2018年04月09日
黄泉への誘い
「おとうさん、施設に入れちゃいなよ」
「……」
「どうせ、分からないんだからさ」
「俺たちにも、いろいろ事情があるんだよ」
昨日、オヤジを車イスに乗せて、入院しているオフクロを訪ねました。
僕の顔を見るなり、オフクロは、
「だいぶ疲れているみたいだけど、大丈夫かい?」
そう言って、冒頭の言葉を続けたのです。
オフクロは現在、老衰が進み、在宅介護が不可能なため、リハビリ施設にお世話になっています。
ほぼ寝たきりですが、頭はハッキリしているので、僕やアニキが訪ねて来るのを、とても楽しみにしています。
一方、オヤジは要介護認定3の認知症です。
デイサービスとショートステイを組み合わせて、在宅介護をしていますが、最近は体力が極端に衰えたため、車イスの生活をしています。
平日は実家でアニキが面倒を看ていますが、週末は僕が自宅にオヤジを引き取っています。
そして毎週日曜日は、オヤジを連れて、オフクロに会いに行きます。
オフクロは喜んでくれますが、オヤジは無表情です。
僕のことも分からないのですから、オフクロのことも分かりません。
ポカンと宙を仰いでいるオヤジの手を握って、突然、ベッドの中のオフクロが言いました。
「おとうさん、そろそろ私と一緒に、あの世に行きませんか?」
「そんなことを言ったって、分かるわけないだろう! なんていうことを言うんだい!」
「ジュン、おとうさんに聞こえるように、言ってくれないかい?」
冗談とは思えない真剣な目で、僕に訴えてきました。
しかたなく僕は、オヤジの耳元で、大声を出して訊いてみました。
「ばーちゃんがさー、いっしょに、あのよに、いこうって!」
このあと、オヤジは、なんて言ったと思いますか?
「いや、オレはいい」
ですって。
それを聞いたオフクロの悲しそうな顔といったらありませんでした。
「おとうさん、それじゃ、ダメなんですよ。ジュンたちに迷惑が、かかるんですから」
そう言うと、目をつむってしまいました。
この会話、息子としては、どうリアクションすればいいのでしょうか?
笑うに笑えないし、でも、笑わないとオフクロが、かわいそうでなりません。
「ま、そういうことだから、2人とも長生きしてくださいな。俺とアニキなら大丈夫だからさ」
車イスを押しながら、病室を後にしました。
Posted by 小暮 淳 at 13:47│Comments(0)
│つれづれ