温泉ライター、小暮淳の公式ブログです。雑誌や新聞では書けなかったこぼれ話や講演会、セミナーなどのイベント情報および日常をつれづれなるままに公表しています。
プロフィール
小暮 淳
小暮 淳
こぐれ じゅん



1958年、群馬県前橋市生まれ。

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。

温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

群馬県温泉アドバイザー「フォローアップ研修会」講師(平成19年度)。

長野県温泉協会「研修会」講師(平成20年度)

NHK文化センター前橋教室「野外温泉講座」講師(平成21年度~現在)
NHK-FM前橋放送局「群馬は温泉パラダイス」パーソナリティー(平成23年度)

前橋カルチャーセンター「小暮淳と行く 湯けむり散歩」講師(平成22、24年度)

群馬テレビ「ニュースジャスト6」コメンテーター(平成24年度~27年)
群馬テレビ「ぐんまトリビア図鑑」スーパーバイザー(平成27年度~現在)

NPO法人「湯治乃邑(くに)」代表理事
群馬のブログポータルサイト「グンブロ」顧問
みなかみ温泉大使
中之条町観光大使
老神温泉大使
伊香保温泉大使
四万温泉大使
ぐんまの地酒大使
群馬県立歴史博物館「友の会」運営委員



著書に『ぐんまの源泉一軒宿』 『群馬の小さな温泉』 『あなたにも教えたい 四万温泉』 『みなかみ18湯〔上〕』 『みなかみ18湯〔下〕』 『新ぐんまの源泉一軒宿』 『尾瀬の里湯~老神片品11温泉』 『西上州の薬湯』『金銀名湯 伊香保温泉』 『ぐんまの里山 てくてく歩き』 『上毛カルテ』(以上、上毛新聞社)、『ぐんま謎学の旅~民話と伝説の舞台』(ちいきしんぶん)、『ヨー!サイゴン』(でくの房)、絵本『誕生日の夜』(よろずかわら版)などがある。

2024年11月16日

逃げるが勝ち


 <つらいときは、逃げてもいいんだ―――。
 そんな認識がだいぶ広がりをみせている。命より大事なものなど、この世にはない。つらいときは、誰にも気兼ねすることなく、その状況からの脱出をはかるべきである。>
 ( 「はじめに」 より)


 思えば、僕の人生も逃げてばかりでした。
 学校の勉強と規則から、社会の常識と偏見から、家族の束縛と責任から……
 そして、今でも世間のしがらみから逃げ続けています。

 でもね、僕の逃避癖なんて、かわいいものですよ。
 文豪たちに比べればね。


 真山知幸・著 『逃げまくった文豪たち』 (実務教育出版)

 まあ、笑っちゃいます!
 勉強、学校、恋愛、家族、仕事、お金……
 とにかく、逃げて逃げて逃げまくる文豪たちに、開いた口が塞がりません。
 完全に社会人失格の面々。

 でもね、文豪たるもの、そのくらい我がままじゃなければ、名作を世に残せないといことなんですね。


 たとえば、石川啄木は、自分の結婚式をドタキャンして、逃亡します。
 5日後に、一人で式を挙げた妻の前に、ひっこり顔を出します。
 ところが妻は啄木に、こう言うんですね。

 「私はあくまでも愛の永続性を信じたい」

 まー、良くできた妻です。
 でも凡人は、マネしないほうがいいですね。


 たとえば、壇一雄は、自殺願望の強い友人の太宰治を置いて、逃げます。
 寒い晩のこと。
 店で呑んだ後、いつものように2人はアパートで、呑み直しながら、「自殺するなら、どんな方法が簡単か?」 について語り合います。
 結果、酩酊状態の2人は、ガス管をくわえて寝てしまいます。

 途中で壇は目が覚め、太宰を置いて、自転車で女のところへ逃げてしまうんですね。


 この時、太宰は助かったのですが、太宰は太宰で、壇を置いて逃げたことがありました。
 これが有名な 「熱海事件」 です。

 壇は太宰の妻に頼まれて、熱海の旅館まで、お金を届けるのですが、2人は大酒を呑んで、遊女屋にくり出して、金を使い果たしてしまいます。
 これでは、せっかく壇がお金を届けた意味がありません。
 話し合った結果、今度は太宰が東京へ金を借りに行くことになり、壇が旅館に残りました。
 ところが、太宰は、そのまま戻らなかったといいます。

 のちに、この事件が 『走れメロス』 を書くきっかけになったといいますから、何が功を奏するか分かりませんね。


 本書では、こんな45人の文豪たちの逃亡劇が、満載です。
 夏目漱石、志賀直哉、芥川龍之介、島崎藤村、田山花袋、森鴎外、江戸川乱歩、幸田露伴、坂口安吾、室生犀星、萩原朔太郎、中原中也、宮沢賢治……
 もう、みんなみんな、逃げて、逃げて、逃げまくります。

 でも、この本の秀逸なところは、巻末に、まるで付録のように付いている 「逃げなかった文豪たち」 なんですね。
 「文豪=だらしない」
 そんなイメージとは、ほど遠い、真面目で、勤勉で、責任感があり、最後まで逃げなかった文豪たち。

 彼らのほうが、よっぽどヘンタイなのかもしれませんけどね。


 興味を持った人は、ぜひ、ご一読を!

  


Posted by 小暮 淳 at 11:15Comments(0)読書一昧

2024年11月10日

コペル君との再会


 <コペル君は中学二年生です。ほんとうの名は本田潤一、コペル君というのはあだ名です。>
 そんな 「まえがき」 から始まります。


 『君たちははどう生きるか』
 令和の現代では、ほとんどの人が宮崎駿監督の同名映画を思い浮かべるでしょうね。
 宮崎監督もリスペクトを公言しているので、ご存じの人も多いと思いますが、タイトルの元ネタは昭和12(1937)年に出版された小説です。

 吉野源三郎・著 『君たちはどういきるか』 (岩波文庫)
 を半世紀ぶりに再読しました。


 もちろん映画も観ました。
 でもね、原作ではないと分かっていてもタイトルが同一という概念に引きずられてしまい、違和感が先行して僕には理解不能でした。
 (当ブログの2023年7月27日 「僕はどう生きてきたか」 参照)

 一方、小説の 『君たちはどういきるか』 には、強烈な記憶があります。
 僕は、主人公のコペル君と同じ中学生の時に読みました。


 ちなみに 「コペル」 というのは、コペル君の叔父さんが、コペルニクスになぞって付けた名前です。
 それだけコペル君は好奇心旺盛で、様々な物事に疑問を抱き、それらを自分のなりの推理をして、解き明かそうとします。
 その指南役が、叔父さん (コペル君のお母さんの弟) です。

 半世紀以上も前に読んだ本なのに、今でもキョーレツに残っているシーンがあります。
 それは、叔父さんが話すニュートンの話です。
 ご存じニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見しました。

 では、どうやって発見したのか?
 叔父さんの話が、そそります。


 リンゴはニュートンの目の前に、高さ3~4メートルから落ちました。
 凡人には 「リンゴが落ちた」 だけに過ぎませんが、ニュートンは、その高さを、どんどん伸ばして行きます。

 10メートル、100メートル、200メートル……
 やはり、リンゴは落ちます。
 ところが何万メートルをさらに超えて、月の高さまで伸ばして行くと……

 すると、リンゴは落ちてこないことに気づきました。
 「なぜだろう?」
 このようにニュートンは推理を重ねていき、万有引力を発見します。

 ワクワクした記憶が、よみがえりました。


 この歳になって僕は、またコペル君に会いました。
 縁とは不思議な物で、あの頃は同学年だったコペル君は、今は50歳も年下になっていました。
 そして相変わらず彼は、悩み苦しみ、泣きながらも、叔父さんやお母さん、友だちに支えられながら生きてました。

 コペル君、また会えたね!
 僕は、ずいぶんと大人になってしまったけど、君の気持が痛いほど分かったよ。
 人は歳を重ねても、迷うときは迷うし、苦しいときは苦しいんだよね。

 だからコペル君同様に、これからも僕は悩み続けます。
 「どう生きるか」 ってね。


 名作とは、時代を超えても色あせないものです。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:08Comments(0)読書一昧

2024年11月07日

木部さん、やってくれましたね!


 木部さんが小説を書いたというので、さっそく買って読みました。


 元新聞記者で群馬在住のジャーナリスト・木部克彦さんと初めてお会いしたのは、かれこれ15年ほど前のこと。
 群馬県内の新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど、メディアに関わる人たちの懇親会に参加した時でした。
 ちょうど僕は 『群馬の小さな温泉』 (上毛新聞社) を、木部さんは 『群馬の逆襲』 (彩流社) を出版した年でした。

 初対面のあいさつは、互いに 「本、売れてますね」 という、ほめ合いだったことを覚えています。
 その後、何度となく懇親会で顔を合わせ、話が盛り上がると、居酒屋で杯を重ねました。


 あれは2012年の夏のこと。
 突然、木部さんから電話がありました。
 「今度、『群馬の逆襲』 の続編が出るんだけど、小暮さんのことを書かせてよ」
 「えっ、俺なんかでいいの?」
 「お願い、新たな “逆襲の刺客” として登場して」

 ということで、『続・群馬の逆襲』 (言視舎) の中で、「GO! GO! 温泉パラダイス」 というタイトルで5ページにわたり、僕のことを書いてくださいました。
 そんな縁もあり、彼の家にもお邪魔して、料理研究家としての顔も持つ彼の手料理をいただいたりと、交流を深めてきました。


 そんな木部さんが、このたび小説を書きました。
 『群馬が独立国になったってよ』 (言視舎) 定価 (本体1800円+税)

 タイトルを読んで分かるように、完全なる 『群馬の逆襲』 の小説版です。
 しかも、喜劇!


 <202X年X年X日、突然、群馬が独立国に!――魅力がないなどと根拠のない誹謗を受けつづけるいわれはない。社会の格差は広がるばかり、政治は機能せず、衰退する一方の日本には未来はない、いっそ独立するべぇ!> (帯コピーより)

 奇想天外、荒唐無稽、前代未聞のドタバタ劇は、まさに映画 『翔んで埼玉』 の群馬版。
 いやいや、それ以上に、説得力と現実味にあふれている作品です。

 独立した理由がすごい!
 ブータンのように 「国民の幸福度世界一」 になるためなんです。
 そのために、大統領は公選で報酬は月15万円、国会議員は 「くじ引き」 で選ばれた有償ボランティア。
 人口約200万人の小さな国だからこそできる年金制度、食料自給率100%以上を目指します。


 なんといっても物語の白眉は、群馬県を見下していた首都圏連合軍 (東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県) との攻防戦です。
 都内の大学の群馬出身の受験生に対する圧力や、海なし国の群馬へ海産物の流通を止めるという嫌がらせに対して、群馬国も黙っていません。
 下仁田のネギやこんにゃく、嬬恋のキャベツ、安中の梅などの輸出を中止します。

 笑っちゃうのが、農産物だけでなく、 ガトーフェスタハラダのラスク、ハーゲンダッツのアイス、ヤマダ電機の電気製品、スバルの自動車までも群馬国外の価格を割高にして売るという徹底作戦に出ます。
 極めつけは、利根川の水を東京都へ流れないようにするという秘策です。


 さて、その結末は?
 あなどるなかれ、群馬国!

 それにしても木部さん、あなたはどんだけ群馬が好きなんですか!?
 恐れ入りました!(脱帽)
  


Posted by 小暮 淳 at 12:05Comments(2)読書一昧

2024年10月30日

おっちょこちょいのオバケ


 先日の中川李枝子さんの後を追うように、また児童文学の巨星が逝ってしまいました。
 絵本作家のせなけいこさんです。
 92歳でした。


 中川李枝子さんの本は、僕自身の子どもの頃の思い出でした。
 (2024年10月9日 「エルタのいた庭」 参照)
 でも、せなけいこさんの絵本は、大人になってからの思い出です。

 今から40年ほど前のこと。
 夢破れて都落ちした僕は、一時、実家で暮らしていました。
 その時、兄夫婦の都合により、4歳の姪っ子を両親が預かることになったのです。

 必然的に、当時無職だった僕が、姪っ子のお守り役を命じられました。
 公園へ連れて行ったり、本を読んであげたり、一緒に昼寝をしたり……
 なかでも姪っ子のお気に入りは、絵本の朗読でした。
 といっても僕が読み聞かせするのではなく、姪っ子自身が読んで、それに僕がギターでBGMを奏でる。
 または僕のギターの伴奏に合わせて、姪っ子がメロディーをつけながら絵本を歌い上げるのです。


 姪っ子のお気に入りは、せなけいこさんの 「めがねうさぎ」 シリーズ。
 中でも 『おばけのてんぷら』 という絵本は、毎日読んでいました。
 だから僕も、すっかり内容は覚えてしまいました。

 主人公のうちこちゃんが天ぷらを揚げていると、驚かそうとしてやって来たオバケが、うっかり天ぷらのころもの中に落ちてしまいます。
 そうとは知らずに、うさこちゃんはオバケを箸でつまんで油の中へ!

 さあ、そのあとは、どうなってしまうのでしょうか?
 気になる方は、ぜひ、ご一読ください。


 数年前の正月のこと。
 「叔父さん、『おばけのてんぷら』 のカセットテープが出てきたよ」
 姪っ子は、そういってレコーダーで再生しました。

 ♪ お~ば~け~の~て~ん~ぷ~ら~ ♪

 甲高い子どもの声が流れてきました。
 ギターの音も聴こえます。


 「叔父さん、覚えている?」
 「ああ、懐かしいね」
 と言って笑いました。

 そんな姪っ子も、今では一児の母であります。


 おっちょこちょいのオバケの話は、僕と姪っ子の大切な思い出となりました。
 せなけいこさん、ありがとうございました。
 ご冥福をお祈りいたします。
   


Posted by 小暮 淳 at 13:07Comments(2)読書一昧

2024年10月29日

秀作は盃の数より生まれ


   天高く 肝臓冴える 酒徒の秋


 待ちに待った秋が、やって来ました。
 食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋……
 秋の楽しみは色々ありますが、やっぱり、のん兵衛は 「酒徒の秋」 であります。

 まあ、僕の場合、1年365日、酒は欠かさないので、秋だけに限ったことではないのですが、それでも秋は格別、酒がうまく感じます。
 主役も変わるんですね。
 暑い夏はビール、寒い冬は日本酒がメインですが、この時季は、がぜんウィスキーです。
 あの琥珀色が、秋の気配に似合うんでしょうな。

 カラカラとグラスの氷を揺らしながら夜長を過ごすのは、至福の時間であります。


 そうなると、お伴が必要となります。
 僕の場合、長年の友は、読書です。
 「読書の秋」 と 「酒徒の秋」 という二大スターの共演です。

 酒を呑みながら読む本とは?
 ミステリーやエッセイもいいですが、そのものズバリ! 酒の本というのも乙なものであります。
 文豪たちの酒にまつわる随筆がお気に入りですが、今日は、ちょっと変わった酒の本を紹介します。


 『日本酒の愉しみ』 文藝春秋編 (文春文庫)

 日本酒の造られ方から有名蔵元のルポと、酒好きには読んでいて飽きないのですが、僕が興味を抱いたのは、著名人たちの酒にまつわるエピソードです。
 中でも、日本映画界の巨匠・小津安二郎監督の愛し方が秀逸です。


 昭和30(1955)年、脚本の執筆拠点を茅ヶ崎から長野県の蓼科へと移し、晩年まで続けました。
 生前の小津監督を知る地元の人たちの話によれば、「いつも酔っぱらっているヘンなオヤジ」 だったといいます。
 その呑んだ量も半端なかったようで、シナリオ制作中は、空にした一升瓶に番号を付けて並べ、仕事の進行の目安にしていたという。

 当時の日記には、こう記されています。
 <酒を汲む杯の数少なければ、秀作は生まれぬべし。秀作は盃の数より生まれ、なみなみと盃に酒は満つ可(べ)し。>

 恐れ入りました!
 巨匠たるもの酒豪なくして、名作は生まれないのですね。


 その酒の名は「ダイヤ菊」。
 長野県茅野市の地酒であります。

 さて、どんな味なのか?
 近々、手に入れて、巨匠気分を味わいと思います。


 読者の中で、呑まれた人がいましたら、ぜひ感想をお寄せください。
   


Posted by 小暮 淳 at 13:03Comments(0)読書一昧

2024年10月19日

エルタのいた庭


 ♪ あるこう あるこう わたしはげんき


 僕の一番古い記憶は、幼稚園での読み聞かせです。
 60年以上も昔のことなのに、本を読んでくれた先生の顔も、話の内容も、はっきりと覚えています。

 『かえるのエルタ』 と 『いやいやえん』
 とっても不思議な話でした。


 『かえるのエルタは』 は、男の子が拾ったカエルのおもちゃが、雨に濡れると本物のカエルになり、カエルの城に連れていかれる話です。
 『いやいやえん』 は、親の言うことをきかない男の子が、なんでもワガママが通る自由だけど、だらしない保育園に通わされてしまう話です。
 どちらも奇想天外なストーリーで、ワクワクしながら何回も先生にせがんで、読んでもらった記憶があります。

 その作者、児童文学者の中川李枝子さんが亡くなられました。
 89歳でした。


 小学生になってからは図書館で、中川さんの代表作となった 『ぐりとぐら』 や 『そらいろのたね』 なども読みました。
 中でも 『ぐりとぐら』 シリーズは大好きで、繰り返し読みました。
 長じて、東京の書店でアルバイトをした時に、改めて全シリーズを買い集めたくらいです。
 だから今でも、僕の手元には 『ぐりとぐら』 の絵本があります。


 新聞で訃報を知った時、まっさきに思い浮かんだのは、幼稚園の庭でした。
 カエルを見つけて、「エルタだ!」 「エルタだ!」 と言いながら、追いかけまわした光景です。

 「エルタ~、お城へ連れてってよ~」
 みんなでカエルを追いかけた夏の庭。
 遠い遠い思い出です。


 ちなみに、アニメ映画 『となりのトトロ』 のオープニング曲 「さんぽ」 の作詞も中川李枝子さんです。
 ご冥福をお祈り申し上げます。
   


Posted by 小暮 淳 at 12:07Comments(0)読書一昧

2024年09月26日

なぜ、山奥に貴重な 「ワラ1」 が保存されているのか?


 一冊の本が届きました。

 封筒に貼られた 「ご依頼主」 の欄には、「イカロス出版」 と記載されています。
 イカロス出版?
 聞いたことがあるような……
 でも、すぐには思い出せませんでした。


 鉄道 「謎」 巡礼

 笹田昌宏 著


 ああ、あーーーッ!
 彼です、彼です!
 読者の皆さんは、覚えていますか?
 副業で医者をやっているという、一風変わった作家さんです。
 (2024年4月2日 「本業からの贈り物」 参照)


 彼とは今年3月、群馬県中之条町の意見交換会でお会いしました。
 僕は中之条町観光大使、彼は中之条町ふるさとアドバイザーとして参加していました。
 その晩は、四万温泉に一泊し、酒を呑み、語り合い、意気投合したのでした。

 「新刊が出たら送ります」
 そう言われて、翌朝に別れました。


 彼は鉄道作家なんですね。
 大阪府生まれ、東京在住の彼が、中之条町と関わったのも鉄道が縁でした。
 その縁について書かれたのが、今回の新刊 『鉄道 「謎」 巡礼』 なのです。

 <鉄道には、数多くの「謎」が潜んでいる。乗り降りできない駅から、存在しないはずの展示車両まで、そのジャンルは幅広い。それらの謎には、なぜそうなったのか、必ず理由が隠されており、それらを巡礼してゆくと、予想外のエピソードに行き着いたり、納得の経緯にたどり着いたりする。> (「まえがき」より)


 この本には北海道から沖縄まで、全国の鉄道の 「なぜ?」 が37テーマ収録されています。
 その中に、群馬県の 「なぜ?」 があります。
 この謎こそが、彼が中之条町のふるさとアドバイザーに委嘱された理由なのであります。

 【なぜ、山奥に貴重な 「ワラ1」 が保存されているのか?】
 と題された群馬の謎が、第一章に登場します。
 「ワラ1」 とは、何なのか?

 鉄道ファンでなくともタイトルを見ているだけで、その謎に引き込まれてしまいます。
 興味がある方は、ぜひ、お求めください!
   


Posted by 小暮 淳 at 11:59Comments(0)読書一昧

2024年09月03日

トンカツの切り方


 突然ですが、蘇部健一という作家をご存知ですか?
 僕は知りませんでした。
 先日、古本屋の棚で手に取り、そのタイトルに惹かれて読み出しました。

 『六枚のとんかつ』 (講談社文庫)


 裏表紙には、こんな解説が書かれていました。
 <空前絶後のアホバカ・トリックで話題の、第三回メフィスト賞受賞作がついに登場!>

 メフィスト賞といえば、「面白ければ何でもあり」 という文学賞の異端児的な賞です。
 ミステリー作品が多いのですが、フェア、アンフェアを問わないという選考基準が、なんとも素敵です。
 僕も過去には他の受賞作を読んだ記憶があるのですが、なんだったかは思い出せません。

 まあ、その程度の作品だったと思います。
 ところが……


 『六枚のとんかつ』 (短編集) には、してやられました。
 とくかく、ナンセンス!
 そして下品で、下ネタ満載。
 B級コントのようなドタバタ劇。

 これって、ミステリーなの?
 いや、ギャグ小説でしょう?

 と、読者が迷宮していると、突然、挑戦状が届きます。


 ≪読者への挑戦状≫
 さて、ここで私は読者のみなさんへ挑戦する。


 でも、この挑発に乗ってはいけません。
 相手 (著者) は、アンフェアなアホバカなトリックを仕掛けているのです。
 通常の推理小説を解くような思考回路はいりません。

 もっともっとバカになり、アホになって、ギャグのセンスを持って回答しなくてはならないのです。


 表題作 『六枚のとんかつ』 は、トンカツの切り方を見て、時間トリックを見破るという秀逸な作品。
 似たようなタイトルの 『五枚のとんかつ』 も収録されていますが、こちらは衆人環視という密室で起こった殺人事件のアリバイを崩します。

 「よくもまあ、こんなことを考えたもんだ」 と感心することしきり。
 パズルを解くように楽しめました。


 が、みなさんには推薦いたしません。
 だって、とにかく下品なんです。
 バカバカしいんです。

 人によっては、「こんなのはミステリーじゃない!」 と怒り心頭に発し、本を床に投げつけるかもしれません。
 (だって、ノベル版ではあまりにも下品すぎる理由からカットされた 『オナニー連盟』 も収録されています)
 それでも読んでみたいという人は、自己責任においてお読みください。


 ほんと、おバカですよ~(笑)
   


Posted by 小暮 淳 at 11:58Comments(2)読書一昧

2024年06月28日

R Y U


 「以心伝心」
 手にしたとき、その言葉が浮かびました。

 以心伝心とは、口に出して説明をしなくても、心が自然に通じ合うことですが、一般的には人と人の関係に使う言葉です。
 でも、その日、僕の脳と体は何か強い力に導かれるように、動き出しました。


 現在、僕は 「竜」 を追いかけています。

 今年は、辰年。
 なので、竜にまつわる県内の地名や伝説を調べ上げ、その由来やいわれ、そして舞台を探し訪ねています。


 数日前、さる町に伝わる竜伝説を調べようと、最寄りの図書館へ行きました。
 ところが休館日でもいのに、蔵書整理のためか臨時休業の貼り紙が……。
 仕方なく、その日はあきらめて、その足で書店へと向かいました。

 書店といっても古本屋のチェーン店です。
 僕は、暇があれば立ち寄って、文庫本の 「あ」 ~ 「わ」 までの著者別の棚を見て回ります。
 ひと通り見て、気に入った本がなければ、そのまま店を出ます。

 まあ、僕にとっては、ライフワークのような習慣の一つです。


 で、その日、まるで何かに導かれるかのように 「し」 の棚に、吸い寄せられました。
 柴田哲孝
 僕の好きな作家の一人です。

 群馬県沼田市が舞台の 『TENGU』 は大藪春彦賞を受賞した傑作です。
 茨城県牛久沼が舞台の 『KAPPA』 も読みました。
 いわゆるファンの間ではUMA (未確認生物) ミステリー3部作です。

 もう1冊が 『RYU』。
 ところがなぜか僕は、この本だけが未読だったのです。
 気にはなっていたのですが、出合いのチャンスがなかったようです。

 が!
 その時、僕の目に、R・Y・U の3文字が飛び込んで来たのでした。


 「竜」 を調べに図書館へ行ったら、「竜」 には合えず、古本屋を覗いたら 「RYU」 に合えたということです。
 さっそく今、むさぼるように読んでいる最中であります。

 今回の舞台は、沖縄県。
 南国の平和な村に伝わる双頭の竜、「クチフラチャ」。
 はたして、その正体は?


 実は昨日、県内に伝わる竜伝説を追って、ある古刹を訪ねてきました。
 住職にお会いして、竜が残していった “モノ” を見せてもらいに……

 竜を追って、謎学の旅は、まだまだ続きます。
   


Posted by 小暮 淳 at 10:27Comments(3)読書一昧

2024年06月24日

不自然な暴力


 書庫なんていう大それたものじゃないんですけどね。
 僕の仕事部屋を出た廊下の右側に、小さな納戸があるんです。
 一畳半ほどの細長い、物置部屋です。

 ドアを開けるのもやっとぐらい、床には廃棄物同然の不用品が転がっています。
 でも、僕が時々、こうやって、この部屋を訪れるのは、やはりここが自称 “書庫” だからなんです。

 壁には一面、書棚が配されています。


 先日、読み終えた本を仕舞いに、入った時でした。
 書棚の上のまた上の方に、あずき色をした背表紙に、ひらがな三文字の文庫本が目に留まりました。
 背伸びをして、取り出しました。

 『こころ』 夏目漱石

 なつかしい!
 ページをめくると中は、すでにセピア色に変色していました。
 いったい、いつ読んだのだろう?

 奥付を開きました。

 昭和二十七年二月二十九日 発行
 昭和五十五年二月二十五日 八十七刷
 とあります。

 ほほう、40年以上前の本だ。
 僕は20代前半です。
 いったい、いくらだったんだ?

 定価220円

 安かったんですね。
 今は文庫本でも、平気で7~800円しますものね。


 で、どんな話だったっけ?
 と、裏表紙の解説に目を通しました。

 そうそう、鎌倉の海岸で出会った “先生” という主人公の不思議な魅力にとりつかれた学生の話でした。
 出会いのシーンは、おぼろげに覚えていますが、その後、どうなったんだっけ?
 結末は?


 あー、もう、気になって気になって、仕方がありません。
 これは、一気に読破するしかない!
 と、仕事部屋にもどり、1ページ目を開きました。

 が、……ダメです。
 字が小さ過ぎます。
 今の文庫本の文字に比べると、半分ほどのサイズしかありません。

 いつも読書に用いているお気に入りの老眼鏡をかけてみましたが、ダメです。
 クッキリ見えるだけで、やはり字が小さ過ぎて読めません。


 ということで、近くの100円ショップまで行って、「拡大鏡メガネ」 とやらを購入してきました。
 "らくらく読める1.5倍” です。
 これなら60代の僕にも読めます。


 さて、みなさんは若い日に 『こころ』 は読みましたか?
 大人になってから読むと、若い頃には感じ取れなかった細かい主人公の心情が読み取れて、面白いものですよ。
 ことのほか今回、僕は、“先生” が冒頭で “私” に出会う早々に投げかけた言葉が、終始、胸に引っかかりながら読んでいました。

 それは 「不自然な暴力」 です。


 <新潮文庫 P59より引用>
 「よくころりと死ぬ人があるじゃありませんか。自然に。それからあっと思う間に死ぬ人もあるでしょう。不自然な暴力で」
 「不自然な暴力って何ですか」
 「何だかそれは私にも解らないが、自殺する人はみんな不自然な暴力を使うんでしょう」

 この言葉、気になりませんか?

 気になった人は一読を、いや、若い日の感性と比べながら再読をおすすめします。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:31Comments(0)読書一昧

2024年06月11日

泣いた赤鬼


 映画を観たり、本を読んで、目頭を熱くさせることは多々あります。
 でも、大粒の涙をポロポロと流しながら人前で泣くことなんて……
 たぶん、何十年ぶりのことだったと思います。

 僕は友人と、さる作家の話をしていました。
 その人は、昨年7月に亡くなられた絵本作家・野村たかあきさん。
 僕が37年間、慕い続けていた “心の師” でありました。


 今年になり、野村さんの奥様から一通の便りをいただきました。
 <生前、野村が承諾していたダイソー✕鈴木出版とのコラボ絵本が出来ました>
 そして、小さな絵本が同封されていました。
 (2024年4月24日 「天国からの贈り物」、2024年5月22日 「三竦みの美学」 参照)


 作・絵/野村たかあき 『あいこでしょ』 (すずき出版✕ダイソー)


 「なんでダイソーだったんでしょうね?」
 友人の問いに言葉を返そうとした、その時、グッと込み上げるものがあり、僕は顔を上げることが出来なくなってしまいました。
 見る見るうちに涙があふれ出で、二の句を継げません。

 友人も驚いていましたが、当の本人が一番驚いていたのです。

 あふれ出る涙をぬぐいながら、やっと言えた言葉が、
 「一人でも多くの子どもたちに絵本を読んで欲しかったんだよ」
 でした。


 通常、書店で売られている絵本の価格は1,000円以上します。
 でも、ダイソーならば100円です。
 これならば生活に余裕のない家庭でも、子どもに絵本を買ってあげることができます。

 たぶん、野村さんは自分の死期を知っていたのでしょう。
 そんな折、全国展開する100円ショップから出版の話があった。
 もし、健康でバリバリと仕事をこなしていた頃だったら、作家としてのプライドもあり、承諾しなかったかもしれません。

 でも絵本は、みんなのモノです。
 貧富の差や家庭環境に関係なく、誰もが気軽に楽しめるものでなくてはならない。
 きっと野村さんは、そう考えたのでしょう。

 そう思ったら、とめどなく涙が流れ出したのでした。


 そういえば、野村さんの絵本の代表作の一つに 「泣いた赤鬼」 がありました。
 作・浜田廣介/絵・野村たかあき 『ないたあかおに』 (講談社名作絵本)

 これもまた 『あいこでしょ』 同様、心優しい鬼たちの話です。


 ぜひ、どちらも一読することをおすすめします。
  


Posted by 小暮 淳 at 11:31Comments(2)読書一昧

2024年05月24日

腹五分で行こう!


 つくづく、食が細くなったと思います。
 ラーメン1杯食べ切るのがやっとで、もう、お腹いっぱいです。

 食堂で、隣の席の若い男性が、ラーメンにチャーハンと餃子のセットを頼んでいました。
 ただただ、その食いっぷりに、見惚れてしまいました。

 食欲って、美しい!


 自分もあんな時代があったなと……
 なんて懐かしく思っていたら、その隣の席に僕と同年配の男性が座りました。
 注文を聞いていたら、「大盛り」 の声が!
 さらに 「ギョーザ」 を付けていました。

 ああ、うらやましい。
 この男性は、胃袋が若いんですね。
 きっと、「腹八分」 なんていう言葉は、無縁なんだろうな。


 カウンターの隅で、僕は、たまたま数日前に読んだ本の一節を思い浮かべていました。

 五木寛之・著 『大河の一滴』

 その昔、大ベストセラーになりました。
 久しぶりに手に取り、読み返してみました。

 <腹八分(ぶ)、という表現がある。これは正しいが、人間の一生を通じての数値ではなかろうと感じてきた。私の直感では、三十代の人間が腹八分である。>


 さらに五木氏は、こう分析します。
 <十代は、腹十分。腹いっぱい食べればいい。二十代ですでに免疫の中核である胸腺は成長を止める。すなわち二十代とは腹九分の年齢だ。三十代を腹八分とすれば、四十代にさしかかった人間は腹七分がいい線だろう。五十代では腹六分、六十代になれば腹五分で十分ではないか。>

 当時の五木氏は、ちょうど今の僕の年齢です。
 そこで食事の量を半分にしました。
 1日3食をやめて、1食半を心がけるようにつとめたといいます。


 ほほう、腹五分ね。
 ちょっと少ないんじゃないの?
 なんて、その時は思ったのですが、よくよく考えてみたら、すでに僕も食事量は若い頃の半分になっていました。

 朝は、パン1枚 (個) とコーヒー
 昼は、麺類か丼物 (単品)
 夜は、つまみ2品

 ほらね、こんだけで1日のエネルギーが足りるようになっていました。


 でも、一抹のさみしさはあります。
 もう二度と、麺類+丼物のWオーダーができないんだと……

 死ぬまでに一度、挑戦してみたいものですが、無謀ですかね?
   


Posted by 小暮 淳 at 11:22Comments(2)読書一昧

2024年05月22日

「三竦み」 の美学


 【三竦(すく)み】
 [ヘビはナメクジを、ナメクジはカエルを、カエルはヘビをと互いに恐れる所から] 三つのものが互いに牽制(ケンセイ)し合って、積極的に行動出来ないこと。 [三者の勢力が一線に並び甲乙がつけ難い意にも、また、一種の均衡がとれる意にも用いられる] 
 (新明解国語辞典より)


 いわゆるジャンケンの話です。
 グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ。
 逆に、グーはパーに負け、パーはチョキに負け、チョキはグーに負ける。

 でも……

 みんな一緒に出したら、あいこでしょ。
 みんな、なかよし、あいこでしょ。


 そんな心温まる絵本が発売され、全国の 「ダイソー」 で販売が開始されました。
 昨年7月に亡くなった前橋市在住の絵本作家・野村たかあきさんの遺作です。
 生前、野村さんが承諾していた鈴木出版とダイソーとのコラボ絵本です。
 (2024年4月27日 「天国からの贈り物」 参照)

 通常、絵本は1,000~2,000円します。
 それがダイソーだから、なんと! 100円(税別)

 この価格ならば、迷うことなく手に取り、子どもに買ってあげることが出来ます。
 「たくさんの人に読んでほしい」
 野村さんのそんな思いが込められているのかもしれません。


 小さな絵本です。
 ほっこりする絵本です。
 みんながやさしくなれる絵本です。

 ぜひ、お近くのダイソーでお求めください。
 (扱っていない店舗もありますので、店員にお尋ねください)


 こどものくに 『あいこでしょ』
 すずき出版×ダイソー 100円(税別)
  


Posted by 小暮 淳 at 11:18Comments(0)読書一昧

2024年05月15日

文豪たちの酒宴


 <なんとも酒は、魔物である> 太宰治


 以前、自分は活字中毒患者であり、かつアルコール依存症予備軍であることを告白しました。
 (2024年5月2日 「中毒と依存症」 参照)

 ゆえに、この世で一番の至福は、この2つが同時に満たされた時。
 そう、酒を呑みながら本を読んでいる時にほかなりません。


 もし、その時読んでいる本が、“酒” の本ならば……
 さらなる極上のひと時となります。

 僕は 「ぐんまの地酒大使」 を委嘱されている都合上、酒の本は読みます。
 でも、それらは蔵元や醸造、銘柄に関する資料です。
 いうなれば、これは読書ではなく、仕事の一環であります。

 残念ながら、至福の境地には至りません。


 読み物としての “酒” はないものか?
 と探していたら、ありました!
 これぞ、極みであります。

 『文豪たちが書いた 酒の名作短編集』 彩図社文芸部 編 (彩図社)


 坂口安吾、夢野久作、小川未明、林芙美子、岡本かな子、芥川龍之介、福沢諭吉、宮沢賢治、太宰治……
 名だたる文豪たちの酒にまつわるエッセイや短編集が掲載されています。

 まあ、みなさん、よく呑みます。
 やはり文豪と呼ばれる人たちは、凡人とは酒の呑み方までもが一味も二味も違います。
 読んでいて、酒のみならではの文章に出合え、惚れ惚れとしました。


 太宰治のエッセイも2編、収録されています。
 とても興味深い話なので、一部を紹介します。

 <「新宿の秋田(※1)、ご存じでしょう! あそこでね、今夜、さいごのサーヴィスがあるそうです。まいりましょう」>
 <その前夜、東京に夜間の焼夷弾(しょういだん)の大空襲があって、丸山君(※2)は、忠臣蔵の討入のような、ものものしい刺子(さしこ)の火事場装束で、私を誘いに来た。ちょうどその時、伊馬春部(※3)君も、これが最後かも知れぬと拙宅へ鉄かぶとを背負って遊びにやって来ていて、私と伊馬君は、それは耳よりの話、といさみ立って丸山君のお伴をした。> (『酒の追憶』 より)

 ※1 新宿にある呑み屋
 ※2 丸山定夫 大正~昭和の俳優
 ※3 劇作家、放送作家


 いやいや、凄いでしょう!
 大空襲の翌日に、戦火をくぐりぬけて、酒を呑みに行くんです。
 その酒呑み根性が、文豪が文豪たるゆえんなんでしょうな。
 嫉妬しながら、酒のピッチを上げながら、読みふけってしまいました。

 他にも、福沢諭吉のらしからぬ酒のエピソード、宮沢賢治の摩訶不思議な酒の話など、珠玉の短編集です。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:11Comments(0)読書一昧

2024年04月27日

天国からの贈り物


 《虎は死して皮を残し 人は死して名を残す》


 1通の四角い茶封筒が届きました。
 中には、小さな絵本が入っていました。

 『あいこでしょ』  野村たかあき/作・絵


 昨年7月に他界した絵本作家、野村たかあきさんの絵本でした。
 差出人は、野村さんの奥様です。
 こんな一文が、添えられていました。

 <生前、野村が承諾していた 「ダイソー✕鈴木出版」 とのコラボ絵本ができました。>


 その文面を読んだ瞬間に浮かんだ言葉が、冒頭のことわざでした。
 「作家は死しても、なお作品を残す」 のだと。
 さすがです!


 こんなお話の絵本です。

 女の子がうまに言います。
 「うまさん、うまさん、おにごっこしましょ おにきめ じゃんけん…」
 「じゃんけん ぽん」

 女の子はパー、うまはグー。
 うまの負けです。
 でも、うまは 「おにをやるの いや」 だっていって、ぶたを連れてきました。

 「じゃんけん ぽん」
 うまはグー、ぶたはチョキ。
 「ぶたさんの まけ」
 そしたら、ぶたは 「おにやるの いやだよ」 って、にわとりを誘ってきました。

 いつまで経っても終わらない、堂々巡りの 「あいこでしょ」 が続きます。
 なんとも野村さんらしい、思いやりにあふれた絵本です。


 この絵本は、「月刊絵本」 (鈴木出版) の中で、特に評価の高い作品を選んでミニ版として大創出版より出版されました。
 発売は5月に入ってからで、全国の 「ダイソー」 で販売されます。

 ぜひ、最寄りの 「ダイソー」 にお立ち寄りの際は、手に取ってご覧ください。


 野村さん、ありがとうございます。
 天国からの贈り物、しっかりと受け取りましたよ!
  


Posted by 小暮 淳 at 12:10Comments(0)読書一昧

2024年04月25日

『みなかみ紀行』 がマンガになった!


 たびたびの牧水ネタで恐縮です。

 先日、郵便小包が届きました。
 送り主は、利根沼田若山牧水顕彰会。

 中身は、一冊の本でした。
 『マンガ 若山牧水 みなかみ紀行』


 「謹呈」 と記された一文が添えられていました。
 <今年は若山牧水の 「みなかみ紀行」 がマウンテン書房より出版されて丁度100周年になります。しいやみつのり先生からマンガ 「みなかみ紀行」 を是非世に出したいとのお話を戴き、直ちに役員に計り利根沼田若山牧水顕彰会として出版事業に取り組む事に致しました。(中略) 多くの方々に心温まるご支援を戴くことが出来、漸く無事に出版の運びとなりました。ここに謹んで御礼のご挨拶を申し上げます。>

 僕と顕彰会との出会いは一年前、老神温泉の 「大蛇まつり」 の会場でした。
 老神温泉は牧水ゆかりの地であること、そして僕が老神温泉大使をしていることから交流が始まりました。
 その後、僕は高崎市のフリーペーパー 「ちいきしんぶん」 にて、『令和版 みなかみ紀行 牧水が愛した群馬の地酒と温泉』 を連載開始。
 顕彰会と連絡を取りながら、取材を進めています。


 漫画家のしいやみつのり氏は、すでに 『マンガ 若山牧水 自然と旅と酒を愛した国民的歌人』(大正大学出版会) を著しているだけあり、実に細部にわたり、牧水のエピソードが盛り込まれています。
 文章には、すべてルビがふってあるので、子どもでも楽しく読めます。
 また、若山牧水という歌人を知る入門書としても、おすすめします。

 「短歌って苦手」 という人もいるかもしれませんね。
 僕も、その一人です。
 でも、若山牧水という人間の生き方を知り、魅力を知ると、短歌の面白さも分かってきますよ。

 ぜひ、一読をおすすめします。



 『みなかみ紀行』 出版100周年記念事業
 マンガ 若山牧水 みなかみ紀行
 ~旅と文学と水源を求めて!~

 漫画/しいやみつのり
 発行者/利根沼田若山牧水顕彰会  代表 永井一灯

 定価 [本体1,500円+税] 


 ※若山牧水ゆかりの群馬県内の観光協会、温泉協会にて販売中!
   


Posted by 小暮 淳 at 09:52Comments(2)読書一昧

2024年04月04日

「じゅん」 と 「じゅん」


 自分と名前が同じだからかもしれません。
 昔から、お2人には親近感を抱いていました。

 「いしかわじゅん」 氏と 「みうらじゅん」 氏。
 お2人は、ともに漫画家です。


 いしかわじゅん氏は、現在購読している新聞に4コマ漫画を連載中で、僕は毎朝、真っ先に目を通すファンです。
 特に、登場するネコの 「正ちゃん」 が超絶にカワイイのです。
 八割れ顔の正ちゃんに、メロメロになっています。

 みうらじゅん氏は、僕と同い年。
 同時代のサブカルチャーに、いそしんで育ったという共通点もあり、より親近感がわきます。
 漫画家としてだけでなく、イラストレーターやエッセイストとしてもマルチな活躍をしている方で、「マイブーム」 や 「ゆるキャラ」 などの新語を生み出した先駆者でもあります。


 そんな2人の、漫画家以外の共通点って、知ってますか?

 小説家です!


 お2人が小説を書かれていることは、知っていました。
 でも、読んだことはありませんでした。
 正直に申せば、あえて手に取って、読んでみようとは思わなかったからです。

 ががっ!
 日々徳を積んでいる僕は、最近、運気が急上昇中であります。
 人との出会い、物との出合いが、奇跡的な頻度で訪れています。


 まさに、お2人との本との出合いも、ミラクルでした。
 某月某日、某古書店でのこと。

 時間つぶしに、文庫本の棚を眺めていると……
 いきなり、平仮名7文字が目に飛び込んで来ました。
 “いしかわじゅん”

 「ほほう、これが噂の小説ね」
 と手に取りました。
 そして、しばらくすると、また、平仮名6文字の名前が!
 “みうらじゅん”

 「あらら、偶然なこともあるものだ。しかも同じ “じゅん” つながり」
 ついでに僕も “じゅん” ですから、これは何か天啓のようなものを感じました。

 ゆえに、即、購入!


 いしかわじゅん・著 『吉祥寺探偵局』 (角川文庫)

 完全なるギャグ探偵小説。
 私立探偵の薬師丸金語楼と幼馴染の野間刑事のドタバタ劇です。
 2人の関係は、まるでルパンと銭形警部のよう。
 昭和に書かれた小説ですから、ギャグもコテコテの昭和。
 コンプライアンスなんていう意識がなかった時代ですから、暴言のオンパレード。
 それでも、なんとか探偵小説の体は保っているので、最後は必ず金語楼の推理が冴えます。


 みうらじゅん・著 『愛にこんがらがって』 (角川文庫)

 いやはや、彼は天才です。
 いや、基(もとい)!
 変態です。

 とにかく冒頭から、とんでもないストーリーが展開します。
 ミュージシャンの乾は、ライブが終わった後、突然、180cmはある身長の女に 「御主人様になってください」 と懇願されます。
 そして、その日から、御主人様と奴隷の関係が始まるのです。

 奇想天外なSM官能小説です。
 こちらもコンプライアンス的に、令和の現代では受け入れてもらえない作品かもしれませんね。
 でも、僕は好きです! (いい歳をして興奮しました)


 ということで、今日は大変貴重で珍しい本を2冊、ご紹介しました。
 勇気と好奇心のある方は、一読されたし!
 あなたの知らない未体験ゾーンへと、いざなってくれる迷著です。
   


Posted by 小暮 淳 at 11:44Comments(2)読書一昧

2024年04月02日

本業からの贈り物


 <先生に当日お約束させていただいたとおり、拙著の中から先生に一番ご覧いただきたい、『ランプ小屋の魔力』 という本をお送りさせていただきます。>

 昨日、郵便物 (スマートレター) が届きました。
 中には、書籍と一通の手紙。

 送り主は、過日の会合で知り合った作家でした。
 マニアックな本ばかり書いているため、それだけでは食えず、副業に医者をしているという一風変わった男です。
 (2024年3月31日 「うらやましき副業」 参照)


 “ランプ小屋” とは?

 彼の著書より引用すれば、
 ≪「ランプ小屋」 とは、鉄道で使用する油類を保管するための倉庫で、正式な名称は 「危険品庫」 といい、「油庫」 や 「灯室」 と呼ばれることもある。明治時代の鉄道黎明期には、まだ客車に電灯が装備されておらず、車内の照明はランプに頼っていた。そのランプの燃料である灯油の管理を行っていた建物であることから、「ランプ小屋」 の名称で呼ばれることが多くなった。≫
 とのことです。

 ん~、かなりマニアックな本です。
 鉄道マニアでも、「乗り鉄」 や 「撮り鉄」 ならば知っているけど、「小屋鉄」 がいることは知りませんでした。


 手紙の文面は、こう続きます。
 <もともとは高崎線の主要駅すべてに存在したはずのランプ小屋ですが、現在では新町駅にしか残存せず、県内でもわたらせ渓谷鐵道沿線にわずかに残るのみで、全国でも50ほどしか残っていません。明治~大正のロマンを感じる可愛らしい煉瓦造りの建築の魅力を、御高覧いただければ幸甚です。> 

 ほほう、ランプ小屋とは、そんなに貴重な存在なのですね。
 と、新町駅のページを開きました。

 赤茶色のレンガ倉庫の写真が、何点か載っています。
 確かに、どこかの駅で、こんな建物を見たことがあるような……
 でも、ふつうは気に掛けませんよね。


 でも、彼は違います。
 ≪高崎線の前身は日本鉄道で、新町駅のランプ小屋も同鉄道の建設区間に多い食パン型となっている。≫

 食パン型?

 本当だ!
 確かに倉庫の屋根が半円を描いていて、山型食パンのような形をしています。

 そう思って、他のページの他の駅のランプ小屋を見てみると……
 ほほう、なるほど!
 屋根や建物の形が違い、細かいところではレンガの積み方まで違うんですね。


 こりゃ~、ハマる人はいるかもしれませんね。
 しかも、一つ一つ訪ねるとすれば、「乗り鉄」 も 「撮り鉄」 も兼ね添えているわけです。

 ド素人ながら、なんとなく魅力が伝わってきました。
 今晩からグラスを片手に、 “一駅一ランプ小屋” の旅に出かけようと思います。

 笹田さん、素敵な本をありがとうございました。



 『ランプ小屋の魔力 鉄道プチ煉瓦建築がおもしろい!』 
 笹田 昌宏・著  イカロス出版  2,200円
   


Posted by 小暮 淳 at 11:32Comments(2)読書一昧

2024年03月30日

M嬢の新刊


 みなさんは、「M嬢」 を覚えていますか?

 昨年の5月、僕が東京を訪ねた際、2日間にわたりツアーコンダクターを買って出てくれた女性です。
 (2023年5月15日 「東京再会物語〈番外〉M嬢の誘惑」 参照)


 最初は彼女が僕の読者として出会い、今は僕が彼女の読者として交流が続いています。
 今月、そんな彼女の新刊が出版されました。

 『10代に届けたい5つの “授業”』 大月書店 (1,800円+税)


 今の学校に欠けている授業を、各分野のスペシャリストが授業風に、わかりやすく解説してくれる共著です。
 授業は、ジェンダー、貧困、不登校、障害、動物の5限に分かれています。
 彼女が受け持つのは、第5限の 「わたしたちは動物たちとどう生きるか」。

 彼女は作家でもあり、獣医でもあるのです。


 いやいや、とにかく目からウロコが落ちっぱなしの授業でした。
 化粧品の開発のための実験動物、劣悪な環境で飼育されている展示動物、ペットカフェなどの資本主義社会に翻弄される野生動物……
 そして、震災後、被災地に取り残されたペットや畜産動物の実情には、目を疑ってしまうような光景がありました。

 みんなみんな、知らないことばかり。


 本書は “10代に届けたい” というタイトルですが、大人にこそ読んでほしい一冊です。
 すべて昭和や平成では、避けてきた授業内容です。
 令和の今こそ、ちゃんと知って、正しく理解したい授業だと思います。

 興味を持った方は、ぜひ、お近くの書店またはネットで、お買い求めください。



 『10代に届けたい5つの “授業”』 大月書店 (1,800円+税)

 〈編著〉
 生田武志・山下耕平
 〈著者〉
 松岡千紘・吉野靫・貴戸理恵・野崎泰伸・なかのまきこ
  


Posted by 小暮 淳 at 10:20Comments(0)読書一昧

2024年03月04日

なぜ若者は海辺の床屋を訪れたのか?


 不覚にも涙がこぼれてしまいました。
 小説を読んで泣けたのは、久ふりのことでした。


 小説を読むならば、長編と決めていました。
 なぜならば、むらっけの多い、飽きっぽい性格だからです。
 集中力が途切れると、他のことに興味が行ってしまうのです。

 だから短編集には、苦手意識がありました。


 荻原浩という作家が書く小説が好きでした。
 “でした” というのは、もう何年も読んでいなかったからです。

 1997年、『オロロ畑でつかまえて』 でデビュー。
 この作品で第10回小説すばる新人賞を受賞しました。
 この本を機にファンになり、『コールドゲーム』 『噂』 『あの日にドライブ』 などを立て続けに読んだ記憶があります。

 でも、なぜか、その後は読んでいません。
 だから2016年に 『海の見える理髪店』 で第155回直木賞を受賞したときも、本を手に取ることはありませんでした。
 短編だったからかもしれません。


 先日、時間つぶしに、ぷらりと入った古書店で、『海の見える理髪店』 を手に取りました。
 「読んでないけど、これ短編なんだよな……」
 なんて一人ごちながらも、気が付いたら他の数冊の本とともにレジに向かっていました。


 舞台は海辺の小さな町にある理髪店。
 ここに一人の若い男がやって来ます。
 「髪型はお任せします」

 老店主は、ハサミを動かしながらも問わず語りに、自分の人生を語り出します。
 家業の床屋を10歳で手伝い始めたこと。
 父親の死後、継いだ店は順調だったが、やがて傾き出し、酒におぼれていったこと。
 自暴自棄になり、妻に暴力を振り、離婚されたこと。


 なぜ、老店主は、若者にそんな話をするのか?
 なぜ、若者は遠く離れた海辺の町まで散髪にやって来たのか?

 ミステリアスなストーリー展開に、読み手は知らずのうちに謎解きを始めてしまいます。
 が!
 ラストで思いもよらぬ事実が明かされます。

 それを知った時、涙腺が一気に破壊されてしまいました。


 興味をいだいた方は、一読されたし。
  


Posted by 小暮 淳 at 12:03Comments(2)読書一昧