温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
群馬のブログポータルサイト「グンブロ」顧問
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使
老神温泉大使
伊香保温泉大使
四万温泉大使
ぐんまの地酒大使
群馬県立歴史博物館「友の会」運営委員



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』『金銀名湯 伊香保温泉』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ぐんま謎学の旅~民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2020年03月31日

ようこそ! ケサパサ


 ちょっぴり僕は、興奮しています。

 昨日からドキドキが止まりません。
 だって、だって、ついに、我が家に、あの、あこがれの “ケサランパサラン”(略して「ケサパサ」) が、やって来たのです!
 ※(地域によっては、「ケセランパセラン」 「ケセランパサラン」 ともいう)


 以前、このブログで 「ケサパサ」 の情報を募ったところ、たくさんの方から資料や写真をいただきました。
 その中に、現在でも飼育しているという男性からの連絡があり、さっそく昨日、お会いしてきました。

 報告の前に、まずはケサパサの基礎知識の復習をしておきましょう。
 ケサパサは、大きく分けて3種類あります。
 一般的なのは、タンポポの綿毛のような直径2~3㎝の 「植物性ケサパサ」。
 それと、別名 「毛ん玉」 とも呼ばれる直径5~6㎝の 「動物性ケサパサ」。

 あと1種類は、「馬ん玉」 という直径8㎝以上にもなる大きくて硬い石のような白い玉です。
 正式名は 「ヘイサラパサラ」 と呼ばれ、ケサパサとは別物として区別される場合もあります。
 ※(詳しくは当ブログの2020年2月4日 「謎の生物 ヘイサラパサラ」 参照)


 ということで、昨日、ケサパサ飼育者のSさんと市内某所でお会いしました。
 某所とは、約10年前にSさんが、ケサパサを捕獲した場所です。

 その日、Sさんは、居酒屋の帰りに川のほとりを歩いていました。
 まだ明るかったといいますから、たぶん春~夏の夕方だったのでしょう。
 突然、目の前にフワフワと白い綿毛のようなモノが、空から舞い降りてきました。
 それも、続けて2つ……

 「すぐにケサランパサランだと、分かったのですか?」
 「はい、ちょうどその頃、偶然にも飲み屋で、ケサランパサランの話題で盛り上がったことがあったものですから」

 そう言うとSさんは、バッグから小さなビンを取り出しました。
 「はい、これ、2匹います。小暮さんに差し上げます」
 「えっ、差し上げるって、こんな大切なモノを。それも、その時の2匹なんでしょう?」
 すると、意外な言葉が返ってきました。

 「いえ、7匹に増えたんですよ。だから大丈夫です。うちには、まだいますから」

 ギエッ、ギェギェーーーー!!!!!
 「増えた?」
 「はい」
 「では、本当にいただいてしまっても、よろしいんですね?」
 「どうぞ、どうぞ」


 ということで、今、僕の目の前には、2匹のケサパサが仲良くビンの中で暮らしています。
 1匹は3㎝ほど、もう1匹は2㎝ほどです。
 親子なのか、つがいなのか分かりませんが、2匹とも枝毛を長く伸ばして、宙に浮いています。

 正真正銘の植物性ケサランパサランです。


 Sさん、ありがとうございます。
 立派に育てて、増えたら、この2匹は里帰りさせますからね。
 その日を楽しみに、待っていてください。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:40Comments(2)謎学の旅

2020年03月30日

脱・アンチエイジング


 「死ぬまでに1回でも多くSEXをするんだ」
 と豪語する60代の男性がいます。
 その人は、退職金を注ぎ込んで、まめに風俗通いをしています。


 一方、最近、「死ぬ前にもう一度、燃えるようなSEXがしたい」 と願う70代の男性が主人公の小説を読みました。
 三浦しをん著 『木暮荘物語』 (祥伝社文庫)

 築ウン十年、全6室のボロアパート 「木暮荘(こぐれそう)」。
 このアパートの大家が、木暮老人です。
 彼は、ある日、余命いくばくの親友を見舞います。
 その時、親友が病床で言ったひと言が、彼の毎日を変えてしまいます。

 「かあちゃんにSEXを断られた」

 親友は、病院から一時帰宅した晩のことを話しました。
 そして1ヶ月後、親友は亡くなりました。

 葬儀の晩、彼は妻に、それとなく訊きます。
 「俺がもし、SEXしたいと言ったら、おまえどうする?」
 当然、返事は 「いやですよぉ」

 それを機に、彼は無性にSEXがしたくなります。
 「死ぬ前に、もう一度だけ」
 しかし、風俗で満たすのでは、彼のプライドが許しません。
 目標は、あくまでも “燃えるようなSEX” なのですから……

 続きが気になる方は、ぜひ一読を!


 で、僕は思いました。
 男性の性欲は、女性の美へのあこがれに似ていると。
 老いることへの恐怖が誘発するアンチエイジングなのだと。

 死ぬまでに “1回でも多く” も “一度だけ” も、回数の差こそあれ、老いていく自分を否定したい気持ちには変わりありません。


 えっ、僕ですか?
 僕は……、ええ……、あのう……、
 白髪染めをやめた数年前からアンチエイジングは、卒業しました。
 脱・アンチエイジング!

 ありのままで生きます。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:42Comments(2)つれづれ

2020年03月29日

源泉ひとりじめ(24) お湯の中に、黒い花が咲いた。


 癒しの一軒宿(24) 源泉ひとりじめ
 応徳(おうどく)温泉 「宿 花まめ」 六合村(現・中之条町)


 「応徳よいとこ 一度はおいで お湯の中にも こりゃ花が咲くよ チョイナ チョイナ~」
 思わず替え歌が、口を突いて出てしまった。
 歌に合わせて、湯もみ板で湯をもむと、パァーっと浴槽一面に、黒い湯の花が咲いた。


 群馬県内に 「道の駅」 は数あれど、温泉宿が併設されている道の駅は、ここだけだ。
 道の駅 「六合(くに)」 は、長野原から草津へ抜ける国道292号沿いにある。

 右手に観光物産センター、左手には観光案内所と無料休憩所、食事処が一つになった 「六合の郷 しらすな」、奥には日帰り温泉施設 「くつろぎの湯」。
 それらに囲まれるようにして、「宿 花まめ」 が建っている。
 築128年の古民家を移築した宿は、たたずまいからして、どこか懐かしく、記憶のなかの故郷へ帰った来た気持ちにさせてくれる。

 引き戸の玄関をくぐると、重厚な梁(はり) を二重に組んだ天井から、まぶしいばかりの自然光が降りそそいでいた。
 大広間の座敷をめぐり、民家棟を抜ける。
 すると一変して “洋” のおもむきをもつ山荘棟へ出た。
 コンクリート打ちっ放しの吹き抜け、古木をあしらった回廊……
 その先は、洋間の客室へとつづく。

 この日、通されたのは民家棟2階の和室だった。
 昨年4月にリニューアルしたばかりの部屋は、清潔感にあふれていて気持ちがいい。
 窓を開けても、ここが 「道の駅」 とは思えないほどの静けさである。

 浴室は、男女別の内風呂が一つずつ。
 一切、加水していないため、湯はやや熱めだ。
 そのために、「湯もみ板」 が置いてある。
 湯をもむたびに、沈殿していた煤(すす) のような湯の花が舞い上がり、見る見るうちに湯舟は真っ黒になった。
 当然、手も足も、からだ中が、真っ黒けである。

 シリーズ24回目にして、初めて黒い温泉に出合った。
 なんとも不思議な湯である。


 ●源泉名:応徳の湯・昭和の湯
 ●湧出量:50ℓ/分 (自然湧出)
 ●泉温:54.5℃
 ●泉質:含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉

 <2006年3月>
  


Posted by 小暮 淳 at 11:49Comments(0)源泉ひとりじめ

2020年03月28日

9 の法則


 これからお話しすることは、すべて何の根拠もないウワサ話ですので、決してSNS等で拡散しないでください。

 それは 「9の法則」。
 ちまたで、まことしやかにささやかれている新型コロナウイルスの感染拡大による自粛ムードに関するウワサです。
 “10” はアウト、でも “9” はセーフという、なんとも不思議な法則です。


 今週、僕が温泉大使を務める観光協会の職員と電話で話しました。
 そのとき、こんなことを言われました。
 「小暮さんがブログに書かれているとおりです。完全に二極化が起きています」

 僕のブログとは、3月18日に書いた 「キャンセル0の宿」 のことです。
 自粛ムードが続く中、温泉地も大きな影響を受けています。
 特に団体客や宴会客が中心のホテルや大きな旅館へのキャンセルは、ハンパではありません。
 ところが一方で、まったく影響を受けていない宿があります。
 それは、個人客を中心とした小規模の宿です。

 「まったく、小暮さんのおっしゃるとおりです」
 と、職員は言いました。
 まさに、ここにも 「9の法則」 が働いています。

 では、「9の法則」 とは?
 “9” という数字は、あくまでもイメージであり、“10” という大台ではないという意味なのですが、これが言い当てていて妙なのです。
 10部屋以上、10席以上の宿や店はコロナの影響を受け、それ未満だと影響を受けないといいます。


 百聞は一見にしかず、と思い、昨晩、検証に行ってきました。
 調査対象に選んだのは、ご存じ! 我らのたまり場、酒処 「H」 であります。

 「H」 は、カウンター席のみの小さな店で、ママが一人で切り盛りをしています。
 そしてイスの数が、ぴったり9席!
 調査対象には、もってこいの店です。


 午後5時、入店。
 すでに常連客が2人、カウンターの中央で呑んでいました。

 午後5時半、早くも1人が帰り、入れ替わりに1人。
 午後6時、サラリーマン風の2人連れが奥の席へ。
 これで僕を入れて、客は5人です。

 ところが、このあと、怒涛のように常連客が顔を出し始め、あっという間に9席は満員御礼となりました。
 なのになのに! その後も常連が顔を出しては、ママが済まなそうに断っていました。
 「ママ、ここんちはコロナなんて、関係ないね」
 と誰かが言えば、
 「コロナもバブルも関係なく、年がら年中ヒマな連中が多いからだよ」
 と、他の誰かが笑いをとります。


 午後8時……
 引きも切らずに、次から次と常連客が顔を出します。
 「そろそろ、我々は席を譲りませんか?」
 早い時間から呑んでいた1人が、腰を上げました。
 「そうだ、今日は9時から 『魔女の宅急便』 があるんですよ。今から帰れば間に合います」
 と僕が言えば、
 「では、私も帰って 『魔女の宅急便』 を見ましょう!」
 と隣の客が、あとから来た客に席を譲りました。


 恐るべし、「9の法則」 です。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:31Comments(0)酔眼日記

2020年03月27日

「G★FORCE」 に2週連続出演します!


 FMぐんま 「G★FORCE」 のリスナーのみなさん、こんにちは!
 大変ご無沙汰しています。
 約1年半の沈黙をやぶって、久しぶりに登場します!

 しかも、2週連続の出演です。
 しかもしかも、1週目と2週目では肩書きが異なります。


 1週目は、温泉ライターとして、現在の新型コロナウイルスによる自粛ムード下における温泉地の現状と、温泉による免疫力アップの効果的な利用術について、マジメにお話しします。
 2週目は、ガラッと内容が変わり、ミステリーハンターとして登場します。
 群馬県内に伝わる天狗やカッパなどの捕獲方法から、座敷わらしや今話題の疫病除けのアマビエなどの人間に幸福をもたらす妖怪との共存方法まで、バカバカしい話を最後までバカバカしく語ります。

 そんな、おバカな僕のお相手をしてくださるのは、ご存じ!人気パーソナリティーの竹村淳矢さんと櫻井三千代さんであります。
 最後まで、気の抜けない爆笑トークをお楽しみください。

 そして、番組の最後には、アッーーーーーと驚く、お知らせが待っています。
 これは、絶対に聴き逃せませんぞ!


 ●放送局  FMぐんま 86.3MHz
 ●番組名  「G★FORCE」 人間力向上委員会
 ●放送日  3月30日(月) 13:01~ 4月6日(月) 13:01~
   


Posted by 小暮 淳 at 10:46Comments(2)テレビ・ラジオ

2020年03月26日

旅のめっけもん⑩


 ●旅のめっけもん 「目の湯」


 源泉名を 「目の湯」 という。
 不思議な名である。

 江戸中期、安永のころ。
 作男が家路を急ごうと近道をした草むらで、偶然に湯だまりにカエルの群れを発見したのが最初と伝えられている。
 その後、囲炉裏や炊事の煙に悩まされた村の女たちが、この湯で丹念に目を洗ったところ、たちまち治り、村から村へその効能が伝わり、「目の湯」 と言われるようになったという。

 明治22(1889)年、浅間隠山(あさまかくしやま) の大洪水により、一瞬のうちに埋没してしまったが、昭和38(1963)年に再掘された。
 これまでに代は、いく度となく変わったが、この湯は守り続けられ、今でも地元の人たちは 「目の湯」 と呼んで大切にしている。

 泉質はホウ酸泉で、医学的にみても目の病に効く。
 入浴中、皮膚から極小の泡が出ているのを確認できるが、昔から泡の出る温泉は骨の髄まで温まると言われているとおり神経痛にも特効があり、10日間位の入浴で著効をあらわすという。

 宿から露天風呂へ向かう道すがらに、源泉の湯口がある。
 ペットボトルに湯を入れて帰る客も多いようだ。
 <2005年11月 温川温泉>



 ●旅のめつけもん 「猪豚 (いのぶた) 」


 夕食のテーブルには、丁寧にも 「本日のメニュー」 と記された品書きが置かれていた。
 前菜は芋串・沢がに・ふき・栗、造りは刺身こんにゃく、焼き魚は鮎、小鉢はそば粉と大豆を練って揚げた 「鬼揚げ」 と、野趣あふれる地場物をふんだんに使った郷土料理ばかりだ。
 そして極めつけは、猪豚鍋(夏季は陶板焼き)。
 ここでしか食せない、上野村の特産品である。

 猪豚は、メスの豚とオスの猪との交配によって産まれた家畜で、体は太くて丸く、鼻筋は猪に似て長く、体表は剛毛でおおわれ、オスは鋭い牙を持つ。
 怒ると毛が逆立ち 「怒り毛」 になるところなど、性格は猪に似ているという。
 ところが肉は柔らかくて、臭みがない。
 しかも豚肉と比べてタンパク質は1.2倍、鉄分やリン、ナトリウムについても約1.5倍と多く、脂肪はその逆に約半分と少ない。
 豚と猪のいいとこ取りした、栄養価に富んだ健康食品である。

 ロースやホルモンなどの肉自体も販売されているが、猪豚味噌漬け、猪豚カレー、猪豚汁などの加工品も村内の 「道の駅」 や 「ふれあい館」 で販売されている。
 なかでも猪豚生ラーメンは、上野村限定ということもあり人気商品だ。
 しょう油とみそ味のスープは、どちらも猪豚の濃厚なダシが利いていて、モチモチの太麺とよくからみ合う。
 一食の価値がある未体験の味である。
 <2005年12月 塩ノ沢温泉>
  


Posted by 小暮 淳 at 11:43Comments(0)旅のめっけもん

2020年03月25日

ジパング倶楽部 4月号


 JR 「ジパング倶楽部」 の会員のみなさん、こんにちは!
 はじめまして、温泉ライターの小暮です。
 みなさんの元へ、「ジパング倶楽部」 の4月号は、届きましたか?

 いよいよ、4月1日から6月30日まで 「群馬デスティネーションキャンペーン(DC)」(大型観光企画) が開催されます。
 キャッチフレーズは、「心にググっとぐんま、わくわく体験 新発見」。
 ということで4月号の特集は、「群馬 知るほどなるほど、学ぶ旅」 と題して、鉄道や温泉、古墳といったテーマで、群馬の旅へ、ご案内します。


 で、今回、せん越ではありますが、県内の温泉大使を務める僕がナビゲーターとなり、4ページにわたり記事を書かせていただきました。
 タイトルは、「“ひとりじめ” したくなる いい温泉」。
 山奥にある秘湯や小さな温泉宿、ユニークな穴場スポットを紹介しました。

 巻末のコラム 「北に名湯、南に薬湯あり」 では、なぜ、群馬の温泉は素晴らしいのか?について、温泉自慢を書かせていただきました。


 えっ、読みたいけど、会員じゃないから読めないって!?
 だったら今すぐ、ご入会ください。

 ●お問い合わせ先
 JR東日本 大人の休日・ジパング倶楽部事務局 TEL.050-2016-7000
   


Posted by 小暮 淳 at 11:44Comments(0)執筆余談

2020年03月24日

『在りし人』 クランクイン


 はなはだ個人的ではありますが、うれしい知らせがありました。

 読者のみなさんは、以前、僕が中之条町まで電車に乗って出かけ、この町に全国から集まった若者たちと酒を酌み交わした話を、覚えていますか?
 ※(当ブログの2020年1月12日 「宵待ち列車に乗って」 参照)
 この時、山口県からやって来た青年と出会い、親しくなり、その後もメールのやり取りを続けていました。

 なぜ、彼は山口県から群馬県の中之条町へ移住することになったのか?

 そのきっかけは、毎年、中之条町で開催されている 「伊参(いさま)スタジオ映画祭」 でした。
 昨年、彼は、この映画祭で、シナリオ大賞を受賞しました。
 これを機に、公務員を辞職して、この町へやって来ました。

 その理由は、映画の撮影のためです。


 <昨年の第19回伊参スタジオ映画祭でシナリオ大賞(短編の部) を受賞した藤谷東監督(36) の 「在りし人」 の撮影が、安中市の碓氷峠鉄道文化むらで始まった。展示されている木造の客車を使い、戦後間もない日本の風景を再現した。>(2020年3月21日付 上毛新聞より)

 舞台は昭和25(1950)年の日本。
 地方の養蚕農家の次男、朔治は家を守るため、戦死した兄の嫁、佐代と結婚します。
 そして2人は、親のはからいで1泊の温泉旅行に出かけます。

 彼は、新聞のインタビューで、こうコメントしています。
 「終戦後の日本で実際にあった、逆縁婚(亡くなった兄弟の配偶者との結婚) をした若い夫婦とその家族の気持ちを映画から感じ取ってほしい」


 「逆縁婚(ぎゃくえんこん) をテーマにした映画なんです」
 あの日、初対面ながら熱く語る彼の真剣な眼差しを思い出します。
 「若いのに、良く知っているね?」
 「ええ、昔、祖母に話を聞いたことがあるんです」

 その後、彼から 「映画のロケ地に使えそうな、戦後間もない頃の昭和のイメージが残る温泉地がありましたら、ご紹介ください」 とのメールがありました。
 今回の撮影のロケ地を見ると、僕がピックアップした温泉街や旅館も採用されたようです。
 多少なりとも、お力になれたようで、嬉しい限りです。


 完成した映画は、今年11月に開催予定の伊参スタジオ映画祭で上映されます。
 もちろん、また中之条町まで祝い酒を呑みに出かけるつもりです。

 東君、がんばれ!
  


Posted by 小暮 淳 at 11:42Comments(0)つれづれ

2020年03月23日

紙芝居がやって来た!


 「人生の楽園」 というテレビ番組があります。
 定年退職、もしくは早期退社後に、新しい人生を見つけて、生き生きと暮らしている人たちを紹介するドキュメントです。
 ペンションや民宿、そば屋、喫茶店をオープンした人、悠々自適に自給自足のための農業を始めた人など、それぞれが “人生の楽園” を見つけて、セカンドライフを楽しんでいる姿を映し出します。

 ま、ファーストライフが、いまだに完結しない僕には無縁のテーマなのですが、うらやましくもあり、時々、チャンネルを合わせています。


 僕の友人にも一人、一風変わったセカンドライフを歩み出した人がいます。
 高校の同級生だった、石原之壽君です。
 彼は、なんと! 定年退職後に、チンドン屋を始めました。

 先日の地元紙には、こんな記事が載りました。
 <軽妙な語りで子ども元気に>
 <伊勢崎神社で紙芝居>

 <新型コロナウイルスの影響で思い切り遊べない子どもたちのために、伊勢崎市出身で寿ちんどん宣伝社座長の石原之寿(のことぶき) さん(61) =茨城県土浦市=が20日、伊勢崎市本町の伊勢崎神社境内で紙芝居を上演した。(中略) 石原さんは定年退職後、チンドンと紙芝居を事業として専念。「休校で子どもたちが窮屈な思いをしている」 と、土浦の神社などで街頭紙芝居や昔のあそびを始めた。>


 ということで、知らせを受けて僕も、応援と冷やかしに行ってきました。
 会場となった伊勢崎神社の宮司も同級生です。
 境内には、子ども連れの親子にまざって、僕同様に、旧友のセカンドライフの応援に駆けつけた同級生らが集まりました。

 昔なつかしい黒塗りの自転車。
 荷台には、駄菓子を吊るした木箱が載せられ、その上に紙芝居がセットされています。
 開演を知らせる拍子木の音が鳴り響き、子どもたちには飴が配られました。

 ユーモアたっぷりの語り口に、子どもも大人も爆笑です。


 僕は、高校時代を思い出していました。
 彼は、当時からクラスの人気者でした。
 文化祭で、落語を披露するような芸達者でもありました。

 僕だけではなく、きっと誰もが、彼は芸能の道へ進むと思っていたと思います。
 でも、彼が選んだ人生は、平凡な会社勤めでした。
 この40年間、ずーーーーっと悩んでいたんでしょうね。
 「いまに見ていろ! いつか本当の俺の見せてやる!」 と……


 「あっ、ジューン! はい、私の同級生の小暮淳君が来てくれました~」
 後ろの方で、こっそりと見ていたつもりだったのですが、気づかれてしまいました。
 「彼は、有名な温泉ライター、温泉大使なんですよー。みんな、あのおじさんを覚えて帰ってね~」
 と、いらぬおせっかいスピーチまで盛り込んで、場を沸かせていました。


 人生100年時代、彼のセカンドライフは始まったばかりです。
 よしっ、俺もがんばらねば!
 旧友の軽妙な話芸を聞きながら、ちょっぴり勇気をいただいてきました。

 まずは、ファーストライフの完結を目指します!
    


Posted by 小暮 淳 at 12:08Comments(0)つれづれ

2020年03月22日

源泉ひとりじめ(23) 朝日の中で、浅間山が大きな背伸びをした。


 癒しの一軒宿(23) 源泉ひとりじめ
 奥嬬恋温泉 「干川(ほしかわ)旅館」 嬬恋村


 旅には、つねに運がつきまとう──。
 訪ねた日の天気は、あいにくの曇天。
 鈍色(にびいろ) の雲に覆われて、空の高さも高原の広さもわからなかった。
 ところが、一夜明けた朝。
 カーテンを開けると、部屋の窓いっぱいに絶景が……。
 「よしっ!」
 目の前の浅間山に負けじと、思いっきリ背伸びをした。


 暖簾をくぐると、石畳に導かれて、回廊のようなエントランスが続く。
 フロントには見事な花梨の根こぶでできた大きな衝立(ついたて) が、主人のような顔で出迎えてくれた。

 壁には柔らかな水彩で描かれたキャベツの絵が掛かっている。
 嬬恋といえば、やはり高原キャベツだ。
 絵手紙のように添えられた 「真心を包む一まい二まい」 の言葉が、やさしい気持ちにしてくれる。
 あいにくの天気に、やや滅入っていたが、一枚の絵に心がほっこりと和んだ。

 3年前にオープンした別邸の 「花いち」 は、半露天風呂付きの客室が4室。
 この日は平日にもかかわらず、すべて満室だった。
 若女将に通された本館の部屋で、旅装を解いて、さっそく湯浴(あ) みへ。

 浴室に足を踏み入れた途端、ムッと温泉臭が鼻孔を突いた。
 たっぷりと張られた湯舟は、全体に淡褐色をしているが、光が当たっている所は緑がかって見える。
 マグネシウムとマンガンの含有量が多いのだ。
 湯口に顔を近づけると、鉄臭がした。

 扉を開けて、露天へ。
 小ぶりながら板塀と石庭に囲まれた、落ち着きのある風呂だ。
 毎度のクセで、ちょっと味見をすると……かなり塩辛い!
 濃度の高い塩化物温泉である。
 山間部で、この濃度の湯が湧くことは、非常に珍しいという。

 外気の温度が、急に冷え込んできた。
 ピーンと張った寒空に、星が二つ三つ……。
 明日は晴れるだろうか、いや絶対に晴れるに決っている。
 根拠もなく湯の中で、そう確信した。


 ●源泉名:葦乃湯
 ●湧出量:18.3ℓ/分 (動力揚湯)
 ●泉温:43.1℃
 ●泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉
 <2006年2月>
  


Posted by 小暮 淳 at 14:59Comments(0)源泉ひとりじめ

2020年03月21日

伝道師の子


 <宇宙船ソユーズから見た我が “祖星” 地球は、青く美しいばかりではなかった。緑を失った赤茶けた砂漠も、不気味に点在していたのである──環境保護の市民団体である 「日本野鳥の会」 県支部には、とてもチャーミングなネイチャリング伝道師がいます。> (1990年12月16日付 「あさひぐんま」 より)


 オヤジが亡くなったのが昨年の2月20日、オフクロが亡くなったのが5月1日。
 2人の命日の間で、彼岸中ということもあり、今日、合同の一周忌を済ませてきました。
 子と孫、ひ孫が実家に集まり、坊さんを呼んで法要を行い、その後、全員で墓参りをしました。

 桜も咲き出した暖かな陽気の中、霊園では一族の笑い声が、天へ届けとばかりに響き渡りました。


 「遺品を整理していたらオヤジの新聞記事がたくさん出できたから、コピーしておいたよ」
 アニキが法要の前に、プリントを配りました。
 その中の1枚が、冒頭の講演活動の記事でした。

 <その人は、前橋市のK町に住まう小暮洋さん、六十六歳で、同支部の啓蒙指導委員長を務めています。環境保護を力強く雄弁に訴える 「語り部」 として、県内各地の小・中学校を回り始めて十五年。その弁舌はすこぶる爽やかで、学校はもとより、幼稚園や図書館、公民館などからラブ・コールしきりの伝道師です。>

 記事では、独特のフェイス&ボディーパフォーマンスで熱弁するオヤジの写真を交えながら、講演の様子や自然保護活動をするきっかけとなった出来事を紹介しています。

 <小暮さんの自然保護運動の原点は、昭和二十二年のキャサリン台風にある。戦争中に木々を伐採され丸裸になっていた赤城山南面は、極度に保水力を失っていた。荒山高原に降った雨は山津波と化し、大胡の町に押し寄せたのである。街を歩いていた小暮さんは、一瞬にして濁流に呑まれ、必死で建物の鉄格子にしがみついた。泥流の中に沈んだ街、電信柱が縦に回転しながら流れて行く。大胡町だけで百棟が流失し、七十七人の尊い命が奪われた。>
 ※(詳しくは、当ブログの2013年8月17日 「オヤジ史②キャサリン台風」 参照)


 「おじいちゃんって、おとうさんと同じようなことをしていたんだね」
 娘たちに言われて、ハッとしました。
 「いや、おとうさんが、おじいちゃんの真似をしているんだよ」

 親子とは、不思議なものです。
 稼業のように、「継げ」 と言われたわけでもないのに、気が付いたらオヤジと同じ年齢の時には、同じように講演活動をしていたのですから……
 ただ僕の場合、オヤジのように大それた運動は起こしていませんけれど。

 それでもオヤジが心血を注いで守ろうとした自然同様、僕にも1つでも多くの温泉を後世に残したいという気持ちはあります。
 そのためには、まず、温泉の魅力を知ってもらうことだと思い、今日まで講演を続けてきました。


 蛙の子は蛙。
 伝道師の子になれるよう、これからも活動を続けて行きたいと、改めて一周忌に思いました。
   


Posted by 小暮 淳 at 19:33Comments(0)つれづれ

2020年03月20日

おりこうさんが多くて疲れませんか?


 最近、テレビを見ていて、「なんかヘンだな?」 と違和感を覚えることが多くなりました。

 たとえば、刑事ドラマ……
 逃走する犯人を追いかけて、2人組みの刑事が車に乗り込みます。
 そこで、悠長にシートベルトをしているシーンを、よく見かけます。

 「だよね、ルールだもんね。でも、その間に犯人、逃げちゃいますって!」
 と、ツッコミを入れている自分がいます。


 と思えば、ヤクザが路上でタバコを吸っています。
 刑事がやって来ると、あわてて逃げ出すのですが、ヤクザは、ご丁寧にもポケットから携帯灰皿を取り出して、タバコをもみ消しました。

 「だよね、マナーだもんね。っていうか、いつもは、ポイ捨てしてるんだろう!」
 と、やっぱりツッコミを入れてしまいます。


 いったい、いつからなんでしょうか?
 世の中が、架空の世界にもルールやマナーが、うるさく指摘されるようになってしまったのは?

 <これはCM上の演出です>
 <許可を取って撮影しています>
 など、過剰な注釈にテレビ画面はあふれています。


 僕個人も、数えるほどではありますが、いく度かテレビに出演したことがあります。
 これは中央のテレビ局の旅番組のロケでのことです。
 レポーターの男性と温泉街を歩くシーンでした。

 「はい、カット!」
 ディレクターが叫びました。
 「小暮さん、申し訳ありません。道路の白線から出ないで歩いていただけますか」
 「えっ、ダメなの?」
 「ええ、いろいろと、うるさいものですから」

 ここでも、ルールです。
 車道に、はみ出して歩いては、いけないということのようです。
 でも、なんかリアリティがありません。
 だって、ここは温泉街ですよ!
 観光客が、一列になって歩きますか?


 気になるのは、ディレクターが言った 「いろいろと、うるさい」 という言葉です。
 いわゆる、クレームのようです。

 クレーム=正義の応酬、ですね。
 “おりこうさん” が多くて、困った世の中になったものです。

 せめて、ドラマや映画などのバーチャルな世界だけでも、臨場感確保のために許してもらえませんかね。
    


Posted by 小暮 淳 at 11:04Comments(0)つれづれ

2020年03月19日

源泉ひとりじめ(22) 朱い湯の川が、いく筋も流れていった。


 癒しの一軒宿(22) 源泉ひとりじめ
 滝沢温泉 「滝沢館」 前橋市


 冬はナァー
 風に落葉が 飛び交う道を
 登り湯治と しゃれよぢゃないか
 ソーダ ソダ ソーヂャナイカ
 滝沢温泉 情けのいで湯
 (「滝沢温泉音頭」より)


 対岸の山腹に、木立ちに覆われた小さな宿が見える。
 橋の上からのぞくと、大小の岩を優しく噛みながら渓谷をゆく粕川の清冽な流れが……
 やがて「日本秘湯を守る会」 の提灯を揚げる玄関に着いた。

 現在(掲載当時)、「日本秘湯を守る会」 に加盟している県内の旅館は14軒。
 さすが温泉王国、群馬だ。
 関東ではダントツの数である。

 では、秘湯の条件とは?
 6代目主人の言葉を借りれば、「湯の質もさることながら、湯を守る心にあり」 ということになりそうだ。
 当然、山深い宿ゆえ、近代社会からかけ離れた不便さを有する。
 旅人がそれに触れることは、歴史に触れることであり、先人たちの湯守(ゆもり) の心に触れることだ。
 宿泊者の6割は、全国の秘湯めぐりを楽しむファンだという。
 市街地から、こんな近いところに秘湯の宿があることへの喜びは大きい。
 つくづく群馬県民であることを、幸せに思う。

 粕川の渓流に面した露天風呂へは、サンダルに履き替えて、石段を下る。
 小屋の扉を開けるなり、茶褐色ににごった池のような湯舟が視界に飛び込んできた。
 約40年前に赤城山に降った雨が、地中に浸透し、岩石などの鉱物を溶かして湧き出たという湯は、さすが鉄分たっぷりという色合いである。
 足元が見えないので、入浴の際は注意が必要だ。

 湯口から出ている湯は無色透明なのに、流れ出た湯は酸化して、朱色の帯となって粕川へ注いでいる。
 杓子があるので、ひと口飲んでみる。
 ピリピリっとサイダーのような炭酸が、口の中で跳ねているのがわかる。
 その後から鉄の苦味が追ってきた。
 決して美味しいものではないが、舌の感触が面白くて、おかわりをしてしまった。


 ●源泉名:北爪の湯
 ●湧出量:112ℓ/分(掘削自噴)
 ●泉温:24.5℃
 ●泉質:カルシウム・ナトリウム・マグネシウム-炭酸水素塩冷鉱泉
 <2006年1月>
    


Posted by 小暮 淳 at 17:03Comments(0)源泉ひとりじめ

2020年03月18日

キャンセル 0 の宿


 <宿泊取りやめ相次ぐ>
 <延べ21万人以上 宿泊キャンセル>
 数日前の新聞各紙の県内版に、こんな見出しが躍りました。

 群馬県は、新型コロナウイルス感染症の観光関連施設への影響について、県内35市町村の旅館やホテルなど441施設の3~5月の宿泊キャンセルが約21万6,000泊あり、損害額は約22億8,000万円におよぶと発表しました。
 まさに、東日本大震災以来の “自粛ムード” が蔓延しています。

 ところが、あの時とは、ちょっと違う現象も起きています。


 先日、県内温泉地に宿泊した友人から、こんな内容のメールが届きました。
 「とっても気になったことがあります。私が泊まった旅館は満室ではありませんが、8割位の宿泊客がいました。ところが部屋から見えるホテルや大きな宿の客室の灯りは、ほとんど消えていました。団体のお客さんが来られていないのでしょうか?」
 友人が泊まった宿は、客室10部屋という小さな旅館だったようです。

 このメールが届いたのと同時期に、友人の言葉を裏付けするような、こんな記事が新聞に掲載されました。
 < (宿泊施設の) キャンセルは、安倍晋三首相が各種催しの自粛や一斉休校を要請した2月下旬から急増しているという。(中略) 一方で、個人客が中心の小規模な施設ではキャンセルが発生していない所もあるという。>

 これが事実だとすると、“自粛の二極化” が起きているということです。


 とても気になり、それとなく僕もリサーチをしてみました。
 すると、確かに程度の差こそあれ、宿泊施設によりキャンセルダメージに、はっきりとした差があることが分かりました。
 友人が言うように、団体客を対象にしている大きな旅館やホテルほどダメージが大きいということです。

 そして新聞記事が報道するように、キャンセルが0(ゼロ) の宿もありました。
 昔ながらの家族経営による小さな宿です。


 これは個人的な見解ですが、得てして小さな宿のほうが温泉の管理が良く、上質の湯を提供している場合が多いのです。
 そして山の中の一軒宿までは、きっとウイルスも来ないのではないでしょうか?
 まして温泉の “湯ぢから” により免疫力がアップし、よりウイルス対策にもなるというものです。


 ウイルスなんかに、負けるもんか!
 自粛になんて、負けてたまるか!
 今こそ、日本古来の湯治文化を見直す時です。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:48Comments(0)温泉雑話

2020年03月17日

旅のめっけもん⑨


 ●旅のめっけもん 「神秘の丸沼」


 片品村から日光金精峠へ抜ける国道120号を走ると、原生林の中に大尻沼と丸沼が現れる。
 さらに曲がりくねった道を上ると、菅沼に出る。
 これらの湖は、日光白根山(2,578m) の噴火によって造られた堰き止め湖で、吸い込まれそうなほどに澄んだ水は、県内屈指の透明度を誇っている。

 丸沼は、南北に長い湖である。
 なぜに丸沼なのかと疑問に思い、支配人に訊いてみると 「そもそもは丸かった」 という。
 昭和5(1930)年のダム建設で水位が上がったため、北の谷が水没して今の形になったとのことだ。
 それでも渇水期に水が引けると、元の丸い沼が姿を現すというから、一度見てみたいものである。

 宿名の 「環湖荘(かんこそう)」 からも確かに丸い湖であったことが分かるが、しかし創業は昭和8年である。
 すでに形は変わっていたことになる。
 では、なぜか?

 話は明治時代に、さかのぼる。
 当時、この沼の持ち主である千明氏が、客人をもてなすための別荘として建てたのが同荘だった。
 また氏は、水産講習所と共同して、丸沼にマスを飼養していたということだ。
 今でも丸沼は、ルアー、フライフィッシングのメッカとして人気が高い。
 ニジマス、ブラウントラウト、イワナ、ヤマメなどが生息しているが、80cm以上のモンスターが上がることも珍しくない。
 <2005年9月 丸沼温泉>



 ●旅のめっけもん 「小石仏群」


 部屋にもどると、浴室から眺めていた竹林の手前に、いくつもの愛らしい石仏が段上に並んでいるのが見えた。
 これが昔から 「薬師の湯」 の名で近在の人々に親しまれてきた名残である。

 観音山丘陵の山里に湧く坂口温泉の歴史は古く、開湯は約300年前と伝わる。
 医学の発達していなかった時代のこと、病を治す魔法の湯は、当時の人々にとって頼るすべだったに違いない。
 病を治してもらったお礼にと、奉納されたものが、この小さな石仏である。

 別名 「医王仏」 とも呼ばれ、人々の病を癒やす霊験あらたかな祈願仏としても守られてきた。
 現在は30体余りとなってしまったが、昔はその何倍もあったという。
 長い年月の間に、盗難や風化により数は減ってしまったが、残った石仏群は今も大切に保存され、柔和な表情で訪れる人々の心をなごませてくれている。

 医学が発達した現在でも、アルカリ度の高い重曹を含む食塩泉は、特に皮膚病に良く効くといわれ、評判を聞きつけた多くの人が、遠方からもやって来る。
 <2005年10月 坂口温泉>
   


Posted by 小暮 淳 at 14:25Comments(0)旅のめっけもん

2020年03月16日

霧積温泉 「金湯館」⑩


 朗報が飛び込んできました!

 昨年10月の台風19号により、路肩が崩落して全面通行止めになっていた霧積温泉(安中市) へ続く県道の復旧作業が完了しました。
 これにより、今まで陸の孤島だった一軒宿の老舗旅館 「金湯館」 の営業が本格再開しました。

 良かった! 本当に良かった!


 昨日の毎日新聞に4代目主人、佐藤淳さんのコメントが載っていました。
 <設備に支障はなかったが、県道再開のめどが立たず、廃業も頭をよぎった。>
 収入が途絶える不安から、転職も考えたといいます。でも、
 <伝統ある旅館を自分の代で途絶えさせたくない。>
 と女将の知美さん、先代女将のみどりさんとともに決意を固め、徒歩で来られる登山客らの受け入れを始めました。
 ※(当時の様子は、当ブログの2019年12月1日 「霧積温泉 金湯館⑨」 参照)


 歴史をたどれば、“秘湯” と呼ばれる温泉は、いつの世も災害との闘いのくり返しです。
 霧積温泉も例外ではありません。

 金湯館の創業は、明治17(1884)年。
 往時は旅館が5~6軒あり、別荘が40~50棟立ち並び、避暑地として大いににぎわっていたといいます。
 伊藤博文や勝海舟、幸田露伴、与謝野晶子ら政治家や文人たちも多く訪れています。

 ところが同43年、一帯を山津波が襲いました。
 そして、金湯館以外の建物は、すべて泥流にのみ込まれてしまいました。
 その後、昭和30年代から親族が1キロ下流で旅館を開業していましたが、9年前に廃業。
 金湯館は、また一軒宿になってしまいました。


 県道寸断中のキャンセルは、延べ700人に上ったといいます。
 それでもSNSには 「頑張って続けてください」 「再開したら行きます」 との励ましの言葉が寄せられました。
 また、約30人もの登山客が、約3時間かけて訪ねて来たといいます。

 湯よりも温かい、人の温かさを感じます。


 良かったですね、淳さん、知美さん、みどりさん。
 また会いに行きます!
   


Posted by 小暮 淳 at 12:13Comments(0)温泉地・旅館

2020年03月15日

源泉ひとりじめ(21) トンネルを抜けると、湯の国だった。


 癒しの一軒宿(21) 源泉ひとりじめ
 塩ノ沢温泉 「やまびこ荘」上野村


 「いい湯だな、あははん。いい湯だな~」
 ほどよく反響する洞窟風呂の中で、思わず声にして歌ってしまった。
 岩に囲まれた不思議な空間に、たった一人きり。
 もっと大きな声を出しても大丈夫そうだ、そう思った時だった。
 まるで歌詞の続きのように、湯気が天井からポタリと落ちてきた。
 ここは上州、塩ノ沢の湯である。


 全長3.3kmの長いトンネルを抜ける。
 昨年3月に開通したこの 「湯の沢トンネル」 は、村民にとっては悲願の道だった。
 “群馬の秘境” とまで言われた上野村へ行くには、それまでは藤岡市から鬼石町(現・藤岡市) を経由して、神流(かんな)川沿いに旧万場町、旧中里町(ともに現・神流町) をひたすら走り続けなければならなかった。
 下仁田町側からでも、対向車とのすれ違いもままならない塩之沢峠の悪路を越えて、1時間の道のりだった。
 それが、わずか半分に短縮されたのだ。
 秘境は、緑豊かな森の郷となった。

 上野村には4つの温泉がある。
 トンネルを抜けてすぐの一軒宿が、「やまびこ荘」 だ。
 宿名どおり、四方を山に囲まれた深山幽谷の秘湯である。

 昭和43(1968)年、国民宿舎として創業。
 4年前に増改築され、リニューアルオープンした。
 館内は “木工の里” にふさわしく、テーブルやイスなど地元作家のこだわりの作品が配されていて、木の香りに包まれていた。
 平成13(2001)年に皇太子殿下(現・天皇陛下) が御来荘した際に座られたイスも、さりげなく置かれていて、誰でも自由に座ることができる。
 2階フロントから3階まで吹き抜けのロビーは、上野村美術館分館も兼ねた開放的で明るい空間だ。

 何はともあれ、宿に着いたら、することは一つ。
 部屋でそそくさと浴衣に着替え、大浴場へ。
 露天風呂はやや小さめだが、飛び石のつづく庭園は周りの山々と相まって、おもむきのある造り。
 湯は白色に微濁していて、わずかに硫黄臭がする。
 山の夜は早い。
 薄暮は、つるべ落としに漆黒の闇へと姿を変えた。

 すぐ前を渓谷が流れているのに、水の音が聴こえない。
 木々は揺れているのに、風の音がしない。
 まるで森が吸収してしまっているようだ。
 深い深い山の中である。


 ●源泉名:やまびこの湯
 ●湧出量:76.6ℓ/分 (動力揚湯)
 ●泉温:11.6℃
 ●泉質:含鉄・二酸化炭素-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉
 <2005年12月>
  


Posted by 小暮 淳 at 13:59Comments(0)源泉ひとりじめ

2020年03月14日

残念ながら最終回


 すでに新聞報道等で、ご存じの方も多いかと思います。
 群馬県の情報誌 『グラフぐんま』(企画/群馬県、編集・発行/上毛新聞社) が、来月4月10日発行の4月号をもって廃刊されることになりました。

 『グラフぐんま』 は昭和42(1967)年創刊。
 来月号で第622号を数えます。
 写真を大きく扱ったワイドな紙面で、県政情報や地域情報をふんだんに発信してきました。
 現在の発行部数は約15,000部、年9回発行。
 書店でも販売されていますが、主に学校や図書館、医療機関、金融機関、郵便局などには無料配布されているため、多くの県民に愛されてきました。

 今回の廃刊について県の広報課は、「スマートフォンの普及により、県民が待合室などでグラフを読む機会が減った」 からと理由を説明。
 県民がインターネット上で、さまざまな写真を手軽に見られるようになった影響が大きいとしています。

 令和になり、ますます紙面による活字離れが進んでいるということの表れのようです。


 僕は平成29(2017)年の5月号から 『温泉ライター小暮淳の ぐんま湯けむり浪漫』 というシリーズを連載しています。
 今までに26温泉地を紹介しました。
 そして今週、27温泉地目の原稿を仕上げたばかりでした。

 突然の県の発表に多少の驚きはありましたが、これも時代の流れです。
 廃刊は、うすうす感じていました。
 本当は、もっともっとたくさんの温泉を県民のみなさんに紹介したかったんですけどね。
 これだけは、仕方ありません。


 『グラフぐんま』 の連載を楽しみにされていた読者のみなさん、本当に長い間、ありがとうございました。
 来月号が最終回となってしまいましたが、僕の “湯けむり浪漫” は、これからも続きます。

 また、別の紙面でお会いしましょう!
   


Posted by 小暮 淳 at 13:08Comments(0)執筆余談

2020年03月13日

瞳の中の恐怖


 可視化された世の中を、どう思われますか?

 防犯カメラやドライブレコーダーの普及により、ますます我々の日常は、世間にさらされています。
 確かに、犯罪の抑制や犯人検挙には役立っているようですが、それは性善説に基づいた考え方です。

 もし、悪意に満ちた考えの持ち主に利用されたら……


 先日、身の毛もよだつような事例を見つけました。
 それは、新聞の片隅に載った小さな記事でした。
 こんな見出しが付いていました。

 “瞳画像→駅判明→尾行”

 女性アイドルの体を触ってケガをさせたとして、強制わいせつ致傷などの罪に問われている男の裁判での起訴内容です。
 なんと犯罪のきっかけは、被害者がアップしたツイッター上の画像の瞳に映った景色からでした。
 いったい、「瞳に映った景色」とは?


 経緯は、こうです。
 まず被告は、女性が最寄り駅で自身を撮影した画像を見つけます。
 次に、女性の瞳の中に映った景色を分析し、ホームの特徴や線路の本数などを割り出します。
 さらに、握手会で直接女性から聞いた 「近くに引っ越しした」 との情報や、他のファンからの目撃情報を加味し、地図検索サイトのストリートビュー機能を駆使して、ついに駅を特定します。

 ここまでならゲーム感覚かもしれません。
 でも男は、ここから犯罪者としての行動をとります。

 特定した駅で女性を待ち伏せし、自宅マンションまで尾行。
 女性の投稿動画から部屋の位置やカーテンの色を把握。
 さらには、女性が自宅から動画をライブ配信している時に、玄関のチャイムを押して、音が鳴ったことを確認。
 ついに、部屋を探し当てます。

 そして女性宅に侵入し、わいせつ行為におよんだということでした。


 可視化は犯罪の抑制にもなりますが、誘発もしかねないということです。
 便利とは、なんて不便なんでしょうか。
 生きにくい世の中になったものです。
    


Posted by 小暮 淳 at 11:46Comments(0)つれづれ

2020年03月12日

源泉ひとりじめ(20) 湯けむりの向こうで、コスモスが揺れていた。


 癒しの一軒宿(20) 源泉ひとりじめ
 温川(ぬるがわ)温泉 「白雲荘」 吾妻町(現・東吾妻町)


 夜中に幾度となく、目が覚めた。
 そのたびに、滝の音を聴いていた。
 夕刻に眺めていた温川の清流を思い出しては、やがてまた眠りに就いた。
 いくつもの夢を見た。


 葉もれ日が揺れる、長い下り坂。
 その坂道の突き当たりに、山小屋風の一軒宿が見える。
 浅間隠(あさまかくし)温泉郷の中で、一番小さな温泉宿に着いた。

 浅間隠温泉郷は、温川に沿って湧く 「薬師」 「鳩ノ湯」 「温川」 の3つの温泉の総称である。
 浅間隠山(1,757m) の登山口にあることから、そう名付けられている。
 国道406号との分岐点に、大きな案内板が立っている。
 「左150m鳩ノ湯、300m薬師、右200m温川」
 温川をはさんで両岸に分かれ、2つと1つの一軒宿がたたずんでいる。

 「白雲荘」 の創業は昭和38(1963)年。
 5代目主人に案内された部屋は、一番奥の角部屋。
 眼下には七段に落ちる見事な滝を見下ろす絶景が待っていた。
 「川の音がうるさいかもしれませんね」 と、済まなそうに語る柔和な笑顔に、旅の疲れが一気にほぐれていった。

 群馬県内の温泉宿の宿泊客は、8割が県外からである。
 ところがここ温川温泉は、まったくの逆で8割が県内客だという。
 これには驚いた。
 「グループで2~3泊していかれる方が多いので、県内なら私が送迎しています」 と主人。
 またまた驚いていると、「前職がバスの運転手だった」 と聞いて納得。
 5名以上なら県内どこでも、主人自らがマイクロバスで迎えに来てくれるとのことだ。
 県内客のリピーターが多いのは、このきめ細やかな気配りにあったようだ。

 露天風呂へは、浴衣にサンダル履きで歩いて2~3分。
 温川沿いの敷地内に、小屋がある。
 湯は気持ちぬるめだが、肌触りが柔らかく、長湯ができる。
 仰ぎ見れば、どこまでも高い空。
 はぐれた小さな綿雲が、ゆっくりと流れてゆく……

 温川越しに 「鳩ノ湯」 と 「薬師」 の宿が見える。
 小さな温泉郷である。
 満開のコスモス畑の上を、赤とんぼの群れが何度も何度も行ったり来たりしていた。


 ●源泉名:目の湯
 ●湧出量:14ℓ/分(動力揚湯)
 ●泉温:35℃
 ●泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉

 <2005年11月>
  


Posted by 小暮 淳 at 11:40Comments(0)源泉ひとりじめ