2021年08月02日
湯守の女房 (22) 「お湯に惚れ込んで、毎月来られるお客さまがいます」
やぶ塚温泉 「開祖 今井館」 (太田市)
群馬の温泉地は北毛や西毛に多い。
やぶ塚温泉は、東毛の数少ない温泉地である。
天智天皇の時代に開湯されたと伝わり、元弘3(1333)年に新田義貞が鎌倉に攻め入った時、傷ついた兵士をこの湯で癒やしたことから 「新田義貞の隠し湯」 とも呼ばれる。
今井館の創業は定かではない。
今井館に残る天保2(1831)年の古文書に 「薬湯」 という鉱泉宿を営んでいた初代主人、弥右衛門の名前がある。
江戸時代後期には、すでに温泉宿を営業していたらしい。
現主人の今井和夫さんで9代目だ。
女将の道予さんは太田市の生まれで、専門学校のとき、大学生だった和夫さんと出会い昭和46(1971)に結婚。
当時は木造3階建ての本館と別館が並び、100人以上が泊まれる湯治場としてにぎわっていた。
「お湯に惚れ込んで、毎月来られるお客さまがいます。また、初めて来られた県内のお客さまは 『こんな近くに、こんないい温泉があった』 と驚かれます」
昔から 「おできは、やぶ塚へ行けば治る」 と言われた。
皮膚病に効き目があり、湯治客らは草津や伊香保で治らなかった “できもの” を、ここの湯で治したという。
「薬湯」 と呼ばれてきたゆえんだ。
言い伝えでは、八王子山とよばれる丘陵地のふもとに湯権現という小さな社があり、下の岩の割れ目から、こんこんと湯が湧いていた。
ある日、温泉に1頭の馬が飛び込み、高くいななくと、雲を呼び、雨を起こして、天高く舞い昇って行った。
すると温泉は、たちどころに冷泉に変わったという。
その冷泉は、今も宿の裏にある温泉神社の石段下に湧く。
源泉名を 「巌理水(げんりすい)」 といい、村人たちが守り続けてきた。
泉質は、美肌効果のあるメタけい酸を含むアルカリ性の炭酸泉。
温度が低いため加温しているが、手ですくうとズッシリと重く、トロリとしたぬめりがある。
「よその温泉へ行くと違いが分かります。ここの湯は、まろやかで、よく温まり、肌がツルツルになると宿泊客に喜んでもらっています」
源泉を加水して薄めることになるからと露天風呂は増設せず、内風呂を大切にしている。
滞在する宿泊客にゆっくりと温泉に入ってほしいから日帰り入浴客もとらない。
そんな湯へのこだわりが、ファンに支持されている。
「温泉は天与の恵み。ご先祖様に感謝し、代々受け継がれてきた大切な温泉を守り続けていきたいと思います」
と湯守の女房の気概をのぞかす。
<2012年3月7日付>
Posted by 小暮 淳 at 11:29│Comments(0)
│湯守の女房