2018年02月23日
鳩ノ湯温泉 「三鳩樓」②
<細い坂道を下り、小さな橋を渡ると、老木に囲まれたおもむきのある玄関が出迎えてくれた。四季折々、いつ訪ねても風情を感じさせ、旅人を飽きさせることのない宿だ。>
ちょうど10年前、僕は 『上州風』(上毛新聞社) という文芸雑誌に、「源泉 湯守の一軒宿」 という連載を始めました。
2年ほど続きましたが、雑誌の休刊とともに連載も終わりました。
その連載の第1回目が、浅間隠温泉郷(群馬県吾妻郡東吾妻町) の一軒宿、鳩ノ湯温泉 「三鳩樓(さんきゅうろう)」 でした。
冒頭の文章は、その時の書き出しの部分です。
「ご無沙汰しています」
「だいぶ、儲かっているみたいじゃないか」
「まっさか、そんなこと、あるわけないじゃないですか」
ご主人の轟徳三さんにお会いするのは、4年ぶりです。
2014年に出版した 『新ぐんまの源泉一軒宿』(上毛新聞社) の取材以来です。
今回も雑誌の取材で伺いました。
「お変わりはありませんか?」
「ああ、何も変わっちゃいないよ。俺が老けたくらいかな」
開湯の歴史は古く、寛保年間(1741~1744) と伝わります。
文献によれば当時は 「花の湯」 と呼ばれていたらしく、「鳩ノ湯」 というようになったのは江戸後期になってからのようです。
「ご主人が何代目かは、分からないんですよね?」
「だいね。あまりにも歴史が古過ぎるもの」
「前回来た時は、14~15代目じゃないかと言ってましたよ」
「たぶん、そのくらいだと思うよ」
今回は、宿に残る文化文政時代(江戸時代後期) に江戸で配ったという 「効能書き」 のチラシを見せてもらいました。
きりきず、やけど、などに加えて、「まむしくい」(マムシ喰い?) や 「せんき」(腰腹の疼痛) などの当時ならではの疾患名がずらりと表記されています。
最後には、こんな文言もありました。
<草津入湯のただれには、一夜二夜にして歩行自由になること神妙の如し>
江戸と信州を結び、草津温泉にも抜ける裏街道の宿場町にある湯治場として、多くの旅人たちでにぎわっていた様子が伺える貴重な文献です。
難しい話は、さて置いて、取材の一番の目的は、もちろん入浴です。
長くなりそうな話を、ひとまず中断して、湯屋へ。
長い長い渡り廊下を歩いて、源泉の湧出地のある川沿いの階下へ向かいました。
「万華鏡の湯」
僕は、ここの湯を、そう呼んでいます。
季節、天候、時間帯によって、訪ねるたびに湯の色が異なるからです。
最初に訪ねた時は、茶褐色。
次は、淡黄色でした。
ご主人いわく、
「白くなったり、青くなったり、ごく稀だけど透き通ることもある」
で、今日の湯の色は、濃い抹茶色でした。
古沼のような深く神秘的な色合いです。
源泉の温度は、約44度。
加水も加温もすることなく、惜しげもなくかけ流されています。
「うーーーーーん、いい湯だ!」
思わず、独りごちたのであります。
Posted by 小暮 淳 at 20:25│Comments(0)
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