2020年03月12日
源泉ひとりじめ(20) 湯けむりの向こうで、コスモスが揺れていた。
癒しの一軒宿(20) 源泉ひとりじめ
温川(ぬるがわ)温泉 「白雲荘」 吾妻町(現・東吾妻町)
夜中に幾度となく、目が覚めた。
そのたびに、滝の音を聴いていた。
夕刻に眺めていた温川の清流を思い出しては、やがてまた眠りに就いた。
いくつもの夢を見た。
葉もれ日が揺れる、長い下り坂。
その坂道の突き当たりに、山小屋風の一軒宿が見える。
浅間隠(あさまかくし)温泉郷の中で、一番小さな温泉宿に着いた。
浅間隠温泉郷は、温川に沿って湧く 「薬師」 「鳩ノ湯」 「温川」 の3つの温泉の総称である。
浅間隠山(1,757m) の登山口にあることから、そう名付けられている。
国道406号との分岐点に、大きな案内板が立っている。
「左150m鳩ノ湯、300m薬師、右200m温川」
温川をはさんで両岸に分かれ、2つと1つの一軒宿がたたずんでいる。
「白雲荘」 の創業は昭和38(1963)年。
5代目主人に案内された部屋は、一番奥の角部屋。
眼下には七段に落ちる見事な滝を見下ろす絶景が待っていた。
「川の音がうるさいかもしれませんね」 と、済まなそうに語る柔和な笑顔に、旅の疲れが一気にほぐれていった。
群馬県内の温泉宿の宿泊客は、8割が県外からである。
ところがここ温川温泉は、まったくの逆で8割が県内客だという。
これには驚いた。
「グループで2~3泊していかれる方が多いので、県内なら私が送迎しています」 と主人。
またまた驚いていると、「前職がバスの運転手だった」 と聞いて納得。
5名以上なら県内どこでも、主人自らがマイクロバスで迎えに来てくれるとのことだ。
県内客のリピーターが多いのは、このきめ細やかな気配りにあったようだ。
露天風呂へは、浴衣にサンダル履きで歩いて2~3分。
温川沿いの敷地内に、小屋がある。
湯は気持ちぬるめだが、肌触りが柔らかく、長湯ができる。
仰ぎ見れば、どこまでも高い空。
はぐれた小さな綿雲が、ゆっくりと流れてゆく……
温川越しに 「鳩ノ湯」 と 「薬師」 の宿が見える。
小さな温泉郷である。
満開のコスモス畑の上を、赤とんぼの群れが何度も何度も行ったり来たりしていた。
●源泉名:目の湯
●湧出量:14ℓ/分(動力揚湯)
●泉温:35℃
●泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉
<2005年11月>
Posted by 小暮 淳 at 11:40│Comments(0)
│源泉ひとりじめ