2017年04月19日
ひとりH
<また甲冑(かっちゅう) 脱いで、遊びに来てね>
“ひとりH” をした翌朝は、必ずママからメールが届きます。
まだ昨晩の酒が残る気だるい午前中、そんなひと言に心がなごみます。
年中無休、休日未定の商売を生業にしていると、他人とはスケジュールがなかなか合いません
昔から 「ひとり酒」 はガラじゃなかったんですけどね。
歳を重ねたということでしょうか……。
ぶらっと、仕事からもプライベートからも逃げたくなるときがあります。
これといって急ぎの原稿もなく、ポッカリと空いてしまった平日の午後。
そんな日、僕は酒処 『H』 へ向かいます。
まだ陽が高いというのに、カウンターの奥には先客がひとり。
常連のS君です。
彼もまたアウトロー(自由業) なので、気分転換に 『H』 にやって来ます。
なんでも、散歩の途中なのだといいます。
「いいですね。散歩の途中で、ちょいと一杯なんて」
「夕食までに戻らないと、家族に疑われます」
「でも、酒の匂いがしてバレませんか?」
「だから、この泡盛なんですよ。これなら匂いません」
本当でしょうか?
証左のほどは定かではありませんが、S君のそのなんともアウトローっぽい行動が、魅力的なのであります。
「ジュンさんも嫌いでなかったら、一緒にどーぞ!」
ということで、暮れなずむ街並みを眺めながら、ほろ酔いトークが始まりました。
「1億円あったら、何に使います?」
なぜか、もし宝クジが当たったらという話になりました。
ママは、店をリフォームするといいます。
S君は、話を振っておきながら答えを用意してなかったようです。
「ジュンさんは?」
考えてみたこともありませんでした。
1億円、あったら……
“1億円” と聞くと、僕は20年ほど前の、ある記憶がよみがえってきます。
久しぶり会った旧友との酒の席での出来事です。
「ジュンちゃんはさ、ふた言めには 『人生は金じゃないって』 って言うけど、それって、お金を持ったことのある人が言うセリフだよ」
「えっ?」
「俺は今、億の金を手にしたけど、手にしてみて初めて 『人生は金じゃない』 て分かったからね」
ぐうの音も出ない僕。
ただただ、敗北感を味わった夜でした。
「あー、むかつく! そういうヤツ!!」
S君が、雄叫びを上げました。
「で、ジュンさん、なんて言い返したのよ」
「いや、何も言えなかった。なんて言い返せば良かったんだろう?」
するとS君は、こんなふうに教えてくれました。
「俺だったら、『オメエは1億稼ぐまで、そんなことも分からなかったのかよ!』 と言ってやるね」
おみごと! あっぱれ!
なんともスカッとするセリフじゃありませんか!
今度、そいつに会ったら、絶対に言ってやろう!
そして、この後、2人して自然と口を突い出た歌が……
♪ 金のないヤツぁ オレんとこ来い来い オレもないけど心配するな~ ♪
負け惜しみのような気もするけどね。
Posted by 小暮 淳 at 12:17│Comments(0)
│酔眼日記