2020年05月13日
一湯良談 (いっとうりょうだん) 其の八
『半出来なれどナカラいい湯』
JR吾妻線の無人駅、袋倉駅 (嬬恋村) のホームに降り立つと、正面に「半出来(はんでき)温泉 徒歩8分」 の看板が目に入る。
坂道を下り、高架橋をくぐり抜けると、また小さな看板が立っている。
矢印と、その下に 「足元にお気をつけください」 の文字。
ここからは雑木林の中を歩き、吾妻川の河岸へと下りて行く。
ユラ~リ、ユラ~リ揺れる、細くて長い吊り橋を渡れば、そこが半出来温泉の一軒宿 「登喜和荘(ときわそう)」 だ。
「半出来」 とは、なんとも珍しい名だが、源泉が湧く土地の小字名とのこと。
由来には、作物が半分しか収穫できない、やせた土地だからという説があるが、2代目主人の深井克輝さんは異論を唱える。
「“半” という漢字は、『なから』 とも読みます。群馬の方言には、“なかなか” とか “かなり” という意味を表す 『なから』 という言葉があります。だから私は、かなり出来の良い土地と解釈しているんですよ」
その、かなり出来の良い土地に湧いた湯は、昭和の頃より地元の人たちに神経痛や腰痛に効く温泉として愛されてきた。
源泉の温度は約42度。
泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物温泉。
マグネシウムやカリウム、鉄分等のミネラルが多く、胃酸の分泌を促がす作用があることから 「胃腸の湯」 ともいわれている。
湯口にコップが置いてあり、飲泉ができる。
ややぬるめの湯は、炭酸を含んでいて、湯の中でジッとしていると体に小さな泡が付く。
昔から泡の出る温泉は、骨の髄(ずい) まで温まるといわれ、珍重されてきた。
「いろんな温泉に入ったみたけど、納得できる湯は少ないね。温度と泉質、そして、この景色。三拍子そろった温泉は、滅多にお目にかかれない。この湯は私の宝物なんだよ」
と、主人は自慢げに笑った。
名前は “半出来” なれど、“ナカラいい湯” である。
<2012年11月>
Posted by 小暮 淳 at 12:17│Comments(0)
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