2016年09月18日
タイムマシーンに乗って
<認知症の人は、タイムマシーンで最も輝いていた時代に戻る。浄化のための旅、人生を修復しに行く旅でもある。>
(田中京子著 『認知症はタイムマシーン』 ヴォイス社 より)
オヤジの認知症が、進んでいます。
ついに昼夜の違いが分らなくなりました。
今食べているのが、朝食なのか、昼食なのか、夕食なのか……。
目も良く見えず、耳も聞こえないため、新聞を読むことも、テレビを観ることもラジオを聴くこともできません。
ので、やる事がないため、一日中寝たり起きたりを繰り返しています。
そして、ついには“トイレ” が分らなくなり、ところかまわず排尿をするようになりました。
夏前までは夜中に目が覚めても、1人でトイレへ行って、用を済ませて、また布団に戻れたのですが、いったん起きると、ここがどこだか分らなくなってしまうようで、しまいには我慢できなくなり排尿してしまうようです。
気が付くと、朝まで押入れや納戸の中に居たり、廊下の隅でうずくまっているようになりました。
ということで、僕が実家に泊まる日は、オヤジと一緒に寝ることにしました。
ピカァーー!!!
オヤジがベッドから立ち上がると、センサーに反応してライトが照らします。
<あっ、オヤジが起きたんだ>
僕は、そのたびに目を覚まします。
ピカァーー!!!
今度は廊下のセンサーが反応します。
<オヤジがトイレへ行ったな>
しばらくして、シーン……
オヤジが帰って来る気配がないと、僕は飛び起きてオヤジを探します。
案の定、トイレの前でウロウロしています。
「わかんないよ、わかんないよ」
「トイレは、ここだよ」
ドアを開けてやると、
「すみません、ありがとうございます」
と、丁寧に礼を言われてしまいます。
施設にお泊りしていると勘違いしているようです。
これを一晩で5~6回繰り返すので、すっかり僕は寝不足であります。
それでも、付いていて、教えてあげれば、ちゃんと用を足すことができるのです。
まあ、多少の粗相は、愛嬌のうちですが。
オヤジの今の記憶は、日々遠のいていきますが、過去の記憶だけは鮮明です。
散歩の途中で、必ず2つの記憶を行きと帰りに話します。
「この川に落ちたのは、お前だったよな」
家の前を流れる側溝を指差して、必ず言うのです。
これは僕が小学校1年生の時の記憶です。
「この学校には、来たことがあるんだよ」
町内にある女子高の前を通ると言います。
僕が生まれる前、英語教師をしていた頃の記憶です。
“川” の記憶は昭和30年代、“学校” の記憶は昭和20年代のことです。
そして、いつも、とっても楽しそうに話すのです。
オヤジは毎日、タイムマシーンに乗って旅をしています。
Posted by 小暮 淳 at 16:32│Comments(0)
│つれづれ