2013年06月11日
倉渕温泉 「長寿の湯」②
「一番いい温泉は、どこですか?」
という質問を、よく受けます。
でも、その都度、答えに困ってしまいます。
“いい温泉” の定義は、十人十色。
湯、そのものの質を求める人。
料理やロケーション、サービス、設備を求める人。
浴場の風情や造りを重視する人もいます。
でもね、「好きな宿は?」 と問われれば、いくつかの宿名がつらつらと頭の中をよぎります。
僕にとってのいい宿とは、湯が良いことはもちろんですが、プラス、宿のご主人や女将さんの人柄が一番の基準となります。
だって、どんなに湯や料理や景色が良くても、迎えてくれる “人” に魅力がなくては、客は足を運びませんものね。
近くまで行くと必ず寄ってしまう宿っていうのがあります。
倉渕温泉(群馬県高崎市倉渕町) の一軒宿、「長寿の湯」 も、そのうちの1つ。
女将さんの根っから明るい人柄に惹(ひ) かれて、ついつい顔を出してしまうのです。
もう、かれこれ10年くらい、足しげく通っています。
駐車場に着くと、清流・長井川をはさんだ宿の対岸に、源泉櫓(やぐら) が見えます。
平成3(1991)年に、ご主人が丸3年かけて掘削した信念のあかしであります。
そして、櫓の下には、お堂が建っています。
このお堂の中に祀られている 「薬師様」 こそが、ご主人の信念の源なんです。
薬師如来像は、源泉の起原300年前と伝わる湯のご利益に対して、旅人たちが感謝を込めて奉納した 「湯前薬師」 です。
だから、ご主人は 「雪どけが早く、薬師像がある場所だ。ここは絶対に温泉が出る!」 と、執念を燃やし続けたんですよ。
宿へ向かおうとして、フッと渓流にかかる小さな橋に目をやると、女将さんの後ろ姿が見えました。
手には、花を持っています。
「女将さ~ん! こんにちは。お久しぶりです」
僕も橋を渡って、後を追いました。
「あらあら、小暮さん。ずいぶんと、ご活躍のようですね。いやね、たまには、薬師様をキレイにしようかと思って。バチが当たっちゃいますからね」
と、お堂の掃除を始めました。
「ご主人は、その後、いかがですか? お元気ですか?」
実は、何年か前に取材で訪れた時に、入院していたことを思い出しました。
すると、女将さんは、
「それがね・・・」
と言って、摩訶不思議な話をしてくれました。
ご主人は、あるガンをわずらって、手術を受け、入院していました。
その時、肺にもガンがあることが確認されたといいます。
「ところがね、消えちゃったのよ!」
「消えた?」
「そう、消えたの! これも薬師様のご利益かしらね」
そう言って、いつものように豪快に笑うと、花を手向け、線香を上げました。
もちろん、僕も一緒に、手を合わせました。
現在、ご主人は退院して、旅館を手伝っています。
やっぱり、何百年という歴史ある温泉には、霊験あらたかな力があるんですねぇ~。
昨晩は、女将さんのご厚意により、泊めていただきました。
女将さん、とっておきの芋焼酎、美味しかったですよ!
ごそうさまでした。
いい記事、書きますからね!
楽しみにしていてくださいな。
Posted by 小暮 淳 at 17:59│Comments(0)
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