2019年05月26日
西に薬湯あり
<「でも、あそこは温泉じゃなくて沸かし湯でしょ?」 温泉の話をしていると時々、そんなことを言う人がいます。決まって年配の男性です。沸かし湯とは、温度の低い温泉を加熱して使用していることを指す言葉。この人たちは、温泉はすべて温かいものだと思い込んでいるのです。> 『西上州の薬湯』 「あとがき」 より
昨日(5月25日付) の上毛新聞19面に、拙著 『西上州の薬湯』 の大きな広告が掲載されました。
出版されたのは3年前ですから、なんで今頃? 最新刊じゃないの? とも思いましたが、忘れた頃に、こうやって目にすると、あらためて新鮮な思いで、自分の本を振り返ることができます。
“霊験あらたか、伝説と効能の湯力”
大きなキャッチコピーが付いた表紙の写真が、でかでかと載っています。
写真には、なんとも怪しそうな毒々しい色をした露天風呂が写っています。
レンガの粉を溶いたような赤褐色の温泉です。
群馬の温泉ファンならば、すぐに分かると思います。
相間川温泉(高崎市) です。
塩分と鉄分の多い、濃厚な湯です。
昔から塩分の多い温泉は殺菌力があり、鉄分の多い湯は貧血や婦人病に効くといわれています。
が、この両方を併せ持った温泉は、“のぼせの湯” ともいわれ、入浴には注意が必要です。
実際の温度より体感温度が低く感じられるため、ついつい長湯となり、湯あたりを起こしやすくなるからです。
この塩分が多くて、よく温まる温泉が多いのが西上州の特徴です。
そのままズバリ、「塩」 の字が付いた八塩温泉(藤岡市) は、塩分濃度の高さから昔、製塩所があったといいます。
現在は 「塩」 の字は付いていませんが、磯部温泉(安中市) はかつて 「塩の窪」 と呼ばれていました。
また、今は休業中ですが坂口温泉(高崎市) も昔は 「塩ノ入」 と呼ばれていました。
どちらも皮膚病に効く湯治場として栄えてきました。
いずれにせよ西上州の温泉は、ほとんどが温度の低い冷鉱泉ですから、温めて入浴するようになったのは最近(たぶん明治以降) で、それ以前は “霊泉” として飲用したり、患部に塗ったり、浸したりして使用していたようです。
医学が進んだ現代でも、入浴目的だけでなく、薬用として利用されている温泉が多いのも、西上州ならではの特徴だといえます。
猪ノ田温泉(藤岡市) や野栗沢温泉(上野村) などは、アトピー性皮膚炎に特効のある温泉として、今でも医者に見放された患者が遠方より湯治に訪れています。
西上州には、他の地域では見られない独特な温泉文化が根付いています。
もし興味を抱かれた方がいましたら、ぜひ、書店で買い求めて、西上州の薬湯をめぐってみてください。
Posted by 小暮 淳 at 12:51│Comments(0)
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