2020年01月24日
源泉ひとりじめ(9) 湧き出る泉に、青い鳥が舞い降りた。
癒しの一軒宿(9) 源泉ひとりじめ
野栗沢温泉 「すりばち荘」 上野村
「二日酔いしないから」 と、ご主人がコップに注いだ源泉を口に含むと、かなり塩辛い。
高濃度の塩化物泉だ。
成分が海水に近いからだろうか、この温泉を飲みに、渡り鳥がやって来るという。
遠く東南アジアの極限られた地域に分布するという、美しい羽を持つ鳥……。
ひと目会いたくて、翌朝は早起きをすることにした。
宿から500メートルほど栗沢川沿いを行った上流に、「すりばち分校跡」 の碑が立っている。
この分校の名を知っている人もいると思う。
昭和23年から47年の24年間にわたり、ここ上野村野栗沢分校の代用教員として赴任した山田修先生の奮闘着は、NHKのラジオにもなり、数々の著書と共に全国的に分校の名を有名にした。
その名の通り空を仰ぐと、四方を山に囲まれた 「すりばち」 のような地形であることが分かる。
宿のご主人は山田先生の教え子で、すりばち分校を日本各地から訪れる人たちのためにと、昭和58年に旅館 「すりばち荘」 を開業した。
もともとこの地に棲む動物たちが傷を癒していたという良質の温泉も、ご主人が山からパイプで引いてきたものだ。
旅館の浴室に入ると、ヒノキの香りに包まれた。
肌に張りつくような柔らかな湯は、不思議とのぼせることなく長湯ができる。
ヒノキ風呂の隣に、冷鉱泉の源泉がかけ流しされている浴槽がある。
「下半身だけ浸かれば、体がポカポカと温まってくる」 と言われたが、あまりの冷たさに今回は遠慮した。
夕食は渡り廊下で、別棟の食事処へ。
大きな天然木のテーブルでいただく食事は、どれも野趣に富んでいる。
にんじん、ごぼう、こんにゃくの煮物や、みょうがの天ぷら、なすのおひたし、岩魚の塩焼きと、山の一軒宿ならではの素朴な料理が並ぶ。
秘伝の味噌でいただく上野村特産のイノブタ鍋の肉も、温泉に浸してから調理されるので思ったよりも柔らかい。
残りの汁に、地粉を温泉水でこねあげた手打ちうどんを入れれば、これ以上のご馳走はない。
でも何よりのご馳走は、話好きのご主人と楽しい団らんのひと時を持てたことだった。
●源泉名:子宝の湯
●湧出量:非公開(自然湧出)
●泉温:15℃
●泉質:ナトリウム-塩化物冷鉱泉
<2004年12月>
Posted by 小暮 淳 at 10:11│Comments(0)
│源泉ひとりじめ