2020年11月20日
温泉考座 (46) 「熱くなれりゃ、湯宿の湯じゃねえ」
かつて三国街道の宿場町だった湯宿(ゆじゅく)温泉 (みなかみ町) には、たくさんの宿屋が軒を連ね、旅人や湯治客でにぎわっていたといいます。
戦前までは20軒ほどあった旅館も、現在は5軒が湯を守りながら商いをつづける小さな温泉地です。
湯宿温泉は昔から湯量が豊富な温泉として知られ、5本ある源泉は高温のため加温されることもなく、どの旅館でもかけ流しのスタイルを守っています。
また石畳のつづく温泉街には、「竹の湯」 「松の湯」 「窪湯」 「小滝の湯」 の4つの外湯 (共同湯) があります。
なぜ小さな温泉地に、こんなにも外湯があるのでしょうか?
それは温泉が地元住民の共有の財産だからです。
今でも風呂のない家が多く、「共同湯維持会」 に参加する約120戸は、それぞれ外湯のカギを持っていて、いつでも入浴できるようになっています。
地元民以外の人もカギが開いていれば、誰でも自由に利用することができますが、各湯に 「善意の箱」 が置かれており、維持管理費として100円以上の謝恩金が必要です。
「窪湯」 の手前に、黒塀と古木に囲まれた湯宿温泉最古の旅館 「湯本館」 があります。
開湯は約1200年前と伝わっています。
同館に残る古文書には、初代沼田城主の真田信之が関ケ原の合戦の後、戦の疲れを癒やすために訪れたことが記されています。
「たぶん、私は21代目だと思います」
と現主人の岡田作太夫さん。
あまりにも歴史が古すぎて、
「正確なことは分からない」
と言います。
裏庭に湧く源泉の温度は約62度。
湧き出した湯を敷地内の高低差を利用して、冷ましながら浴槽へ流し入れていますが、それでも約45度とかなり熱めです。
私は毎回、水道のホースを抱えながら入っていますが、地元の人たちは、
「熱くなけりゃ、湯宿の湯じゃねえ」
と言って、さっさと湯に入っていきます。
情けない話ですが、私は湯本館の湯に限らず、外湯にしても、水で薄めずに肩まで沈めたためしがありません。
<2014年4月9日付>
※宿泊者に外湯のカギを貸し出している旅館もあります。
Posted by 小暮 淳 at 11:29│Comments(0)
│温泉考座