2011年01月27日
自然流下の宿
「かけ流し」だとか「循環ろ過」だとか、浴槽の中の温泉の状態を気にする人は多いのですが、それ以前の湯の状態を知ろうとする人は、まだ少ないようです。
いくら浴槽の中では「かけ流し」でも、浴槽へ届くまでが何キロも離れていたり、タンクに何日も貯湯していたのでは、湯は完全に劣化しています。あまり浴槽にばかり気を取られていると、本来のあるべき温泉の姿を見失ってしまうことになります。
以前も話しましたが、「かけ流し」と「源泉かけ流し」は、異なります。
“源泉”が付くからには、泉源(源泉の湧出地)から浴槽へ届くまで、一切、湯に手を加えていない状態を言います。
ですから、加水や加温、消毒もされていない状態で、届くことです。
さらに最上級の湯を求めるならば、動力さえ使用せずに、生まれたままの湯を、そのまま流し入れてあげることです。
これを「自然流下」と言います。
「自然流下」とは、読んで字のごとく。
泉源から湧いた湯が、人の力(動力)を使わずに、万有引力の法則にのっとって、自力で浴槽までたどり着くことです。
だから当然、泉源と宿の位置関係が重視されます。
僕は温泉地へ行くと、まず宿の主人に、泉源の場所を聞きます。
自然の法則にのっとれば、泉源は宿より高い位置にあるはずです。
もし源泉が敷地内の庭に湧いているとすれば、浴室だけは低いところに造られてなくてはなりませんよね。
湯は、高い所から低い所へ流れるからです。
よく、展望大浴場なんてありますが、湯にとっては疲れる話です。
ポンプアップされ、屋上のタンクに貯められ、落とされ、浴槽の中でグルグル循環されるわけてすから、満身創痍の状態であります。たぶん、源泉の原型なんて無くなっているんじゃないですかね。
で、賢い湯守(ゆもり)のいる宿は、泉源の位置・湯温・湯量に合わせて、浴室の位置を決めます。
40℃代の湯ならば、冷めにくいように泉源のすぐ近くに浴室を造ります。
50℃以上の熱い湯ならば、10m、20mと距離をとって、土地の高低差を利用して、湯を冷ましながら流し入れます。
それでも夏季と冬季では、湯の冷め方が異なりますから、季節により入り込む湯量を調節するのが、湯守の仕事です。
ちょっと話が、難しかったですか?
でも、みなさんが良く知っている草津温泉の湯畑だって、泉源ですよ。
7本の木の樋が見えますよね。あれって、湯の花を採取するためじゃありませんよ。ただ単に、湯を冷ましているんです。湯の花は副産物です。
その後、湯は湯滝となって、滝つぼへ落ちます。これは、湯をやわらかくするために揉んでいるんです。
そして、各旅館へと木管を通って、分湯されて行きます。
もー、お分かりですね。
草津で老舗旅館といわれる古いお宿が、すべて湯畑より低い位置に建てられている意味が!
これが、自然流下です。
ぜひ、今度温泉地へ行ったら、泉源の位置と宿の位置、湯量と温度の関係を気にして見てください。
きっと、先人たちの湯を守る知恵に、驚かされるはずです。
Posted by 小暮 淳 at 15:21│Comments(0)
│温泉雑話