2022年10月04日
迷わず行けよ、行けば分かるさ。
「貧乏ですか?」
「貧乏ならば何でもできる!」
夢を分かち合う友人と、長年交わしている合言葉です。
ご存じ、あの名ゼリフのパロディーであります。
今月1日、元プロレスラーで参院議員も務めたアントニオ猪木さんが、心不全のため死去されました。
79歳でした。
アントニオ猪木さんといえば、僕ら世代にとっては、まさに劇画から飛び出して来たような実存するヒーローでした。
ともに同時代のプロレス界をけん引してきたジャイアント馬場さんと人気を二分にしましたが、僕たちちびっ子は、圧倒的に “猪木ファン” でした。
休み時間や放課後になれば、男の子たちは、決まって “プロレスごっこ” に夢中でした。
「四の字固め」 「キーロック」 「コブラツイスト」……と、覚えたての技を掛け合うのが楽しくて、ついつい白熱してしまい、ケガをして保健室へ運ばれる子が続出したほどでした。
なかでも一番人気は、猪木スペシャルこと、「卍(まんじ)固め」。
みんな、この技をかけたくて、体の小さい、ひ弱な子がターゲットにされました。
しっかり、いじめの温床になっていたと思います。
ということで、いつしか学校での 「プロレスごっこ」 は禁止となりました。
が、悪ガキは懲りません。
「学校の外なら、いいんだぜ」
と下校時に、いじめられっ子を待ち伏せをして、技の練習に励んだものでした。
そんな少年時代のある日。
ついに僕らが暮らす地方都市にも、アントニオ猪木が来ました!
場所は、今はなき百貨店屋上の特設会場。
もう、黒山の人だかり。
百貨店の屋上は、これ以上人が入れないくらいの超満員。
友だちと何時間も前から並んで、猪木の登場を待ちました。
そして……
「うおおおおーーーー!!!」
登場するや、僕らは興奮の絶頂に達しました。
「大きい!」
こんな大きな大人を、僕らは身近に見たことがありません。
「カッコイイ!」
その姿は、テレビで観るヒーローそのものだったのです。
早くから会場に陣取っていた僕らは、幸運にも 「サイン会」 の列にも並ぶことができました。
生まれて初めて見る本物のプロレスラー。
しかも人気ナンバーワンのスーパーヒーローに、僕らのテンションは上がりっぱなしです。
帰り道。
色紙を手にした僕たちは、興奮しています。
「おれ、猪木の顔、あんまりよく見なかった」
「握手した手、おれ、一生洗わねんだ」
友だちは口々に話します。
「グレコ (僕のあだ名) は、どうだった?」
そう訊かれて、返した言葉を今でも覚えています。
「うん、耳がデカかった!」
「お前、そんなとこ見てたの?」
「みんな気づかなかった? しかも複雑な形をしていた。あれは闘う男の耳だな」
今でもアントニオ猪木さんのことを思うと、大きくて変形した耳が僕の脳裏に浮かびます。
それと同時に、1998年の引退セレモニーで残したあの名言も……
≪迷わず行けよ、行けば分かるさ≫
猪木さん、子どもたちに夢を、大人たちには勇気を与えてくれて、ありがとうございました。
安らかに、お眠りください。
感謝
合掌
2022年10月03日
ぐんま湯けむり浪漫 (22) 高山温泉
このカテゴリーでは、2017年5月~2020年4月まで 「グラフぐんま」 (企画/群馬県 編集・発行/上毛新聞社) に連載された 『温泉ライター小暮淳の ぐんま湯けむり浪漫』(全27話) を不定期にて掲載しています。
※名称、肩書等は連載当時のまま。一部、加筆訂正をしています。
高山温泉 (吾妻郡高山村)
村民待望の天然温泉が湧いた!
四方を緑の山々に囲まれ、雄大な自然と大地の恩恵に育まれてきた高山村。
戦国時代には交通の要所として各所に城が築かれ、近世になると越後と江戸を結ぶ三国街道の宿場として大いににぎわった。
明治22(1889)年、中山村と尻高村が合併して、現在の高山村が誕生した。
近年は、村内を横断する国道145号が 「日本ロマンチック街道」 に設定されたこともあり、観光エリアとしての発展が目覚ましい。
県立ぐんま天文台やゴルフ場、キャンプ場など、自然と調和した多くのリゾート施設に、四季を問わず県内外から観光客が訪れている。
多くの施設がある高山村だが、温泉はなかった。
待望の天然温泉が湧いたのは平成になってから。
国の 「ふるさと創生資金事業」 により掘削したところ、泉温約65度、毎分約50リットルの無色透明の温泉が湧出した。
村民からの要望を受け、平成4(1992)年、村営温泉施設 「いぶきの湯」 がオープンした。
建物は木造平屋建て、約170平方メートル。
浴室は内風呂のみだが、天窓のある吹き抜け構造になっているため、開放感がある。
何よりも泉質の良さが評判になった。
「よく温まり、アトピー性皮膚炎や腰痛に効く」
と口コミで広まり、村内はもとより隣接地域からのリピーターが年々増え、最初の5年間で37万人以上の入場者があったという。
まだ県内でも日帰り温泉施設が少なかった時代のこと。
その評判は県境を越えて、遠方からも多くの浴客が訪れるようになった。
温泉施設がある人気の 「道の駅」
山間の小さな施設は、ひと昔前の共同湯の面影を残している。
入り口前には飲泉所があり、湧き出したままの熱い源泉を飲むことができる。
泉質は、ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉。
口に含むと、かなり塩辛い。
「熱くないと、常連さんに叱られます」
と、古参の従業員が笑った。
浴槽の湯の温度は、常に43度を保っている。
この入った時に、ガツンとくる浴感が、高山温泉の魅力なのだという。
また、その効能の多さから 「病も治す神の霊泉」 とまで呼ばれ、地元の人たちに愛され、憩いの場として親しまれている。
平成8(1996)年7月、住民の福祉向上と村の観光の目玉にすることを目的に、「いぶきの湯」 から源泉を引いた日帰り温泉施設 「ふれあいプラザ」 が新たにオープンした。
一風変わったとんがり屋根の建物は、「日本ロマンチック街道」 にちなんだ洋風なデザイン。
外壁は石造りという珍しさも手伝って、たちまち評判になった。
隣接地には、宿泊施設としてのコテージも増設された。
平成26(2014)年には温水プールを農産物の直売所に全面改築し、道の駅 「中山盆地」 としてリニューアルオープン。
その後、大型遊具や健康器具が設置された公園や絶景の足湯も施設内に完成し、子どもから大人まで楽しめる施設になった。
「景色が素晴らしく、温泉施設が充実している」
という利用者の意見が多く、関東甲信越の 「道の駅」 173駅の中で、2018年度は人気投票15位に選ばれた。
平成にできた新しい温泉は、雄大な自然の下、歴史を刻んでいく。
<2019年9月号>
2022年10月02日
「はつらつ温泉」 がTV出演 !?
「小暮さん!小暮さん! 観ました?」
「何を?」
「テレビですよ。ビックリしました! いきなり、小暮さんの記事が紹介されるんだもの」
いつもの酒処のカウンター。
一人、ちびちびと手酌で、呑(や)っている時でした。
常連客のKさんが店に入って来るなり、畳み込むように僕に言ったのでした。
彼の話は、こうでした。
たまたま観ていた 「5時に夢中!」 (TOKYO MX) というテレビ番組の中で、僕の書いた記事が大映しになり、所々に赤線が引いてあり、司会者が、それを読んだということです。
※(「5時に夢中!」 は、群馬テレビでも放送されています)
最初は、彼が何を言っているのだか、さっぱり分かりませんでした。
が、話を聞くうちに、いくつかのヒントが見えてきました。
●まず番組には、モデルでタレントのジョナサン・シガーさんが、レギュラー出演していること。
●また、高崎市のフリーペーパー 「ちいきしんぶん」 の一面で、ジョナサンの記事が大きく載ったことを報じていたこと。
●そして、「ちいきしんぶん」 の同じ号には、僕が連載しているコラムが掲載されていたこと。
事のいきさつが知りたくて、僕はその場で、「ちいきしんぶん」 の担当者に電話をしました。
すると、全容が解明されました。
●ジョナサン・シガーさん (高崎市出身) の記事が載った 「ちいきしんぶん」 (7月29日号) を、読者が番組宛に送った。
●すると番組のディレクターから 「ちいきしんぶん」 に、「番組で紹介したい」 との申し入れがあった。
●さらに後日、「同じ号に掲載されている 『はつらつ温泉』 という記事も紹介したい」 との連絡があった。
とのことでした。
『はつらつ温泉』 とは、平成28(2016)年4月から連載が始まったコラムで、今月の号で75話を数えます。
一号一話、温泉にまつわるエピソードを紹介しています。
テレビ番組で紹介されたのは、「ちいきしんぶん」 7月29日号に掲載された73話。
「地産地食が“ごちそう”」 というタイトルのコラムでした。
<「ごちそう」 という言葉は、大切な人のために走り回って、おいしい物を探すことから 「ご馳走」 の字が当てられた>
<海に行ったら海の物を、山へ行ったら山の物を。奇をてらうことなく、土地の物を 「ご馳走」 することが、本来のもてなしの姿>
という内容でした。
さてさて、番組ではどのように紹介されたのでしょうか?
ご覧になった方は、いますか?
誰かが、どこかで、人知れず読んでくださっているのですね。
ライター冥利に尽きる出来事でした。
2022年10月01日
小山温泉 「小暮旅館」
♪ おやま あれま 小山ゆうえんち~ ♪
そう、口ずさみながら、今年もJR両毛線の小山駅に降り立ちました。
3年目、計4回目の “小山詣で” であります。
きっかけは3年前の春。
突然、栃木県小山市の職員を名乗る男性から電話がありました。
「ぜひ、うちで、先生のご講演をお願いしたいのですが?」
なんで、栃木県?
僕は、群馬専属の温泉ライターですぞ?
いいんでしょうか?
すると、
「いいんです!」
と即答。
なんでも、その担当者が温泉好きで、しかも群馬の温泉が大好きで、群馬の温泉に通っているうちに僕の本と出合ったのだと言います。
「ぜひ、生で先生のお話を聴きたいものですから」
と、市民のためではなく、一職員の公私混同、私利私欲のためにスタートしたのが、小山市立中央公民館で開催された 「ほっこり温泉講座」 なる講演会でした。
当初は、一回こっ切りだと思っていた講座ですが、昨年までに3回も開催されました。
そして今年、小山市内の他の公民館から新たな依頼がありました。
というのも、昨年。
小山市の教育委員会から連絡があり、なななんと! 僕が小山市の 「講師・指導者」 に登録されたといいます。
ということで、昨日は早起きをして、両毛線に揺られて、1年ぶりに小山市へ行って来ました。
駅前では、職員が車でお出迎え。
わずか15分くらいの道程ではありますが、ちっぴりVIP気分を味わいました。
今回の会場は、小山市桑市民交流センター 「マルベリー館」。
4年前に開設されたという綺麗で立派な施設でした。
対象は、小山市在住の一般女性。
十数名が受講しました。
群馬県以外で講演をする場合、僕は “正しい温泉の選び方” をテーマにお話をします。
1部では、基礎編。
そして2部では、実地編と題し、シミュレーションしながら架空の温泉旅館を紹介します。
その宿の名前が、今回は、小山温泉 「小暮旅館」。
自然湧出の自家源泉を保有する、自然流下、完全放流の宿であります。
そして僕が、この宿の “湯守” 兼 “番頭” にふんして、館内を案内するというストーリーです。
ことのほか、この話法が受講者には 「面白い」 と好評のようで、僕自身も楽しみながら演じています。
1部と2部で、たっぷり2時間の講演でした。
喉はカラカラです。
腹も空きました。
帰りも職員の方に小山駅まで送っていただき、ロータリーで降りました。
あいさつをして、車の姿が見えなくなるやいなや、すぐさま駅前の居酒屋へ直行!
迷わず、「生ビールを中ジョッキで」 と注文。
ちょっと遅めのランチとなりました。
小山市教育委員会および公民館職員のみなさん、お世話になりました。
また、お声かけください。
いつでも小暮旅館の番頭が、馳せ参じます!