2020年05月24日
鳥獣人戯画 ~世紀の対決 (完) ~
【前回までのあらすじ】
人類滅亡をたくらむ新型コロナウイルスの化身 「疫病魔コロナウルス」 と、江戸時代に疫病から人々を救った妖怪アマビエの子孫 「妖獣アマビエラ」 の世紀の一戦。
そこへ現れた一羽の巨大な鳥は、アマビエ同様、江戸時代に疫病を予言したといわれる伝説の鳥、ヨゲンノトリの進化系 「翼竜ヨゲンノトリドン」 だった。
ヨゲンノトリドンはアマビエラを連れ去り、人類に滅ぼされた動物たちはコロナウルスの体内にもどり、やがてコロナウルスともども消えてしまった。
そして、誰もいなくなったリングに残されたものは……
※(当ブログのカテゴリー 「世紀の対決」 参照)
<アナウンサー>
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、無観客で行われた世紀の対決ですが、主役のコロナウルスとアマビエラが姿を消してしまった今、会場は、シーンと静まり返っています。
いったい誰が、このような結末を予想することができたでしょうか!
<解説者>
それにしても気になるのは、リングに残された一枚の紙切れです。
カメラさん、もっと近くに寄ってもらえませんか?
<アナウンサー>
この放送は無観客だけではなく、すべてを無人のリモート(遠隔)操作で撮影しております。
今、グングンとカメラがリングへと近づいています。
<解説者>
もっと、もっと近く寄って!
ズームアップ!
<アナウンサー>
見えてきました。
思っていたより大きな紙ですね。
<解説者>
絵が描かれています。
文字ではありません。
<アナウンサー>
では、これは 「予言の書」 ではないと?
<解説者>
いえ、まだ分かりません。
カメラさん、もう少し寄ってもらえますか?
<アナウンサー>
あっ……、動物のようですね。
たくさんの動物たちが描かれています。
それも、とても古い絵巻のような……
あれ、これ、見たことがありますよ。
昔、教科書で見た、えーと……
そうです、「鳥獣戯画」 です!
<解説者>
いえ、違います!
よーく、見てください。
動物だけではありません。
人も描かれています。
これは……、たぶん、
「鳥獣人戯画」です!
<アナウンサー>
ちょうじゅうじんぎが?
<解説者>
ええ、よく見てください。
鳥や獣が描かれているのは、野山です。
その下のほうには、田畑を耕す人々が描かれています。
人と動物の共存共栄を表した絵巻のようですね。
<アナウンサー>
人のいる田畑には、ピンク色の羽を持つ大きな鳥が描かれていますが?
<解説者>
トキでしょう。
学名は、ニッポニア・ニッポン。
日本では乱獲により一度は絶滅しましたが、その後、人工繁殖により復活した特別天然記念物の鳥です。
<アナウンサー>
日本には、こんなにものどかで、平穏な風景が見られた時代があったんですね。
<解説者>
かつては、鳥も獣も人も、すべての生きとし生けるものたちが、共に暮らしていたのです。
ところが文明の発達とともに、人間は自分たちの私利私欲のために必要以上に自然を破壊し、鳥や獣たちの乱獲を続けた。
なのに絶滅しそうになると今度は、あわてて保護を始める。
人間は、なんて勝手な生き物なんでしょうね。
そんなことをするくらいなら、初めから構わずに、環境をそのままにしておくべきだったのです。
人間よりも鳥や獣たちのほうが、歴史の長い先住者なのだから……。
そして、いろいろな面で我々人間を助けてきてくれた仲間だったのに……。
昔、動物が農耕地を荒らすので、人々は土手をつくり、入り込まぬようにして互いの生活を守りました。
でも、今は違う。
そういった努力をせずに、少しでも人間に被害があると相手が悪いものと決め付けて、大げさに騒ぎ、果てには殺してしまう。
<アナウンサー>
では、どうしろと?
<解説者>
住み分けですよ。
鳥も獣も人も、共に暮らしていくことです。
この地球上に、不要の生き物なんていないんです。
何かしら必要だから神は、創生したのだと思います。
<アナウンサー>
ということは、ウイルスも?
<解説者>
もちろん、同じ地球の同じ時代に、共に生きる仲間ですよ。
そのことを、この絵巻は伝えているの・・・・・・・
ピカッ! (突如、閃光が走る)
<アナウンサー>
まぶしーーー!!!!
何も見えません!
<解説者>
ま、またしても……
ドーン! (激しい爆音と地響き)
【完】
※この話は僕が見た夢の続きで、すべてフィクションです。
ご愛読、ありがとうございました。
Posted by 小暮 淳 at 12:37│Comments(0)
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