2019年01月04日
時の贈り物
元日の午前中のこと。
2階の仕事部屋で、年賀状に目を通していると、ノックの音が。
「えっ、誰だ?」
一瞬、戸惑う僕。
というのも、同居している家内も次女も、滅多に僕の部屋には来ないからです。
ドアを開けると、長男でした。
「あれ、早いな。みんな集まるのは、昼からだろう?」
「ああ、これをお父さんに渡そうと思って」
彼から小さな紙袋を手渡されました。
中には、四角い箱が入っています。
「えっ、なんだい?」
「遅くなったけど、還暦祝い」
とは、驚いた。
僕の息子とは思えぬ、殊勝な心がけだこと。
「お父さんは、時計なんてしない人だと知ってたんだけど。何がいいか分からなくて。これなら電池交換も時刻合わせも、半永久的に不要なやつだから」
箱を開けると中には、僕にはもったいないほどの、立派な腕時計が入っていました。
息子は父親のことを、見ていないようで、ちゃんと見ていたのですね。
そうなんです。
僕は25年前に会社勤めを辞めた時、ネクタイと時計を身に付けることをやめました。
“人にも時間にも縛られたくない” という理由からです。
それを知っていて、あえて息子は僕に時計を贈ってくれたのです。
「ありがとう……」
そのあとに、言葉が続きません。
なんと言えば、いいのだろう?
<これを機に、使わせてもらうよ>
と言えば、ウソになります。
考えたあげく、出てきた言葉が、
「ちょうど良かった。近々、講演会があるから、これをして行くよ」
「講演会?」
「ああ、講演の途中で残り時間を確認するのに、いつも不便をしていたんだ。これは助かる」
いつもは時間を気にしない僕も、講演中だけは時計を見ます。
今までは、会場の壁時計を見るか、卓上用の小さな置時計を持って行ってました。
「これなら、話しながら時間を見ることができて便利だ。ありがとう!」
「うん、なら、良かった」
その後、息子は説明書を広げて、簡単に使い方を教えてくれました。
翌日のことです。
バンドのサイズ直しのために、息子に言われた店に、時計を持って行きました。
すると、いきなり店員から、
「小暮様ですね。息子さんからの還暦祝いの品ですね。このたびは、おめでとうございます」
と言われてしまいました。さらに、
「私が担当いたしました。これは、とっても良い品ですよ。親孝行な息子さんですね」
なんて言われては、居ても立ってもいられません。
恥ずかしいや、照れるやら……。
時計を預けると、ほうほうのていで、店を飛び出してしまいました。
たかが還暦なのにね。
新年早々、息子からお年玉をもらうとは思いも寄りませんでした。
Posted by 小暮 淳 at 11:19│Comments(0)
│つれづれ