2020年07月19日
温泉考座 (10) 「消えゆく自然湧出」
このカテゴリーでは、ブログ開設10周年を記念した特別企画の第3弾として、2013年4月~2015年3月まで朝日新聞群馬版に連載された 『小暮淳の温泉考座』(全84話) を不定期にて、ご紹介いたします。
(一部、加筆訂正をしています)
東京電力福島第一原発事故を受けて、日本の電力を支える自然エネルギーとしての地熱発電への期待が高まっています。
火山の多い日本は、世界有数の地熱資源国。
また、風力や太陽光のように天候に影響されない点も、地熱発電が期待されている理由です。
地熱発電は、地中に井戸を掘って高温の蒸気を取り出し、その蒸気によりタービンを回す仕組みです。
しかし、資源の約8割は開発が規制されている国立・国定公園の下にあるため、これまで日本では、あまり活用されていませんでした。
そこで開発されたのが、井戸を国立・国定公園の外から地下を斜めに掘る技術です。
これなら公園内にある資源でも、活用することができるからです。
しかし、これに警鐘を鳴らす人たちがいます。
群馬県温泉協会長の岡村興太郎さんは、ボーリングによる新規の温泉開発によって、自然湧出の温泉は涸渇化の恐れがあるとし、「群馬県温泉協会誌」 に、このように書いています。
<温泉は未知の分野が多く、地下の構造や湧出構造の解明、温泉のモニタリングが急がれるゆえんである。また一度、地熱発電が開始されると、一定量の蒸気確保のために、2~5年に1本の割で還元井戸を掘削し続けることが分かっている。際限のない、無秩序な開発にならないよう、最初から十分に検討されるべきである。>
また、明治25(1892)年発刊の県の温泉分析書 「上野鉱泉誌」 に記載されている74ヶ所の温泉のうち、現存しているのは30ヶ所あまりとして、<昭和30年代以降の温泉掘削技術の進歩で、昔ながらの自然湧出の温泉が消えてしまった> と指摘しています。
120年の間に40ヶ所以上の自然湧出温泉が消えたことになります。
また、掘削による温泉は増えているものの、県内の温泉の総湧出量は年々減少していることも事実です。
特に自然湧出温泉の湯量は、ピーク時から約30%も減っています。
以上の数字を踏まえれば、地熱発電の開発に限らず、新たな温泉の掘削という行為自体を見直してほしいものです。
<2013年6月5日付>
Posted by 小暮 淳 at 12:45│Comments(0)
│温泉考座