2019年08月21日
そこどけそこどけ、オレ様が通る!
<その日は娘の大事な誕生日。彼の運転する車の後部座席では、昼間買ったプレゼントの包みが揺れている。はやる心で農免道路へ入った。ついついスピードも出ていたに違いない。あっという間に前走車との距離は縮まり、追いついてしまった。それにしても遅い車だ。メーターを見ると、きっちり時速40キロ。当然のこととして彼は追い越しをかけた。ところが彼が対向車線に飛び出し加速すると同時に、その車も加速してきたという。いつまっで経っても彼の追い越しは完了しない。そのうち対向車のヘッドライトが近づいてきた。彼は追い越しをあきらめて減速し、元の車線にもどった。>
この文章は、今から22年前に出版した拙著 『上毛カルテ』(上毛新聞社) に収録されている 「道路いっぱいの危険」 というエッセイの一節です。
初掲載は、さらに5年前 (1992年) のタウン誌でした。
まだ “あおり運転” などという言葉をマスコミが使う、はるか昔のことです。
<「なんだっ、速く走れるんじゃねぇか」 はるか前方へ走り去るテールランプを見つめて、彼はつぶやいた。しかし、ものの1分と走らないうちに彼の車は、またその車に追いついてしまった。(中略) どうも前走車の様子ががおかしい。前方に見える黄色点滅信号機の手前で、その車は停車しているのだという。そして彼が車を減速して近づきはじめた時、運転席のドアが開き黒い人影が降り立った。>
ここ数日、テレビはニュースでもワイドショーでも、あおり運転による暴行犯の話題で持ちきりです。
でも決して、最近になって増えた犯罪ではありません。
ドライブレコーダーの普及により、その現場の生々しい映像が世に出てるようになったため、悪質ドライバーが増えているよな錯覚を起こしているだけです。
実際には、ドライブレコーダー自体が抑止力になって、昔よりは減っていると思います。
だって昔は、まったく可視化されていない路上での犯罪だったのですから。
この年、平成4年(1992) は、路上での悲惨な殺人事件が2日間連続して起きています。
1件は、神奈川県で起きた 「パッシング殺人事件」。
高速道路で前の車が遅いからとパッシングを続け、十数キロにわたり執拗に追い回した後、インターチェンジを降りた信号待ちで文句を言いにきた前走車のドライバーを刃物で刺したという事件です。
もう1件は、群馬県高崎市で起きた 「追い越しケンカ殺人事件」。
若者たちが乗る車同士が追い越し運転をめぐるトラブルからケンカとなり、1人がナイフで刺されて死亡するという事件でした。
なぜ、人は車に乗ると “凶暴化” するのでしょうか?
パッシング殺人事件の犯人の供述によれば、
「オレの車は3ナンバーで速く走れるのに、その前でノロノロ走っていたから頭にきた」
との動機を明かしています。
実は統計でも、あおり運転をする車は、圧倒的に高級車が多いとの報告があります。
僕は、この現象のことを著書の中で、“ガンダム現象” と表現しています。
他人より高級な車、速く走れる車に乗ることにより、自分が他人より優れている人間になったような錯覚をする現象です。
アニメの超合金ロボットを操縦しているような感覚に、脳が麻痺状態に陥るのではないかと……
あれから四半世紀以上が経ちました。
世の中は変わっても、人間の弱さと愚かさは、なかなか変われないようであります。
Posted by 小暮 淳 at 12:05│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
どうか、ゆっくり走りたいあなた。そんなガンダム様をお先に譲ってくださいな。昨日はそんなガンダム様が覆面に捕まるのを見たばっかりです(笑)
Posted by グッチ at 2019年08月22日 05:18
グッチさんへ
“せまい日本 そんなに急いで どこへ行く”
ですね。
のんびり、ゆっくり、楽しくやりましょうよ!
“せまい日本 そんなに急いで どこへ行く”
ですね。
のんびり、ゆっくり、楽しくやりましょうよ!
Posted by 小暮 淳 at 2019年08月22日 22:34