2020年10月06日
温泉考座 (34) 「地震を見抜く」
東日本大震災は東北地方のみならず、列島各地に大きな爪あとを残しました。
県内の温泉地でも例外ではありません。
震災直後は、どこの温泉宿も軒並みキャンセルの嵐。
その後も計画停電やガソリン不足、鉄道の運休の影響で、観光地はパッタリと客足が途絶えてしまいました。
地震の影響は、間接的な被害だけではありません。
湯脈を断たれ、源泉そのものが止まってしまった温泉地もあります。
かと思えば、地震直後から湧出量が何倍にも膨れ上がり、浴槽からあふれ出た湯が脱衣所を水浸しにしてしまった宿もあります。
その後しばらくして湯量は収まったと聞きますが、温泉とは不思議なものです。
中之条町の沢渡温泉も、地震当日から不思議な現象が起きました。
元禄時代創業、沢渡温泉最古の 「まるほん旅館」 16代目主人の福田智さんは、10年前までは銀行員でした。
仕事で同館を訪れているうちに、すっかり湯と先代の人柄に惚れ込んでしまったといいます。
ある日、先代から 「後継ぎがいないので、旅館を閉めようと思う」 と相談を受けた福田さんは、「こんな素晴らしい温泉を持つ、歴史ある旅館が消えるのは惜しい。ならば自分が継ぎます」 と脱サラをして、福田家に養子に入ったという異色の経歴を持つ湯守 (ゆもり) です。
2011年3月11日。
地震の直後、まるで魔法にかかったようにピタリと源泉が止まってしまいました。
すぐに福田さんは、隠居中の先代のもとへ報告に行きました。
すると先代は 「なんの心配もいらん。じきに湯は出る」 と、まったく動じなかったといいます。
そして3日後、源泉は何事もなかったように湧き出しました。
地震の震動で地中の圧力ガスが抜け、一時的に湯を押し上げられなくなったのだといいます。
しばらく経ち、またガスがたまって圧力が回復したため、温泉が湧き出したのでした。
そのことを先代は、長年の経験と勘により知っていたのです。
地震も温泉も自然次第ですが、それを見抜ける湯守がいることも忘れてはならない事実です。
<2014年1月8日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:07│Comments(0)
│温泉考座