2018年04月30日
記憶のゆくえ②
「親に向かって手を上げたな! 許さん!!」
突然、オヤジが大声を上げて、怒鳴り出したので、びっくり仰天。
あたふたとする僕。
といっても、大声を上げたからでも、怒り出したからでもありません。
僕のことを介護施設の職員だと思っているはずの認知症のオヤジが、僕に対して自分のことを “親” と認めたからです。
それは先週のこと。
我が家にオヤジを引き取って、面倒を見ているときでした。
僕がちょっと目を離したすきに、テーブルの上のあったティッシュボックスをいたずらして、壊して、中身を全部出してしまったのです。
「コラッ、じいさん、なにをやってるんだよ! 赤ん坊じゃあるまいし、まったく!!」
僕は、部屋に散らばったテッシュペーパーを拾いながら、オヤジの頭を手のひらで、ポンと叩いたのでした。
これが彼のプライドを傷つけてしまったようです。
「親に手を上げるヤツがいるか!」
えっ、自分が親だって分かっているの?
じゃあ、いままでのよそよそしい態度は、なんだったの?
それとも叱られたショックで、一瞬だけ記憶の回線がつながって、僕が息子だということが分かったのでしょうか?
ティッシュペーパーを片付けながら、怒鳴り散らしているオヤジを見て、うれしくなってしまいました。
息子に叱られたことが、よっぽど悔しかったのですね。
ところが、最後にオヤジが負け惜しみで言った言葉に、興ざめしてしまいました。
「よし、このことは、兄貴と姉さんに言うからな。いいな!」
笑ってしまいます。
オヤジは8人きょうだいの下から2番目です。
そして、オヤジ以外のきょうだいは、すでに全員他界しています。
「伯父さんと伯母さんに、いいつけるの?」
「ああ、いいつけてやるからな!」
いったい、オヤジは今、記憶のどのあたりを旅しているのでしょうか?
“認知症” というタイムマシーンに乗って……
Posted by 小暮 淳 at 13:50│Comments(0)
│つれづれ