2019年04月17日
川古温泉 「浜屋旅館」⑨
どこもかしこも酸つぱいな
なま木の束を釜に入れて
一年三百六十五日
じわじわじわじわ乾溜するので
それでこんな山の奥の淋しい工場が
蒼ずんで、黒ずんで、又白つちやけて
君たちまでそんなに水気が無くなつたのか
第一、声が出ないぢやないか
声を出すのはあの自動鉞(まさかり)だけぢやないか
高利のやうに因業なあの刃物だけぢやないか
ひつそりとした川古のぬるい湯ぶねに非番の親爺
━━お前さんは藝人かね、浪花節だろ
━━何でもいいから泊つてけよ
声がそんなにこひしいか
石炭、硫酸、木酢酸
こんな酸つぱい山の奥で
やくざな里の声がそんなにめつためつた聞きたいか
あいにくながら今は誰でも口に蓋する里のならひだ
(上州川古「さくさん」風景)
川古温泉の歴史は古く、すでに江戸時代には湯が湧いていて、大正時代には湯治客が入りに来る湯小屋があったといいます。
大正5年(1016)、木材を切り出して酢酸(さくさん)などを造るための工場が、温泉の下流に設立されました。
この工場に勤めていた現主人の祖父が、温泉の湯守から仕事を引き継ぎ、旅館を創業しました。
詩人の高村光太郎が川古温泉を訪れたのは昭和4年(1929)でした。
そして、冒頭の作品を残しました。
詩の中に登場する “非番の親爺” が、初代主人のようです。
「お久しぶりです」
“非番の親爺” の孫で、3代目主人の林泉さんが、笑顔で出迎えてくれました。
「あれ、そんなに久しぶりでしたっけ? 今年になって会ってますよね」
「いえ、あれは去年の暮れですよ」
そうでした。
とっても寒い日、小雪が舞う日でしたっけ。
地元のテレビ局の特別番組の取材で、訪れたのでした。
今日は雑誌の取材で、川古温泉(群馬県みなかみ町)の一軒宿、浜屋旅館へ行ってきました。
「あれ、小暮さんは、女性専用の露天風呂は、見たんでしたっけ?」
「えっ、知りません。いつ造ったの?」
「去年だけど、見ます?」
「でも、女風呂でしょ?」
「大丈夫、今、お客さんは入ってないから」
ということで、ご主人の案内で女風呂へ。
誰もいないと言われても、やはりドキドキするものです。
そーっと覗き込むと、小さいながら野趣に富んだ開放感のある木造りの露天風呂でした。
「やっぱりね、専用風呂があるのと無いのとでは、違いますよ」
「混浴露天だけだと、ダメですか?」
「女性は安心して、入れないでしょ」
川古温泉は昔から、内風呂も露天風呂も混浴の湯治宿でした。
現在は、時代の変化とともに、男女別の内風呂も完備されています。
でも、露天風呂だけは長年、混浴のみでした。
これで女性客も、心置きなく露天を楽しめるというものです。
めでたし、めでたし!
雑誌の取材も、予定通り順調に終わりました。
これまた、めでたし!
Posted by 小暮 淳 at 23:37│Comments(0)
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