2020年05月06日
一湯良談 (いっとうりょうだん) 其の五
このカテゴリーでは、ブログ開設10周年を記念した特別企画第2弾として、2012年4月~2014年2月まで 「ちいきしんぶん」(ライフケア群栄) にて連載されたコラム 『小暮淳の一湯良談』(全22話) を不定期にて紹介しています。
温泉地 (一湯) にまつわるエピソード (良談) をお楽しみください。
『願いを叶えてくれる氏神様』
初めて奥嬬恋温泉(嬬恋村) の一軒宿、「干川(ほしかわ)旅館」 に泊まった晩のこと。
3代目女将の干川陽子さんから摩訶不思議な話を聞いた。
同館では毎年、繁忙期になるとアルバイトを募集している。
例年は断わるほどの募集があるのに、なぜかその年に限って一人の応募もなかった。
困り果てた女将は、昔から頼りにしている信州のとある寺の僧侶に相談した。
すると僧侶は、旅館の近くにある小さな神社の名を告げたという。
さっそく女将は、僧侶に言われたとおりに酒と米を持って神社を詣で、願をかけた。
すると翌日、一本の電話が鳴った。
アルバイトを希望する若い女性からだった。
「ビックリしました。でも昔から地元では、願い事が叶う氏神様として評判の神社なんですよ」
と話してくれた。
翌朝、さっそく私は同行のカメラマンとともに、神社を訪ねた。
実は、近々、彼が手術を受けることになっていたのだ。
それも、かなりの確率で後遺症が残るといわれている難しい手術だった。
女将に教わったとおりの供物をして、2人で一心に手術の成功を祈った。
後日、手術は無事に成功した。
それも一切の後遺症を残さずに。
実は知らないところで、奇跡が起きていたのである。
手術直前になり、急きょ、ゴッドハンドといわれる名医が執刀をしてくれることになったのだった。
私は以前、この話を雑誌に書いたことがあった。
すると女将から電話があり、
「神社が大変なことになっています。連日、大勢の人がやって来るので、役場の職員が出て、交通整理をしています」
と大変な驚きようだった。
でも女将は、こんなことも言った。
「おかげさまで、旅館の宿泊者が増えました。先日は 『あの神社にお参りをしたら、子どもの病気が治ったので、今日はお礼を言いに来ました』 と、また家族で泊まられたお客様がいたんですよ。本当に願い事を叶えてくれる神様なんですね」。
今でも願をかけにやって来る宿泊者が、後を絶たないという。
<2012年8月>
Posted by 小暮 淳 at 11:22│Comments(0)
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