2020年04月09日
源泉ひとりじめ(27) 大きな木のぬくもりに、抱きしめられた。
このカテゴリーでは、ブログ開設10周年を記念して2004年4月~2006年9月に 「月刊ぷらざ」(ぷらざマガジン社) に連載されたエッセイ 『源泉ひとりじめ』 を紹介しています。
地名および名称等は連載当時のままです(その後、変更があったものは訂正を加えました)。
癒しの一軒宿(27) 源泉ひとりじめ
たんげ温泉 「美郷館(みさとかん)」 中之条町
中之条町の市街地から四万温泉へ向かう途中、国道から離れ、暮坂(くれさか)峠へつづく県道をゆく。
「草津の仕上げ湯」 として有名な沢渡(さわたり)温泉のさらに奥、エメラルド色した清流、反下(たんげ)川をさかのぼること、約5キロ──。
ここまで来ると、携帯電話の電波は一切届かない。
やがて前方の森の中に、入母屋造りの宿が姿を現した。
玄関をくぐると、まずロビーの造りに圧倒された。
ふた抱えもありそうなケヤキを惜しげもなく使った梁(はり) や垂木(たるき) が、覆いかぶさるような存在感で迎えてくれたからだ。
ケヤキに惚れ込んだオーナーが選りすぐった木を、日本屈指の木挽(こび)き職人が3年かけて手で挽いた。
機械で挽くより無駄な屑(くず) が出ず、木目も美しく仕上がるという。
それらの木を宮大工が、釘(くぎ) を一本も使わずに組んでいる。
これを見るだけでも、ここに来た甲斐があるというものだ。
しばし、その素朴な美しさに見惚れながら、宙を見上げていた。
さて、部屋で旅装を解いたら、さっそく湯めぐりといきたい。
6つある風呂を三昧したいものだ。
まずは、木の香漂う総ヒノキ造りの 「瀬音の湯」 から湯浴(あ)みを楽しむことにした。
格子の窓から光と風が差し込む半露天の空間は、なんとも幻想的で、ジッと湯に身を置いていると自分の五感が冴えてくるのが分かる。
湯床に敷きつめられた天然石の感触も、野趣に富んでいて心地よい。
「日本秘湯を守る会」 「源泉湯宿を守る会」、そして 「日本温泉遺産を守る会」 に認定されている同館。
歴史を守りたい秘湯であること、源泉かけ流しの宿であること、価値ある建造物や温泉文化があること──それらを満たしている宿であるということだ。
草津や四万という名湯が近くにありながら、人知れずたたずむ一軒宿。
なんだか人に教えてしまうのが、もったいないような宿である。
秘密の隠れ家を見つけたようで、ちょっぴり得した気分になった。
●源泉名:美郷乃湯
●湧出量:110ℓ/分 (動力揚湯)
●泉温度:43.1℃
●泉質:カルシウム-硫酸塩温泉
<2006年6月>
Posted by 小暮 淳 at 11:29│Comments(0)
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