2012年08月13日
ちょっとインドまで⑥ 「バレて元々、ゴネれば得」
⑥ 「バレて元々、ゴネれば得」
「ノー・プロブレム(問題ない)」
インドを旅していると、日に何度となく、この言葉を聞かされる。
彼らは、実に英語が堪能だ。
とは言っても、ごく一部の人たちなのだろうが、相手が外国人だと分かれば、積極的に英語で話しかけてくる。
我々、日本人の文法メチャクチャ単語羅列英語よりは、はるかに流暢(りゅうちょう)である。
ところが、きれいな分かりやすい英語を話してくれる人は稀(まれ)で、なまりの強いインド風英語でまくし立てられることがほとんどだ。
「tr」 の発音がなかったり、極端な巻き舌で 「r」 を強調して 「アール」 と発音していたりで、せっかく英語で話しかけてくれているのに、気づかないことだってあった。
まあ、そんなときは、こっちも知っている限りのジャパニーズイングリッシュでまくし立てれば、その場はなんとかなるものだ。
そもそもインドには、260の言語がある。
方言も入れると、その数は750とも言われている。
事実、旅行中に手にしたルピー紙幣には、英語を含めて15種類の異なった文字で、貨幣価値が記されていた。
公用語だけでも14種類。
最も話者人口の多いヒンディー語でさえ、2億人に満たないという。
インドの人口が約8億5000万人だから、7億人近い人は別の言語を話していることになる。
英語が共通語として公用語に加えられているのは、そのためである。
自分の語学力のなさを棚に上げて言うのもなんだが、それにしてもなまりがひどいのだ。
そんな彼らの英語で、最も分かりやすく、かつ頻繁に使われていた言葉が、「ノー・プロブレム」 だった。
何かにつけ、“問題ない” のひと言で済ませてしまうインド人。
彼らの態度、特に外国人と接するときの態度には、“バレ元、ゴネ得” の精神がうかがえる。
「何かごまかしてバレても元々、ゴネて何か取れれば得」 と考えているのだから、旅行者は用心しないと、必ずしてやられる。
たとえば、郵便物である。
旅先から親しい友人宛てに絵ハガキを出すのも、旅の楽しみのひとつというものだ。
しかしインドの場合、無事に日本へ郵便物が届く確率は、2分の1といっても過言ではない。
現に、僕は現地の日本人駐在員の人から 「ハガキは絶対に町中のポストに投函せず、必ず郵便局で局員が切手に消印を押すところを確認すること」 と忠告を受け、途中からはそうしたものの、見事に前半に出したハガキは1枚も届いてはいなかった。
早い話、切手は盗まれ、郵便物は捨てられてしまうのである。
インドから日本までは6ルピー(約27円)、彼らには、いい小遣いになる。
ある日、僕は町の大きな郵便局にハガキを出しに出かけた。
局員が消印のスタンプを押すのを見届け、他の窓口で新たに切手を買い求めようとした。
「6ルピーの切手を5枚欲しい」
30ルピーの紙幣を窓口に出すと、なにやらニヤニヤと、人を小バカにしたような笑みを浮かべ、隣の局員と話し始めた。
どうやら 「6ルピー切手なんて、この国にはないぜ。ジャパニ」 と言いたいらしい。
そんなことは、こっちも知っている。
融通が利かないヤツらだ。
「5ルピー切手を5枚と、1ルピー切手を5枚欲しい」
これなら文句はあるまい。
すると今度は、「どこまで出す? ジャパンか?」 と訊ねてきた。
もちろん 「イエス!」 と答えた。
すると、
「ジャパンまでなら6ルピー30パイサ(1ルピーは100パイサ) だ」 ときた。
ここでも “バレ元、ゴネ得” が始まった。
僕と局員とのやり取りを見かねてか、連れが達者な英語で荷担してくれた。
「たった今、隣の窓口で、6ルピーで日本までハガキを出したところだ!」
すると局員は、何事もなかった顔で、5ルピー切手5枚と、1ルピー切手5枚を差し出した。
すべてが、この調子である。
タクシーやオート・リクシャーに乗っても、まっすぐ目的地へは行かない。
すぐに脇道へ入り込み、みやげ物屋の前で止め、「何か買え」 と言う。
タバコひとつ買うのも、そうだ。
店によって、同じ物の値段が、まちまちなのである。
ひどい店では、2~3倍の値段で売りつけようとする。
いずれの場合も、こちらが強い態度でハッキリと言い返せば、何も問題はない。
しかし、翌日また顔を合わせれば、「ハーイ、ジャパニ! 安くしとくぜ!」 と性懲りもなく、すり寄ってくるのだ。
悪びれないヤツらだが、なぜか憎めないのである。
まるでインドの気候のように、カラッとしている連中なのだ。
<つづく>
Posted by 小暮 淳 at 17:57│Comments(0)
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