2020年06月20日
一湯良談 (いっとうりょうだん) 其の二十
『源泉王と呼ばれる湯の達人』
水上温泉郷(みなかみ町)、8湯の1つ。
谷川岳登山口にある谷川温泉 「水上山荘」 の2代目主人、松本英也さんは、温泉ジャーナリストの故・野口悦男さんから、“源泉王” と呼ばれた湯の達人だ。
館内にある男女別の内風呂と露天風呂、貸切風呂は、すべて源泉かけ流し。
もちろん加水や加温は、一切していない。
なのに一年中、沸かしも薄めもしないで、0.1度きざみで温泉の温度を調節しているという。
さて、その秘密は?
初めて同館を訪ねた日に、そんなトンチのようなクイズを出された。
熱交換式の装置を使っているのかと思ったが、それではあまりにも答えがありふれている。
もっと単純明快な方法に違いない。
ふと私は、以前にも同じような話を、ある湯守(ゆもり) としたことを思い出した。
その温泉宿も湯量が豊富な自家源泉を数本所有していた。
すぐさま 「温泉分析書」 をチェックすると、案の定、ここも3本の源泉から給湯している。
総湯量は毎分520リットル。
しかも3本の源泉の温度は、31.8度、45.5度、54.4度と異なる。
答えは明白である。
3本の温度の違う源泉を混合することにより、季節や天候に左右されることなく、適温に調節しているのだろう。
そう、答えを告げると、
「さすがですね。お見事です。300人に1人の正解率ですよ」
と主人に、お褒めの言葉をいただいた。
昭和50年代のこと。
好景気の温泉ブームに乗って旅館を大きくして、浴槽数を増やそうと考えた時期があったという。
「でも、夢枕に温泉の神様が現れて言ったんですよ。『湯は足りるのか?』 ってね。ブームに乗って浴槽の数を増やしたら、温泉を水増しすることになり、結果、お客様をだますことになる。だから、与えられた湯量に合った浴槽を造ることにしました」
主人の選択は、正しかったようだ。
さすが、“源泉王” と呼ばれる湯の達人である。
<2013年12月>
Posted by 小暮 淳 at 11:16│Comments(0)
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