2021年02月24日
温泉考座 (70) 「江戸より伝わる洗眼処」
このカテゴリーでは、ブログ開設10周年 (2020年2月) を記念した特別企画として、2013年4月~2015年3月まで朝日新聞群馬版に連載された 『小暮淳の温泉考座』(全84話) を不定期にて、紹介しています。
(一部、加筆訂正をしています)
霧島温泉 (鹿児島県)、姥子温泉 (神奈川県)、浅間温泉 (長野県)、貝掛温泉 (新潟県) など、全国には眼病に効くといわれる温泉があります。
泉質は、それぞれ異なりますが、殺菌作用のあるホウ酸やミョウバンが含まれている場合が多いようです。
群馬県内では浅間隠(あさまかくし)温泉郷の温川(ぬるがわ)温泉 (東吾妻町) が、昔から 「目の湯」 といわれ湯治場として親しまれてきました。
湯の歴史は古く、江戸中期、安永 (1772~1781) の頃に発見されたと伝わります。
ある時、村人が家路を急ごうと近道をした草むらで、偶然に湯だまりにカエルの群れを見つけたのが最初といわれています。
囲炉裏や炊事の煙に悩まされていた村の女たちが、この湯で丹念に目を洗ったところ、たちまち治り、村から村へとその効能が伝わり、「目の湯」 と呼ばれるようになったといいます。
明治23(1890)年、浅間隠山の大洪水によって一瞬にして埋没してしまいましたが、73年後の昭和38(1963)年に再掘され、幻の薬湯がよみがえりました。
泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉。
1㎏中のメタホウ酸の含有量が78.4㎎と多いのが特徴です。
ホウ酸は目薬の成分としても知られ、結膜炎やトラホームなど感染症が多かった時代は、洗眼薬としても治療に用いられていました。
宿から露天風呂へ向かう温川沿いに、源泉を引いた 「洗眼処」 があります。
医学が進み、抗生物質などの治療薬が普及した現代でも、洗眼のために湯をペットボトルにくんで持ち帰る客が後を絶ちません。
湯は、ややぬるめで、しばらく浸かっていると、体中に小さな泡の粒が付き出します。
昔から “病を教える湯” といわれ、体の悪い所には泡が付かないといいます。
また泡の出る温泉は、骨の髄まで温まるといわれ、湯冷めをしない温泉としても珍重されてきました。
※現在、一軒宿は廃業し、露天風呂も閉鎖されています。
<2014年11月19日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:31│Comments(0)
│温泉考座