2010年11月20日
島人たちの唄⑦ 「夕暮れの井戸端会議」
「家のカギなんて、かけたことないね」
「島にドロボーなんて、いないもん」
浜に面した道端に、一列になってイスを並べて、夕涼みをしている年寄りたち。
島のあちこちで、よく見かける光景だ。
「ドロボー入っても、すぐ捕まっちまうだわ」
「ああ、船で逃げなかならんもん」
「乗り場、止めちまえばええんだ」
アッハハハー! ウワッハハハー!
笑い声が浜通りに響き渡る。
それをかき消すように、2人乗り 、3人乗りの原付バイクが行き交う。
もちろん、ナンバープレートなんて付いていない。
停めてあるバイクもクルマも、みんなキーは差したまま。
それでも盗まれることはない、と言う。
誰ともなしに 「ナンバー付いてないけど、あれ違反じゃないの?」 と尋ねると、すかさず1人の老人が応えた。
「あれね、付けておくと違反なんだわっ」
アッハハハー! ウワッハハハー!
またもや、大爆笑が沸き起こった。
「ウソだと思ったら、ほれ、駐在さんに訊いてみろ」
「自転車あるで、奥におるよ」
と、島でたった1つの交番を指さした。
「駐在ひとりじゃ、取り締まれたもんじゃない。だって、そんなことしたら簀(す)巻きにされて、海に放り込まれちゃうもん」
頭をかきかき、おまわりさんは苦笑いをした。
この島に赴任して、4年が経つという。
「本当は3年が任期だけどね。島って、なかなか来手がいないんよ」
休みの日に、家族のいる名古屋へ帰るのが、唯一の楽しみなのだとも言った。
「良く言えば、団結力。悪く言えば、島根性ってやつだな。よそ者が何か言えば、それが島中に広がる。やたらの事は、言えないよ。この間、急性胃炎になっちゃって、胃カメラを飲んできたんだ」
そう言って、おまわりさんは腹をさすってみせた。
そして、言葉を付け加えた。
「俺が島に来たときは、ナンバーなんて1つも付いてなかったんだ。これでも少しは良くなったんだよ」
Posted by 小暮 淳 at 11:53│Comments(0)
│島人たちの唄