2012年02月17日
自叙伝の代筆
昔はよく、文章の代筆という仕事を頼まれました。
いわゆるゴーストライターであります。
短いものでは、冠婚葬祭やパーティでのスピーチ原稿。
長いものでは、エッセーやその人の自叙伝です。
一度だけですが、新聞の連載というのを代筆したことがありました。
某施設の元支配人が、新聞社から月1回のエッセーの連載を頼まれて、書けもしないのに引き受けてしまったとのこと。
困り果てたその人は、知人を介して、僕に泣きついて来たというわけです。
話を聞けば、面白そうな半生をお持ちの人だったので、代筆を担当することにしました。
毎月1回、その人とお会いして、話を聞いて、文章に仕上げます。
その人が僕の原稿に目を通して、間違った表記や表現等があれば修正して、完成させます。
その人は、何食わぬ顔で、その原稿を新聞社へ送るわけです。
これを12回、1年間連載しました。
と、思えば、某タレント本のゴーストライターをしたことがあります。
こちらはページ数が多いので、“代筆” といったレベルではありません。
テープを回したインタビューを何十回とこなし、仕事先へ一緒に同行して、その人が体験したことを、いかにも本人が書いたかのように僕が書きます。
当然、製作日数は半年以上かかりました。
で、僕はその時、思ったのですよ。
「こりゃ~、自分の本を書くほうが数倍、楽だわぁ~」 とね。
要は、自分を殺して、その人になりきって書くわけですから、とにかく疲れるんです。
しかも、大変な思いをして書き上げても、「違う!」 とか 「気に入らない!」 と言われれば、書き直しになります。
で、挙句の果て、本が出来上がっても、どこにも自分の名前はありません(ゴーストですから、当然ですが)。
それに比べて、自分の名前で書く、自分の本は、とにかく楽しい!
僕が追いかけたいテーマを、自分のやり方で取材をして、自分の好きなように書けるのですから。
どうしたって、ゴーストなんかより、記名での出版のほうが、いいに決まっています。
ま、そんな理由もあり、ここ10年くらいはゴーストの仕事はしていませんでした。
が、最近、珍しく自叙伝の代筆相談がありました。
依頼ではなく、相談なのです。
というのも、いろいろと事情がありそうな話で……。
先日、出版の担当者とお会いして、話を聞いてきました。
自叙伝を自費出版したいと依頼してきたのは、某町の元町長をなさった人です。
お歳は、88歳だといいます。
しかも、自分では原稿を書けないから、すべてゴーストライターに書いて欲しいという。
いやいや、話を聞いただけでも、大変な仕事であります。
まず、聞き取りをするにも高齢過ぎます。
また、自叙伝を出そうという人なのに、まったく自分では書く気がないというのも、困ったものです。
担当者いわく、
「以前、高齢な方の自叙伝を作ったことがあるのですが、製作途中で亡くなられてしまったのですよ。いゃあ~、困りました」
当然、そんなこともあるわけです。
なぜ、もっと早く、コツコツと自分で書きためておいて、出版にこぎ着けなかったのでしょうかね?
自叙伝を晩年に出版する人って、だいたい決まっているんですよ。
政治家や医者、社長、校長先生などです。
ですから、市町村長なども、お仲間ですね。
自分が生きてきた証しを、文字にして後世に残しておきたいのでしょうが、周りにしたら 「そんなものは、もらっても読みたくもない」 ありがた迷惑だったりするのです。
まあ、自分の力で書き上げる分には、誰も文句を言わないでしょうが、金にものを言わせて、ある事ない事を他人に書かせるというのは、いかがなものかと思うのですがね。
芸能人や有名人ならいざしらず、普通の人の人生なんて、誰も興味なんてないことに、きっと本人は気づいていないのでしょうな。
金さえ出せば、誰でも本が出せるというのも、おかしな話ではありますけど。
ま、そんなわけで、88歳のおじいちゃんの自叙伝の件は、もう少し様子をみることになりました。
僕から担当者には、「まず最初に、ご家族の同意を確かめてください」 と伝えました。
いくら本人のお金だといっても、出版となれば、何百万というお金のかかることですからね。
Posted by 小暮 淳 at 18:00│Comments(2)
│執筆余談
この記事へのコメント
現在、たった600文字程度の原稿締切りに追われております
本なん てーーー
本なん てーーー
Posted by ぴー at 2012年02月18日 09:33
ぴーさんへ
600字ですか、原稿用紙1枚半。
微妙な字数の原稿ですね。
文章は、短いほど難しい。
削ぎ落として、削ぎ落として、珠玉の文章を書き上げてください。
600字ですか、原稿用紙1枚半。
微妙な字数の原稿ですね。
文章は、短いほど難しい。
削ぎ落として、削ぎ落として、珠玉の文章を書き上げてください。
Posted by 小暮 at 2012年02月19日 01:31