2010年11月16日
妖精目撃
直木賞作家、朱川湊人氏の小説に 『妖精生物』 という短編があります。
10歳の少女が、ある日、高架下でビンを並べて商いをしているおじさんから、奇妙な生き物を買うところから話は始まります。
この生物は一見、クラゲのように水の中で、ふわふわと漂っているだけなのですが……
その日以来、少女の日常に摩訶不思議な出来事が、次々と起こります。
僕は、この小説を読んだとき、完全に忘れていた、ある出来事を思い出しました。
それは、“妖精” を見た日のことです。
あれは数年前の、真冬の夜。
親しい友人らが集まる飲み会の席へ向かって、自転車をこいでいました。
たぶん、7時前後だったと思います。
歩道を走っていると、何か光るものが僕を追い抜いて行きました。
といっても、そんなに速いスピードではありません。僕のこぐ自転車より、少しだけ速いくらいですから、ずーっと目で追うことができました。
自転車に乗った僕の右側、上方。
車道と歩道の間。
電線よりは低い位置です。
まるで、「お先に失礼!」みたいに、ゆっくりと追い抜いて行ったのです。光の玉が!
大きさは、距離からしてピンポン玉くらいに見えましたが、奇妙なことに、線香花火のような火の粉を散らしているのです。
最初は、ロケット花火が水平に飛んできたのかと思ったくらいです。
でも、それにしてはスピードが遅過ぎますし、煙もでていません。また、まったく音もしませんでした。
スロースピードで僕を追い抜いて行った光の(火の?)玉は、電柱1本分くらい先で、突然、パッと消えてしまいました。
飲み屋に着いた僕は、友人らに第一声 「真冬に大きなホタルを見ちまったよ」 と、話し出しました。
すると、僕の目撃談を聞いていたS君が、
「それ、妖精かもね」と、ぽつり。
「えええーっ 、妖精?! 」と一同、びっくり。
「そう、妖精だ。目撃例はいくつもある。ところで、その光はさ、まっすぐ飛んでたかな? それとも、フラフラと蛇行して飛んでいた?」とS君。
「まっすぐ飛んでいたよ」と僕。
すると、またもや彼は仰天なことを言ったのです。
「じゃぁ、淳ちゃんが見たのは、オスだね」
「オスだぁーーー?!?!?!?! 」一同。
「そう、オス。でも消えちゃったんだよね。惜しいなぁ~。どこかガラス面にとまれば、足跡が採取できたのに」
「足跡だぁーーー?!?!?!?! 」一同。
おいおい、みんな何のことだか、さっぱり分からんのだよ、S君! 説明したまえ!
「メスの足跡は、点の連続。オスの足跡はカギ状になっている」
待て待て、どーして、そんなに詳しいだよ。お前?
その後、延々とS君の妖精についての講義が始まったのです。
なんでも、彼の知り合いに、妖精の捕獲に成功して、飼っていたことのある男がいるのだそうだ。
どこまで信じていい話なのやら……。
ということで、あまりに話がバカバカし過ぎて、小説を読むまで妖精のことは、すっかり忘れていたのです。
その後、僕は、妖精に会っていません。
Posted by 小暮 淳 at 15:51│Comments(0)
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