2012年01月08日
『誕生日の夜』 ⑤
電車を降りたときには、もうあたりはとっぷりと日が暮れていました。
駅前の洋菓子店の明かりが、目に入りました。
「忘れるところだった。今日は、しおりの誕生日」
そうつぶやきながら、お父さんはお店に入ると、迷わずに一番大きなデコレーションケーキを指さしました。
「こちらですね、三千五百円になります」
店員さんに言われて、お父さんはポケットから財布を取り出しました。
ところがお金を払おうと、なかをのぞいて見ると……
なんと、千円札が一枚しかありません。
それにポケットのなかに、百円玉が五つ……
お父さんは、急にはずかしさでいっぱいになり、店員さんにあやまると、そのままお店の外へ出ていきました。
この数ヶ月の間、お父さんは好きなタバコもお酒もやめて、お金をきりつめて生活をしていました。
毎月もらう失業手当のお金だけでは、とても足りないからです。
お母さんの入院費も、ばかになりません。
今度の手術では、さらにたくさんのお金が必要になります。
お父さんは財布をにぎりしめたまま、夜空を見上げていました。
だって、涙がこぼれてしまいそうだったからです。
<まるいケーキだよ。約束だよ>
お父さんの帰りを楽しみに待っているしおりちゃんの笑顔が、にじんだ夜空に浮かんで見えます。
時計を見ると、とっくにお迎えの時間は過ぎています。
お父さんは、ゆっくりと踏み切りの方へ向かって歩き出しました。
確か駅の向こう側に、お店がもう一軒あったことを思い出したからです。
<つづく>
Posted by 小暮 淳 at 16:11│Comments(4)
│誕生日の夜
この記事へのコメント
踏み切りに近づくと、お父さん変な気を起こさないといいのですが。
1500円で、ケーキ用の丸いスポンジを買って、残ったお金でクリームを買って帰り、家でケーキを作るっていうストーリーじゃないかな(またしても茶化してゴメン)
1500円で、ケーキ用の丸いスポンジを買って、残ったお金でクリームを買って帰り、家でケーキを作るっていうストーリーじゃないかな(またしても茶化してゴメン)
Posted by ヒロ坊 at 2012年01月08日 18:32
ヒロ坊さんへ
爆笑!(腹がよじれる)
またしても、笑いころげてしまいました。
このストーリーの続きは、ヒロ坊さんにゆだねたほうが、よろしいようで・・・。
と、と、ところが!
思わぬ展開が、お父さんに待っているのです。
さあ、いよいよ物語は、クライマックスに突入ですぞっ。
爆笑!(腹がよじれる)
またしても、笑いころげてしまいました。
このストーリーの続きは、ヒロ坊さんにゆだねたほうが、よろしいようで・・・。
と、と、ところが!
思わぬ展開が、お父さんに待っているのです。
さあ、いよいよ物語は、クライマックスに突入ですぞっ。
Posted by 小暮 at 2012年01月09日 01:05
クリスマスケーキですか…
精神と物質のバランスが崩れ 物質に片寄た象徴ですよね
クリスマスは 何故か欲しい商品が 買って貰え尚且つ ケーキが食べられる
子供の頃は ヤマザキと不二家に 二極化してましたが
この話しだと 踏切の向こうには 何があるのか?
コスプレサンタがケーキを配ってる?
若しくは ケーキの見切り品販売をしている…?
次を読んで見ます。
精神と物質のバランスが崩れ 物質に片寄た象徴ですよね
クリスマスは 何故か欲しい商品が 買って貰え尚且つ ケーキが食べられる
子供の頃は ヤマザキと不二家に 二極化してましたが
この話しだと 踏切の向こうには 何があるのか?
コスプレサンタがケーキを配ってる?
若しくは ケーキの見切り品販売をしている…?
次を読んで見ます。
Posted by momotaka at 2012年01月09日 12:44
momotakaさんへ
季節は冬ですが、クリスマスではありません。
よって、コスプレサンタもいませんし、見切り品の販売もありません。
お父さんは、正規の値段でケーキを手に入れようとします。
そして、思わぬサプライズが、お父さんを待っていたのです。
季節は冬ですが、クリスマスではありません。
よって、コスプレサンタもいませんし、見切り品の販売もありません。
お父さんは、正規の値段でケーキを手に入れようとします。
そして、思わぬサプライズが、お父さんを待っていたのです。
Posted by 小暮 淳
at 2012年01月09日 16:38
