2011年04月16日
四万温泉 「つるや(鶴屋)」
今、『奇跡の軌跡』(文芸社刊) という本を読んでいます。
著者は、鶴屋旅館の3代目主人、関良則さんです。
16年前、倒産寸前の温泉旅館を立て直すために四万温泉に帰ってきた、若き経営者の起死回生の奮闘記です。
僕は温泉や旅館の歴史が好きなので、この手の本は楽しく読ませていただいています。
関さんとの出会いは、2000年に開催された四万温泉協会主催のイベント 『探四万展(さがしまてん)』 であります。
彼は運営する協会の青年部員で、僕は招待されたアーティスト兼シンポジュームのパネリストとして参加しました。
今週、久しぶりに再会をして、昔話に花を咲かせてきました。
その時、「確か、本を出されましたよね?」と僕が話題を持ち出したところ、「ぜひ、記事の参考にしてください」と1冊いただいてきたのです。
四万温泉で「つるや」といえば、デザイナーズ旅館として若い人たちにとても人気の旅館です。
やはり2000年頃からでしょうか、雑誌『じゃらん』やテレビでも、たびたび取り上げられるようになり一躍有名になりました。
1泊何万円もする高級部屋に次々と予約が入り、すぐに満室となる伝説の旅館となったのです。
関さんは、強烈な信念と柔軟な発想の持ち主です。
本は、そんな彼の成功への挫折と再生の軌跡をたどって書かれています。
しかし僕が今回、彼を訪ねたのは、高級旅館への軌跡を知るためではなく、以前から気になっていた立地の謎を解くためだったのです。
「つるや」を訪れたこのある人なら気づいたと思いますが、四万温泉の一番奥にある旅館です。
さらに、建物は薬王寺という寺院の境内にあります。
露天風呂へ行くのに、寺の参道を渡るのです。
「実は、うちの敷地に、後から寺が建ったんですよ」
と関さんは、その謎を解き明かしてくれました。
関家の敷地内に寺が建立され、初代(関さんの祖父)が宿坊を始めたのが、そもそもの鶴屋旅館のスタートだったとのこと。
そして、寺の紋が「鶴」だったことから鶴屋となったいきさつなど、興味ある話をたくさん聞くことができました。
斜面に建てられた宿の眼下には、日向見薬師堂(国の重要文化財)のかやぶき屋根が見えます。
“鹿覗きの湯” と名づけられた露天風呂には、けもの道が通り、運が良ければカモシカが入浴を覗きにきます。
このような立地条件の中で、旅館業を営めること自体が、自然と歴史に恵まれた“奇跡の宿”だと思うのです。
Posted by 小暮 淳 at 16:46│Comments(0)
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