 しばし、ローションのような浴感を2人で楽しんだのであります。


 なんと湯から上がると、思わぬサプライズが!
 女将さんから、バレンタインデーのチョコレートをいただいてしまいました。
 (マジ、うれしかったです) 

 女将さん、ありがとうございます。
 いい記事を書きますからね。
   


Posted by 小暮 淳 at 19:11Comments(4)温泉地・旅館

2012年02月13日

温泉利用状況を読む


 昨日は 「温泉分析書」 の見方についてお話しましたが、今日は、その続編です。

 昨日もお話しましたが、「温泉分析書」 に書かれている事柄は、すべて “湧出地での源泉” のデータです。
 ゆえに、これから入る浴槽の中の温泉と同じとは限らないということです。
 ここが、一番のポイントです!

 ですから、同じ源泉を引湯していて、同じ 「温泉分析書」 を掲げていても、宿によって浴槽内の温泉の状態が異なるということです。
 言い換えれば、ここからが “湯守” の腕の見せ所となります。


 では、どうしたら浴槽の中の温泉を知ることができるのでしょうか?

 脱衣所には 「温泉分析書」 の他に、良心的な宿や施設であれば 「温泉成分等掲示表」 というものが掲示されています。
 これは源泉について書かれた 「温泉分析書」 とは違い、浴室別の温泉の利用状況が記されています。

 まず最初に 「温泉利用施設名」。
 ここには、旅館やホテル、施設の名前が書かれています。
 次に 「浴室名」。
 大浴場(男湯内風呂) などです。

 源泉名、泉質、温泉成分と続き、一番下に 「温泉利用状況」 という欄があります。
 これが、これから入ろうとしている浴槽内の “温泉のカルテ” です。
 ここには、「加水の状況」「加温の状況」「循環・ろ過状況」「入浴剤の有無」「消毒剤の有無」 の5項目が表示されています。

 「加水の状況」 には、加水している場合の理由も表記されています。
 ・源泉が高温のため、源泉の湯量が少ないため・・・など。

 「加温の状況」 も同様です。
 ・源泉温度が低いため常時、冬期のみ・・・など。

 「循環・ろ過状況」 には、使用している場合はその理由が書かれています。
 ・衛星管理や浴槽内の温度を均一にするため・・・など。
 源泉かけ流し(完全放流式) の場合は、“使用していません” と表記されています。

 「入浴剤の有無」「消毒剤の有無」 には、使用しているか、していないか。使用している場合は理由が表記されます。
 特に消毒剤の使用については、“常時なのか”“清掃時のみ” なのかが問われます。


 いかがですか?
 これで、ずいぶんと浴槽の中の温泉の状態が見えてきたと思いませんか?

 もちろん、5項目すべてに 「していません」 と書かれている温泉がベストですが、そうでない場合でも僕は、温泉分析書と照らし合わせながら、その理由を推測しながら温泉を楽しんでいます。

 たとえば、「湧出量があんなにあるのに加水しているのは、分湯されている量が少ないのかな」 とか、「源泉の温度が高いのに加温しているのは、湧出量が少なく貯湯しているからかな」 とか、宿の状況をさぐりながら入浴するのも楽しいものです。

 ぜひ、みなさんも今度から温泉に行ったら、「温泉分析書」 と 「温泉利用状況」 を照らし合わせて、推測しながら入浴してみてください。
 また違った温泉の楽しみ方ができると思いますよ。
   


Posted by 小暮 淳 at 22:20Comments(2)温泉雑話

2012年02月12日

温泉分析書の見方


 僕は温泉宿を取材する場合、着いたら、まず最初に 「温泉分析書」 のコピーを提出してもらいます。
 すべての取材は、ここから始まります。

 最近は、浴室の脱衣所に掲示されているので、みなさんも見たことがあると思います。
 ただ、小さな字で書かれているため、とても読みづらく、宿によっては読めない高い位置に掲示されていることもあります。
 なので、僕は取材資料として、必ずコピーをいただきます。

 では、温泉分析書の何を見るのか?

 その前に、温泉分析書とは何か? また何が書かれているのかについてお話ししましょう。
 温泉分析書は、環境省に登録された分析機関によって作成された “温泉のカルテ” です。
 温泉の温度や湧出量、成分、分量などが、細かく書かれています。
 かなり専門的な分野なので、一般の人には何のことか分かりませんし、どうでも良かったりする事柄も多いのです。

 が!
 この中には、これから入ろうとする温泉の状態を知る手がかりが、たくさん書かれています。
 いわば、温泉の “取り扱い説明書” なのであります。


 僕は分析書を手にすると、まず1番最初の項目 「1.依頼者」 を見ます。
 依頼者(申請者) とは、源泉の所有者のことです。
 自家源泉を所有していれば、宿の住所と主人の名前があります。
 また地域で共同所有している場合は、代表者の住所と名前が書かれています。

 次に 「2.温泉地名・源泉名および湧出地点」 を見ます。
 この欄には、「○○温泉」 などといった温泉地名と、源泉の所有者が付けた固有の源泉名(「○○の湯」「共有○号泉」など) が記載されています。

 で、この2つの項目から、大事なことが読み取れます。
 まず、依頼者が宿の主人であれば、“自家源泉” であること。
 次に、湧出地点の住所と宿の住所を見れば、源泉が浴槽へ届くまでの “距離” を知ることができます。
 同一、もしくは番地違い程度であれば、新鮮な源泉を使用している可能性が高くなります。

 いかがですか?
 これだけでも、お湯の状態が見えてきましたよね。

 さらに、「3.採水地点における調査および試験成績」 を見てみましょう。
 この欄には、調査した年月日やその時の気温から、泉温(源泉の温度)、湧出量、それに 「自然湧出」か「掘削自噴」か「動力揚湯」 かの湧出形態までが記載されています。

 ここで一番チェックしたいのは、泉温と湧出量です。

 泉温が低ければ加温の可能性がありますし、湧出量が少なければ加水をしている可能性があるからです。
 泉温は、入浴の適温とされる42℃を基準に考えれば、判断がつくと思います。
 問題は、湧出量です。

 いったい、毎分何リットルあれば、新鮮な温泉をかけ流しにできるのか?

 自家源泉ならば、すべて利用できますから、数十リットルの湧出量で充分かと思います(浴槽のサイズにもよりますが)。
 ただし、共同源泉から引き湯している場合は、判断しかねます。
 どのくらいの量を分湯しているのか、これは宿の主人に直接たずねるしかありませんね。

 ちなみに、一般家庭の水道の蛇口から出る水の量が毎分約12リットルですから、これを目安にしてください。


 さて、たかが3項目を見ただけでも、たくさんの温泉情報が詰まっていることが分かっていただいたと思います。
 しかし、これは、あくまでも “湧出地での源泉のデータ” であることをお忘れなく!

 これから入る “浴槽の中の温泉” ではありません。

 浴槽の中の温泉の状態を知る手がかりについては、また次回にお話しします。
   


Posted by 小暮 淳 at 18:28Comments(2)温泉雑話

2012年02月11日

根拠のない自信 ②


 先日、さる男性から 「相変わらず、根拠のない自信をお持ちですか?」 と聞かれました。

 なぬ? 根拠のない自信だ?
 よく知っているじゃない?
 と、年下の者に言われたので、最初はムッとしたのでありました。

 でも、「根拠のない自信」 とは、僕が昔から使っているフレーズです。
 「どうして、小暮さんはブレずに生きられるのですか?」
 と問われれば、「はい、根拠のない自信があるからです」 と答えます。
 また、以前に当ブログにも書きましたから、彼はそのフレーズを覚えていたのかもしれませんね(2011年3月7日 「根拠のない自信」 参照)。

 この “自信” には、当然、根拠がないので理由はありません。
 ただ、なぜ、僕が根拠のない自信を持つようになったかは、判明しています。


 10代後半のことですから、34~5年も前のことです。
 当時、僕は東京に暮らし、昼間はアルバイトをしながら夜間の音楽学校に通っていました。
 基本科に在籍していたので、作曲や声楽などさまざまな授業があったのですが、その中の1つにイタリア歌曲の時間がありました。
 講師はS先生という中年の女性で、音大の教授でした。
 その先生が言った言葉が、後の僕を変えたと言っても過言ではありません。

 S先生いわく
 「ほめられたら、うぬぼれなさい。けなされたら、見返してやりなさい」
 たったこれだけの言葉でしたが、全身にハガネが入ったような生きる勇気をもらいました。

 要は、モノをつくり、表現する者は、みすみすと他人の意見に左右されるな!ということです。
 ただし、認めてもらったときは、素直に喜んで自分をほめてやれ!と。

 ほめられたら 「自分天才だ!」 と有頂天になり、けなされたら 「なにくそ!」 と必ず相手に認めさせる。
 このくり返しを30年以上も続けていたら、いつしか 「根拠のない自信」 が身についてしまったのです。


 で、以前にも書きましたが、現在、僕のまわりには、この 「根拠のない自信」 を身につけた人が多いんですね。
 “バカ” と言われようが、“貧乏” とののしられようが、己れを貫いている人たちばかりです。

 でもこれって、はたから見ていると、ただの頑固者、偏屈者ですよね。
 まず、社会との順応性がありません。
 ゴーイング マイ ウエイ であります。

 これはこれで困ったものでありますが、自分を含めて、今さら言っても聞く耳を持つ人たちじゃありませんって。
 ならば、お互い、「根拠のない自信」 とやらの、お手並み拝見といたしましょう。

 と、いうことで、なぜか、いつも、自信だけは売るほど持ち合わせているのです。
 (誰か~、この自信、買ってちょーだい!)
  


Posted by 小暮 淳 at 18:02Comments(6)つれづれ

2012年02月10日

取材拒否の宿


 昨日、取材拒否をされてしまいました。


 情報誌の編集をしていた頃なら、別段珍しくないことなのですが、ここ数年ではなかったことなので、少々へコんでしまいました。

 取材拒否とは、読んで字のごとく 「取材」 を 「拒否」 することです。
 たいがいは取材される側が使う言葉ですが、その逆も取材拒否ということがあります。
 取材する側が拒否することです。

 「乗車拒否」 といえば、乗せる側の拒否を言う場合が多いですね。

 で、雑誌の場合は、圧倒的に取材される側が拒否する場合が多いのですが、大別すると2パターンあります。
 ① 行列のできる店などの繁盛店で、取材を受けることによって、これ以上お客に迷惑をかけたくない場合。
   または、経営者が根っからのメディア嫌い。
 ② 取材を受けたことがなくて、“取材 = 広告” と勘違いしている場合。
   話を聞く前に 「うちは結構です」 と、にべもなく断られる。

 ま、①の場合は稀な店で、ほとんどは②のパターンとなります。
 その原因として、媒体の知名度が関係してきます。

 「月刊○○ですけど・・・」 の○○が、初めて聞いた名前だと、先方も警戒します。
 これが 「△△新聞です」 となると、相手の対応が変わってきます。

 “雑誌=広告” であり、“新聞=記事” のイメージが強いようですね。

 では、これが温泉旅館になると、どのように変化するのか?
 やはり、媒体名を名乗る限り同様であります。

 しかし、本の出版となると話は別です。
 媒体名がありませんので、著者の名前と出版元の名前を言うしかありません。
 しかも、宿泊取材を申し入れることもありますから、その交渉はさらに難易度を増します。

 現在は、過去の実績があるため比較的スムーズに取材交渉が行われています。
 また僕との間に、温泉協会や観光協会などが入って、交渉の代理を行ってくれることもありますので、取材拒否というのはほとんどなくなりました。
 ただ、最初は苦労しましたよ。
 実績もないし、名前も通っていないし、信じてもらうまでが大変でした。


 で、昨日の取材拒否です。
 今までのパターンとは、まったく別の理由での拒否でした。
 しかも、初めて取材する宿でもありません。
 過去に何回も僕は取材をして、雑誌や本に旅館の記事を書いている宿なのです。
 なのに……

 理由は、たった1つ、写真でした。

 これだけは、説得をしても、納得していただけませんでした。
 宿の取材ではなく、女将さん自身の取材ですから、女将さんの写真を撮らないわけにはいきませんものね。
 「いやいやいや、私なんて」 と、結局、こちらが降りるしかありませんでした。

 確かに、名前と写真が公にされるわけですから、嫌がる人がいても当然です。
 電話を切ったあと、少しだけへコんだのですが、すぐに気を取り直して、次の取材先に電話を入れました。

 何が難しいかって、人の取材が一番難しいんですね。
 でも、そのぶん、やりがいと喜びもひとしおなのであります。
   


Posted by 小暮 淳 at 18:44Comments(0)取材百景

2012年02月09日

不便だけど不快ではない


 僕には、7歳年上の兄がいます。
 東京で建築家をしているのですが、僕以上に “変わり者” です。
 変わり者の僕が言うのですから、間違いないと思います。

 建築家といっても、みなさんがイメージする建築家とは、だいぶ違います。
 一応、一級建築士の資格は持っているのですが、
 「一級建築士とかけて、靴の裏に張り付いた米粒と解く」
 なーんて、自分で言ってますからね。

 そのこころは?
 「取っても食えない」
 (ウマイ!)。

 ま、そんな兄ですから、ふつうの家は設計しません。
 ゆえに、施主も “変人” しか依頼しません。
 でもね、兄のプライドにおいて、弟として代弁するならば、かつては、あの!あの!あの~~!超超超~大物ミュージシャンの別荘なんかも設計しているのですよ(ヒント:おげんきですか)。
 ま、最近は景気の良い話は、とんと聞きませんがね。


 で、その兄が、20年ほど昔に、前橋市の実家を設計しました。
 その家というのが、まー、摩訶不思議で住みにくい、実験的建築物なのであります。
 本人いわく、「他人の家だと断られるから、一番造ってみたい家を設計した」 とのことです。

 その家とは、“玄関のない家”。

 当時、僕と兄は中国を一緒に旅したことがありました。
 兄の造った “玄関のない家” は、中国で見た伝統的家屋建築である 「四合院」 が基本になっているようです。
 みなさんも、旅番組かなにかで、見たことがあると思います。
 四方を家屋で囲まれていて、中庭を中心に何組もの家族が共同生活をする建物です。

 ですから僕の実家は、門はありますが、玄関がありません。
 ブロックで囲まれたサイコロ形をした要塞のようなカタマリがド~ンと建っています。
 1階も2階もすべての部屋は中庭に向いていて、各部屋が独立しています。
 ですから、部屋から部屋、部屋から台所、トイレ、風呂・・・へ移動する際は、すべて中庭を通らなくては行けません。

 そう、雨の日はトイレや風呂へ行くのにも、家の中で傘をさします。

 ま、こんなおかしな家ですから、新築当時は、さまざまなメディアが取材に来ました。
 雑誌はもちろん、ついにはテレビ局が!
 と、いっても普通の番組ではありれませんよ。
 なんと、クイズ番組です。

 レポーターの女性がマイクを持ってやってきて、
 「さて、この家には一般の家にある、あるものがありません。それはなんでしょう?」
 とスタジオの回答者に質問を投げかけます。

 答えは 「玄関」 です。

 カメラは、ズンズンと各部屋に入っていき、屋上でオヤジをつかまえました。
 当時は、まだボケてはいませんから、かくしゃくとしてインタビューに答えていました。
 レポーターが、「いちいち傘をさして部屋を移動するのって、不便じゃありませんか?」 と問いかけたときです。
 オヤジは、待ってましたとばかりに、こう答えました。

 「不便だけど、不快じゃありませんよ」

 このコメントが受けました。
 スタジオの回答者で、直木賞作家の志茂田景樹氏は、
 「お父さんの言葉に感動しました! 不便だけど不快ではない暮らし。今の日本人が忘れていることですね」
 と……。


 現在でも、実家へ行くと不便を感じます。
 年老いた両親には、なおのこと、この季節は寒さが骨身にしみる “不便” であります。
 それでも “住めば都” であり、“雨風しのげるだけでありがたい” とも言います。

 不便な家で、一生懸命に協力しながら生きている両親を見ていると、今でもオヤジがあのとき言った言葉を思い出すのであります。
 “不便だけど不快ではない”

 返せば、便利でも不快なものが、世の中にいっぱいあるということです。
 今の世の中、こっちのほうが多いんじゃないだろうか。

 実家へ行くたびに、そんなことを考える今日この頃です。
  


Posted by 小暮 淳 at 18:55Comments(4)つれづれ

2012年02月08日

水上温泉 「だいこく館」


 玄関前に 「足湯か?」 と思えば、これがペットの露天風呂。
 気持ち良さそうに、柴犬が入浴中でした。

 で、ロビーに入ると、ゴールデンレトリバーとシベリアンハスキーが、ちょこんと座ってお出迎え。
 聞けば、「この子(ゴールデン) は 、ここの宣伝部長なのよ」 と女将さん。

 部屋に向かうべく、エレベーターを待っていると・・・
 チーンと扉が開いて、飼い主に連れられて2頭の犬が降りてきた!
 (ちょっとビックリ)

 エレベーターに乗って5階に着くと・・・
 チーンと扉が開いて、ギェッ!
 名も知らない大型犬が、待っていた!
 (これまたビックリ)

 ロビーも廊下も食堂でも、どこへ行っても犬、犬、犬……

 犬好きには、たまらないが、
 犬嫌いにも、たまらない。

 僕は犬を飼っているので大丈夫ですが、同行のカメラマンは終始、困った顔をしていました。


 昨日は昼過ぎから水上温泉に入り込み取材活動を続け、夜は、ペットと一緒に泊まれる宿 「だいこく館」 に泊めていただきました。
 僕は過去に、ペットと泊まれる宿をいくつも取材していますが、実は泊まるのは昨日が初めてなんです。
 話を聞くだけと、実際に泊まるのでは大違いです。

 「だいこく館」 は、徹底しています。
 まず、全室にペットが泊まれます。
 それも同じ部屋の中で、自由に過ごせます。
 布団も一緒、食事も一緒です。
 (部屋の外だけリードを着用)
 だから、館内どこへ行ってもワンちゃんと出会います。

 見ていると、犬を連れた客ではなく、犬の付き添いが人間のようです。
 こうなると、ペット連れじゃない、僕らのほうが違和感があります。
 もしかしたら、他の客たちからは、僕かカメラマンのどちらかがペットに見えていたかもしれませんね。
 (カメラマンはカメラを持っているから人間に見えるでしょうから、ペットに見られたのは僕のほう?)

 でも 「だいこく館」 は、昭和7年創業の老舗旅館なのです。
 今から12年前のこと。
 女将さんの誕生日に、4代目主人の鈴木幸久さんが 「何が欲しい?」 と聞いたら、「犬が欲しい」と言ったそうで、プレゼントとしてやって来たのがロビーで出迎えてくれたゴールデンのラブちゃん(メス、12歳) でした。

 その後、ラブちゃんと旅行をした際に、あまりにも大型犬の泊まれる旅館が少ないことに気づき、「だったら、うちをペットの泊まれる宿にしょう!」 と、館内を大改造したとのことです。
 ですから、ペットなら小動物から大型犬まで、一律1匹1,500円という値段設定にて受け入れています。

 確かに以前、取材した宿では、“大型犬別料金”や“大型犬お断り” というところもありましたから、料金が一律というのは驚きました。
 温泉旅館も、日々進化しているのだと、実感!


 昨晩はグッスリ眠れましたが、なぜかマロ君(我が家の愛犬チワワ) の夢を見てしまいました。
   


Posted by 小暮 淳 at 18:37Comments(3)温泉地・旅館