2020年02月24日
源泉ひとりじめ(17) 浅間高原で総天然色の歴史(ゆめ)を見た。
癒しの一軒宿(17) 源泉ひとりじめ
北軽井沢温泉 「地蔵川ホテル (現・御宿 地蔵川)」 長野原町
「権田」 から国道を離れると、新緑が目に痛いほどに車窓にあふれていた。
こっちが角落山(つのおちやま) で、あっちが鼻曲山(はなまがりやま) だ。
その独特の山容は、眺めていて飽きることがない。
やがて浅間隠山(あさまかくしやま) 登山口を過ぎて、二度上峠(にどあげとうげ) へ。
「あっ、」 眼前に現れた浅間山の迫力に、思わず感嘆の声がもれる。
噴煙たなびく姿は、古い映画のシーンそのままだった。
昭和26(1951)年に封切られた日本最初のオールカラー映画 『カルメン故郷に帰る』 は、この雄大な浅間山をバックに始まる。
青い空、白い雲、そして人気若手女優の高峰秀子が演じるダンサー、リリー・カルメンの派手な衣装……
総天然色の名にし負う映像は、戦後日本が迎えた新時代への象徴的な作品だったに違いない。
そのメガホンを取った木下恵介監督率いるスタッフが滞在していた宿が、ここ 「地蔵川ホテル」(当時は地蔵川旅館) だった。
高原の緑の中にたたずむ赤い三角屋根に、古き良き時代の優雅さが漂う。
“ホテル” という響きも、ここ北軽井沢の地で聞くと、どこか昭和の浪漫を感じるから不思議だ。
「当時は子供だった」 と言うご主人と、3代目の若旦那が出迎えてくれた。
大きな明り採りのガラス窓、高い天井にシャンデリアのあるロビーで、昭和17(1942)年創業以来、北軽井沢の歴史とともに歩んできた同ホテルの今昔物語を、ひとしきりご主人から聞いた。
部屋へ向かう階段の踊り場から、ベランダ越しに中庭が見える。
百花繚乱、千紫万紅の花園は、今を盛りと天然色の色合いで咲き誇っていた。
さっそく、昨年新設されたばかりの庭園岩風呂へ。
無色透明の湯は癖もなく、肌触りも柔らかい。
何より窓をすべて開け放たれた内風呂と露天風呂が一体化した開放感は、湯あたりすることなく存分に湯を堪能できる。
ときおり清涼な風が、洗い場まで入り込んで来る心地よさは格別だった。
夕げの席は、畳の部屋でテーブルとイスという和洋折衷スタイル。
カラフルな障子窓も印象的だ。
特筆すべきは、デザートの手作りアイスクリーム。
練乳のような濃厚な甘味が、懐かしさとともに口の中で広がった。
●源泉名:地蔵川の湯
●湧出量:22ℓ/分(動力揚湯)
●泉温:10.4℃
●泉質:メタけい酸含有泉
<2005年8月>
Posted by 小暮 淳 at 11:31│Comments(0)
│源泉ひとりじめ