2013年03月22日
おじいさんといっしょ②
毎週金曜日は、実家のオフクロがデイサービスへ出かける日です。
ふだんは、実兄が両親の面倒を看てくれているのですが、どうしても家族が東京にいるため、2週に1回くらいは週末にかけて上京します。
よって、今日は朝からボケ老人のオヤジが、ひとりぼっちになってしまう日です。
当然、1人にするわけにはいきません。
と、いうことで、またしても僕が一日、オヤジの面倒を看に行ってきました。
「おはよう! あれ、オヤジは?」
庭先で、迎えのバスを待っているオフクロに声をかけました。
「おとうさんなら、屋上。洗濯物を干してくれているのよ。あっ、バスが来た! じぁ、おとうさんのこと、よろしくね」
と、あたかも遠足へ行くような弾んだ声で、老人ホームのマイクロバスに乗り込んで行きました。
無理もありませんよね。
頑固一徹のボケ老人と四六時中一緒にいるのですから、週に1度の今日は、オフクロにとってはストレスの発散日なのであります。
どうぞ、どうぞ、羽を伸ばしてきてくださいな。
らせん階段を上って屋上へ行くと、オヤジが健気(けなげ) に、洗濯物を1つ1つ、物干し竿に干しています。
昔のオヤジには、絶対に考えられないことです。
まー、亭主関白を絵に描いたような男でしたからね。
老いては子にしたがい、妻にもしたがっているようです。
「おはよう!」
声をかけると、一瞬、驚いたようで、誰が来たのか確かめるように、けげんな顔で僕をにらみつけました。
「あ? ・・・なんだジュンか」
「ジュンか、じゃないしでしょう。なんで、オレが来たか分かってるの?」
「分からん」
「アニキもオフクロも、いないから来たんじゃないか!」
と僕が言えば、驚いたように、
「ばあちゃんは、いないのか?」
と悲しそうな声を上げます。
「そうだよ、デイサービスの日だからね。今日は、オレが1日一緒なの! 分かった?」
と強く、さとすように言うと、
「・・・分かった」
と、叱られた幼稚園児のように、シュンとしてしまいました。
「何して、遊ぼうか?」
と僕。
「なんでもいいよ」
とオヤジ。
「散歩に行くか?」
と言えば、
「行こう! 行こう!」
と、急にはしゃぎ出すオヤジ。
幼稚園児か!
「どこへ行く?」
「駅」
「駅? 駅で何するの?」
幼稚園児じゃあるまいし、駅で電車を見るわけじぁあるまいな。
まあ、なんでもいい。
オヤジの気が変わらないうちに出かけるとしよう。
右手で杖をつく親父の左手を取り、日だまりを見つけて歩きます。
通り端の児童公園の桜も三分咲き。
枝には、ヒヨドリがとまっています。
のどかな早春の道を、老いた父の手を引く、中年男の姿に、すれ違う人たちは、
「こんにちは」
「ごくろうさま」
なんて、声をかけてくれます。
平日の午前中です。
仕事よりも、老いた父の面倒を看ている僕の姿は、かなり美しい親子愛に映ったんでしょうな。
これも、若い頃に散々親不孝した罪滅ぼしであります。
午後は、親子で並んで、昼寝をしました。
オヤジの寝息が、とても懐かしい響きで聞こえてきます。
いったい、あと、どれくらい、
こんな、たわいのない親孝行をしてあげられるのでしょうか・・・
Posted by 小暮 淳 at 22:19│Comments(3)
│つれづれ
この記事へのコメント
寝姿って意外と記憶に残りますね…
父の寝姿が思い出されます。(イビキも(笑))
里帰りして、花あげてきまーす。
私も父の面倒みながら、同じことを考えてました
父の寝姿が思い出されます。(イビキも(笑))
里帰りして、花あげてきまーす。
私も父の面倒みながら、同じことを考えてました
Posted by ぴー at 2013年03月23日 09:58
老人ホームに入っている父のことを考えていました。激動の昭和を懸命に生きてきた人でありますから、男子厨房に入らずの精神で、多分に頑固は当たり前で自分の物差しを持って図る人であります。しかし、まだらに薄くなる記憶のせいか、小さくなりました。ハタキを持って追いかけまくられた子どもの頃が懐かしいです。あの頃の父にもう一度会ってみたい、先生のお父上さまのお話は、いつも私の心の中のどこかをギュッとつかんでいくのです。
Posted by G@さいたま at 2013年03月24日 01:14
ぴーさんへ
“いつまでも、あると思うな親と金”
金は、はなからありませんけど、親ならばいます。
いるだけで、いいんですよね。
そう思えるようになったのは、つい最近のことです。
G@さいたまさんへ
お久しぶりです。
オヤジに向かって大声を上げている自分がいます。
そのたびに、しゅんとしているオヤジがいます。
「イヤだ、イヤだ」 と思います。
その逆がいい。
もう一度、あのぶっとい腕で殴られてみたい。
オヤジが強かった遠い昔が、今は懐かしくて仕方がありません。
“いつまでも、あると思うな親と金”
金は、はなからありませんけど、親ならばいます。
いるだけで、いいんですよね。
そう思えるようになったのは、つい最近のことです。
G@さいたまさんへ
お久しぶりです。
オヤジに向かって大声を上げている自分がいます。
そのたびに、しゅんとしているオヤジがいます。
「イヤだ、イヤだ」 と思います。
その逆がいい。
もう一度、あのぶっとい腕で殴られてみたい。
オヤジが強かった遠い昔が、今は懐かしくて仕方がありません。
Posted by 小暮 at 2013年03月24日 13:58