2012年03月09日
遠い日の恋人よ
僕の両親は実家で、ふたり暮しをしています。
オヤジは少々ボケが始まっているものの、2人とも健康に問題はなく元気なのですが、それでもかなりの高齢です。
離れて暮らす息子としては、いつも心配のタネですから、外出したときはできるだけ実家に顔を出すようにしています。
先日も取材帰りに立ち寄ると、「いいところに来た」 と買い物を頼まれました。
車も自転車も乗らない老人にとって、買い物は一番の問題です。
“買い物難民” という言葉があるくらい、旧市街地に暮らす老人たちは、買い物に不自由しています。
一番近いスーパーでも、到底、歩いて行ける距離ではありません。
唯一、徒歩圏内にあったコンビニも、閉店してしまいました。
ということで、週に何回かは、僕が買い物代行をしてあげているのです。
その買い物に出かけたスーパーで、また奇跡が起きました。
カゴを持って、店内へ入ると、すぐに誰かの視線を感じたのです。
キョロキョロと店内を見回しましたが、知った顔はいません。
なのに、歩みを進めるごとに、その視線は強くなります。
前方には、マスクをしてワゴンを押す女性が立っているだけです。
はて、知っている人だろうか?
目を凝らして見たのですが、顔は大きなマスクに覆われているため、人相が分かりません。
でも、なぜかグイグイと僕の体は、その女性に引き寄せられて行きます。
そして、わずか1メートル付近まで接近したときです。
その、わずかに露出している “目” を見て、瞬時に僕の思考回路は、ある特定の人物を探し出しました。
「○○ちゃん?」
思わず、すっとんきょうな声を上げていました。
すると、その女性は声もなく、小さくかぶりをタテに振りました。
その女性は、元カノでした。
いったい、どのくらい前までを “元カノ” と呼んでいいのか分かりませんが、昔つき合っていた女性には間違いありません。
それも、昔も昔、10代の頃ですから、ざっと35年前のことです。
自分でも、よく “目” だけで彼女だと分かったものだと、ビックリしたくらいです。
もしかしたら、目力で僕に合図を送っていたのかもしれません。
「私はここよ。気づいて!」 ってね。
僕らは、僕が東京へ出るの境に別れました。
でもね、どうして僕らは気づき合えたかというと、再会したのはこのときが初めてではなかったからなのです。
不思議な縁があるようで、20代、30代、40代と、10年周期くらいで、こうやってバッタリと再会をくり返していたのです。
50代では、この日が、最初の再会でした。
「○○ちゃんは、全然変わらないなぁ~」
「ううん、昔に比べたら太ったし、年相応に老けたよ」
彼女は僕の読者で、本が書店に並ぶと真っ先に買ってくれているんですって。
嬉しいですね。
「で、どうして、今日はここのスーパーへ?」
確か、彼女の家は、この辺ではないはずです。
「父の世話よ。ひとり暮らししているから、こうやって、たまには私が様子を見に来て、買い物をしてあげているの」
「なーんだ、だったら僕も同じだ」
僕らは同世代。よって、その親たちも、かなりの高齢になっています。
「でも、ジュンちゃんところは、2人揃って元気なんでしょ?」
彼女の母親は早くに亡くなっていて、確か、お父さんは、ずーっと1人だったはず。
歳を聞けば、すでに90歳を超えているという。
昔、昔、デートの帰りに彼女を家まで送り届けて、出てきたお父さんにあいさつをした記憶がよみがえってきた。
あのときのお父さんは、50代だったことになる。
今の僕と、あまり変わらない年齢だったのだ。
「じぁあ、また」
「うん、元気でね」
この歳になると、もう、甘酸っぱい感傷なんてありません。
それでも、しばらくの間、スーパーから出て行く彼女の後姿を目で追っていました。
“全然変わらない” は、ちょっと大袈裟だったかな~。
でも、年齢よりは、かなり若く見えたよな。
“元カレ” としては、何よりそれが嬉しい。
また、どこかでバッタリ会おうね!
遠い日の恋人よ・・・
Posted by 小暮 淳 at 21:17│Comments(3)
│つれづれ
この記事へのコメント
キャー
元彼にこんなこと言われたら、また…
元彼にこんなこと言われたら、また…
Posted by ぴー at 2012年03月10日 09:24
(「・・) とか言って 頻繁に 元彼女に遭遇して無ければ いいのですが
現在 湯宿温泉でマッタリ
現在 湯宿温泉でマッタリ
Posted by momotaka at 2012年03月10日 14:40
ぴーさんへ
「また…」 なんでしょうか?
ぴーさん、危ない危ない!
momotakaさんへ
ドキッ!
いえいえ、大丈夫ですよ。
お互い、もう大人ですから・・・
「また…」 なんでしょうか?
ぴーさん、危ない危ない!
momotakaさんへ
ドキッ!
いえいえ、大丈夫ですよ。
お互い、もう大人ですから・・・
Posted by 小暮 at 2012年03月10日 17:22