2021年05月12日
怪談 「迷い道」
昨日、僕はブログに “霊感はない” と書きました。
その後、よくよく思い出してみると、僕自身が体験したことではないのですが、とっても不思議な出来事の “証人” になったことがありました。
それは昔々のこと。
今から45年も前の暑い夏の夜のことでした。
高校3年生の夏休み。
それまでに誕生日を迎えたクラスメートたちは、我先にと、こぞって自動車の運転免許を取りました。
仲間内で一番先に免許を取得したS君から電話があったのは、8月の夜のことでした。
「オヤジが車貸してくれるってさ。今からジュンちへ行くから、ドライブしようぜ!」
時計を見ると、7時を少し回った頃でした。
S君の家は、前橋市に隣接するO町。
県道で一本、車なら30~40分の距離です。
ところが8時になっても、8時半になっても彼は来ません。
9時を過ぎた時、しびれを切らした僕は、S君の家に電話を入れました。
すると母親が出て、
「あれ、小暮君ちへ行くって言って、出て行ったけど」
「それは、何時頃ですか?」
「うーん……、小暮君に電話したんじゃないの? あの後、すぐに出かけたわよ」
いや~な予感がします。
事故に遭ったんじゃないだろうか?
携帯電話のない時代です。
こちらからは連絡ができません。
もし、何らかのトラブルがあり、来れなくなったのであれば、公衆電話からかけてくるはずです。
それができないということは、大きな事故に巻き込まれたのかもしれません。
「どうしたの?」
電話の前でオロオロしている僕を見て、オフクロが声をかけてきました。
「S君が、来ないんだよ」
「S君って、O町の?」
「ああ、もう2時間以上も経っているんだ。ヘンだよね?」
「どこかに寄り道しているんじゃないの?」
「それはありえないよ。すぐ行くって言ってたもの……」
ついに、時計の針は10時を過ぎてしまいました。
これは絶対、何か遭った。
彼の両親に、知らせなくっちゃ!
と電話の受話器に手をかけた時でした。
「外に誰か来たみたいよ。S君じゃないの?」
オフクロの声を聞いて、玄関へ走り、ドアを開けると……
「よっ、おまたせ!」
S君が、いつものはにかんだような笑顔で立っていました。
「おまたせじゃねーよ! いったい、どんだけ待たせるんだよ! 心配かけるなよ!」
友人を罵倒する僕の前で、当の本人は、キョトンとした顔をしています。
その顔は、「何のことを言われているのか分からない」 と言いたげです。
「どこ寄り道してたんだよ?」
「寄り道?」
「そーだよ、今、何時だと思っているんだ?」
彼は、左手を上げて、腕時計を見ました。
「まだ、8時を過ぎたところだけど……」
と言った後、見る見るうちに顔色が変わっていきました。
「何が8時だよ! 10時を過ぎているんだぞ!」
彼の唇が、震え出しました。
「そ、そんな……。オレの時計、狂っているのかな?」
「狂ってなんか、ねーよ! ほら、見てみろ」
と僕は、玄関の柱時計を指さしました。
「2時間も余分に、どこをほっつき回っていたんだよ?」
「……」
「本当のことを言えよ」
「……」
少しの沈黙の後、S君は言いました。
「オレ、2時間も、どこに居たんだろう? 電話を切った後、まっすぐ来たのに……」
信じるか、信じないかは、あなた次第です。
Posted by 小暮 淳 at 11:24│Comments(0)
│謎学の旅