2017年06月22日
野栗沢温泉 「すりばち荘」④
久しぶりに野栗沢温泉(群馬県多野郡上野村) の一軒宿、「すりばち荘」 を訪ねてきました。
確か前回は著書 『西上州の薬湯』(上毛新聞社) の取材でしたから、約1年半ぶりになります。
今回は、連載中の雑誌の取材です。
やっぱり上野村は遠いですね。
いえいえ昔に比べれば、下仁田町経由で南牧村から上野村に抜けるトンネルができたので、ずいぶんと時間が短縮されたんですけどね。
それでも前橋から車で約2時間かかります。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
最初に出迎えてくれたのは、息子で2代目の黒沢忠興さん。
「あれ、ご主人は?」
「じきに帰ってきますよ」
「では、先に湯をいただいてきます」
と、勝手知ったる浴室棟に上がり込み、朝風呂をいたたくことに。
泉質は、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉。
今から34年前、山奥に湧く、この魔法の水を引いて来て、旅館を開業しました。
えっ、何が魔法の水かって?
それは、発見したのが人間ではなかったこと。
飲用すると、野良仕事をしても疲れないこと。
何よりも現在は、その効能を求めて全国からアトピー性皮膚炎の患者たちがやって来ること。
などなど、温泉水にまつわるエピソードは枚挙にいとまがありません。
※(詳しくは、拙著『ぐんまの源泉一軒宿』『新ぐんまの源泉一軒宿』『西上州の薬湯』を参照ください)
「炭酸泉で練っているから、少し色が黄色いやな」
昼には、ご主人の武久さんが源泉水で打った、名物の 「すりばちうどん」 をいただきながら、話を伺いました。
うどんは黄色というよりは、そばのような淡い灰色をしています。
太くて、モチモチとした食感があり、ほんのり塩気があります。
これを薄味の出し汁に、たっぷり浸して、豪快にパクつきます。
「うまいっ!」
「あったりまえさ、水が違うんだからよ」
10数年前に初めて泊まった晩も、同じ会話をした記憶があります。
あの時は、「ほれ、これが源泉だ! 絶対に二日酔いしないから、1杯飲んどきな」 とグラスを手渡されました。
そしたら本当に翌朝は、散々酒を飲んだにもかかわらず、スッキリと目覚めることができました。
ゴホン、ゴホン、ゴホン!
食事の最中に突然、むせてしまいました。
すると、すかさずご主人は厨房へとんで行って、水の入ったグラスを持ってきてくれました。
「ほれ、これを飲めば一発でセキなんて、止まっちまうよ」
源泉水です。
ほんのり甘くて、今日はスポーツドリンクのような味がしました。
でも、不思議不思議……、ピタリとセキが止んだのです。
またしても “魔法の水” のお世話になってしまいました。
温泉って、本当に不思議ですね。
昔々、そのまた大昔、海底火山が噴火して、温泉が湧き出し、地球に最初の生命が誕生したといいます。
やがて長い時間をかけて小さな命は、人間へと進化しました。
だから生命の細胞の中には、温泉が含まれているということです。
温泉は命のふるさとなんですね。
実は、魔法でもなんでもないんです。
人間は昔から、温泉に元気をもらって暮らしてきたのですから……。
Posted by 小暮 淳 at 21:20│Comments(0)
│温泉地・旅館