2015年12月06日
終わりある生活
父は91歳。体は健康ですが、目と耳と頭が不自由なボケ老人です(介護認定2)。
母は88歳。頭はしっかりしていますが、脳梗塞、心筋梗塞、脳出血を繰り返しているため、一時は言語と半身に障害が出ましたが、持ち前の生命力とリハビリの成果により、現在は軽い歩行障害が残る程度で、元気に暮らしています(介護認定1)。
「じいさん、昼飯だよ!」
2階の和室のこたつでボーっとしているオヤジの耳元で、僕は大声で叫びます。
「ああ、わかった」
「下へ降りておいでよ」
現在、実家の1階リビングは、カーテンで半分に仕切られ、オフクロが暮らしています。
歩行が困難なため、レンタルの医療ベッドを入れ、脇には簡易トイレが設置してあります。
「おとうさん、遅いね」
先に食卓に着いたオフクロが、心配そうに2階を見上げます。
「トイレじゃないの。しかたねーな、見てくるよ」
と僕が和室へ行くと……。
なななんと! 布団が敷かれていて、オヤジが爆睡しています。
「じいさん、どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
「・・・・」
「なんで寝ているんだよ?」
「……、朝か?」
「なにが朝かだよ。昼飯だって言ってるだろう!」
「そうか、昼なのか……」
オヤジの体内時計は、もう何年も前に壊れてしまっています。
目もほとんど見えないので、時計を読むこともできません。
かろうじて明るいか、暗いかは分かりますから、夜だけは判断できるようです。
「もう、食っちゃったのかよ!」
オフクロより、だいぶ遅れて食べ出したのに、ものの5分もかからずに平らげてしまいます。
というのも、オヤジはご飯とおかずを分けて出すと、おかずを残してしまうため、具材という具材は、すべてみじん切りにして、ご飯に混ぜて煮込んでいるのです。
だからオフクロは箸で食べているのに対して、オヤジはスプーンで食べているため、あっという間に食事が終わってしまうのです。
「ほら、デザートのリンゴだよ」
これも、細かく刻んであります。
「ごちそうさまかい?」
先に食べ終わったオヤジを、このまま放っておくと、オフクロにちょっかいを出して、オフクロの食事の邪魔をするので、ここですぐに引き離さなくてはなりません。
「はい、そしたら歯磨きをしてください」
「わかった、歯磨きだね」
そう言って部屋を出て行きましたが、すぐにもどって来てしまいます。
「この後、何をするんだっけ?」
オヤジの記憶は3分、いや、最近は1分と持ちません。
「は、み、が、き!」
「歯磨きしたけど、次は何をするんだ?」
「午後は自由です。2階へ行って、こたつに居てください」
「こたつで、何をすればいい?」
毎日毎日、この繰り返しです。
でもね、このあと、オヤジはすることが何もないのですよ。
新聞も雑誌も読めないし、テレビも見れない、ラジオも聞けない……。
ただ、ひたすらにボーっと次の食事まで、こたつの中で過ごすしかありません。
「昼寝をしなよ。目が覚めたら散歩に連れてってやるからさ」
「そうか、わかった」
長い長い、オヤジの午後が、また始まりました。
つかの間の休息です。
僕は今、一時帰宅をして、このブログを書いています。
いつまで続くのでしょうか?
いつか終わりある生活を楽しんでいます。
Posted by 小暮 淳 at 15:00│Comments(2)
│つれづれ
この記事へのコメント
目と耳が不自由なお父さんは、全身で季節を感じて散歩を楽しんでいるんですね。キャラメルをおやつに親子で散歩。端からみたらステキな親子。
Posted by 優・寛の母さん at 2015年12月07日 21:18
優・寛の母さんへ
ええ、まあ、実家の近所では、かなり有名な親子ではありますが……。
でも、日に日にオヤジの体力は弱っていますので、いつまで一緒に散歩ができることやら。そう思うと、とっても貴重な時間に思えてなりません。
ええ、まあ、実家の近所では、かなり有名な親子ではありますが……。
でも、日に日にオヤジの体力は弱っていますので、いつまで一緒に散歩ができることやら。そう思うと、とっても貴重な時間に思えてなりません。
Posted by 小暮 淳
at 2015年12月08日 11:07
