2021年05月24日
湯守の女房 (8) 「訪れた人が、ほっと和めるように、花で埋めつくすことにしました」
小野上温泉 「旅館 花山」 (渋川市)
「小野上温泉の歴史は、地域の温泉センターの歴史です」
エプロン姿の3代目女将、新井春代さんは、そう語る。
旧小野上村営の温泉センターのオープンは昭和53(1978)と早い。
日帰り温泉施設は今でこそ、いたる所にあるが、大広間で休憩するヘルスセンター方式は当時はまだ珍しく、連日、村内外から大勢の人がやって来た。
周辺の宿泊施設へ温泉が分湯されたのは、村が新源泉の掘削に成功した同56年以降のこと。
現在(平成23年6月)、公営と民間合わせて4軒の宿泊施設がある。
「旅館 花山」 の創業は、昭和61(1986)年。
住宅風の建物は、村内で両親が経営する製材・建築会社が、初代オーナーから請け負って建てた。
2年後、オーナーが経営から手を引いたため、宿を引き継いだ。
「温泉センターへ来たお客さまが、次はゆっくりしたいと泊まりに来られました。湯があれば人が来た、いい時代でした」
平成6(1994)年に母親が他界し、旅館を手伝っていた春代さんが、勤めていた前橋市内の保険会社を辞めて女将に就いた。
バブル経済は崩壊し、経営環境は様変わりしていた。
新人女将と女性中心のスタッフの試行錯誤の日々が始まった。
「接客が苦手で、女将と呼ばれることにも抵抗があった。相談相手もいないし、途方に暮れた時期もありました」
と述懐する。
この土地からは動けない。
だから小野上の良いところを利用するしかない。
それは山と川に囲まれた、のどかな雰囲気だと気づいた。
8年前から地続きに畑を借りて、花木や野菜を栽培している。
「訪れた人が、ほっと和めるようにと、旅館の内も外も花で埋めつくすことにしました」
内風呂ながら湯舟から庭園を眺めることもできる。
花が見られて、食べられて、喜ばれると、そばも植えた。
毎年、新そばの味を楽しみに訪れる常連客は多い。
フラワーデザインはOL時代から続けており、指導者の資格がある。
毎日、花を生ける。
花には空気を浄化する力があるという。
初代オーナーが名付けた 「花山」 のイメージにも合っている。
小野上温泉の旧温泉地名は、塩川温泉。
国道353号沿いの旧源泉地にあった石の薬師堂には、寛文4(1664)年に創建されたと刻まれている。
その名の通り塩分が多く保温効果があり、肌にうるおいを与える。
とろんとしたローションのような肌触りの湯が、全身をやさしく包み込む。
独特な浴感が通称 「美人の湯」 と呼ばれるゆえんである。
“効能” は、女将を見れば納得できるのではないだろうか。
<2011年6月15日付>
※現在、「旅館 花山」 は閉館しています。
Posted by 小暮 淳 at 11:24│Comments(0)
│湯守の女房