2020年03月09日
ネットの弊害
20年前のこと……
当時、僕は雑誌の編集人をしていました。
パソコンが普及し始めた頃で、編集者は不慣れながらもキーボードを叩いて、原稿を書いていました。
「編集長、原稿チェック、お願いします」
僕は毎日、スタッフから上がってくる原稿に目を通します。
ところが……
「おい、なんだこれは? 文体がバラバラじゃないか? 本当に君が書いた文章なのか?」
問いただすと、
「あ、はい……いえ、ネットで調べました」
いわゆる今でいうコピペ (コピー&ペースト) といわれるズルをしていたのです。
ネットで調べた記事を、いくつかコピーして貼り合わせていたのです。
「ダメだよ! 自分の足で調べて書きなさい!」
と、原稿を突き返しました。
10年前のこと……
僕は本の出版のために、県内の温泉旅館を回り、取材を続けていました。
当時、行く先々の旅館で、こんなことを言われました。
「本当に取材に来るんですね」
最初は、何のことを言われているのだか分かりませんでした。
「本当にって?」
「だって、ほとんどの雑誌が電話での取材ですから」
「えっ、じゃあ、写真はどうするんですか? カメラマンは来ないの?」
「今は、みんなネットですよ。写真を送ってくださいって。もしくはホームページからの転載です」
そして今……
すべてではありませんが、出版社や雑誌社との原稿のやり取りの際に、首をかしげてしまうことがあります。
送られてくる校正に、赤線が引かれていて、
<不明> とか <確認とれず> の書き込みがあります。
指摘されている箇所は、そのほとんどが僕が取材で地元の人や旅館の主人から聞いた内容です。
意味を問うと、
「ネットで検索しても、その事実がありません」
とのことでした。
おいおい、ネットが基本か?
こっちは、直接関係者から聞いた事柄を書いているんだよ!
おかしな世の中になったものです。
便利になり過ぎて、誰もが平気で手を抜きだしています。
でも、一度手を抜くと、人は便利から抜け出せなくなってしまいます。
そしていつしか、“便利”=“正しい” と思い違いをしてしまいます。
つくづく、便利って、なんて不便なのだろうと思ってしまいます。
でも、まだ今なら間に合います。
編集者よ、パソコンを捨てて、街を出よう!
Posted by 小暮 淳 at 12:06│Comments(0)
│執筆余談