2020年04月19日
源泉ひとりじめ(最終回) 棚田を揺らして、風が谷を滑って行った。
癒しの一軒宿(30) 源泉ひとりじめ
真沢(さなざわ)温泉(月夜野温泉) 「真沢の森」 みなかみ町
「クワの葉は利尿作用があります。メグスリの葉は肝臓強化に、キクイモは消化を助け、ツリガネニンジンは精力増進に効きますよ」
季節の山野草が、天ぷらや和え物、酢の物に調理された名物の 「つみくさ料理」 が夕げの膳を飾った。
物珍しさから、まずはホタルブクロの天ぷらをひと口。
宿までの山道に咲いていた濃紫色の花……
味はしないが、夏草の香りがほのかにした。
上越新幹線、上毛高原駅から車でわずか5分。
「こんな所に」 と、訪ねた人は必ずや驚くに違いない。
大峰山麓にたたずむ三角屋根の一軒宿、谷間に広がるまぶしい棚田の緑。
心地よい風の通り道は、そのまま遠い峰々へと続いている。
“理想のふるさと” を絵にしたようなパノラマを、しばらく飽きもせず眺めていた。
開湯は定かではないが、昭和の初期までは湯治場として営業されていた秘湯である。
一時、閉鎖されていたが、その湯は 「美人の湯」 として語り継がれていた。
湯を惜しむ声から平成10(1998)年、日帰り入浴も可能な新たな温泉として復活した。
自慢の湯へは、一度屋外へ出て、棚田とともに渡り廊下で下りる。
ロッジ風の離れに、男女別の大浴場と露天風呂があった。
湯は無色透明だが、噂どおりの “美人の湯” だ。
ワックスをかけたように、肌の上を湯の玉がツルンと滑って落ちた。
アトピーや肌荒れに効くというが、これならば納得である。
露天風呂からは棚田が広がる谷の向こうに、三峰山と武尊山(ほたかさん) までが見渡せた。
夕食の後、宿の人が 「ホタルが飛び始めましたよ」 と声をかけてくれた。
テラスに出て目を凝らしていると、やがて暗い棚田の中に、小さな光がひとつふたつ……みっつ。
天然のホタルを最後に見たのは、いつだったろうか。
子どもの頃以来のような気がする。
●源泉名:月夜野温泉 真沢の湯
●湧出量:22.5ℓ/分 (自然湧出)
●泉温:24.5℃
●泉質:メタけい酸含有の冷鉱泉
<2006年9月>
長い間、「癒しの一軒宿 源泉ひとりじめ」 をご愛読いただき、ありがとうございました。
今後もブログ開設10周年を記念した特別企画の第2弾を予定しております。
ご期待ください。
Posted by 小暮 淳 at 11:46│Comments(0)
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