2012年01月06日
『誕生日の夜』 ④
電話帳でお父さんは、印刷屋さんを調べると、はしから住所をメモしました。
このまま求人の空きをのんびりと待っているわけにはいきません。
お父さんはメモを片手に、町の印刷屋さんを回ることにしました。
「ごめんください」
小さな印刷所をたずねると、工場のなかはガランとして、とても静かでした。
インクのにおいはしますが、機械はみんな止まっています。
「なんの用だね」
突然、暗がりのなかから、ヌウッと男の人が現れました。
「あの……、こちらで使ってもらえないでしょうか……」
すると、男の人が言いました。
「工場のなかを見て、わからねえのかい。
機械はみんな止まっちまっているだろう。
欲しいのは人より、仕事のほうだよ!」
お父さんは、ペコリとおじぎをすると、工場の外へ出ていきました。
「いまは、どこも大変なんだなあ」
めげずにお父さんは、次の印刷屋さんをたずねることにしました。
でも、二軒目も三軒目も、その次の印刷屋さんも小さな町工場で、お父さんを雇う余裕などなく、あっさりと断られてしまいました。
気がつくと、あたりは薄暗くなっていました。
東の空には、一番星が光っています。
“あと、一軒だけ回ってみようか”
そう、お父さんは考えながら、腕時計を見ました。
「あっ、いっけない!
もうこんな時間だ。
しおりを迎えに行かなくっちゃ!」
お父さんは、あわてて駅へ向かって走り出しました。
<つづく>
Posted by 小暮 淳 at 10:56│Comments(3)
│誕生日の夜
この記事へのコメント
印刷屋の…ということで
私も今は、亡き社長の元(印刷会社)で働いていたので、当時を思い出しました。
私も今は、亡き社長の元(印刷会社)で働いていたので、当時を思い出しました。
Posted by ぴー at 2012年01月06日 13:34
お父さん、急ぐあまりにデコレーションケーキを買って帰るのを忘れないで。
朝約束した事を、夕方忘れることはよくあるので。
お母さんが病院から、ケーキ屋さんに頼んでおいて、家に届いてるってストーリーは無いですよね。
朝約束した事を、夕方忘れることはよくあるので。
お母さんが病院から、ケーキ屋さんに頼んでおいて、家に届いてるってストーリーは無いですよね。
Posted by ヒロ坊 at 2012年01月06日 14:36
ぴーさんへ
印刷屋さんて、独得の匂いと音がありますよね。
昔から仕事で、印刷工場に出入りしていましたから、今でも懐かしく思い出されます。
ヒロ坊さんへ
毎度、ヒロ坊さんの発想のユニークさには、笑わせていただいております。
そーですよね、お父さんは急いでいます。
さあ、ケーキを無事買って帰れるのでしょうか?
いよいよ物語は、佳境に入ります。
印刷屋さんて、独得の匂いと音がありますよね。
昔から仕事で、印刷工場に出入りしていましたから、今でも懐かしく思い出されます。
ヒロ坊さんへ
毎度、ヒロ坊さんの発想のユニークさには、笑わせていただいております。
そーですよね、お父さんは急いでいます。
さあ、ケーキを無事買って帰れるのでしょうか?
いよいよ物語は、佳境に入ります。
Posted by 小暮 at 2012年01月07日 13:38