2018年09月10日
壊れたタイムマシーン
「痴呆とは、壊れたタイムマシーンに乗って、記憶の中をさまよっている旅人である」
と、誰かが言ってました。
と、またまたテレビドラマ 『遺留捜査』 の糸村風に始めてみました。
今では “認知症” と言われてますが、その昔は 「痴呆(ちほう)」 とか 「耄碌(もうろく)」 なんて呼ばれていました。
または 「ボケ」 です。
オヤジがボケ出したのは、かれこれ10年前です。
少しずつ、少しずつ時間を重ねながら、記憶を失ってきました。
「理想的な認知症ですね」
なんて、医者からは言われています。
確かに、穏やかな老衰下降をたどっています。
大声を上げたり、暴力をふるうこともありません。
ただただ毎日、日に日に残り少なくなる記憶の中をさまよい続けているだけであります。
「ちょっと横になりたいな」
と言うので、
「どうしたんだい? 疲れたんかい?」
と訊けば、
「ああ、80(歳) を過ぎると、体がしんどいよ」
と、とぼけたことを言います。
「なに言ってるんだい! とっくに90歳を過ぎてますよ!」
思わず、ツッコミを入れたくなります。
本人は、まだボケる前の80代のつもりでいるんですね。
と思えば、
「お腹が空いたな」
「まだ夕方ですよ」
「そうですか、じゃあ、夕飯まで散歩に出かけてきます」
と、立ち上がろうとします。
「散歩へ行くって、歩けないでしょう?」
オヤジは、数年前から自力歩行ができません。
外出の時は車イスでの移動です。
さらには、
「もう寝るかな」
と言うので、
「まだ早いですよ。もう少し起きていてください」
と、さとすと、
「じゃあ、テレビも見るかな」
とリモコンを探すしぐさをしますが、オヤジは、ほとんど目が見えません。
目が見えないことも忘れてしまっているのです。
すべては、残されているわずかな記憶の中で生きています。
「あなたには息子さんがいますか?」
「はい、2人います」
「名前は、なんといいますか?」
「……」
2人いることは分かるのですが、名前は思い出せないようです。
「私が、その息子ですよ」
と言った途端、とても驚いたようなリアクションをしました。
そして、こんなことを言いました。
「私の息子は、こんな年寄りではありません」
ショック!
オヤジは今日も、壊れたタイムマシーンに乗って、記憶の中を旅しています。
二度と現在(今) に帰って来ることはありません。
Posted by 小暮 淳 at 12:05│Comments(0)
│つれづれ