2020年06月22日
一湯良談 (いっとうりょうだん) 其の二十一
『幸運が舞い込む座敷わらしの宿』
<旅の夫婦が大きな空き家に、一夜の宿を借りてから、そこに男の子が現れるようになったそうです。奥さんが、その男の子と遊んであげると、男の子は 「奥の座敷の床下を掘ってください」 と言ったそうです。言われたとおりに掘ってみると、なんとそこには大判小判の入った金瓶が埋まっていました。その後、夫婦はその家で暮らすようになり、座敷わらしに似た可愛い男の子をもうけ、末永く幸せに暮らしたそうです。>
(猿ヶ京温泉の民話 『座敷わらしの家』 より)
「私は、その夫婦から数えて18代目になります。今でも時々、座敷わらしが現れるんですよ」
と、猿ヶ京温泉(みなかみ町) 「生寿苑」 の主人、生津秀樹さんは、いたずら小僧のような目で笑った。
生津家は代々、この地で養蚕農家を営んでいた。
昭和52(1977)年、先代が桑畑に古民家を移築して、団体客中心の大衆旅館を始めた。
平成10(1998)年に 「猿ヶ京にない旅館にしたい」 と現主人が、庭園を眺める現在の平屋造りの旅館にリニューアルした。
城郭を思わせる巨石が積まれた石垣、時代劇のオープンセットのような大門をくぐり、中庭へ入ると出迎えてくれる母屋。
田舎の民家を訪ねたようで、とても懐かしい気持ちにしてくれる。
大門の前には、伝説の金瓶を祀った石祠があり、拝むと願い事がかなうという。
「座敷わらしは、どの部屋に現れるんですか?」
「どの部屋といわず、いろいろな所で目撃されています。夜中に廊下で遊ぶ姿が多いですかね」
湯床に天然石が敷き詰められた湯舟に身を沈めながら、昼間、主人と交わした言葉を思い出していた。
座敷わらしを見た人は、幸運が舞い込んで来るという。
その晩は寝ずに、男の子が現れるのを待つことにした。
<2014年1月>
Posted by 小暮 淳 at 10:09│Comments(0)
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