2012年05月14日
文章は寝かせて待て
先日の講演会で、質疑応答とは別に、個人的に僕に質問をしてきた男性がいました。
「文章を上手に書くコツってありますか?」って。
その人は専門職についていて、その分野のことを定期的に書いてほしいと、新聞社から執筆の依頼を受けたらしいのです。
もちろん、その分野の知識はあるのですが、執筆となると苦手のようす。
話を聞くと、「どうしても自分が納得する文章が書けない」 とのことでした。
実は、この手の質問は、よくされます。
まあ、僕がライターということで、「何かアドバイスを・・・」 ということなのでしょうが、僕にだって、そんな “コツ” なんて持っていません。
あるなら、こっちが教えてほしいくらいです。
ただ、この手の質問をされた場合、必ず僕は、こう返します。
「文章は、寝かしたほうが、いいですよ」 と・・・
新聞記者のように、スピードを求められる文章は別ですが、エッセーやコラムなどの場合は、「余裕を持って書く」 ことが大切です。
要は、締め切りギリギリになって書かないこと!
僕は、どんな原稿でも、最低2日以上は執筆と入稿の間を空けます。
締め切りまでに余裕がある原稿ならば、1週間前くらいには書いて、放っておきます。
この 「放っておく」 ことが、重要なんですね。
書いて、すぐには原稿を読み返さないことです!
なぜか?
書いてすぐの場合、まだ自分が “書き手”目線で原稿を読んでしまうからです。
たとえば、夜中に書いたラブレターを、翌日になって読み返すと、恥ずかしくてやぶり捨てたくなりまよね。
これは、読んでいるときに、書いたときの高揚している自分は、もういないからです。
そう、時間を置いて、自分が何を書いたか忘れたくらいになったときに 「読み返す」 ことです。
要は、自分が 「読者になること」 が大切なんですね。
これを何度か、くり返します。
ときどき、ヌカ床に手を入れて、かき回すように・・・
だから、業界では、この作業(推こう)のことを、文章を 「発酵させる」「熟成させる」 なんて言います。
僕は、取材を終えると、とりあえず記憶が新鮮なうちに、書き殴ります。
このときは、悩まず、考えず、“勢い” だけを優先します。
実は、この “勢い” というのは、その後の 「推こう」 の段階では付けられないのです。
“勢い” とは、文章の流れやリズムのことです。
その後、時間(余裕があれば1~2日)を置いて、今度は “酒を飲みながら” 読みます。
僕の場合、この “酒を飲みながら” という作業が重要なんです!
酒を飲みながら文章を読むということは、完全に “娯楽”= 「読者の目」 になれるからです。
面白くない文章は、すぐに気づくのです。
「ここは、こうのほうがいいな」「このへんは、くどいな」「このくだりは、いらないな」
見る見るうちに、原稿は、真っ赤になります。
これを何回か繰り返し、最後はちゃんと素面(しらふ)のときに、机に向かって清書をします。
文章は、寝かせるほど、育つということですね。
その男性は、「分かりました。今度、余裕をもって書いて、酒を飲みながら読み返してみます」と言ってましたが、はたして、うまくいったのでしょうか?
もしかしたら、僕だけに通用する執筆術なのかもしれませんね。
Posted by 小暮 淳 at 19:21│Comments(2)
│執筆余談
この記事へのコメント
納得・納得で読ませていただきました。推敲は第三者の眼にならないとうまくゆきませんよね。おっしゃる通り時間を置いてやらないと、作者の眼のままですよね。「寝かせる即ち醗酵させる・熟成させる」とはなんとなんと素適なお言葉でしょう。でも、お酒を飲みながらとはなんとも羨ましい~~ですよね。私・・・お酒が飲めないのですもの。粕汁だっていい気分になってこっくりこっくり・・・ウ~~ンこっくん。お酒って自分でない自分になれるのですか?
Posted by しをちゃん at 2012年05月15日 09:37
しをちゃんへ
最近は、ノンアルコールのビールやカクテルも出ています。
酔った気分になって、推敲してみてはいかがでしょうか?
新たな自分を発見できるかもしれませんよ。
最近は、ノンアルコールのビールやカクテルも出ています。
酔った気分になって、推敲してみてはいかがでしょうか?
新たな自分を発見できるかもしれませんよ。
Posted by 小暮 at 2012年05月15日 20:46