2017年05月15日
「母の日」 のプレゼント
何年か前から僕は、「母の日」 のプレゼントを買わなくなってしまいました。
正確に言えば、平成27年の 「母の日」 からです。
それまでは毎年、花だったり、オフクロの好きな和菓子を買って、届けたものです。
その年に何が起きたのかといえば、それは、とっても些細な理由なんです。
僕が書いている “群馬の温泉シリーズ” の出版日が、5月になったというだけのこと。
それ以前は、4月だったり、9月だったのです。
2年前に出版した 『尾瀬の里湯』 が5月9日。
昨年出版した 『西上州の薬湯』 が5月10日。
そして今回出版した 『金銀名湯 伊香保温泉』 が5月15日です。
早い話が、プレゼントを買う手間を省いて、著書にサインを入れて渡しているのです。
「ばあちゃん、元気かい?」
昨日、僕は実家に、寝たきりのオフクロを訪ねました。
「いいところに来たね。オシッコをさせてくれないかい」
本を手渡そうとして、出鼻をくじかれてしまいました。
オフクロは、夜寝るときは紙オムツをしていますが、昼間はベッドの脇に置いてあるポータブルトイレで用を足します。
でも1人では、ズボンも下着も下ろせません。
「終わったら、呼んでおくれ」
そう言って僕は、カーテンを閉めて、リビングのイスに腰掛けて待ちます。
やがて用を足し終え、下着とズボンをはかせて、またベッドに寝かせました。
「今日は、なんの用だい?」
「なんの用じゃないよ。母の日だよ」
「あれ、そうだったかね」
「甘い物でも買って来ようと思ったんだけどさ、ベッドの上で食べて、こぼすとアニキに怒られるだろ。だから、はい、これ! また本が出たんだよ」
「へぇー、そうかい。また出したんかい! 大したもんだね」
「でも、これが仕事だから」
「だったら、ちゃんとイスに座って見たいよ。起こしてくれないかい」
オフクロは、わざわざ車イスに乗り移り、リビングのテーブルまでやって来ました。
「これで何冊目になるんだい?」
「温泉は9冊目だよ」
「ほかにも出しているよね?」
「ああ、山歩きとか旅行記とか」
「大したもんだよ。あたしは、うれしいよ」
そう言って、オフクロは泣き出してしまいました。
「プレゼント、甘い物じゃなくて、悪かったね」
「なに、言ってるんだい。わたしは、こっちのほうがうれしいよ」
「そう言ってくれるのは、ばあちゃんだけだよ」
そしてオフクロは、こんなことを言いました。
「お前はさ、お金がない、お金がないって、いっつも言うけどさ。お金じゃ買えないものを、こんなにも残しているじゃないか。お金なんて、いっくらあっても、あの世には持って行けないんだよ。この世に置いて行ったって、子どもたちが争そうだけだ。でも、本はいいよ。死んだ後も残るもの。何よりも、人の心に残る。お前、いい仕事しているよ。あたしは、うれしいんだよ」
またしても号泣であります。
かーちゃん、ありがとう。
やっぱり、そんなことを言ってくれるのは、かーちゃんだけだよ。
いつまでできるか分からないけど、かーちゃんが生きているうちは本をプレゼントするから、長生きしてくれよな。
いくつになっても親離れできない息子で、ゴメン!
Posted by 小暮 淳 at 13:19│Comments(4)
│つれづれ
この記事へのコメント
伊香保の本、心待ちです
両親はありがたい存在ですね、お母様よく見てらっしゃる
そして、今日の話
ワタシの行きつけの内科の先生が、「小暮さんて人が温泉の本書いてるよね?」と聞いてきました
ワタシのプロフィールを知っている先生なので、
「はい、ワタシの先生ですよ」というと、
「わたるっていうお兄ちゃんがいるのかな?」というので、
名前は知りませんが、お兄さんはいるようですよと言うと、
「たぶん、高校の同級生だな~、顔も似てるし」と懐かしそうにしていました
「淳さんは、スゴイことをしているよ」
と、知らないところでも褒めている人がいますよ!
あなたも、見習っていい仕事しないと!と背中を押されて帰ってきました
両親はありがたい存在ですね、お母様よく見てらっしゃる
そして、今日の話
ワタシの行きつけの内科の先生が、「小暮さんて人が温泉の本書いてるよね?」と聞いてきました
ワタシのプロフィールを知っている先生なので、
「はい、ワタシの先生ですよ」というと、
「わたるっていうお兄ちゃんがいるのかな?」というので、
名前は知りませんが、お兄さんはいるようですよと言うと、
「たぶん、高校の同級生だな~、顔も似てるし」と懐かしそうにしていました
「淳さんは、スゴイことをしているよ」
と、知らないところでも褒めている人がいますよ!
あなたも、見習っていい仕事しないと!と背中を押されて帰ってきました
Posted by ぴー at 2017年05月15日 18:44
ぴーさんへ
お恥ずかしい限りです。
青春が終わらないもどかしさを感じている今日この頃であります。
内科先生の言うとおり、兄の名は 「わたる」 です。
昔は似ていなかったんですけどね……。
なんだか歳を重ねるに連れて、兄にも父にも似てきたと言われます。
内科先生に、よろしくお伝えください。
兄弟仲良く、両親の介護をしていると。
お恥ずかしい限りです。
青春が終わらないもどかしさを感じている今日この頃であります。
内科先生の言うとおり、兄の名は 「わたる」 です。
昔は似ていなかったんですけどね……。
なんだか歳を重ねるに連れて、兄にも父にも似てきたと言われます。
内科先生に、よろしくお伝えください。
兄弟仲良く、両親の介護をしていると。
Posted by 小暮 淳 at 2017年05月16日 00:04
群馬から引き続いて小暮ブログのファンです。
たまにコメントする気まぐれ爺さんです。
いつもながらのホロリとくるあったかなお話でした。
お金より大事なものが何なのか?
よくわかりました。
ありがとうございました。
追伸
「グラフぐんま」5月号を群馬の知り合いに頼みました。
船橋では手に入りません。
楽しみに待つことにしました。
たまにコメントする気まぐれ爺さんです。
いつもながらのホロリとくるあったかなお話でした。
お金より大事なものが何なのか?
よくわかりました。
ありがとうございました。
追伸
「グラフぐんま」5月号を群馬の知り合いに頼みました。
船橋では手に入りません。
楽しみに待つことにしました。
Posted by 気まぐれ爺さん at 2017年05月17日 09:45
気まぐれ爺さんへ
お久しぶりです。
わざわざ「グラフぐんま」を取り寄せていただいたなんて、大変恐縮であります。
シリーズは、始まったばかり。
末永くご愛読くだいますよう、お願い申し上げます。
お久しぶりです。
わざわざ「グラフぐんま」を取り寄せていただいたなんて、大変恐縮であります。
シリーズは、始まったばかり。
末永くご愛読くだいますよう、お願い申し上げます。
Posted by 小暮 淳 at 2017年05月17日 20:00